第17話 亜人解放 その3
(い……1年間奴隷として奉仕しろ!? 無理じゃね……? 既に1ヶ月近く経過してるから……私が死ぬまで11ヵ月しか無いじゃん!!)
「ルルさん……出来れば違うのに……変更って可能ですか?」
恐る恐るルルに問うと、素っ気ない答えが返ってきた。
「ふむ……では、手っ取り早く死刑が良いか?」
「「なっ!?」」
ルルの言葉にメリーとジャックが反応し、マリを庇い守る。
「あはは……そうだよね。 そりゃ、当然か~……ん~、でもなぁ」
マリが必死に思考を巡らせている間、ルルはマリがどういう人間なのか図ろうとしていた。
「なんじゃ……我が儘じゃな。 では、その従者2人を奴隷として働かせるか?」
「ダメ!! それは、絶対にヤダ!」
間髪入れずに断るマリをルルは目を見開いて驚いていた。
「何故じゃ……人間の女王よ。 その2人が奴隷として1年間奉仕するだけじゃぞ?」
ルルの言い分は最もであり、慈悲深い判決と言える。
しかし、マリは許容する事は出来なかった。
「2人は私の大切なメイド長と執事です! 奴隷になんて、絶対にさせない!」
「「陛下……」」
「よくもまぁ……ぬけぬけと。 先にお前達が我等の同胞を奴隷なんぞにしたのであろうが!! 恥を知れ!」
「それはごめんっ! 本当に申し訳ない! でも、これとそれは別! 罰なら、私が受ける。 でも、1年間奉仕は出来ない! 私には……私には……」
「……? なんじゃ??」
(不味い、本当にどうする? どうする私! このままじゃ、私が奴隷か死刑か……2人が奴隷にされる!)
ルルは怪訝な顔をし、ロキは苛立ち、アテスは何が楽しいのかずっとニヤニヤと笑っていた。
そして、マリが葛藤している最中ラガンが鼻を鳴らしマリから漂う懐かしい匂いに反応する。
「ガルル……? すんすん、あれ? マリから知ってる匂いする」
「む……? 誰の匂いじゃ? 元奴隷にお主が知ってる亜人が……」
「「待って!」くれ!」
ルルがラガンに言いかけた時、マリ達の後ろから2人の亜人が駆けてきた。
「お兄ちゃん……マリ様、私を助けてくれたの! お願いだから、苛めないで」
マリの前にミケルとルキが立ちはだかる。
「ミケルちゃん、ルキ?! 危ないよ……って、お兄ちゃん??」
「ミケル!? お前……本当にミケルなのか? まさか……いぎでだなんで……うっ……ぐす、マリ……ありがどう。 ミケルは俺の妹だ」
ラガンが咽び泣きながら、ミケルを撫で回す。
(あ……えーーー!? そうなの? じゃあ、ミケルちゃんは……猫耳だけど獅子獣人なのか! うん、可愛い!)
「兄貴、ラガン兄ちゃん。 マリ陛下は俺達の恩人なんだ。 許してやって欲しい!」
ルキが両手を広げ、マリを庇う。
その瞳は、絶対に譲らないと赤く燃えていた。
ラガンが泣きながらルキを見る。
「ルキ……ありがとうな。 ミケルを守ってくれたんだな」
ラガンがルキの事も撫で回す。
直ぐ側にロキも近寄り、久し振りに再開した弟を褒める。
「ふん……俺様の弟なんだから当然だ。 よく生きていたな……ルキ。なっ!? ……お前、角はどうした!?」
ロキは目を見開き、ラガンは唸った。
「ガルルル……人間に折られたか?」
「違う。 奴隷商人に見つからないように……自分で折った。 ミケルと生き残る為に必要だったんだ」
ロキは跪き、ルキを強く抱きしめた。
「そうか……そうか……流石、俺様の弟だ。 頑張ったな、よく頑張ったな……よく、妹分のミケルを守ったな」
兄と再開し、久し振りに褒められ抱きしめられたルキの頬を涙が伝う。
「うぐっ……ひぐっ……うん、ちゃんと約束守ったよ兄貴。 でも、マリ陛下が助けてくれなかったらどうなってたか分からない。 だから、俺とミケルはマリ陛下の味方をするよ」
族長代理のロキに、ルキはハッキリと己の想いを伝える。
鬼人族では、族長の意見は絶対だ。
文句を言う事すらタブーとされている。
それでも、族長代理の自分にハッキリと言ってきた弟をロキは愛おしくて堪らなかった。
(ぐす……良かったねルキ。 ミケルちゃん、お兄ちゃんに会えて良かったね。 ルキも俺様兄貴に会えて良かったね……)
マリは状況に付いていけてなかったが、ミケルとルキが家族に会えたのが嬉しくて涙が止まらない。
メリーとジャックは警戒をしながらも、知っている2人が家族に再開出来たのが嬉しく頬が緩んでいる。
亜人達も感動の再開に涙していたが、唯一エルフの族長ルルやエルフ達は面白くない顔で様子を見守っていた。
ロキが立ち上がり、後方の鬼人達に叫ぶ。
「良い顔だ……男になったなルキ。……分かった。 よし、てめぇら! よく聞け!! 俺達、鬼人は嬢ちゃんを許す! 今後、報復する事は許さねぇ! 肝に命じろ!!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
多くの鬼人達が返事をする様は圧巻だ。
ラガンも獣人達に叫ぶ。
「ガァァァァッ!! 俺達もだ、同胞の獣人達よ! 妹を、同胞を返してくれたマリに感謝すれこそ報復は許さない! 文句があるなら、俺の所に来い!!」
「「「「「アォーーーンッ!!」」」」
獣人達は了解の意を込めて、天に向かって雄叫びを上げる。
鬼人と獣人が人間の女王を許した事を皮切りに、マリ達の後方に居た元奴隷の亜人達も家族の元へと駆け始めた。
笑顔で抱き合う亜人達を見てマリは大満足だ。
「うんうん……頑張って良かった~。 ありがとう、メリーさん、ジャック」
「「御身の身心のままに、陛下」」
「よし、帰ろっか。 お邪魔しました~!」
(なんか分かんないけど、今なら誤魔化せて帰れそう! とりあえず一旦撤退ーー!!!)
マリがそそくさと長砦に帰ろうとすると、後ろからルルに呼び止められた。
「いや、いやいや! お主、何を帰ろうとしとるんじゃ! まだお主の判決を決めとらんぞ!!」
「…………ちっ、やっぱりダメか」