彼女は抱きしめられる
テレーズ、安心する
「ボーモン様!?どうして……」
「珍しくおやつの時間になっても君の姿が見えず、使用人達も黙秘権を行使していたから探し回った。まさか中庭でかくれんぼしているとは思っていなかったが」
ボーモンは少しだけほっとした様子だった。
「もしかして、私のことが嫌になって屋敷から逃げ出したのかと思ってちょっと焦った」
「そんな!ボーモン様が嫌になるなんて、そんなわけありません!」
「そうか、それは良かった。だが、それならば私も君を嫌になることはないぞ。わかるか?」
「……むー」
「なにがそんなに不安なんだ」
テレーズは悩んだが、一生懸命に言葉にする。
「だって……ボーモン様に嫁いでから幸せなことばっかりです」
「うん?」
「職員の皆さんも優しくて、ボーモン様は温かくて、しかも領民さん達は私のことを好きになってくれてるって聞きました」
「うん」
「私なんかがこんなに大切にしてもらっていいのかなって……ふぎゅ」
ボーモンはテレーズの鼻をつまんだ。
「君はそんなことを気にせずともよろしい。愛されるなら愛されるだけの理由があるということだ。君はそれだけ魅力的なんだよ」
「……むー」
テレーズはボーモンの言葉に納得していない。テレーズは前世では愛に飢えていたし、今世では家族以外からは蛇蝎の如く嫌われていた。魅力的と言われてもよく分からない。けれど。
「じゃあ……じゃあ、ボーモン様とまだ一緒に居ていいんですか?」
「もちろんだとも。私達は夫婦だろう?」
当たり前のように言われたその言葉に、テレーズはにんまりと笑った。
「えへへ。じゃあ、出来る限りずっと一緒に居たいです」
「死ぬまで一緒だ。君は私の家族なのだから」
ボーモンの表情は優しい。テレーズはなんだか安心して、ボーモンに後ろから抱きしめられたまま眠ってしまった。
「……テレーズ?眠っているのか……本当に自由だな、君は」
ボーモンはテレーズをお姫様抱っこで寝室に連れて行く。使用人達はそんな二人の様子を見てほっと胸を撫で下ろした。どうやら変にこじれてはいないようだ、と。
「それで、マルカ。原因は?」
「テレーズ様から口止めされていまして…」
「ふむ。……それなら無理には聞けないな」
さてどうしたものかとボーモンは考えて…考えなくても思いつくことじゃないかと自分を恥じた。
「たしかテレーズは後継とか子供とか言ってたな。どうせ欲深い親戚連中の誰かに何かを言われたのか。……まったく、私に告げ口してしまえばいいのに口止めしてまで庇うなんて」
そんなテレーズに、優し過ぎるのも良くないなと思うボーモン。その後親戚のうち誰が屋敷に来たのか調べて、もう二度とテレーズに牙を剥かないように徹底的に躾けたのだった。
ボーモン、躾を徹底する