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第29話 ルーデウスの奮闘その2

 招集より2日、籠城の準備が完了し王都の街には多くの人集りが出来ていた。


 当初はこの世の終わりだと多くの民が騒いでいたが、王城まで開放し民の受け入れを行った事で何とか沈静した。


 そんな街を南の正門がある城壁の上でルーデウス達は見渡している。


 「ふー……ボルガス騎士団長、伝令から連絡は来ましたか?」


 「まだでございます陛下。 しかし、先の伝令で我が領土に敵が侵入したのは確認しております。 時期に……来るかと」


 「ありがとう……うーー! やっぱり、変ですか?」


 「陛下、しっかりなさいませ。 城壁を見上げる民達を安心させる目的もございます」


 背後に控えたウォンバットがルーデウスを嗜める。


 「せやせや、よう似合ってますよ陛下。 あ、やっぱりあかん! ぷぷぷぷぷっあっはっはっはっはっ!!」


 その様子を見ていたメル子爵もフォローするが、我慢ならず吹き出してしまった。


 「ちょっと、メル!! 失礼を陛下、その場で回って頂けますか? お願いします!!」


 イサミ子爵がメル子爵を嗜めながら、何故か顔を赤面させルーデウスに要望する。


 「え? はい、えっと……こんな感じですか?」


 ルーデウスがくるりとその場で回ると、イサミ子爵は鼻血を出しながら倒れてしまう。


 「ちょっ!? イサミはん?! 誰かー! 医者を呼んだってーー!」


 メル子爵がイサミ子爵を抱えて叫ぶのをルーデウスは苦笑いで見ていた。


 「あはは、ウォンバット……やっぱり変ですか?」


 「いえ、大層お似合いでございますよ陛下」


 「んー! その陛下って呼ばれるのも、何かムズムズして痒いです。 それに、下がスースーします」


 ルーデウスはスカートの裾をヒラヒラとさせながら赤面する。


 そう、ルーデウスは敵の目を集める為に姉であるマリの服を借りて女装しているのだ。


 もし、マリがこの場にいたらイサミ子爵同様に鼻血を出して倒れていた事だろう。


 城壁の下からは、民が女王に懸命に手を振っているのが見える。


 自分達を守る為に城壁の上に立つ女王を見て、多くの民が安堵している筈だ。


 「ふー……民の皆さんを騙しているようで心苦しいですが、居ない筈の女王が居ると敵の目を釘付けにする為です。 我慢我慢」


 ルーデウスがマリに扮しているのを知っているのは、あの会議に参加した貴族達や隊長クラスの兵士達だけだ。


 民や、一般兵士は遠征に出ていたマリ女王が本当に帰ってきたと思っている。

 もし、王国が攻められる時に女王が不在と広まれば指揮が下がるだろう。


 ルーデウスとウォンバットが考えた苦肉の策である。


 お付きのメイドがルーデウスの元へとやって来た。 彼女はルーデウスが女装している事を知っている1人である。


 「陛下、 アーサー男爵が面会を求めております」


 「はい、通して良いですよ」


 超絶イケメン美少年が女装して凄まじく可愛くなっているのを見て、メイドは軽く鼻血を垂らす。


 「ぐふっ! あ、失礼を……直ぐにお通し致します」


 「何故……皆さん、僕を見て鼻血を出すのでしょうか」


 ルーデウスの呟きに応える者は誰も居なかった。


 ◆◇◆


 「ですから、私はゴルメディア帝国の動きを監視すべく城に戻ります!」


 「もー、ダメですってば! 敵の狙いは姉上だけでは無くエントン王国の民を奴隷にする事です! それは、兵士も同様でしょう。 誰も奴隷にさせない、これが私達の勝利条件です」


 やって来たアーサー男爵とルーデウスが言い合いになって暫く、まだ決着はつかない。


 「奴隷に等なりません! 囚われる事が有るならば、その場で皆自決致します!」


 「あーもーー! アーサー君! 君のお母さんの事は聞いてるけど、だから汚名返上の為に部下の兵士達と一緒に死ぬのは違うんじゃないの? それに、姉上は絶対にそんな事許さないよ? 」


 「ぐ……でも! ゴルメディア帝国の動きを見張る者が必要だよ! 僕以外の女貴族達は残るし、部下も少しだけしか連れていかないから! お願い! 友達なら、分かって欲しい!」


 「友達だから止めるんだよ! ぜっったいにダメだからね! 土地や城が荒らされても、また復興すればいい! でも、死んだら……終わりなんだよ」


 「……分かってる。それでも!」


 友としてお互いに言い合っていた時、1人の伝令が走ってきた。


 「伝令! 伝令ー! キャット王国の軍を確認! 此方に向かって来ます! 兵数1万!」


 直ぐに別の伝令がやって来る。


 「伝令! 報告致します! ドック王国の軍を確認! 1万程の兵を連れ王都に進軍中!」


 「遂に……来ますか」


 王都には、現在集めれるだけの兵が守備についている。


 精鋭から新兵に、傭兵等で約1万数千程だ。

 戦況が厳しくなれば、民から志願兵を募る予定だがルーデウスは乗り気ではなかった。


 籠城に徹すれば、ルニア辺境伯が到着しギリギリ守り切る事が可能だろう。


 ルーデウスが思考を巡らせていると、アーサー男爵の兵達が走ってきた。


 「よし、皆集まったな。 ルーデウ……いえ、マリ陛下。 命令に背く事……どうかお許し下さい。 我等はゴルメディア帝国をなるべく止めてみせます! 陛下は身の安全を第一に! 失礼!」


 アーサー男爵の瞳を見て、もうルーデウスは何も言えなかった。


 「ちょっ!? ……分かりました。 どうか気を付けて」


 走り去る友の背中をルーデウスは寂しげな表情で見送った。


 きっと、もう会う事は出来ないだろうと覚悟しながら。


 「陛下、しっかりなさいませ! 他の者も集まりました。 さぁ、始めましょうぞ!」

 

 立ち尽くすルーデウスを、騎士団長ボルガスが鼓舞する。


 「そうですね、僕がしっかりしないと……。 すー……はー……」


 ルーデウスは深呼吸をし、城壁で配置に付く兵士達に告ぐ。


 「これより、我等エントン王国は全ての民を守る戦いを始めます!! 数は敵の方が多い、だが臆するな! 私達が退けば、家族が、友が、恋人が奴隷となる! 私達は決して退かない! のこのことやって来た帝国の獣共に地獄を見せてやりましょう!! エントン王国の為に! 民の為に! 」


 城壁の高台に立ち、ルーデウスが高らかに宣言すると兵達から雄叫びが上がる。


 「「「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」


 「「「「エントン王国の為に! 女王陛下の為に!!」」」」


 弓を掲げ、剣を掲げる。

 決して我等は退かぬと誓って。


 「さて、ウォンバットよ。 久し振りの戦だ……勝負するか?」


 「ふんっ! 私には陛下を側で御守りする任があるんじゃ。 そんな事……勿論受けるわぃ」


 ルーデウスの左右では、騎士団長ボルガスと執事長ウォンバットが獰猛に笑う。


 「なはは、おっかないなぁ。 さてイサミはん、私等も守備につこか~」


 「えぇ、メル子爵も気を付けて。 東門はお任せします」


 メル子爵は多くの傭兵隊長を引き連れ東門へ。 イサミ子爵は多くの女貴族達を連れて西門を守る事になっている。


 兵は全て騎士団長ボルガスの指揮下だが、流石に東西南の門全ての指揮をとるのは不可能との判断だ。


 「ふー……姉上、必ず王国は御守りします。 ですから、どうか……ルニア辺境伯から離れませぬよう」


 叶わぬ願いを胸に、ルーデウスは女王として無謀な戦いに身を投じる事となる。

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