彼女は幸福の木に歌を聞かせる
テレーズ大活躍
「ポロさん!」
「奥様」
「幸福の木まで案内お願いします!」
「承知致しました」
ポロはテレーズ達を庭に植えられた幸福の木まで案内する。その木々は大きく根を張る巨木から若々しい木まで様々。だがどれもまだ育て始めたばかりのテレーズの幸福の木の芽より大きく、条件が揃えばすぐにでも実をつけられるだろうとわかる。
「じゃあ、歌いますね」
「頼む」
「お願いね、テレーズちゃん!」
「はい!」
テレーズは、歌に魔力を乗せて歌う。普段意識していない時でさえ、無意識に歌に魔力を乗せるテレーズ。そんなテレーズが無理のない範囲でセーブしているとはいえ、意識的に歌に魔力を込めれば魔力に反応する幸福の木にはそれなりの効果は発揮されるというものである。
「……奥様!実がなりました!これだけ大きく形の良い実もなかなかありません!今収穫すれば、ベルトラン公国への運搬も考えればちょうど食べ頃に熟れるでしょう!」
「ありがとう!テレーズちゃん!」
アダラールは涙ぐんで感謝を伝える。
「いえいえそれほどでも!ところで、この大量の実を全部持って帰ると相当時間かかりませんか?」
テレーズの言うことももっともである。それだけ多くの実が成った。
「三分の一も貰えれば充分よ。それでもすごい量だけど、私の家の馬車ならなんとかなるわ。無駄に豪華だもの。ところで、実から取ったタネは綺麗な状態で送り返したほうがいい?それとも、ベルトラン公国の方で国を挙げて育ててしまってもいいのかしら」
ポロに訊ねるアダラール。ポロは微笑んで言った。
「私は育てていただいても構いません。旦那様、よろしいでしょうか?」
「私も構わない。元々庭のことは庭師に一任している。その庭師がいいと言うのに反対する理由はない」
「ボーモン!ありがとう!」
ボーモンに抱きつくアダラール。これが女性であれば嫌がるボーモンだが、アダラールはあくまでも男友達なので平気だ。軽々受け止めた。ハグをして満足すると離れるアダラールは、今度はテレーズに向き合った。
「テレーズちゃん、改めてありがとう。貴女は大切な恩人だわ。なにかあれば連絡して?力になるわ」
「いえ、そんな!お役に立ててよかったです」
えへへと笑うテレーズ。そしてポロが幸福の木の実を三分の一ほど収穫した。これを明日アダラールの用意する馬車でベルトラン公国で待つ妹に届ける手筈になった。
残りの三分の二の幸福の木の実は、後日慢性化魔力欠乏症の研究をしている医者に送りつけることにした。少しでも多くの慢性化魔力欠乏症患者を助けるためである。慢性化魔力欠乏症は知らない人も多いほど大変珍しい病気であり、命にも関わる。だからこそ、研究者に実を預けるのは良策と言えた。
ちなみにタネの方も研究するとのことなのでタネは今回は増えなかったが、来年また実が成ったら再び幸福の木を増やすためタネの回収をする気満々のポロであった。
ボーモンは妻の活躍ぶりに鼻が高い