彼女は旦那様のお友達を助けようとする
アダラール、意外と事情が重い
「幸福の木を育てている?本気?あれはかなり珍しくなかなか手に入らないはずよ?」
「我がバスチアン侯爵家自慢の庭師が、代々受け継いで増やしているらしい。今年もたくさん実とタネを回収したそうだ。そしてテレーズの誕生日にプレゼントされ、今大切に育てている」
「……」
「あの、アダラール様」
「お願いがあるの!その幸福の木の〝実〟を分けてちょうだい!」
アダラールはいきなりテレーズに頭を下げて願い出た。テレーズは困惑しつつも顔を上げさせる。
「顔を上げてください!まだ実が出来るほど育ってはいませんが、庭師のポロさんの方で実を保管していないか聞いてみますから!」
「テレーズちゃん……ありがとう!」
「でも、何に使うんですか?」
テレーズに問われ、アダラールは少し考えるそぶりをした後言った。
「このことは秘密にしてね?私の兄弟は、兄四人と妹一人でね?私、特に妹を大切にしているの」
「はい」
「その妹が慢性化魔力欠乏症になってしまって…今は臨時で定期的に魔力回復ポーションを飲ませているけれど、根本的に解決するなら幸福の木の実を薬代わりに食べさせるしかないの。幸福の木の実は魔力の上限を上げるのはもちろんそれだけではなくて、体内の魔力の循環も良くするから慢性化魔力欠乏症の特効薬なのよ」
「そうだったのですね……」
テレーズはまるで自分のことのように心配をする。それを感じたアダラールはテレーズの優しさに感謝した。
「マルカさん、ポロさんに幸福の木の実を保管しているのか確認してきて」
「はい!」
マルカは大急ぎでポロの元へ向かう。ボーモンは口を開いた。
「恋人探しの旅は、カモフラージュだったか」
「一国の姫君がものすごく珍しい大病に冒されたなんて、言えるわけないじゃない」
「責めているわけじゃない。ただ、もっと早く頼って欲しかっただけだ」
「責めてるじゃない。……でも、最初からボーモンに頼っていれば良かったわ。ごめんなさいね」
「いや。ただ、保管してあれば良いが……保管されてなければどうする?」
アダラールの顔が途端に曇る。
「その時はお手上げだわ……その場合は来年、実が出来たら送ってくれない?」
「わかった」
「……あのぅ」
テレーズがそろそろと手をあげる。
「どうした?テレーズ」
「その場合も、私お役に立てるかも……?」
「どういうこと?テレーズちゃん」
アダラールとボーモンは不思議そうな表情でテレーズを見る。
「いえ、音楽家の先生の授業を受けた後、植えたばかりの幸福の木のタネが芽を出して。その後も魔封じの網を編みながら歌ってたらやっぱり幸福の木の芽が大きく成長して。なんでも私が無意識に歌に魔力を乗せているとかなんとか…それで、幸福の木の成長を私の歌で促進できることがわかったので……」
「テレーズちゃん!!!愛してる!!!」
「人の妻に手を出すな」
喜びのあまりテレーズに抱きつこうとしてボーモンに捕まるアダラール。そして、マルカが帰ってきた。
「テレーズ様。ポロはもう必要としている人に実を配ってしまったそうです。でも、テレーズ様の歌の力でなんとかなるかもって……」
「今すぐなんとかしましょう!どうすれば良いですか?」
「庭に植えられた幸福の木に歌を聞かせてあげればもしかしたらって言ってました!」
「善は急げです!ポロさんのところに行きましょう、ボーモン様!アダラール様も!」
「なら急ごう」
「テレーズちゃん……本当にありがとう!」
テレーズとボーモン、アダラールはマルカの案内でポロの元へ向かった。
恋人探しのフリでずっと探していた果実がまさかの友達の家にあるという