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第31話 計画の真実

 マリ達が王都の側から離れアーサー男爵の城に向かい始めて数時間後。


 「ねぇ、ルカ。 今ならメリーさんが偵察で居ないから聞くんだけど、ルカの計画の成功率ってぶっちゃけどれぐらい?」


 黙々と歩くなか、突然マリがルカを問いただす。 アーサー城の近くまで来た為、うるさい馬車は既に乗り捨てており現在は徒歩で向かっている所だ。


 「……エントン王国が滅ぶのを免れるのはほぼ確実です。 母が援軍に到着後、戦争は直ぐに終わるでしょう。 その後も、2国が攻めて来ない様にする計画も概ね問題有りません」


 ルカは歩きながらゆっくり説明する。


 しかし、決してマリの方は見ようとしなかった。 その様子を見るだけでマリが察するには充分だ。


 「ん、そっかそっか……で、私が生きて王国に帰れる可能性は?」


 周囲を囲み護衛する兵達に聞こえないよう、小声でルカは答えた。


 「……申し訳ありません陛下、ほぼ0です」


 ルカは遂には立ち止まり、俯く。


 他の皆に話した事は殆ど真実だ。


 だが、1つの嘘があった。


 この戦争を終わらしてエントン王国を完全に救うには女王という生け贄が必要なのだ。


 「謝らないでルカ。 ありがとう、大臣として任命した直ぐの仕事がこんなのでごめんね」


 「いえ……ですが、勘違いなさらないで下さい。 ほぼ0とは申しましたが、最後の最後まで私達は諦めません。 その事をどうかお忘れなきよう」


 「うん。 私もね、生きてルーたんに会いたいんだぁ~。 遠征に出る前にさ、喧嘩しちゃって……出発前まで気まずくて全然話せてないの。 さみしいなぁ……会いたいなぁ」


 マリは空を仰ぎながら伸びをする。


 (別に死ぬのが嫌な訳じゃない。 いや、そりゃ怖いけど。 でも、推しが不幸になるよりはマシだよね……どうせ女王就任1年目に死ぬ身だしね~)


 願わくば、推しのルーデウスに一目会いたい。 恋人になったヨハネを抱きしめたい。 考えれば考える程に死が怖くなる。


 (ダメダメ! まだ死ぬって決まってないし、ルーたんの為にも最後まで頑張らなきゃ。 こんな戦争さっさと乗り越えて、もっとキツいのを終わらさないと亜人達もエントン王国も滅んじゃう!)


 「あの、陛下?」


 「くー! え? あっ、ごめんごめん。 どうしたの?」


 「これを先に渡しておきます」


 慌てるマリにルカは小瓶を渡してきた。


 中には赤い液体が入っている。


 「おー綺麗。 これは何が入ってるの?」


 「それはハイポーションと呼ばれる薬で、 非常に希少でどんな傷でも癒せます」


 その小瓶は非常に希少なハイポーションだった。 達人の錬金術師しか作れず、二流の錬金術師が見たら殺してでも奪おうとするだろう。


 「すご!貰っていいの? 」


 「勿論です。ですが、ハイポーションはその1本しかありません。 使い所にはご注意を」


 「分かった、どうにもならない時に使うよ」


 マリはハイポーションを懐に仕舞い、自身か大切な人が危険な時に使おうと心に決めたのであった。


 ◆◇◆


 「陛下、見えました」


 メリーが指を差す先には、1度訪れた事のある城が見えてきた。


 森を抜けた先の草原に街と大きな城が見えている。


 「ふー、やっと着いたねメリーさん。 ずっと偵察してくれてありがとね」


 「とんでもございません。 ですが、ルカの予想とは違う事態となっております」


 「ん?? どゆこと?」


 ルカも苦虫を噛み潰したような顔で城とその先の国境を見つめていた。


 「陛下……私はアーサー男爵の城は無人になっていると考えておりましたが、予想が外れてしまったようです」


 マリが注意深く城を見ると確かに人影がちらほら見える。


 それに、遠くの国境には何かが犇めき蠢いている。 だが、遠すぎてそれが何かは分からない。


 もし、前世の世界にあった望遠鏡があればマリも苦虫を噛み潰したような顔になっていた事だろう。


 メリーとルカは普通に見えているようだが。


 「え? 流石にアレは遠すぎじゃない? 何でメリーさんもルカも普通に見えてるの? あれ? 私がおかしい?」 


 「陛下、申し訳ありません。 恐らく味方がアーサー男爵の城に籠城しています」


 「あれ? スルーなの? 無視なの? まぁいいけど……でも、ルカの予想だったらエントン王国の人達は王都に籠城してる筈なんだよね? もしかして、逃げ遅れたのかな」


 「陛下、ルカ、私が城まで確認して参ります。 この場を絶対に離れないで下さい」


 遠くを見つめるマリとルカに伝え、メリーは凄まじい速度で城に向かって走っていった。


 「わー……メリーさん早っ!」


 「仕方ありません、メリーさんが帰ってくるまで待機しましょう陛下」



 ◆◇◆

 

 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……よし、着きましたね」


 メリーはアーサー男爵の城に到着し、やり方は不明だが城壁をかけ登る。


 (さて、誰がこんな馬鹿な事をしてるんでしょうか)


 城内を見つからない様に進む。


 遠目に見た限りは味方の兵だったが、万が一という事もある。


 奥へと進むと、城主の部屋から声が聞こえた。


 (この声は確か……。 はぁ……なるほど、そういう事ですか)


 メリーは身なりを整え、扉を開け放つ。


 「なっ!? 誰だ! 」


 「おい! 侵入者だぞ!!」


 部屋に居た隊長クラスとおぼしき兵が叫ぶ。


 「待て! この方は女王陛下お付きのメイド長メリー殿だ! 剣を仕舞え!」


 兵達を止めたのは、ベットに横たわる傷だらけの人物だ。


 「さて、ここで何をされているのですか? ダルナ フォル アーサー男爵」


 ベットに横たわる傷だらけの人物はアーサー男爵その人であった。 母の汚名を注ぐべく、この城で奮闘したのだろう。


 齢14の少年の片腕は既に無く、片目には眼帯をしていた。


 「はは……すみません、2日は凌いだのですが手酷くやられまして。 ですが、メリー殿が何故私の城に? 陛下は御無事なのですか?!」


 笑う少年の体はボロボロだった。


 満身創痍の身でも、仕えるマリを心から心配するアーサーを見てあの時マリが彼に情けをかけたのは正解だったとメリーは確信した。それと同時に不安も。


 「安心なさい、陛下は御無事です。 ここには、新たな大臣の策で来ました。 女王陛下を連れて参りますので、そのつもりで準備をお願いします」


 メリーに女王陛下来訪を告げられ隊長達はパニックだ。この緊急事態にまさか女王が城に来訪する等想像出来る筈もない。


 「静まれ! 先ずは兵達に告げよ。 今日はもうゴルメディア帝国は攻めて来ないだろう、女王陛下の歓迎準備に掛かれと。メリー殿、その策の為に我らは尽力致します!」


 メリーは苦悩していた。


 どう告げるべきか、いつ告げるべきか。


 きっと、忠臣となったアーサー男爵は決してルカの計画を許さないだろう。


 この戦争を終わらせる為に、女王陛下をゴルメディア帝国に引き渡す等絶対に駄目だと。

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