第22話 一夜の過ち?
「んーーー! 良く寝たーーー!」
カーテンの隙間からは朝日が差し込み、既に日が高くなっている事を告げている。
獣人ラガンに貰っていた酔い冷ましの実のお陰で二日酔いもせずに起きられた事にマリは心中で感謝するが、恐らくまた酒は飲むだろう。
マリはベットで伸びをし、起きようとしたが隣で眠っている何かに腕をぶつけて固まった。
「…………ん?」
マリの思考が高速で回転し、必死に記憶を呼び覚ます。
「あ~……うん、えっと~服は、一応着てるね。 はいはい、なるへそね。 うんうん、あ~~~全然覚えてないや」
マリは現状を把握し、頭を抱えて呻く。
必死に呼び覚ました記憶は朧気で鮮明な記憶は忘却していた。
残っている記憶を思い出す限りでは、昨晩夕食を部屋に運んでもらい性懲りもなく恋人のヨハネとお酒を飲みながら食べた筈なのだ。
そして、普段ならブレーキ役となるメリーやジャックが謹慎で居ない為……心が壊れかけのマリが暴走するのを止める者はいなかった。
マリが泥酔する頃、恋人のヨハネに甘えてキスし始めた辺りから全く記憶が残って無い。
「ふー……オーケーオーケー。 うん、とりあえず……記憶違いかもしれないから……ね?」
恐る恐る布団を剥がし、隣で眠る誰かを確認する。
――全裸のヨハネさんだ。
「Wao! 腹筋バキバキ、イケメンの寝顔あざますぅぅぅ!! くふぅーーー!って、そんな事を言ってる場合じゃないよ!」
1人でノリツッコミをしていると、部屋がノックされる。
コンコンコン
「陛下、起床なさいましたか?」
(不味い……この声は、メリーさんの部下メイドさんだ! この状況を見られるのは非常に不味い!!)
パニック状態のマリは咄嗟に出た言葉を考えずそのまま言ってしまう。
「あ! 待って!開けないで! 後、おはよう! 今日は体調が悪いのでこのまま部屋に居ます!」
「え!? 陛下、大丈夫でございますか? 信じられないくらい元気なお声ですが?!」
扉の前でメイドもパニックになる。
仕える女王が体調不良なのも心配だが、信じられないくらい元気な声をしているのだ。 怪しすぎる。
「うぐ!? いや、その……どうしよう!」
ベットの上でマリがパニックを起こしていると、優しく手を握られた。
「ぴっ?! あ、お……おはよう、ヨハネ」
顔を真っ赤に染めながら、手を握った主を見るとヨハネが優しく微笑んでいる。
「ふふ、おはようマリ。 状況的に私が居ない方が良さげだね。 よし、窓から逃げるから時間を稼いでくれ」
小声で会話をした後、ヨハネは急いで服を着始める。
「うん、分かった。 任せてね」
乱れていない衣服を一応正し、扉へと向かう。
「あ、ごめんね。 暑くて、寝苦しかっただけだから。 ごめんだけど、冷たい水持って来てくれる?」
扉の向こうへと話し掛けると、直ぐに返答が帰ってきた。
「ほっ……安心致しました陛下。 直ぐに持って参ります」
廊下を走る音を聞き届け、安心してヨハネの方を振り替えるが既に窓から脱出したようだ。
窓から入る風がカーテンを揺らしている。
「ここ……3階なんだけど。 流石、亜人最強の英雄ね。 カッコいい!!」
暢気な感想を延べたマリは一安心し、大人しくメイドの帰りを待つのであった。
◆◇◆
「皆おはよう、遅くなってごめんね」
あれからマリは念の為水浴びをし、身体を清潔にしてからの遅い朝食となった。
食堂となる広間に入ると、長いテーブルが有りその上に豪華な朝食が並んでいる。
どうやら、マリの席は上座の一番奥の様だ。
着席していたルニア伯爵達が立ち上がり、女王に敬意を示している。
この場にメリーとジャックは居ない。恐らく、馬鹿真面目に与えられた部屋で謹慎しているのだろう。
ルニア伯爵と見知らぬ青年に、ルニア伯爵の下に付かせた女爵達6人がマリの到着を待っていた。 そして、上座の近くの席にはさっきまで床を共にした恋人ヨハネが照れながらマリに向かって手を小さく振っている。 昨晩とは違い眼鏡をしているので、今はヨハネでは無くキラサギモードなのだろう。
(くー! なんだろう……推しのルーたんが一番なんだけど。 デレてるヨハネがめちゃくちゃ可愛い。 イケメンで可愛いって……神か?)
女王の席に座ったマリが惚けた顔でヨハネを見つめていると、この館の主であるルニア伯爵が咳払いをし口を開いた。
「おほんっ! おはようございます、陛下。私の館で疲れが少しでも取れたなら幸いだ」
ヨハネの反対の席にはこの館の主であるルニア辺境伯が。 そして隣には赤髪の青年が立っている。
「ありがとう、ルニア伯爵。 とてもよく寝れたよ~! あ! もしかして、隣の青年が……?」
マリの問い掛けに、ルニア伯爵と青年が顔を上げる。
「はい、先日お話しました息子のガルーダ フォル ルカです」
「ルカとお呼び下さい陛下。 誠心誠意、お仕え致します」
顔を上げたルカは、武に生きる両親とは大きく違い華奢で美青年であった。
敵を威圧すると云われるガルーダ家の赤髪が、まるで美女を飾り付けるようにキラキラと光っている。
当然ながら、ルニアの息子ルカはこの辺境ではよく思われていなかった。
母は赤い死神と呼ばれる王国最強の英雄で、父は王都を守る王国騎士団団長だ。
息子のルカにも、戦闘力という意味で周囲から期待されていた。
そして、兵士も民も強い辺境伯を慕ってこの土地に住んでいるのだ。
娘が生まれずとも、強い男なら歓迎だった兵士達もこれには拍子抜けをし、ガルーダ家はルニア伯爵の代で途絶えるとすら噂され母ルニアは激怒した。
しかし、周囲の期待を裏切ったルカの頭脳は異常だった。
親から見ても異常な程に頭が良い。
少ない情報から多くを見、正確な政策でガルーダ家はどんどん潤っていった。
民も豊かになり、いつしかルカの噂は変わる。
――あれは神童だと。
以上が、メリーからの報告書に書かれていたルカの情報だ。
それらを思い出しながら、マリは年上のルカを見つめる。
推しのルーデウスを任せられるかどうか見極めようと心に決めながら。
「うん、よろしくねルカ。 じゃあ、親睦を深める為に一緒に食べよう! 」
「くすっ……はい、陛下」
2人が笑い合い朝食を食べる様子をルニア伯爵達と恋人ヨハネは微笑みながら見ていた。




