人追い
期待はしないようにお願いします
部屋の隅、膝を抱えて小さくなっていた。
今はもう昼の1時を回ったころだろうか。
そろそろ来るころだ。
いつものあいつが、友人に誘われて行った合コンで知り合った女だ。
女とは飲んでいる最中から気が合いアドレスを交換した。
女性との付き合いの浅かった俺はその後とにかく喜んでいた。
初めて行った合コンでアドレスの交換ができたのだ。上出来だろう。
それ以上は俺には荷が重すぎた。
その女とはそうして出会い、メールをしながら休日を使い何度かデートもした。
周りからは色々詮索されたりもしたが、今ではいい思い出だ。
俺は浮かれていた。
顔は相当美人の部類に入るだろう。
そこらの女優と張り合えるレベルだった。
そんなこともあり浮かれていたのだ。
何も知らずに・・・。
俺はあの時の俺を思い切りぶん殴ってやりたい。
そいつには手を出すなと・・・。
今すぐに手を引けと・・・。
後で後悔することになるのだからと・・・。
その時、ドアノブが回される音がした。
ガチャ
最早条件反射で体が反応した。
恐怖で体が震え出した。
自分の物のはずなのに体が言うこと聞かない。
ただただ震え続ける。
呼び鈴を押す音がする。
とうに鳴らないようにしてあるのでカチャカチャと鳴り響くだけだ。
その内に呼び鈴は諦めたようだ。
「ねぇ〜?どうしたの?なんであたしのこと避けるの?」
俺がそこにいないとはまるで思っていないようだ。
「部屋の隅にいるの、わかってるんだからね?」
ビクン!
体が痙攣したかのように跳ねた。
適当に言っただけだ。
大丈夫だ。
感で言い当てただけだろう。
最近はどうせ毎日ここにいる。
窓の隙間からでも覗いたんだろう。
「青い新調したばっかりの毛布を被ってるよね?」
何で?
何でだ?
この毛布はつい数時間前に郵便で運ばれてきた物だぞ?
お前には教えてもいないのにっ・・・!
「うふふ。私は昌さんのことならなんでも知ってるんだよ♪」
体の震えが止まらない。
今は真夏で寝苦しいくらいに暑いのにだ。
そこに毛布まで被っているのにっ・・・!
寒い。寒い寒い。寒い寒い寒い寒い寒い。寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い。
「くすくす。寒そうだね。私がすぐに行って温めてあげるね♪」
部屋の鍵はかけてある。
扉には内側から更に4つの鍵をかけてある。
チェーンロックもかけた。
扉から入ってこられることはないはずだ。
この間は天井裏を伝って来た。
だからセメントを使って入れないようにした。
窓も全面をセメントで固めた。
あいつが入ってこれる入口はないはずだ。
「こんなにしちゃって、アパートの大家さんに怒られるよ?でも大丈夫。私も一緒に誤ってあげるからね。」
これだけやらないとお前が入ってくるからだろ!
そう怒鳴ってやりたいが、恐怖で声が出せない。
「待っててね。すぐに傍に行ってあげるからさ♪」
来るな!
俺は嫌いだからここまでしているんじゃないか!
なんでこっちに来ようとするんだ!
お前ほどの美人ならいくらでも男を捕まえられるだろ!
頼むからもう・・・もう・・・やめてくれよ・・・・。
「もう・・・本当にしょうがないんだから・・・。」
そう思うならやめてくれ・・・。
俺のことは放っておいてくれ・・・・。
ガチャガチャガチャ
「あれ?開かないや。さてはまた鍵を増やしたな〜!」
そうだよ!
お前に来てほしくないからそこまでしてるんだよ!
「もう!う〜ん・・・。よし!」
何にも良くない!
お前はどうしてそこまでするんだ!
俺にそこまでする必要はないだろ!
「どうせ天井も窓も塞がれてるだろうから・・・。」
その通りだよ!
だからさっさと諦めろ!
「でもまだまだ甘いね!この程度じゃ私を出し抜くなんてできないんだから!」
なんだと・・・?
これでもどこからか入ってこようと言うのか?
この完全な密室に?
無理だ。
排水管からは物理的に不可能だし、通気口には人が通れないように細工してある。
この状態でまだどこからか入って来れるというのか!?
「全く!最後の手段まで使わせるなんて・・・。」
いや、頼むから使わないでくれ!
俺のことはそっとしておいてくれ!
いいじゃないか!
他の男を探せばいいじゃないか!
「今行くよ〜。せーの!」
来るな!
そしてなんなんだその掛け声は!
壁でも壊すつもりか?
いや、いくらなんでもそこまで常識はずれなことはしないだろう。
「そーれ!」
ガン!
大きな音がすると同時にそれは起こった。
俺の目の前の壁の一部が回転したのだ。
俺は唖然とするしかない。
「全く!世話焼かせるんだから!」
驚きの余り言葉を発せない俺を尻目に、女は一瞬で見事に俺を縛り上げた。
「うわー!放せ!やめてくれ!」
「なんでそこまで拒否するかな〜。」
呆れています言わんばかりの表情だ。
そんな物は決まっている。
「嫌いなものは嫌いなんだよ!」
俺、絶叫。
「ふぅ・・・。顔よし。性格よし。実家は大富豪、勉強も運動も完璧なのに・・・。どうしてそんなに怖がるの?」
女は俺を引き摺りながらも言葉を発する。
俺はしばられていてもなお暴れて逃れようとする。
「くそ!解けろ!嫌だ!絶対に嫌だ!」
縛られた状態ではどうすることもできす車に放り込まれる。
「助けて!助けてくれええ!また俺をあそこに連れて行くのか!?」
「大袈裟だな〜。」
「大袈裟?またあんな恐怖を味わうことになるんだぞ!」
「いや、マジ泣きしたところで逃がしてあげないからね?」
駄目だ・・・。
終わった・・・。
目的地が見えてきた・・・。
あそこに入ったら俺は・・・。
「諦めた?随分おとなしくなったけど・・・。」
チャンスは一瞬だ。
女が油断した時に振りほどいて逃げるしかない・・・。
「あ、無駄な期待はしなほうがいいよ?」
女はそういうと足首におもちゃの手錠をかける。
「どうせ隙が出来たら逃げようとか考えてたんでしょ?そんなことはさせないからね?」
駄目だ・・・。
これで完全に詰んだ・・・。
俺はもうお終いだ・・・。
「なんでそんな絶望的な顔するかな〜・・・?」
そうだな、お前にはわからんだろう・・・。
あの恐怖に曝されるのは俺なんだからな・・・。
「本当に昌さんは・・・。」
女は心底呆れたと言わんばかりの表情だ。
「たかだか注射で大騒ぎしすぎだよ・・・。」
「たかだかだとおおおーーー!!」
男が絶叫した。
「うわっ!びっくりした!」
「あのなんとも言えない痛み!そして徐々に入ってくる異物!あんな恐怖は他にない!」
「はいはい。」
「適当な返事をするんじゃない!お前に罪の意識はないのか!?」
「合コンで知り合ったからって毎回連れに行かされる私の身にもなって欲しいな〜。」
「そんなこと知るか!」
「おとなしく注射されてくれれば楽なのに・・・。」
「無茶を言うな!」
「無茶ではないと思うけど・・・。はーい。それではそろそろお医者さんに到着ですよ〜♪」
「あ・・・あ・・・やめて・・・い、嫌だあああああーーーー!!!」
そして数分後、病院内で男の絶叫が木霊した。
待合室の椅子に気絶した男がいたとかいないとか・・・・。
この作品は寝落ちする直前に何かが舞い降りてきたために書き出した作品なので、本人にも何を思って書いたのかわからない素敵な作品になっております。