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第30話 ルーデウスの死闘

 開戦より2日が経過。


 城壁を囲むキャット王国とドック王国による攻城戦は熾烈を極めていた。


 「梯子を早く外せ! 弓兵! 休まず射かけよ!」


 エントン王国正門に位置する南門には、敵の主力が攻め寄せていた。


 今も騎士団長ボルガスが、梯子で上がってきた敵兵をバスターソードで切り捨てながら兵達に指示を飛ばしている。


 「ふはははは! どうした畜生共! こんな老執事にも勝てんのか?」


 ボルガスの側では執事長ウォンバットが素手で敵兵を吹き飛ばしていた。


 「伝令! 東門のメル子爵より! 傭兵部隊損耗3割! 耐えても後1日やで、との事!!」


 「ご苦労! おい、其処のお前! 後方の弓兵500連れて応援に行け!」


 「はっ!! 行くぞお前等!」


 ボルガスの指示で駆けていく兵達をルーデウスは無事を祈るように見送る。


 そう、ルーデウスは開戦後も前線から決して離れなかった。


 既に何度も城壁に上がってきた敵兵に襲われているが、それでもルーデウスが城に戻る事は無い。


 初めての実戦に手が震え、それでも剣を片手に戦っている姿は民を守る立派な王族だった。


 「皆さん必ず援軍は来ます! 皆さんの後ろには守るべき人達が居ます! 決して私達は退きません! 私が皆さんの前に立ち続ける限り希望はあります!!」


 既に汚れ破けた姉の服を着たまま、ルーデウスは敵兵を切り捨てる。


 後ろの弓兵達を守る為に。


 「陛下! あまり出すぎてはなりませんぞ!」


 城壁から新たに梯子で上がってきた敵兵をウォンバットは蹴り殺す。


 「ふぅ……ふぅ……ありがとう、ウォンバット」


 ルーデウスの体力は既に限界だが、エントン王国の兵達もかなり危うい。


 味方1万数千の兵はこの2日で1万を下回ってしまった。当然敵の損害はそれ以上の筈だが、攻勢が緩む事は無い。


 籠城する側が有利な防衛戦で、何故此処まで苦戦を強いられているかと云うと敵の新兵器が原因であった。


 「くそ! ボルガス団長、またアレが来たぞ!!」


 1人の兵隊長が叫ぶ。


 「ぬぅ! また奇妙な兵器か! えぇい、次は梯子を付けさせるな! 矢を射かけぇいっ!」


 城壁に向かって来る、梯子が備われた台車の様な物に味方の弓兵が矢を射かけるが止まる気配は無い。


 この世界での攻城戦では考えられない事が起きていた。


 門を壊す破砕槌兵や歩兵が運搬する梯子をかけての攻城戦が当たり前の世界で、自動で走る台車が梯子を運搬しているのだ。


 これにはエントン王国側は大きく動揺し、初日にかなりの被害が出てしまっていた。


 「ダメです! やはり止められません! 梯子が掛けられました!」


 兵が叫んだ通り、城壁には新たな梯子がずらりと掛けられている。


 しかも、この梯子には鉤爪と鎖が付いており直ぐに外す事が出来なくなっているのだ。


 「くそ!忌々しい! 此方は儂が殺る、近衛兵向かえぇっ!」


 「「「「おう!!」」」」


 歩兵の損耗が激しく、精鋭の近衛兵も前線に投入されている。


 敵が城壁に入り込み過ぎている為、本来の女王を護衛する暇も無いぐらいだ。


 剣を立て暫しの休息を取りながらルーデウスは考える。


 (今、何日過ぎた……? 5日か6日……かな。 まだ援軍は来ない……姉上……決して諦めませんよ、姉上が変えた国は僕が絶対に守ります!)


 「居たぞ! 本当に居たぞ! エントン王国の女王だ、捕らえろ! 」


 「くひひ、捕らえたら褒美は意のままだぞ! かかれーー!」


 近衛兵が止めきれなかった敵兵が女王目当てに走ってくる。


 「私はエントン王国女王マリ!お前達の様なゲスな輩が捕らえられると思うな! 死にたい者からかかって来なさい!!」  


 戦いに疲れ果てても止まぬ闘志を心に、ルーデウスは新たに迫って来た敵に切りかかる。


 ◆◇◆


 時刻は昼を過ぎ、パンと干し肉を噛み千切りながら交代で守備についていた。


 ひと息つける貴重な時間だ。


 しかし、戦争とは予想外の連続である。


 「報告! 南門正面に、奇っ怪な兵器が並んでおります! 」


 「んぐっ! けほっ、ボルガス!」


 「はっ! おい、皆守備につけぇぇっ! 敵が何かしてくるぞぉ!」


 「陛下、後方にて待機を!」


 「けほっ、はい、ウォンバットも気を付けて下さい」


 ボルガスが兵を連れ、城壁の正面に立つと其処には異様な光景が広がっていた。


 巨大な鉄のスプーンの様な物を搭載した自動で走る台車が一列に並んでいる。


 巨大な鉄のスプーンには頑丈そうなヒモが張られており、今にもスプーンが跳ねてしまいそうだ。


 そして、その巨大なスプーンの窪みには燃える火の玉が乗っていた。


 「あれは……まさか、不味い! 皆城壁から離れよ! 急げぇぇぇぇっ!!」


 危険を察知したボルガスが叫ぶと同時に、ルーデウスや兵達の頭上に火の玉が降り注いだ。

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