第33話 2人の共闘
アーサーがマッチョになった夜より時は遡り、同日の昼より2人の物語が始まる。
マリ達と別れたキサラギことヨハネと、抱えられたままのジャックは王都の城壁側まで来ていた。
「マリ……陛下。 俺は……俺は……」
ブツブツと背中で呟くジャックにヨハネは苛立ちを隠さない。
「はぁ……女々しいぞジャック。 そんなにマリが好きなら早く告白すればいいだろうに」
「ブツブツ……あ? お前が、お前がそれを言うかぁぁぁぁぁぁ?!」
バタバタと暴れだすジャックをヨハネは地面へと放り出す。
「やれやれ、そんなに元気ならもう自分で歩けるよね? さて……流石に門の無いこちら側は城壁に返しが付いてるね」
北の城壁には門が無く。
代わりに梯子も掛けられないように返しが付いていた。
「くそ! くそくそ! 俺だって、俺だって本当は……」
ヨハネが城壁を見上げている間もジャックは地面で項垂れる。
「はぁ……ねぇ、ジャック。 エルフの私からしたら不思議なのだが、何故寿命が短い人間はそんなに悩むのだ? 悩んでいる暇等ないだろうに」
「うるさい! お前には分からん!! 身分違いや、人間には色々有るんだ!」
ジャックがヨハネに掴み掛かろうとしたその時、遠くの城壁から爆音と悲鳴が聞こえてきた。
「ん!? 風に乗って……これは、まさか! ジャック! 私に掴まれ! 緊急事態だ精霊魔法で飛ぶよ!」
怒気に溢れたヨハネに圧され、ジャックはヨハネの肩を急ぎ掴んだ。
「風の精霊、気ままな精霊、古き友の私を運んでおくれ。同じ精霊の悲しみを運んでくれたお礼をしたい。旋風!」
ヨハネが何やら唱えると、突如突風が2人を包み高く高く吹き上げる。
「おい! おいおい、これ大丈夫なんだろうな! ヨハネ!」
「あはは! 初めて名で呼んでくれたねジャック! 大丈夫、風の精霊に身を任せろ!」
そして城壁の上に到着した2人が見たものは、遠くの城壁が更に赤く燃え上がる地獄の光景だった。
◆◇◆
「火の精霊、猛き燃える精霊、古き友の私が来た。 落ち着き消えよ、燃ゆる友よ」
ジャックとヨハネは城壁の上を駆ける。
道中、赤く燃え上がる火をヨハネが精霊魔法を使い消して行く。
「酷いな……兵達は少しでも避難できたのだろうか」
ジャックが袖を口に当てながら、焼け焦げた兵達の亡骸を見ゆる。
火が消えた後に残るは炭となった遺体ばかりだった。
まだ生きている味方の兵には出会えていない。
街の方では悲鳴が上がっているのが遠くに聞こえる。 しかし、ルカに言われた任務を今は優先すべきだろう。
「ジャック、向こうに見える門はどの辺だい?」
「ここは……西門だ。3つある門の内の1つになる。南の正門はまだ遠いぞ、くそ……この先の城壁には敵が大量に居るな。 このまま突っ込むのか?」
「無論だ。 確認したい事もあるからね」
未だに怒気を放つヨハネとジャックは速度を上げて駆け始めた。
◆◇◆
走る先の城壁には消火作業をしている敵が見える。 まだ2人には気付かず懸命に水をかけていた。
「ジャック、隊長っぽい奴は1人生かしてくれ」
「ふん! 私に命令するな! 私に命令していいのは、殿下か陛下だけだ!!」
50人程の敵に向かってジャックは駆ける。
「くそ、熱いな……ん!? おい! 敵だ! 迎撃しろ! 殺せ! 奴隷にする民は下に腐る程居る! 殺せぇぇ!!」
2人の接近に漸く気付いた1人の豪華な装飾がされた兵士が叫ぶ。
消火にあたっていた兵士達が剣を抜き、駆けてくる2人に向け構える。
(アレが隊長か……ちっ、一応生かすか)
「シッ!! くたばれ畜生共!」
ジャックの踵落としが兵士の頭を砕く。
ウォンバット直伝の格闘術には鉄の兜等無いも同然だ。
「けぺっ?!」
身体に頭を陥没させ即死した兵士が倒れると同時に横の2人を手刀で喉を潰す。
「「あがっ!」」
一瞬で3人仲間が死んだ事に敵兵士は狼狽え、たじろいだ。
「おい何してる! 敵はたったの2人だぞ! 数で潰せ!」
隊長に激を飛ばされ、敵兵士達は怯えながらもジャックに斬りかかる。
「お前達に同情はしない。 お前達のせいで! 我が国の兵士達が大勢死んでいるんだ! 死ぬ覚悟も無いなら侵攻等してくるな!」
怒るジャックが敵兵士を殴り折り蹴り殺す。 瞬く間に20人の敵兵士を殺した姿は正に修羅だ。
「ふー……ふー……ぺっ、さぁ次は誰が死にたい?」
口から血を流しながらも殺気を放つジャックに敵兵士はもう斬りかかる事が出来なくなっていた。
「雷の精霊、速き精霊、古き友の私が願う。 願う敵を撃ち滅ぼせ、雷の杭。 あ、ジャック危ないよー?」
後ろでヨハネが注意したと同時に、ジャックの目前に居た敵兵士に雷が空から落ちてきた。
ゴロゴロ……バッッガァァァァンッ!
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」」」」
「ぬぉぉぉぉ?! おい、税務管!!」
ジャックは間一髪で避け、敵の隊長以外は全員炭へと変わっていた。
「あはは! また呼び方が戻ったのかいジャック。 大丈夫、これは私が願う相手にしか落ちないから」
「ふざけるな! 見ろ俺の髪を!!」
ヨハネに掴み掛かるジャックの髪はパリパリと小さな雷が走っている。オールバックの髪が天然パーマの様になっており、マリとメリーがこの場に居たら笑い転げていただろう。
「ふふ、何故だろうこんな状況なのにやっと素の君と話せてる気がするよ」
「……ちっ、うるさい! 執事として、抑えないといけない事も有るんだ」
2人がじゃれ合う中、炭となった敵兵士達の後ろで隊長は白目を剥いて気絶していた。
「ふむ……よしジャック、拷問といこう」
「ふん……やっと意見が合ったな。 地獄を見せてやろう」
気絶した隊長が目覚めたら、部下と一緒に死んだ方が良かったと絶望する事になる。




