彼女は幸福の木のタネを植える
幸福の木のタネ
テレーズは朝起きると、マルカに鉢植えを用意してもらい幸福の木のタネを早速植えた。日向に置いて魔力を込めて水やりをして、元気に育つといいなぁと見つめる。
いつも通り朝の身支度を終えると、ボーモンにエスコートされて食堂へ。ボーモンとたくさん話しをしながら朝食を堪能して、少し食後の運動をするとラルクを待つ。
ラルクは着くなりテレーズに跪いた。
「テレーズ様。私のミューズよ。今日もよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします、先生!」
「テレーズ様のことを考えていたら、また新曲が浮かびまして。よろしければ聞いてくださいますか?」
「もちろんです!」
ラルクはピアノを弾く。その音色は優しく嫋やかで、それでありながら芯のしっかりした素敵な曲であった。テレーズはラルクの演奏が終わると、立ち上がって拍手をする。
「ありがとうございます!とても素敵な曲でした!」
「そう言っていただけると有り難いですが、よろしければまた歌詞をつけていただけませんか?そして、歌っていただきたいのです」
「もちろんです!」
こうしてテレーズは、ラルクの指導のもと作詞した。そして、歌ってみる。優しい歌声が部屋に響く。近くで聞いていたマルカは心が穏やかになるのを感じた。
ラルクはその歌声に可能性を見出す。なるほど、女王陛下が自分を向かわせるわけである。今度、発表会でも開くのだろう。許されるならその席で、ラルクが演奏をさせて欲しい。彼はそう願った。
一方でテレーズはただ楽しく気持ちよく伸び伸びと歌った。やっぱり歌は楽しかった。もっと歌っていたい。そう思うが曲は終わり、歌は一旦終了。心地の良い疲労感に、テレーズは微笑んだ。
「とっても楽しかったです」
「それは良かった。伸び伸びと歌う姿はとても素晴らしかったですよ。女王陛下もお喜びになることでしょう」
「それは良かったです!」
「テレーズ様、喉が渇きませんか?蜂蜜たっぷりのホットミルクはいかがでしょう?」
「マルカさんありがとう!」
こくこくとホットミルクを飲むテレーズ。甘さと温かさがテレーズの喉と頭を癒す。ほっと一息ついて、もう一口。
「喉のケアも大事ですからね。テレーズ様、どうかきちんとご自愛くださいね?」
「はい、先生!」
「マルカさん、でしたか?ホットミルクに蜂蜜を入れてくださってありがとうございます。喉には蜂蜜がとても良いのです」
「お役に立てるならよかったです!」
すっかりと和気藹々とした雰囲気。ラルクはこの時間が至福に感じるようになっていた。テレーズも、思いっきり歌えるこの時間が大好きだ。マルカもどこか落ち着くテレーズの歌声に癒される。だから、まさかテレーズの歌声とそれに乗った淡い魔力の力で幸福の木が早くも芽を出したのに、誰も気付かなかった。
幸福の木の芽!