ダンジョン暮らし3
ダンジョンに時間の感覚はあまり無い、基本的に疲れたら寝て起きたら働くそんな生活だ、どれだけ寝たのかも曖昧だが、俺の巣穴が掘れた後は好きにして良いらしい。
入り口はガトが入れる位に大きく扉はまだ無く、少しの通路の後は大きく円形に広い部屋だ、そういえばダンジョンの水回りはどうなっているのか、トイレに行った事が無いが問題が無く、体の汚れは寝て起きたら綺麗になっている。
「寝てる間に何がある?」
答えは無いが床で寝ても気にしないゴブリンも多く通路で転がってるゴブリンも多い、知力が高い魔物程人間の真似をするとは聞いたが、人間の街に行った事が無いのに何故か暮らしが頭に入っているのが謎だ。
「まあ良いか、ベッドを作って後は作業台と小瓶の保存場所と物置が欲しいな」
今までのベッドは隠者にあげた、新しいベッドは大蜥蜴の骨をロープで縛り文字通り骨組みを作り、大蜘蛛の毛で作られたふかふかのベッドだ俺の体からしたら大きいが、ガトの様に成長する事もあるらしいので大きいに越したことはないだろう。
作業台は三種類作った、武器防具加工用の作業台、薬の小瓶は転がり易いので窪みや取っ手のある構造の作業台、そしてスクロールと呼ばれる書物の切れ端を一つにしたり、拾った本を置いてある作業台。
いつの間にか一部のスクロールが使える様になっていた、使い捨てだが使い道が多そうな同じ物がいくつかあった、ライトは暫く光の球が浮かび辺りを照らすスクロール、アクアはバケツ一杯の水を出せる、トーチは目の前に火を発生させる威力を上げれば一瞬、ゆっくり使おうと思えば結構長く燃える。
「冒険者が持ってた物だろうな」
そう俺が廃棄場で回収してる物は冒険者の遺品が多く、
見かけた人を何度も助けては居るが、新鮮な死体を見ることもある、その場合タグと手荷物を貰っている、全員を救えるとは思わないが、可能なら救いたい。
「と思うのは可笑しいか…」
ゴブリンの巣には少なくない数の人間が居るが全て女だ、人から産まれた俺だ、何が行われてるかは想像に容易いのだが、
言動から察するにデーモンと思われるオサが何がしたいのか未だに分からない、あのリーダーと呼ばれた冒険者にはまだ会えていない、考えながら身支度を整える、少し装備が変わった。
何時もの手斧と、大蜥蜴の骨と大蜘蛛の脚の鶴嘴、気に入ってる鉢金、首を守る短いマフラー、色んな革を編み込んだ革鎧とベルトに袋、足回りは布を巻き、革の編み込み靴、装備は少し前より重いが体は軽く前より速く動ける、日頃の成果か。
今日の目標は泥濘の調査だ、可能なら冒険者があの泥の中の生き物とどう戦うのかを見たい、ガトに挨拶し俺はダンジョン散策をスタートする。
泥濘エリアの近くの影で観察する、やはり小さい生き物が入ると泥の中から長い生き物が現れ噛み付き泥に引きずり込む、ぶよぶよした体は柔らかそうだが歯が鋭く長い。
「うげ、此処を進むんですか~」
「そうだ、足元は滑るが深い所で足首までしか沈まない、落ち着いて進めば案外行けるのだよ」
「何か居そうじゃないですか~」
「通称ワームが居るが小さい獲物しか狙わない、背筋を伸ばし体を大きく見せれば来ない」
「本当ですか~信じますけど~」
男女の冒険者二人、渋いおじさんと若い女、泥濘に足を踏み入れるがワームは現れない、二人はゆっくりと転けない様に泥濘を進んで行く、俺の場合襲って来るのだろうか、二人を見送った後にそっと足を踏み入れる、速攻で泥を泳ぎワームが俺に噛み付こうと飛び付くが来ると分かってれば容易いと思っていた。
「疲れた…」
泥濘から脱出するまでに何十体来たのか、斧で一撃なのだが次々来るせいで戻るに戻れず全部倒したのだが、泥の奥から響く地響き、多分大きいワームが居て小さいワームが大量に殺された事で怒ったのだろう、流石に逃げだ、死骸も泥に沈み成果は無いに等しい、スクロールアクアで泥を落とし今日はぶらぶらと散歩にする、この泥濘の奥は迂回すれば行けるのだろうか。
何度も泥濘のエリアを横目に大回りになったがかなり奥に来れた所で、俺は初めて人間と敵対していた。
「鉢金を巻いたホワイトゴブリン、短くされた斧、お前だろネームド」
「(何だこいつ?)」
「大人しく経験値になりやがれ!」
暗い通路なのに俺の姿をハッキリと捉えてる男、素早く距離を詰め短剣が振るわれ手斧で受け止めるが、回し蹴りが胴体に突き刺さり俺は通路をゴロゴロと転がる。
「生意気だよなぁ俺の攻撃を受け止めるなんてよ!!」
「(ライト!)」
距離を詰めて来る男の前に光の玉が現れ目眩ましとなり、リトルは逃げるがすぐに視力を取り戻した男は苛立ちながらも笑う。
「目眩ましに使った光で何処に行ったかバレバレだよ!!」
「(ライトの欠点だ、任意で消せない)」
ただ逃げるだけでは駄目だ、コイツは倒せたら誰でも良いタイプ、そして無駄に強い、俺は泥濘エリアに入る、ワームはライトの眩しさに襲ってこない、よしあっちだ。
「汚れるじゃん最悪…絶対殺す!」
泥濘を駆けて来る男、結構離れてるがライトの光で此方が何処に居るかわかるのだろう、一直線に駆ける、追い付かれるという所でライトが消え辺りが暗闇に包まれ大量の鳴き声。
「死なば諸ともって?事かなあ?!」
「(やはりこの程度では駄目か)」
大量のワームがリトルと男を襲う、あっさり短剣で切り落とし続ける男、リトルも難なく切り払い、すぐにワームの大群は居なくなり、男とリトルが向き合う、全く息を乱してない男は泥が跳ねるのも気にせず泥濘を走る、短剣を手斧で弾く、牽制に混ぜた本命の一撃を読み手斧と短剣が衝突し短剣が折れる。
「あ~糞生意気、お気に入りだったのによ」
すぐに代わりの短剣を出す男に、泥濘が揺れたタイミングでリトルが仕掛ける、直線的な一撃をあっさり短剣で受け止める男、体をひねり男を蹴り上げ飛ぶリトル、ダメージは無いが蹴られた怒りに染まる男、それが致命的だった、泥が舞い上がり男と同じかそれ以上のワームが口を開き襲い掛かり。
「狙いはこれか!!」
光を纏い突き出され短剣がワームの口に突き刺さりワームは真っ二つに裂け体液を撒き散らす、飛び上がったが自由に飛べる訳では無いリトルにそのまま短剣を突きだそうとするがリトルが開いたスクロールの炎が男を襲う、一瞬の豪火は短剣から放たれた光に散らされ泥に飛び散り男は無傷だが短剣から光が消えた、体重を乗せた全力の鶴嘴を見て男はニヤリと笑う。
「そんな見え見えの攻撃当たらないよ!!」
「(いや!当たるね!!)」
後ろに跳ねて避けようとした男、だが足が泥濘から抜けず尻餅をつき、視線が自然と足元に向く、焼けて乾いた泥が足を固めていた、次の瞬間脳天に鶴嘴が深く突き刺さり暫く痙攣した後男は動かなくなった。
「(死んだか)」
脈を確かめ武器や袋を剥ぎ取り、銀色のタグも回収する、何時ワームが現れるか分からない為足早にその場を離れ、その日は巣に帰った、巣に入る前に出した水で全身を洗うが、あの男から吹き出し血がずっと体に付着してるきがして、非常に気持ち悪い。
「リトルおかえり、きょうはからだはげんきなのにげんきないな」
「そうか、あ、お土産無いや」
「リトルきにしなくていい、いやなにんげんのにおいつよい、なにがあったかそこそこわかる、やすむべき」
「うん、そうするよガト、おやすみ」
「おやすみリトル」
ガトに言われたからでは無いが今日はもう休もう、部屋に帰り装備を外しベッドに転がる、今日は反省の日だ、何処か上手く行かなければ死んでいたのは俺だ、あのワームを倒した技を最初からされていたら間違いなく死んでいた、あれはなんだ?
疑問は浮かぶが、いつの間にかリトルは寝ていた。
あれから手札を増やそうと色々してみたが、手斧が手に馴染み過ぎて他の武器が使い難い、弓は練習した結果かなり当たる様にはなり、スクロールを増やそうと思ったが、ライト、アクア、トーチしかほぼ無く、破けた物を繋ぎ合わせるにしても、ほぼ読めない為、どれが繋がるか難しい物ばかりで進展は無い。
「ほほ、わかいのあせるでない」
「隠者か、経験と訓練の積み重ねだとは思うのだが、万が一を回避したくてな」
「わしからみたらわかいのはかなりつよくなってるがの…」
「そうなのか?」
「まえにくせんした、りとるでーもんもいまなら」
「…行くか」
「きをつけての」
確かに昔苦戦した相手と再戦すれば現状の強さが体感で理解出来そうだ、再戦に向けて準備をし今日はゆっくりと休む、明日はリトルデーモンと再戦だ。