彼女は聖龍様の愛し子らしい
聖龍様、悪気はなくぶっちゃける
「そなた、名はなんと申す」
「て、テレーズ・バスチアンです」
「テレーズか!良い名だのぅ!そこの男はそなたの旦那かぇ?」
「テレーズの夫のボーモン・バスチアンと申します」
「良い良い。愛し子の旦那なら妾の愛し子も同然。必要以上にかしこまってくれるな」
聖龍様は優雅にぷかぷか浮きながらそう言うが、ボーモンとテレーズからしてみれば緊張しないはずがない。
「妾は今代の聖龍、ユゲットである。先代の聖龍がまだまだ現役なので、今はモラトリアム期間を楽しんでおる。が、将来はこの国を担う立派な聖龍を目指しておるぞ!よろしくのぅ」
「よろしくお願い致します、聖龍様」
「すごくかっこいいです、聖龍様!」
テレーズの言葉に、ユゲットは気を良くする。
「そうであろう。やはり愛し子は良いのぅ」
テレーズの頭を優しく撫でる聖龍様。
「ふーむ。しかし、テレーズにボーモン。やはり妾に遠慮があるのぅ?」
「はい。本来なら出会うことも叶わない程に尊い方ですので」
「ならば、親しみやすい姿に変化してやろう。ほれ」
そう言うと、聖龍様は幼い少女の姿になる。
「これならば、そなた達もそうかしこまることもあるまい?」
たしかに見た目は親しみやすいが、中身を知っていれば無駄である。……はずであるが、テレーズには効いたようだ。
「わあ!ユゲット様可愛い!」
名前呼びになった上可愛いとか言う始末。ボーモンは頭を抱えた。しかしユゲットは満足そうに頷く。
「そうであろう。ボーモンや、そなたもユゲットと呼ぶが良い」
「……ユゲット様、ありがとうございます」
「うむうむ、やはり愛し子達は特別に可愛らしいのぅ。まあ、人間は全員可愛いがの、やっぱり愛し子は特別なのじゃ」
「でも、伝説とかで耳にする〝聖龍様の愛し子〟って本当にいるんですね」
テレーズが他人事のようにのほほんと宣う。
「そなたのことじゃよ、テレーズ。まあ自覚がないのも無理はないがの」
ユゲットは言う。
「愛し子はのー、何故かは知らんがみーんな前世の記憶を思い出すんじゃ。前世の記憶とやらでは、みーんなどこぞの違う世界にいたらしくての。だからみーんな愛し子である自覚がないのじゃ。みーんな〝なにそれファンタジー?〟とか言うての。そもそも前世の記憶がある時点でふぁんたじーじゃろうに」
「前世?」
ボーモンは知識こそあれあまり馴染みがない言葉にテレーズを見る。テレーズは困ったように笑って白状する。
「異世界で生きていた記憶があるんです、私」
前世の記憶をついに話すテレーズ