ダンジョン暮らし4
戦闘前に下調べを念入りに行う。
リトルデーモンは群れない、巣も作らず単独で行動し食事を取らない、目についた者を襲い狩りを楽しむ傾向にある、
人間の冒険者は角が欲しい、観察中も何組か挑戦していたがあっさりと撃退されていた、前衛が攻撃を受け止め様として失敗し急いで撤退が多い、やはり突撃は回避すべきだ。
部屋から出ると追い掛けて来ないので撤退も容易いのだろう、
但し怒るまでは、回避を中心とした立ち回りのパーティーがリトルデーモンと交戦し暫くしてリトルデーモンが赤く変化したと思えば突進が加速し急旋回し再び突進を繰り返す様になり、吹き飛ばされた仲間を引き摺り通路に撤退していったが、何時も引き返すリトルデーモンが追い掛け、危うくパーティーは全滅する寸前だったが、突進するリトルデーモンの脚を手斧で切り落としそのまま首を落とす、筋力が確かに上がっている、前なら力負けしていたが今なら拮抗出来る、不意打ちなら容易く対処可能だが。
「…ゴブリン!!」
「(毎回だなこれ、ゴブリン嫌われ過ぎではないか?)」
「あれ?あのゴブリンって噂のじゃない?」
「(噂のゴブリンって何だ?)」
警戒を解かない冒険者に赤い小瓶とリトルデーモンの首から上を投げ渡す、最近判明した事だが、多少細かくすれば死んだ者なら袋に入る、リトルデーモンを多少解体し袋に入れる、入れる時に血だらけの袋になったが、不思議と重さを感じず何時でも取り出せそうだ、冒険者達が回復して来たのでその場を駆け足で離れた、友好的では無い冒険者は…ほぼそうだな
錯乱して攻撃してくる者も居たが、蹴散らし階段付近に投げ捨てた。
噂のゴブリン、目撃情報で俺の事が多少知られてるのか、どう伝わってるか詳しく聞きたいが、言葉が通じないから無理だ、
こないだの襲ってきた奴と同類の者が俺を探しに来るかも、とか思うと気が滅入る、考えていたら部屋にリトルデーモンが現れた、これが理解不能だゴブリンは死んだら死ぬし勝手に増えないが、コイツは死んだら暫くしたら此処に現れる。
「(正面から倒せるか試させて貰う)」
「ブモォォ!!」
最初は一切曲がらない突進、半歩ずれた位置で振りかぶり突進に合わせて脚を一本貰う筈が前と後ろの二本切り落とした、リトルデーモンはもう立ち上がれそうに無く、多少暴れたが暫く観察し動きがおさまった所を首を切り落とす、体感とても弱いと感じた。
武器は変わってない、体型は一切変化が無いが俺自身の筋力が上がったのだろう、解体し血塗れの袋に入れる、袋に入れても重量が変わらず袋は軽い、原理が分からないが、体型や見掛けで侮ってはいけないと思える、五匹で袋がいっぱいとなり、六匹目はソリに乗せて帰路につく。
「りとる、ちがすごいぞ?」
「返り血だよ全部、肉とれるだけ取ってきた」
「すごくつよくなった、はこぶてつだいいらない?」
「あ~何処に運べば良い?」
「はこぶのおしえる、てつだう」
ガトに抱えられゴブリンの巣を進む、今日は上じゃなく少し下に進む、果物の山の部屋に、水の入った壺が並ぶ部屋、そしてがら空きの部屋。
「ここにくおきば、でもかれるおすすくない」
「そうなのか、肉多いと助かるか?」
「助かるわよ」
「あ、こっく」
「そっちの子は初ね」
「リトルだ」
「よろしくリトル」
ピッチリとした服を着た大人の人間の女、言葉が通じる事に驚いているとリトルデーモンの肉に触れて何かを確かめる。
「前の時は複数人の痕があったけど今回は一撃ね…君本当に強いのね」
「人間?」
「そう人間よ、此処に来てから何年かしらね、おばさんには皆飽きちゃったし気付いたら言葉も覚えてた、いつの間にか調理担当のコックって名前も貰った、料理は好きだし、あっちのコックも好きよ」
そう言って笑うコックに悲壮感や諦め等の感情は無く何処か嬉しそうに身の上を語る、ガトに降ろして貰い血だらけの袋から大量のリトルデーモンの肉を取り出す、最初は驚いたコックだが。
「袋に収納するには解体が必要なのね、解体した肉は足がはいのよ」
「しんでるのにあしがはやい?」
「腐って不味くなるのがはやいって意味よ、ガトこれ上に吊るして」
「わかった」
ガトが肉を吊り下げたり、俺は革を剥いだり、肉の仕分けを終えた後水で血を洗い流す、コックが調理を行うのを後ろで眺める。
「リトル君おばさんを見てて楽しい?」
「楽しいのか…不思議な気分だ」
「りとる、こっくがこのみ?」
「好み…」
「こんなおばさんが好みなら仕事終わりなら何時でも私は空いてるわよ?」
分からない…今まで見た女性の姿が浮かぶがそういう興奮はしてない、コックにもそういう興奮は感じないのだが、何処か惹かれる気がして止まない。
「真剣に悩まれると照れるわね、真剣と言えばお肉だけど本当にいっぱい欲しいのよ、リトル君お願いしても良いかしら、あの部屋が埋まるぐらいのお肉、選考会でも贔屓にするわよ?」
「肉が必要なのは分かった、取ってくる」
思考が纏まらない、とりあえず明日もリトルデーモン狩りをしよう、上の空で焼いた肉を食べる、美味しいな…。
食後にぐるぐるする思考のまま巣の中をうろうろする、俺が産まれた場所には複数の腹の膨らんだ女が布の上で転がり、丁度一匹が産まれると、小さなゴブリンは独りでにぺたぺたと歩き何処かに向かい、産んだ女は引き摺られるかと思ったら抱えられ巣の奥へと運ばれ、俺は興味でついていく。
大量の柱と鎖に繋がれた女が並ぶ中、ゴブリンは出産後の女を椅子に座ってた他の女達の前に置くとゴブリンはさっきの部屋に戻った。
「鑑定、精神が限界値、良かったわね、帰還よ」
倒れた女に何かして何かを見た女がそう言い、女の額に触れ暫くして女の姿は光に溶けて消えた、鑑定に帰還…この人は魔法使いかなのか。
「あら…何か御用」
「鑑定と帰還は俺も使えるか?」
「見てあげるわ、こっちにいらっしゃい」
コイツも言葉が通じるのか、敵意は感じないので触れられる程近くに行く、女が俺の目をじっと見る、背筋がぞくぞくした後、女が少しだらっとする。
「大丈夫か?」
「鑑定も帰還も魔力をかなり使うわ、残念ながら貴方の魔力容量は低い、無理ね」
「そうか」
「でも面白いものが見えたわ」
「面白いもの?」
「堕天の烙印」
「何だそれは?」
「詳しくは全く分からないわ、でも堕天の烙印を持つ者は皆特別なのよ、貴方が何を成すのか楽しみにしているわ、眠いから寝るわ、それじゃおやすみ」
「ああ、おやすみ」
速攻で寝る女、此処に居ても仕方がないので俺の部屋に帰る、しかし捕まってる人を見ても何の感情も抱かなかった、俺はゴブリンとして可笑しいのか?何も分からない、堕天の烙印…分からない事が増えた。
一睡した後再び狩りに出掛け、血だらけの袋が合計五つ、革が手に入ったので改良し長くしたソリにリトルデーモンを四匹乗せて引き摺る、流石に重く力を込めて運ぶ、幸い生きてる他の冒険者には出会わず、タグ回収と荷物漁りを行いまた進む、もっと筋力が欲しい、リトルデーモンを倒しても体に何か溶け込む感覚はもう無い、格上と戦わないとあれは起こらない気がしている。
ガトの視界に入るとガトは急いでこちらに駆け寄りソリを引いてくれた、俺が苦労したソリをすいすいと引き、肉の山を見たコックがかなり驚く、コックが呼ぶと二人の女が現れ一緒に肉の仕分けをする、目算半分もいかない量だ、本当に足りないのだな、ソリを畳み俺はその場を離れた。
「あら?リトル君は?」
「わからない、からだあらいにいった?」
「血だらけは確かに洗いたくなるわよね」
「コック、私も洗いたい」
「まだ汚れるから駄目、水も運ぶの大変なのよ」
「はーい我慢しますー」
血だらけの俺は何故かダンジョンを彷徨う、コックを見ると頭の奥がざわざわする、そんな行き場の無い衝動をリトルデーモンにぶつける、再び荷物がいっぱいになり四匹乗せてソリを引く、気持ちは晴れない中、注意力が落ちていた事に気付く。
「ゴブリンってリトルデーモンいっぱい持ってるぜコイツ!」
「ゴブリン一体倒せば大儲け?!」
「リトルデーモンを倒せるゴブリンならヤバくないか?」
「そんなゴブリン居ねぇって、死体だけ集めて巣に運んでんだろ」
三人の男、三人とも軽装備でこのフロアで見たどの冒険者より若い、武器を構えにじりよる冒険者達、ロングソード、ダガー、ロッド、ロッドの奴には警戒だ、ロングソードとダガーに脳内警報は鳴らない、ソリを離し多少警戒する。
「おりゃあ!!」
ロングソードを両手で握り大きく振り下ろそうとする冒険者、だがロングソードは天井に当たり衝撃が腕に伝わりロングソードを落とす。
「何やってんだよ」
「うるせえ!」
ダガーの奴が俺に駆けダガーで首を狙い突き刺すが遅い、避けた所ソリを引くための紐を踏み足が滑り、ソリのリトルデーモンにダガーが当たり折れた。
「はぁ…魔力が勿体無い、ファイヤーボール」
「(アクア)」
ロッドの先端に光が集まり火の玉を形成し俺に向けて放たれるが、アクアのスクロールにより空中に現れた水の玉に当たり
虚しく消え、俺は落としたロングソードを拾いロッドを狙い振るう、咄嗟にロッドでガードしロッドは真っ二つ。
「買ったばっかなのに!!」
「俺のロングソード!!」
「抜けねぇー!!」
若い、若すぎる危機感が無い、ロングソードを取り返そうとしてきたがロングソードを向けるとぴたりと足が止まる、別の武器は持って無いのか?ロッドの男を引っ張り地面に倒し背中に乗り目の前にロングソードを突き刺す。
「ひっ!」
「お!おいやめろ!」
「ん~抜けたぁ!!」
「(退いてくれると良いのだが)」
ロッドの男の尻を蹴りあげロングソードの男の方に行かせ、 ロングソードを抜き地面に転がし階段の方を指差し帰るように促してみるが。
「ロングソードさえあれば!!」
「尻が二つに割れた…」
「今度は外さない!」
「(阿保だコイツら)」
ロングソードは突きに切り替えたが、突きの動きに馴れが感じず剣先はぶれて遅い、回避し踏み込みカウンターに腹を殴り、替わりに飛び込んで来たダガーは首狙い、少し体を捻るだけで回避出来そのまま胴を蹴り飛ばす。
「二人ともここは退こう!」
「やられっぱなしで逃げれるかよ!」
「おえ…」
説得に応じないロングソードと腹へのダメージから嘔吐するダガー、ロングソードはロッドが差し伸べた手を振り払いロングソードを握ると駆ける。
「ここなら天井に当たらねえ!上段斬りぃ!!」
上段から振り下ろされたロングソードを半歩下がり避ける、地面に刺さるロングソードを鶴橋で横からぶん殴る、砕けるロングソード。
「(帰れ)」
「なあやっぱり階段の方を指差してるし、見逃してやるから帰れって言ってるって帰ろう!」
「ゴブリンに負けて武器を壊された何て言えるかよ!!」
「あ、俺のダガー!」
元ロングソードの男がダガーを拾い闇雲に振るい突撃してくる、これが一番危険だが真っ二つになったロッドを拾い、ぶん投げると顔に直撃し元ロングソードの男は鼻血を流し気絶した。
結局元ロングソードの男を引き摺り三人は帰って行った、あんな無鉄砲な冒険者は初めて見たがたまたまか?いや最初に芋虫を追い掛けてた奴もそんな感じだったか。
ガトはまだ門の所に居ない、俺は自力でソリをコックの所へ持っていく、汚れるのも気にせず疲れたと寝転がり休憩してる二人と肉から革を剥ぐガト。
「あ、りとるおかえり」
「ただいまガト」
「りとるなんかあったか?なやんでる?」
「少し考え事だ、追加持って来たが」
「嘘でしょ~もうくたくただよ~」
「お肉食べれるのは嬉しいけどキツイよ」
「嬉しい悲鳴ね、リトル君ありがとね、でも血は落とさないとね、こっちへいらっしゃい」
コックに誘われるまま着いていく、コックは沸騰した熱湯に水を注ぎ適温にしお湯に布を付け俺の顔を拭いていく、あれよあれよと装備も外され気が付けば全身の血は落ちたのだが、子供を世話する母親の様なコックの姿に恥ずかしさを覚える。
「少し乾かすからそこに座って待っててね、疲れてるなら寝ちゃっても良いからね」
「うん」
「素直でよろしい」
少しふかふか場所に座る、これはコックのベッドか、装備に染み込んだ血を抜き綺麗にしていくコックを眺め、リトルは気が付けば座ったまま眠り、それに気付いたコックがくすりと笑いながらベッドにリトルをちゃんと寝かせた。
「おやすみ、リトル君」