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ひまつぶしに書いた随筆  作者: 檻の熊さん
7/11

研究ネカトの歴史

 捏造:ネ。

 改ざん:カ。

 盗用:ト。

 この3つを合わせて研究ネカトと言います。

 海外では当然英語で、頭文字を取ってFFPと言うのだけれど、これを日本語にしただけのものです。

 意外にも、外来語や横文字が大好きな日本人が如何にも外国かぶれに“FFP”を使うようになるかと思ったけれど、そうはならなかったみたいですね。


 言葉というのは厄介なもので、昔は盗用の代わりに「剽窃(ひょうせつ)」が使われておりましたが、和歌の世界で「本歌取(ほんかどり)」というのがありまして、これを剽窃と呼称する事から混乱を避ける意味でそっちは使わなくなったようです。

 分かり難ければ、アニメで引用元を明確に示していないけれど視聴者からは元ネタがバレバレなパロディの事を剽窃と言うと説明したら、分かってもらえるのでしょうか?


 端的に言って、ネカトと呼称されるそれらは不正行為です。

 今では「いかん!」と、皆さん口をそろえて言います。


 例えば、ある疾病についてまとめた医学系の本を書いたとして、今どき根も葉もない適当な話を経験からエッセイ的に書いてお終いなんて事はありません。

 「ちゃんとした」実用書なら、引用元の文献をあっちこっちから引っ張ってきて、そういう物でガチガチに構成した論旨で形成された「まとめ」を作るはずなのです。


 この中に、元の研究データを改ざんしたり捏造してでっち上げた文献の情報が混じっていたとしたら、そのまとめを著者の人は一から書き直さなければななくなります。

 そして、研究不正が発覚するまでの間、患者のみなさまはその誤情報に基づいて自分の健康なり命を左右される事態になってしまうのです。

 ──他にも、色々と駄目な話はあるかな。


 今どきはWikipediaなんかで簡単に調べられるみたいですが、昔から有名だった研究不正は高校生物の教科書にも出てくる「メンデルの法則」のメンデルさんの実験です。

 この実験には、どうやら再現性が無いらしいのです。

 何回やっても、同じ結果にならない。

 つまり、当時のメンデルさんは,実験の元データの方に手を加えて、如何にも統計学的に法則性があるような論文を書き、それを学会誌に提出したのだろうというのですね。

 端的に言ってしまえば、嘘をついたという事になります。


 どうやらこれは事実らしく、後の時代、教訓も含め色々な論争の的になりました。

 実際のところ、この論文は遺伝学の世界の金字塔で,高い評価を受けております。

 非常に良く出来たこの理論は、後の世に色々と影響を与えたのです。

 その一方で、やはり過去の研究者らの中にも生理的にかなり嫌悪した方達が居たらしい事が記録に残っております。


 当時は「研究ネカト」なんて言葉は無かったし、メンデルさん御本人が猛烈な批判に晒されるという事も無かったし、何なら論文自体世間に埋もれたまま評価される事なく、本人は生涯を終えています。

 「メンデルの法則」は、後の時代になって再評価されて有名になります。

 そして、時代が進むにつれ、昔からこういう事が行われる事があったんだという、実に不名誉な事実としてこの方の研究は引き合いに出される様に成っていったのです。


 私ごとですが、自分が中学生の頃は、世間的に中学というのは荒れている所が多く、入学式の日には学校に警察官が居て、3階の窓から椅子だったか机が降って来たのを覚えています。

 そんな状況でも、私が経験したのは事態が改善に向かっていた頃で、当時の学年主任の先生が父兄を相手に、「僕が新任で赴任した頃、授業なんかできなくて、ボヤが起きたらいけないので廊下に落ちている煙草の吸い殻を拾うの毎日の仕事でした(だから、今後こういう指導をしていく)」なんて説明会がありまして、その話を私は親から聞かされました。

 いえ、洗脳よろしく、入学早々作文を書かされまして、「僕たちは非行に走りません」という内容で何やら書いたのなら覚えております。


 当時は学年ごとに生徒達は違う建物に配置されておりまして、学年が違うだけで、つまりその建物に入るととても荒んだ空気が漂っていたのを覚えております。

 例えば、1年生のある日の事でした。

 突然授業が自習になり、先生が「これから3年生と決着を付けに行ってくる!」と言って出ていったといったエピソードがあったのを記憶しております。


 そんな状態でしたから、この時代、教師が生徒に振るう体罰は苛烈で、理不尽以外の何者でもないものでした。


 今なら、パワハラとか忖度とか、そんな言い方をされるのではないかと思います。

 2年生のある日、体育館で全校集会があった後、教師側から一切の指示の無いまま、おそらくは「自発的な行動」というのを促したかったのでしょう、体育館に並べられた椅子を放置して当時の2年生が教室に戻ってしまった事がありました。

 1人や2人の話ではなく、当時は生徒も多かったで学年の数クラス分、おそらく二分の一近く、160人に満たないくらいが、そういう行動を採ったと記憶しております。

 とにかく指示がなかったから、「先生の方で椅子を片付けるのかと思って」、1年生も3年生も退場してしまい、そのままの流れで2年生も体育館から出て行ったのです。


 はたして、「こんなこと指示されなくてもやってたり前だろう!」という訳です。

 いえ、いきなりの校内放送で教室まで戻っていた生徒の皆さん体育館まで戻され、そのままコンクリートの上に正座です。

 なんなら私自身、コンクリートの上に正座させられて、場所が悪かったんですねえ、当時の学年主任が手近な生徒を片っ端から足蹴にしていく、そういう事をされた一人になりました。

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 胸辺りを狙って蹴ってくる。

 上体が吹っ飛ばされて、息が出来なくなりましたよ。

 殺し文句が、「おまえら内申書に書いてやるからな!」です。

 これで、逆らう生徒はいません。

 そう大声で恫喝されながら、足が届く限りの生徒を、男子も女子も関係無しに蹴飛ばして行ったんです。

 ほんと、教師の近くになんかに座った私がバカでしたよ。


 体罰もそうですが、「内申書に書くぞ」なんて脅したりしたら、今なら確実に新聞報道されるか、なんなら警察に捕まります。

 こういう事が全国的に問題になり、教師が振るう暴力が消えて行ったのは、この後10年以上経って、私が大学を卒業した後の話です。

 当時、昭和の頃までは、教師に暴力を振るわれた生徒が、いえ親ですら、「警察に相談する」なんてあり得ない時代だったのです。


 いまなら小説の中に書かれているだけの「ファンタジー」と認識される話も、当時は実話で、珍しい話ではなく、むしろ常識と呼んで差し支えない話だったところが、昭和という時代だったのでしょう。


 ついでに書いておきます。

 私の親世代の頃のこういう話はもっとワイルドでして、もちろん私は自分の親からそういう話を聞いただけなのですが、卒業式の日になると学年主任とか生活指導の先生は欠席するのが当たり前だったそうです。

 つまり、その頃は卒業式に警察官がやって来てくれたりはしなかったそうで、在学中素行の悪かった卒業生から「お礼参り」で暴力を振るわれる可能性が高い先生は、逃げるのが当たり前だったと聞いております。


 今考えれば、先生も生徒が怖かったんでしょうね。

 こんな事がズッと続いて来たから、伝統的に中学校には鼻血が止まらない勢いでビンタする先生が居てみたり、逆に鼓膜が破れて病院にかかる生徒が現れてみたりしていたんですね。

 当然ながら、暴力には負の側面が付いて回りますから、次第に逆らわない大人しい生徒に対して教師から過剰な暴力が振るわれる傾向が強く成っていくのです。


 さて、ここで研究ネカトの話に戻ります。

 今ではあり得ない事ですが、昭和の頃の大学というのは、本当に昭和だったらしいのです。

 事情は色々、研究予算が無いので使ってしまったお金に対して何が何でも成果を出す必要がある。

 その成果とは研究論文の事である。

 とにかく、研究論文には論旨を形成してオチまで付ける必要がある。

 そのためには、データの改ざんややってもいない実験の追加は、他の論文を読めば必要なのは一目瞭然──やってしまえば、論文が1本書けてしまうのです。


 ここで問題になるのが、学生の存在です。

 大学の研究というのは、研究者である教授や助教授(今なら准教授と呼ぶ)が私的に個人的に行うのではなく、学生を指導しながら学生に実験させて、学生に論文を書かせて完成・発表させるものなのです。

 当然ですが、不正行為を指導教官から指示された学生は、嫌悪感を抱いたり、場合によっては拒否する事がありました。


 荒れる中学校の教師達と似ていなくもないですが、背景としてあったのは学生紛争の頃の影響だったのかなと考えております。

 かなり自己主張の強い学生に対応させられた経験が、その後の人間を作ったんだろうという意味です。


 当時の話、大学の先生というのは、あちこちの研究室講座で、かなり強い口調での恫喝(大声で「殺すぞ!」といったもの)、学生の卒業を盾に取ったパワハラ、色々やっておりました。

 学会発表の前日に学生に酒を飲ませて酔い潰し、それで発表を失敗させて後日マウントを取る…今で言うアルハラみたいな事も行われていましたね。


 「なんだそれは!?」と思う方がいるとしたら、それは今どきの人たちで、今ではそういう事はマスコミで報道されるし何なら犯罪として成立する時代ですから、全く意味が違うのです。

 昭和の頃は、小説の中のファンタジーが当たり前で常識だったのです。


 なんと申しましょうか、学生の方でも黙っていなかったというか、結構なプレッシャーを指導教官に与えていた事がある、その経験の蓄積の果ての行動らしいのです。

 昔の事とて、大人しくいう事を聞いている学生ばかりではありません。

 「まだ子供」と言われる事もありますが、大学生にも成れば立派な20歳を過ぎた大人です。

 胸ぐらつかみ合う所まで行けば、大人同士のケンカとはただの殺し合いで、良くて傷害悪ければ殺人です。

 それこそ、命の危険を覚える様な経験をしてでも、研究論文を学生に書かせて卒業させる必要があるんです。

 それが、まあその、ノルマで、仕事なんですね。

 だからこそ、恫喝もあれば強迫もありという行為が出来てしまう、そういう「対応」を覚えた人たちが結構な数、それも判で押したように同じ事を言う人たちが、全国的に居た訳です。

 ──ぶっちゃけ、迷惑な話ですね。


 メンデルさんの研究のように有名にさえ成らなければ、世間の研究者も一々追試を行ってその論文の正誤を確認したりなんかしません。

 幸か不幸か、日本の大学で行われている研究の大半は低予算で、マイノリティなニッチを占めるだけの誰からも興味を持たれない研究も多かったので、研究不正が蔓延る温床になってしまったらしいのです。

 それを下支えしたのが、おそらく学生紛争の頃に鍛えられたひねた研究者達だったというのが私の考察です。


 平成もだいぶ経ってからでしたね、こういう人たちが新聞報道で叩かれるようになったのは。

 当時の経験もあり、私はその内容が(「殺すぞ」という台詞まで同じだった)テンプレートと申しますかマニュアル対応とでも言うべきか、非常に似通った内容である事を何度も確認する事になりました。

 私としては、中学校での体罰が消えていった過程を見ているような気分でしたよ。


 研究不正はそもそも唾棄すべき行為でありますが、日本型の研究不正には、たぶん昭和の頃から引き継いだ独特なバックグラウンドが存在します。

 私は、現在教授職にあるくらいの世代の方達が、その影響を被った最後くらいの世代であると考えております。

 なんとなれば、そういう方達と話をした際に、まるで辞書を引いてそのままを読み上げたかのような昔懐かしいテンプレートを語られた経験が,つい最近になってあったからです。

 もちろん、明文化された何かがあるはずもなく、底流に連綿と引き継がれてきたパワハラマニュアルとでも言うべきそれが、今も存在している事を知ったという程度の話です。

 過去にそういうやり取りをやった経験がなければ、さすがに気付く事はなく、おそらく当事者は被害者として相手方に人格攻撃を行うように成るのではないかと思います。

 少なくとも、マスコミの報道の様子はそんな感じだった。

 私は理系ではありましたが、畑違いで、もちろん大学も違うそういう人たちの口から、一言半句違わない台詞、よく似た対応が飛び出してきた事に、驚きを隠せませんでした。

 言ってみれば、和製研究ネカトとは、昭和の頃から引き継がれた日本の暗部だったらしいのです。


◇◇


 蛇足ですが…。


 世の中には、研究ネカトの形式をわざと取り入れてジョークとして本をまとめるという事をしている連中というか書物の分野があります。

 嘘みたいな話ですが、本来実用書であるはずのそれが全く機能しなくなるというオチが待っているという書籍群が存在するのです。


 読む価値もないのですが、捏造された情報に基づくページ、改ざんされた情報に基づくページ、盗用によって形成されているページが延々続くというスタイルの本です。

 それだけに留まらず、過去の作品に対するオマージュとしてほぼ同じ構成だけど内容が違うなど、いわゆる剽窃に当たる本なんてのもあります。

 とにかくそういう本の中では、色々な手法を駆使して、科学者達の不祥事を皮肉ったかのような内容が書かれている。


 幸いにして、日本語の本ではないので、目にする機会はないはずです。

 向こうの国にも、ひねくれた連中がいるのです。


 いえ、1995年頃から2022年にかけて出版された、ある分野の獣医学書、飼育書について、20冊くらいそういう本があるのを私は知っております。

 アマゾンなどで買えます。

 何の分野かまでは、書かない方がいいのかな?

 

 ルビとふりがなは、これで問題ない?

 なんか、オチがあるようで無い、面白くない話ですみません。

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