彼女は実家に顔を出す
アルビオン公爵邸は無駄に広い
「ボーモン様、ボーモン様」
「どうした、テレーズ」
「実家に帰ってもいいですか?」
ボーモンがフォークを落とした。使用人たちも困惑した表情を浮かべる。テレーズはその反応に言葉選びを間違えたと気付き慌てて訂正する。
「あ、あの、違うんです!ボーモン様と一緒に実家に顔を出したいなって!母から今年も飛び切り美味しいチーズが出来たって手紙が来てて!」
テレーズの言葉にボーモンが落ち着きを取り戻し、使用人たちもほっと息を吐いた。
「そういうことならば、もちろん問題ない。今度一緒に行こう」
「わあい!ありがとうございます、ボーモン様」
「一緒にチーズを食べる約束もあるしな。当然だ」
テレーズの頭を優しく撫でるボーモン。テレーズは幸せを噛み締めていた。
そして、あっという間にテレーズの実家に行く日になった。
「じゃあ、行ってくる。留守は頼んだぞ」
「皆さん、行ってきまーす!ハネムーンの後で急にまた家を空けてごめんなさい!楽しんだらすぐに帰りますね!お土産も期待していてくださいね!」
テレーズが転移魔法の魔法陣の上で手を振ると、使用人たちは丁寧に頭を下げた。そして転移魔法が発動する。
「……わあ!懐しい!」
そしてテレーズは実家に帰って来た。ボーモンにとっても久しぶりのアルビオン公爵邸。少し緊張しているボーモンに、テレーズは無邪気に笑う。
「ボーモン様と来られて嬉しいです!さあ、お父様とお母様に挨拶しに行きましょう!」
「ああ」
ボーモンはテレーズと手をしっかりと繋ぐ。執事長が出迎えてくれて、応接間に通された。その間、執事長は顔に出さないがテレーズとボーモンの仲の良さに内心驚いていた。他の使用人たちからも不躾な視線が投げられる。テレーズに付いてきたマルカは、アルビオン公爵邸の使用人たちに対して少し失礼すぎやしないかと不満を覚えていた。
「お父様、お母様!」
「テレーズ。元気にしていたかい?」
「もちろんです!とおーっても幸せですよ!」
「まあまあ。ボーモン様に大切にされているのね。良い方向に変わったようでなによりです」
テレーズは両親に囲まれて微笑む。ボーモンもそんなテレーズを見て安心した。
「ボーモン殿。娘が世話になっているね。娘が幸せだと言い切るのだから、よほど大切にしてくれているのだろう。心から感謝しているよ」
「いえ、妻を愛するのは当然のことです」
そんなボーモンに、テレーズの両親はさらに気を良くした。
「テレーズ、あの香水はちゃんと使ってる?」
「つ、使ってません!もうちょっと待っていてください!」
ぴーぴーと抗議するテレーズに、テレーズの母エレーヌはくすくすと笑った。
「そんなことだろうと思ったわ。テレーズったら、奥手なんだから」
「お母様!」
なんのことかわからないボーモンは首をかしげる。そんなボーモンにテレーズの父、エタンは笑った。
「まあ、女性は女性の話があるんだろう。そうだ、うちの三男がボーモン殿と是非お話をと言っていてね。相手を頼めるかな」
「もちろんです」
ということで、テレーズの三番目の兄フロランと会うことになったボーモンであった。
使用人たちはテレーズにガクブル