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第32話 選択の結果

 メリーに連れられ、アーサー城に到着したマリは絶句していた。


 街は無人だが、城には多くの怪我人で溢れていたのだ。


 「な……こんなに」


 言葉を失うマリをメリーが支える。


 「陛下、どうか気丈に。 この場にいる者達は陛下を、民達を守る為に奮闘した英雄達です。 陛下が掛けるお言葉は、絶望では無くお褒めのお言葉で無くてはなりません」


 メリーの厳しい言葉にマリは目眩を覚えた。


 (無理だよ……こんなに酷いなんて。 早く、早くこの戦争を終わらせないと)


 ◆◇◆


 メリーに無理を言い、準備が終わるまで怪我人の側にマリは居た。


 見渡す限り重傷者が城の広間で治療を受けている。 しかし、殆どが死を免れないだろう。


 マリの護衛に最後まで残っていた兵士達もメリーに指示され直ぐに手当てへと向かって行くのが目の端に見える。


 マリの視界に入らない様にしてあるが、城の裏手には戦死した兵達が山となっているだろう。


 「陛下、メリーさんが準備が出来たとの事です。 ……陛下?」


 「ねぇ、ルカ。 あのポーションで何人救える?」


 呼びに来たルカにマリは問う。


 両手を失い、死を待つだけの兵を前に。


 「1人だけです、陛下」


 「だよね……ごめんね、私のせいで、ごめんね」


 「お辛い気持ちはお察します。 ですが、彼等は死ぬ覚悟を持って王都に進むゴルメディア帝国の軍を止めてみせたのです」


 ルカの労いを聞きながら、両手を失った兵は誇らしげに息を引き取った。


 「お休みなさい、ありがとう……」


 マリの心が軋む。


 前世の平和な日本において、目の前で戦死する者を目にする事などまず無かったからだ。


 それも、その戦争の原因を作ったのは自分にある。


 その事実が壊れかけの心に止めをさそうとしていた。


 涙が頬を伝い、目は虚ろだ。


 ルカはそんなマリを見つめていた。


 「……私の予想では、まだゴルメディア帝国は動かないと踏んでいました。 現実は彼等が居なければ既に王国は滅んでいたでしょう」


 「うん、そうだね……」


 「神童等と言われても現実はこんなものです。 私は神ではありません、未来を全て予知するなど不可能です」


 「うん、うん……でも」


 「この戦争が起きた事実はもう変わりません、陛下の革命が原因だとしてもです。 陛下、忘れないで下さい。 断じて貴女のせいではありません。 貴女の革命でどれだけの民が救われたか……遠く離れた辺境まで届く程でした」


 ルカは願う。


 ここで止まらないでくれと。


 ここで貴女が止まれば、今も王都で死んでいる者達は無駄死にだと。


 「うん、でもさ……」


 「明日の計画を成功させなければ、国境で夜営している数万のゴルメディア帝国軍が王都に押し寄せ……皆死にます」


 「っ……分かってる。 ありがとうルカ……覚悟決まったよ。 明日、この戦争を絶対に終わらせよう」 


 周囲の兵達が不安そうに見守る中、顔を上げたマリの頬に涙はもう無かった。


 ◆◇◆


 「失礼、陛下をお連れした」


 ルカに連れられマリは城主の間に案内された。


 「陛下、遅かったですね。 限り有る材料ですが、夕食ですよ~」


 マリの赤い目に気付いたのか、久しぶりにメリーがおどけた様な口調で喋る。


 「ふふ……メリーさんのその喋り方久しぶりに聞いたかも。準備ありがとう」


 長テーブルの上にはメリーが作ったとおぼしき料理が並んでおり、並ぶ椅子の前には隊長クラスの兵士達が敬礼をして待機していた。


 そして奥の椅子には座ったままの人物が頭を垂れ待っていた。


 「女王陛下、起立出来ぬ身をどうかお許し下さい」


 この城の城主、アーサー男爵だ。


 「え!? ア……アーサー君?」


 マリの驚きは当然だ。


 最後に見た彼は、ルーデウスの友人として王城に通っている元気な姿だったからだ。


 今のアーサーは立つ事すら出来なくなっていた。


 片目を失い、片腕を失い、両足は怪我で動かせない状態だった。


 「お見苦しい所をお見せし、本当に申し訳ありません」


 謝るアーサーの側にマリは駆け寄る。


 「違う! 謝らなくていい!! ありがとう、こんなになるまで戦ってくれて守ってくれてありがとう。 弟の為に、私の為に、王国の為にありがとう」


 女王がボロボロになった主を優しく抱きしめるのを、隊長達は泣きながら見ていた。


 「えへへ……有り難きお言葉です。 これで、亡き母の汚名を注げたでしょうか」


 「うん、うん、もうお母さんのした事は赦されたよ。 メリーさん、お願い」


 マリに請われ、メリーは懐から出した羊皮紙にペンを走らせながら答える。


 「はい、この度の働きによりダルナ家の名誉は取り戻されました。 リアン侯爵の名はエントン王国の歴史に刻まれるでしょう」


 「……あ、ありがとうございます!」


 大罪を犯し除名された者が再び貴族として名を残す。 アーサー最大の望みが今果たされたのだ。


 アーサーの頬を大粒の涙が流れる。


 リアン侯爵の頃より仕えていた兵士達も咽びながら涙を流していた。


 「それと、#陞爵__しょうしゃく__#よアーサー君。 男爵から子爵ね」


 「え!? いえ、私等……まだ恐れ多いです、陛下」


 「ダーメ! 貴方と共に戦った者達を侮辱する事になるよ? いいの? ダメでしょ? はい、とりあえず今渡せる褒美はこれです!」


 マリは、あまりの勢いに思わずたじろいだアーサーの口にハイポーションを突っ込んだ。


 「ちょっ、陛下?! むぐっ!?」


 その光景をメリーとルカは呆気にとられながら見ていた。


 「えっと……アレはルカが?」


 「ふふ……ええ、そうです。 明日の計画で命の危機に使うようお渡ししたのですが……どうやら、陛下はご自身より忠臣を選択されたようですね」


 苦笑いで答えるルカの横でメリーも笑う。


 「ふふふ、陛下らしくて良いです。 それに、明日は私も着いて行きますから。 必ず陛下はお守り致します」


 怪しく光るメリーの瞳にルカは頼もしさと恐怖を覚えるのであった。


 「ぷはっ!? な……手が! 目が見える! 身体中が熱い……こ、これは!!」


 そんな会話をしてる間にハイポーションの効果が現れ、アーサーの身体を蒸気が包む。


 「熱っ! え? あれ? ルカ!? これ大丈夫だよね?!」


 そして、蒸気が晴れたその場には五体満足のアーサー子爵が自力で立っていた。


 「力が、力が漲ります! 筋肉が、身体中の筋肉が……おぉぉぉぉぉ!!」


 しかし、元気になったアーサーは以前のか細い少年ではなく……マッチョな少年へと進化していた。


 「おや、ハイポーションにこんな副作用がありましたか。 良い実験結果になりましたね」


 ルカがしれっと言った発言をマリとメリーは聞き逃さなかった。


 「「ルカぁぁぁぁぁ!??」」


 この夜、城内は主の復活や女王来訪で久しぶりに笑い声が響くのであった。

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