ダンジョン探索編
産まれた俺を見る全てを諦めた瞳の女、女より小さく、腰ミノだけを着けた灰色の生き物が、女の髪を引っ張り引き摺り何処かへと連れていく、産まれたての俺は何をすべきか体が勝手に動く、何故か理解した現状。
灰色の生き物が無数に居る、薄暗い松明に照らされた洞窟を歩き、更に小さい灰色の生き物達が果物の山に集まり貪る空間で同様に俺は果実を貪り続け、周りの奴等は満腹になったのか地面にそのまま転がる、俺も満腹になると抗えない睡魔に襲われ地面に転がる。
目が覚めた時、周りに転がって居た小さい者は居なくなり代わりに最初に見たサイズの灰色の生き物が居た、部屋の隅に合った水瓶、水を飲もうと近付き水面に自身の姿が見える、
周りの生き物と同じ灰色の化物。
ダンジョン魔層域フォールダウン、地下三階の外れに巨大な巣を造り、そこから湧き出ては冒険者を迎え撃ち、戦利品を
集めるホワイトゴブリン、知識として何故か知っている。
「なあそこの」
「にく?」
「いや、違う」
「にく…」
目についた他のホワイトゴブリンに声をかけてみたが、大体にく、おんな、かり、しか言わない、俺はホワイトゴブリンの中では頭がいいかもしれない、その後巣の中を歩き回り、通路の隅で座り込む、動き回ったのに疲労感を全く感じない。
「にく!」
「にく!」
「ん?」
にく!にく!言いながら何かを運ぶホワイトゴブリン二体、気になって追いかけると、1つの部屋でぽいぽいと何かを捨てて去って行った、その部屋に足を踏み入れると、血塗れの革の切れ端や布切れ、折れた剣や曲がった棒、他には破けた巻物や割れた小瓶。
「…」
「そこのわかいの」
「?!」
見落として居たらしい、杖を支えに立ち上がった髭を生やしたホワイトゴブリンがゆっくりと近付き、値踏みするように此方を眺めふがふが笑う。
「どうぐにきょうみをもつものはちせいがたかい、すきにみてさわりまなびしんかせよ、わかいの」
「わかった」
ふがふが笑いながら部屋の隅に戻ると座り込み死んだように動かない、荒らしても問題無いらしいので俺は興味の赴くままに色々触る。
かなりの時間が経ったが、袋に入っていた乾燥肉を噛ったり小瓶の液体で喉を潤しながら次々調べては学ぶ、既にわかった事が複数あるが、一部は元から知ってたかの様に頭に浮かぶ謎の感覚がある、袋もその1つだ。
一見空の袋だが、小瓶を入れると消え袋を逆さにしても何も出てこないが、手を入れて袋の中身を考えると小瓶と乾燥肉と果実が思い浮かび、小瓶を思い浮かべると手に触れる感触、袋から手を抜くと握られた小瓶、初めて見る筈の物の使い方や効果が何故かわかる。
「ほう、わかいのくれるのか?」
「その棒はもう折れる」
「たしかにながくつかっておるな」
ふがふが笑い、手渡した棒を受け取り立ち上がると、俺が種類で並べた廃棄物を眺め歩き、再びふがふが笑う。
「わかいのおぬしは、そのうちおさになる、うつわかもしれぬな、かたづいたおかげでかえれる」
「帰れる?」
「わしのへやはこのおくなんじゃ、かたいじめんはからだがいたくてかなわん、かんしゃするわかいの」
廃棄物を退けた場所にあった横穴へふがふが笑いながら消え、俺はお節介かも知れないが、造る事にした、折れた剣を地面に突き刺し、布切れを繋ぎ合わせ柵を造り、横穴の上に破けた巻物を貼り付ける、この巻物は破けてるが隠者と読めた、他のホワイトゴブリンに読めると思えないが、誰かが居る事をアピール出来そうだ。
廃棄物を漁りながら種類分けして片付ける、様々なサイズの剣、殆どは小さいが俺より大きい剣も中にはある、振って見ると意外に力があるのかバランスを崩す事なく使えたが、狭い通路では使い難い、一応袋に仕舞っておく、たまに掘り出し物があり少し楽しくなり心が踊る。
鉢金を巻き、小さい体に革のベルトを巻き付け袋を引っ掛け、編み込まれた靴を編み直し自分のサイズに合わせ装備を整える、冒険者っぽいな…冒険者?その単語は頭が痛くなり考えるのを止めた、元々は持ち手の長い斧の持ち手を短い棒と入れ替え手斧に改造した物だ、短剣で落ちてる鎧を突いてみたが容易く弾かれ、鎧の隙間を刺す使い方しか出来ず、短いと致命傷になり辛いが、この斧は非常に良く兜を叩き割ったが刃が痛まず継続的に戦闘可能だろう。
「後必要なのは…布?」
自分に問い掛けると答えが帰ってくる気がする、汚れた服から使えそうな部分を切り取り袋に仕舞っておく、布は使い道が多く、武器の血を拭う、止血、結ぶ事でロープ替わりに、松明やたき火…様々な知識が雪崩れ込み頭痛が酷い。
「くらくらする…」
青い小瓶を飲むと頭が冴え渡る様にすっきりし、眩暈と頭痛が治まる、無事だった小瓶達、割れて半分だけだった物を空の小瓶に注いだりしていくつかストックを作った、赤が怪我の治療、青が精神?魔力は記憶にほぼ無いが頭痛二日酔いに効く、後は黄色と緑色の小瓶この二つは飲んではいけない、油と毒だ。
「よっと、行くか」
荷物の確認を済ませ巣の出口へと向かう、道中他のホワイトゴブリンに見られ少し驚かれるが、すぐに興味を失い去っていく
隠者以外に唯一会話が成立したのは出口の槍と盾を構えた大きいゴブリン。
「がきがそうびをととのえたか、おまえはむれないほうがつよい、よわいえものをねらえ、まんしんはするな、ほかのまものはすべててきだ、にんげんにはとくにきをつけろ」
「わかった」
「…」
とてとてと小さい一歩を重ね狭い横穴を抜けると拾い通路へと辿り着く、灯りが無いが、目が切り替わったかの様に暗闇の筈がハッキリと見える、灯りが頼りの生き物には優位にたてそうだ、聞き耳を立てながらゆっくりと進む、初めての場所、道端に広がる血痕や骨、命のやり取りがあったのだろう。
「ピィ~」
音のした方を見ると自分と同じ位の芋虫がどすどすと走って来ていた狩るか?いや、コイツは逃げている、咄嗟に瓦礫の隙間に入り込み息を殺す、眩しい光と共に追いかける男女が来た。
「深追いすると危険ですよ」
「俺からしたらこの階層には雑魚しか居ねぇよ!」
男が投げたロングソードが芋虫に突き刺さり鳴き声を響かせ息絶えた、芋虫に足をかけロングソードを引っこ抜くと剣にまとわりつく粘液。
「きったねぇな」
「今の鳴き声で何か来るかも知れません、離れましょう」
「あん?!俺に命令するな!何が来たって全部倒して経験値にしてやるよ!」
女に怒鳴り下品な笑いかたをする男に喉に暗闇から放たれた大きな針が刺さる、確認する様に男は針に触れる、声を出そうにも口からは血が溢れ、息を飲む女、暗闇から羽音が響き先程の芋虫サイズの蜂が現れ、瞬きの間に尻尾の針で男の額を貫き男が倒れると飛行し逃げようとした女に針を飛ばし、針が女の太股に突き刺さり女は転倒した。
「に、逃げなきゃ…痛いよ…」
這いずりながら逃げる女をゆっくり追いかける蜂、這いずる女に追い付き針を頭部に突き刺す瞬間、蜂は斧による一撃で両断され体液が女にかかる。
「え、助かった?ありが…」
地面に転がる松明に照らされたシルエットは人に見えたが、人の子供位小さく、女はその名を呼ぶ。
「ゴブ…リン…!」
安堵の表情から一転パニックに陥る、ダンジョンで女性が気を付けるべき事、上位に入るのはゴブリンに捕まる事、捕まる位ならとナイフで自殺を試みるが握った筈のナイフが手から零れ落ちる、痙攣し勝手に動く体、蜂の体液には麻痺毒が含まれていたのだ。
「やだ…よ」
這いずった時に針は抜けたが出血している、血の匂いで他の魔物が来る可能性は高い、袋から赤い小瓶を取り出し女の太股を抑え傷口にかける、傷口が急速に塞がる痛みはあるが傷口を放置するよりは全然良い、何を言ってるかわかるのだが、俺の声は耳障りな鳴き声にしか聞こえないらしい。
「(出口まで行け)」
「…何で治し…巣に生かして連れてくため?」
「(通じないか)」
即死した男の体を漁る、首にかかったアクセサリーは銅だが、袋が無く、この男は何も持たずに来たのか?剣は体液で腐食している為要らない、女の方を見るが麻痺が広がったのか体を動かす事はキツイか…女の胸元に袋がありそこから巻物が見えた。
「(これは地図か、ほぼ埋まってない)」
「…」
「(階段が近いな、運ぶか)」
どう運ぶか、引き摺って喚かれても面倒だが持ち上げるか?持ち上げても体格差で引き摺ってしまうが、引き摺るならこっちの方が楽だな。袋から革を取り出し、布を束ねた紐を通し即席のソリを造り女を乗せソリを引く。羽音が小さく聞こえてきたので、足早にソリを引く。男が走ってきた道を戻るのだ、道中に罠は無いだろう。とにかく急いで運ぶ。
通路を抜け、階段と横に羽の生えた彫像が見える。頭が少し痛む……魔物避けの像だ。アレの見える場所は何故か魔物が近付かない…体に覚える違和感、魔物が近付かない理由を体で理解した。一歩毎に嫌悪感が増していく。振り返り女を見るがまだ駄目そうだ。ぐっと堪えて通路から階段のある部屋に入り女を降ろす。何か言いたげな目をしているが俺はもう限界だ。男から取った銅のアクセサリーを置いて俺は足早にその場を去った。
通路を暫く歩き、物陰で俺は崩れ膝をつく。嫌悪感による吐き気と頭痛のため、壁を背に座り込み青い小瓶を飲み、暫くすると落ち着きを取り戻した。意識せずにやっていた行動だが、銅のアクセサリー、あれは冒険者のランク証明タグだ。死んだ仲間の冒険者の死体を持ち帰るのが困難な時は、最低限あれを持って帰るのがルールだ…何故俺はそんなルールを知っている?それに何故人間の女を助けた?俺は魔物ホワイトゴブリンだろ。
考える余裕が無くなった。響く鳴き声と羽音、芋虫と蜂が仲間の死で怒っている。巣から距離が離れてしまうが今は逃げよう。結構歩いた気がするが一歩が小さいためどれだけ移動したのか。ふとベルトに差したままの地図に気が付く。返し忘れてしまった。地図を開くと最初に見た時より地図が描かれており通ってきた道がわかる。
「返しに行くには遠いか」
かなりの距離があるのと、あの辺りは怒っている芋虫と蜂と遭遇する可能性が高い。それに他の冒険者に出会う可能性がある以上あの像に近付くリスクは高いので、有り難く貰っておく事にした。
「チュー」
転がる死体に群がる小さな魔物が此方に気付き、獲物は渡さないと威嚇し戦闘態勢を取る。三匹のネズミの魔物で、奴等は足が速いが弱い。斧を構えた所に噛み付こうと飛び掛かるネズミをカウンターで振り下ろした斧で両断し、地を駆ける二匹のネズミを薙ぎ払い、転倒した一匹を踏み潰し最後の一匹を斧で叩き潰す。
「ん?」
最初に蜂を倒した時にも感じた何かが流れ込む感覚。それが何かわからないが、食事をしていた魔物を見たからだろうか腹が鳴る。ネズミは食べる気が起きないが、転がる死体を調べると袋持ちであり中を確かめると、乾燥肉と赤い小瓶が1つ。乾燥肉を食べ、赤い小瓶も貰っておく。
「ついでに回収するか」
誰に言う訳でもないが呟き、死体のタグと袋を回収しタグ入れにする事にした。これから先も死体と遭遇するだろうしな。
しかし食糧を考えてみると、巣に大量の果実があったって事は何処かに植物の生えているエリアがある。そこを探そう。
探索を続けていると近付いてはいけない場所が分かってきた。先ずは巨大蜘蛛の巣で、天井が見えない広い縦穴の部屋にあり、地面に広がる血の跡を見落としていたら危なかった。天井を目を凝らして見ると巨大な蜘蛛がじっとその瞬間を待っていた。
そして足元が泥濘のエリア。此方を見て逃げたネズミが泥濘エリアに飛び込み、泥の中から現れた長い生き物に食い付かれ泥濘に消えた。近付いたらただではすまないだろう。
羽音が響く蜂の巣はそもそも近付かない方が良い。危ないと思われる所を避けて進んでいると、何も無い部屋の中央にポツンと大きな箱が置いてある部屋へと辿り着いた。普通に考えると罠だが凄く開けてみたい。何なら空の可能性の方が高い。石を拾い箱に投げてぶつけてみるが変化はなく、そっと近付き斧でつつくも反応は無い。
「鍵はかかってない…そいっ!」
蓋を勢い良く開けて距離を取るが、何も起こらない。再度ゆっくり近付き中を拝見する。一見空の箱の隅に、箱のサイズに見合わない指輪が1つだけ。誰かが取り残したのか?せっかくなので貰っておくが、鑑定もせずに装備するのは危険…と感じる。
「鑑定…?また知らない筈の単語が浮かび理解出来たな」
ホワイトゴブリンの巣の構造が産まれながらに理解出来たのと同じ理由なのだろうか?魔物は産まれながらに必要な知識が備え付けられているのではと思えた。
ダンジョンを進むと、奥から金属の擦れる音と複数人の足音。これは人間!小さな横穴に潜み通り過ぎるのを待つと横穴の近くで止まり相談している。息を殺し聞き耳を立てる。
「追っては来てないな。俺が警戒に当たるから、皆回復してくれ」
「これで残りポーションは赤が二つです。帰りを考慮すると撤退すべきかと」
「でもあれの牙が無いと昇格出来ないよ?」
「向こうも追ってこないということは深傷を負っていると思いますが」
「ダンジョンで悩んだ時は休憩だ、結界石を置く、休憩しながら皆装備の確認だ」
「了解リーダー」
「そうですね、焦りは禁物ですね」
リーダーと呼ばれた者が地面に何かを設置すると光の壁が広がり、俺は壁にぶつかり押され横穴の奥へと転げ落ちていった。
「今の音は…魔物が潜んでいたらしい」
「挟み撃ちを避けられましたね」
「注意を怠ったつもりは無かったのですが」
「結果良しだ、休憩しよう!」
横穴の奧は急な坂でかなり転げ落ちてしまった。手荷物は全部あるが横穴を登って帰れそうに無い。引き返せない状態で聞こえる唸り声と強い血の臭いに、暗闇の奧に目を凝らす。大きな角を持つ血だらけの牛が、鳴き声を上げると突撃してきた。咄嗟に飛び退き躱せたが、地面をガリガリと削り反転し再びの突撃。角が脇腹を掠め天井まで跳ね上げられ天井と床に叩き付けられた衝撃でくらくらと眩暈が襲い、裂けた腹部から溢れる血。
「待て!敵じゃないって通じないよな!!」
黄色と緑色の小瓶を投げつけ余裕を持って回避する。突撃は速いが直線的だ。小瓶を粉砕しながら突撃し反転。突撃に合わせて斧でカウンターなんて無理だ。引っ掻けただけで吹っ飛ばされるだろう。出血で時間が無いが逆に冷静だ。何度も回避していると麻痺が効いたのか足を挫き転倒し暴れだす。焦らず赤い小瓶を傷口にかけると、一気に痛みが襲うが血が止まる。
「時間はある、焦るな…」
起き上がった牛が再び突撃の体勢を取るが脚を引き摺りぷるぷるしている。突進に最初の勢いは無い。地面をガリガリと削り反転した所に脳天から斧を振り下ろす。硬い事は予想していたので、斧から手を離し一目散に距離を取り突撃を回避した後落ちた斧を回収し牛と向き合う。痙攣が激しくなる牛だが、此方も膝が笑い正直立ってるのがもうキツイ。
此方が息を整える前に牛の痙攣が収まる。不味い、もう麻痺が解けたのか勢いを取り戻した突進を避けようとした足がもつれ転ける。目の前に迫る牛に、苦し紛れに斧を振りながら転がるが、蹴飛ばされ壁に叩き付けられ視界が滲み血を吐き出す。
「…」
再び突進の体勢を取り突撃する牛。やけにゆっくりに感じる突進だが、それは感覚ではなく本当にゆっくりと牛はよたよたと歩み目の前で崩れ落ちた。首に突き刺さった斧でもう限界だったのだろう。たまたま止めとなったが此方も限界だ。震える手で赤い小瓶を取り出し飲み干し一息吐く。何処か安全な所で休みたい。巣に戻らないと…こいつを持って帰れば他のホワイトゴブリンも文句は言わないだろう、立派な肉だ。
「血痕はここか…油断するな、松明を前に!」
「はい」
リーダーの指示で部屋に松明を投げる、二つの松明が部屋を照らす、倒れた牛とホワイトゴブリンが視界に入り驚くリーダー達。
「ゴブリン?!」
「ゴブリンがリトルデーモンを倒したの?!」
「…満身創痍みたいだな」
「この場合あの角持って帰っても倒したのはアイツだし…」
「深傷は与えたから良いのでは?」
「漁夫の利です」
「ん~、なあゴブリン、両角だけくれないか?片角でも良い」
「リーダー?!魔物ですよ!?それに片角じゃ二人しか昇格出来ないです」
「リーダーと俺が決めてた事だ、片角のリトルデーモンは結構な確率でいる。その場合俺とリーダーが辞退するってな」
「あのゴブリン倒したら両角手に入るし、その方が」
「それは駄目だ、盗賊のような真似はしたくない!」
「…リーダー俺元盗賊よ?」
「…すまん!」
ガヤガヤと騒ぐリーダー達を見て何処か懐かしく思えた、
斧を引き抜き牛の首を落とす。一応警戒して此方を見るリーダー達。牛の頭部を抱えて近くに置き此方も警戒しながら、運ぶためのソリを用意する。
「あれ?もしかしてリーダーの言葉通じてる?」
「よく見たら防具も着けてるし道具袋も使ってる!」
「賢いゴブリンは危険だよリーダー」
「名前がわからぬ故に種族名で失礼する!!ゴブリン、恩に着る!!」
「ギッ(気にするな)」
俺の声は鳴き声にしか聞こえないだろうに、リーダーは一礼し頭部を拾い、仲間と共に通路を戻っていく。正直助かった。戦ってたら死んでいる。一本道なのでリーダー達の少し後ろをソリを引き歩く。仲間がチラチラ此方を警戒しているがリーダーは全く気にせず洞窟を進む。地図を見ると巣に向かって延びてそうな道を発見したので俺はそちらへ進む。
「ゴブリン!またなあ~」
「リーダー!またって次遭ったら敵かもしれないですよ!」
「そん時はそん時!!」
巣に辿り着き大きいゴブリンが此方に気付くと盾と槍を置き近付いてくる。
「おまえ、やはりつよい、オサのところいっしょいく、それにこれすごくかしこい」
大きいゴブリンが俺を持ち上げ肩に乗せ、あっさりソリを引く、少しだけ小さい代わりの門番が入り口に立ち、大きいゴブリンと共に巣の中を進む、オサ、ゴブリンの長か、悪い事にはならないと思いたい。
「オサいるか?」
「オサ!」
「いる!」
「はいる」
ゴブリンが大きな扉を開き、大きいゴブリンが余裕で通れる程の扉を抜けると中は様々な物が飾られ、奥の椅子には角と羽の生えた魔物が敷物の上で寛いでいた、俺を下ろす大きいゴブリン。
「見込みある子が産まれたのね」
「おさ、コイツこれもってきた」
「リトルデーモン、まあデーモンと名乗るには力不足な魔物だけど…」
立ち上がり、リトルデーモンに触れるオサ、しばらくして凄く嬉しそうな顔で此方を見るがその瞳は何か別の者を見ている。
「やっと見つけたわ、う~ん何が良いかしら、リトル、あなたは今からリトルよ」
「リトル」
オサがそう言い俺の額に触れると光が溢れ、光は文字を描き
リトルと刻み俺の中に吸い込まれた、オサは嬉しそうに敷物に戻った。
「リトル、貴方は今日した事を続けなさい、くれぐれも死なない様にね、後リーダーに会ったらこれを鳴らしなさい」
オサが投げた物を受け止める。振ると音が鳴るベルを袋に仕舞っておく。部屋に入った時のようにゴロゴロするオサ。大きいゴブリンに担がれ部屋を出る。オサはリトルデーモンから何かを見た、多分リトルデーモンの周りで起きた出来事、そしてリーダーを探していた?分からない。
「リトル、きょうはしゅやく」
「?」
「これからうたげする」
大きなゴブリンはリトルデーモンを他のゴブリン達に引き渡し、俺は広場のそこそこ高い台座に降ろされ、横に大きなゴブリンが座るが大きなゴブリンの顔が真横にある、暫くして下準備されたリトルデーモンが広場の中央で焼かれ、俺は脚をまるまる一本差し出され、広場の皆に行き渡り一斉にかぶり付く。
「リトル、なまえつきのなかま、ほかのやつよりえらい」
「そうなのか」
「おでのなまえはガト、いまひろばにいるのはすこしえらい、でもなまえない、なまえあるのはあとさんにん」
着飾ったゴブリン達は羨ましそうに此方を見上げ目が合うと頭を下げながら肉を食べる、落ち着かない中脚を食べきる、暫くして広場の火が消えゴブリン達が去るとガトが再び俺を抱え運ぶ。
「リトル、どこにすみたい?」
「廃棄場の近くが良い」
「リトルかしこい、でもごみのちかくはかしこい?」
「俺ならゴミを使える道具に出来る」
「…リトルすごい」
ガトは廃棄場の近くの壁に指でガリガリと線を引く、これから此処を他のゴブリン達が掘り巣穴を作るらしい、ガトにお礼を言い別れ、俺は廃棄場に入る、増えた廃棄物だが隠者の部屋の近くには置かれず、種類で分別され廃棄されている。
「わかいの、これでよいか?」
「あんたが別けてくれたのか、助かる」
「ふが、わしはすてにきたものにいっただけじゃ、せっかくのいえのいりぐちを、ふさがれたらかなしいからの」
「俺も近くに住むことになった、よろしくな」
「ふがふが、なまえつき、わかいのはえらいの~」
「じいさんは名前無いのか?」
「わしはないのう。だが“いんじゃ”、あのもじはよめる。そうなのだろう」
隠者のじいさんはふがふが笑い、それだけ言うと部屋に帰った。それから俺は廃棄物を漁り続けた。床で寝るのは体が痛いので、簡易でもベッドが欲しい。そう思い棒と布を組み合わせベッドを作り寝心地を確かめるために寝転がると、達成感と疲労感で御試しの筈がそのまま眠りに落ちた。