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中学生惑星  作者: 桁くとん
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第2話 TVでは

とりあえず第2話です。

では、どうぞ。




 砂の中から出て来たスマートフォン。

 見覚えのある、母さんの物だ。

 ロックは掛かっていない。


 僕はまだスマホを持たせてもらっていない。

 都会と違って凶悪な犯罪がないこともあって、まだ中学生には早いと言われていたからだ。

 僕が高校に上がったら家族割で買ってあげてもいいけどね、と言われていた。

 そう言っていた父さん母さん。

 父さん母さんには内緒で、めぐの奴がスマホをおばあちゃんにねだった日の夕食時に言われた。

 おばあちゃんは僕達には甘かったけど、父さん母さんを差し置いて勝手には出来ないって思って相談したらしかったんだよな。


 でも何で床の砂の中から母さんのスマホが出て来るんだ……?

 まるで、母さんが砂になったみたいじゃないか……


 僕は立ち上がると、大声で叫んだ。


 「おーい、母さーん! どこー! 出て来てよ、自主練に遅れちゃうよー!」


 返事はない。

 リビングダイニングの勝手口を開けて外を見るが、母さんの姿は見当たらない。

 僕はまだ戻って来ていない父さんの姿が畑にあると思って、勝手口から見える畑を見渡したが、父さんの姿も見えない。


 「父さーん、母さんどこか出かけたのー?」


 姿は見えなくても外にいるはずの父さんに大声で呼びかけてみたけど、返事はない。


 ちょっと待って、もしかして、母さんはおばあちゃんの部屋かな……?

 おばあちゃんの部屋の仏壇に、ご飯が炊けたらすぐにお供えのご飯を持っていく習わしがうちにはある。

 でもそれはいつもはおばあちゃんの役割だ。

 母さんが持ってくのは、おばあちゃんの具合が悪い時くらいだけど、おばあちゃんは昨日元気そうだったしな……

 でも、仏壇にご飯をお供えしたついでにおばあちゃんの部屋で何か大事なことを母さんとおばあちゃんが話していて、僕が呼んでも気づかないだけなのかも知れない。


 そうだ、おばあちゃんの部屋にきっと二人ともいるんだよ。


 僕はそう思って、スマホをポケットに捻じ込んで、おばあちゃんの部屋に行くためにリビングダイニングを小走りで出ようとした。


 「痛っ!」

 「きゃっ!」


 廊下に出た瞬間、僕は誰かとぶつかってガチンとあごを打ってしまい声が思わず出た。

 打ったあごを抑えてぶつかった相手を見ると、妹のめぐだった。


 「お兄ちゃん、いきなり家の中走って出て来ないでよ! だいたい朝から大きな声出さないで、迷惑! うるさくて寝てられないじゃない!」


 めぐはしゃがみこみながら頭を抑えてそう言った。

 めぐの頭と僕のあごがぶつかったらしい。


 「ごめん、めぐ。ちょっと母さんの姿が見当たらなかったから慌てちゃって。大声出して悪かったよ」


 「母さんだったら畑に行って野菜取ってるんじゃないの? きゅうりがどんどん成ってるから、食べないと勿体もったいないって言ってたじゃない」


 勝手口から出てすぐ外の、きゅうり畑に母さんが居たならすぐにわかる。

 居なかったんだ。


 でも、めぐには言わないでおいた。

 母さんはおばあちゃんの部屋にいるかも知れないし、変にめぐを不安がらせることもない。

 母さんが見つかったら、めぐの奴は母さんに「お兄ちゃん、お母さんが居なくなったってすごく慌てて泣きそうだったんだから」とか、尾ひれを着けて言われるに決まってる。


 うん、めぐには悪いけど、少し落ち着いた。


 「あれ? 珍しい、TV点けてないのかな?」


 めぐがそう言って僕の横を通ってリビングダイニングに入っていく。


 「いや、さっきは点いてたけど」


 僕もそう言ってリビングに戻る。


 さっきは確かCMが流れていて、商品名を女性タレントが言っていた。

 CMが終わっても、この時間は朝の情報番組を何処の局でもやってるはず。

 そう思ってTVに目をやると、確かに朝の情報番組のスタジオが映し出されている。

 画面の左上には6:38と時刻が表示され、その横には今日の天気の表示。全て晴れマーク。


 ただ、TVからは音が流れて来ない。

 というよりカラフルな情報番組のスタジオが映し出されているだけで、そこには何かを喋るキャスターもアシスタントも、人が誰も映っていないのだ。


 何となく埃っぽい無人のスタジオが、ただ映し出されている。


 「何、これ……」


 めぐが、TVを見て呆然とする。

 僕はテーブルの上からリモコンを取り上げ、ボリュームを上げた。

 それでも何の音もTVからは聞こえてこない。


 僕は更にリモコンを操作して他の局にした。


 「王道の味、極みめんつゆ~」


 いきなり大音量でめんつゆのCMが流れたので、僕とめぐは驚いてビクッとしてしまった。


 「お兄ちゃん、貸して!」


 めぐはそう言って僕の手からリモコンを引ったくる。

 めぐがボリュームを落としている間に次のCM、ガス会社の心温まるCMが始まる。

 穏やかな家庭の1日の始まりの情景を30秒で見せて会社名をゆったりアナウンスしたところでCMが終わり、情報番組のスタジオに切り替わった。


 「……何で」


 めぐがポツリと言う。

 やはりその情報番組も、無人のスタジオを映すのみだった。


 めぐは、他の局に次々に替えて行ったが、どこも無人の情報番組のスタジオを映すばかり。


 おかしい。

 何か変だ。

 いや、凄くとんでもないことが起ってるんだ……


 僕は、リビングダイニングを飛び出して、おばあちゃんの部屋に向かった。


 「おばあちゃん、おはよう、入るよ!」


 僕はおばあちゃんの部屋の扉をノックすると、部屋の中に駆け込んだ。

 寒がりのおばあちゃんは布団をすっぽり頭まで被って寝る。

 おばあちゃんはまだベッドで寝ているみたいで、夏掛けの薄い布団がこんもりと盛り上がっている。


 仏壇に目をやると、ご飯が仏膳椀によそわれ、お供えされている。

 近寄って触ってみると、まだ温かかった。


 「おはよう、おばあちゃん、大丈夫?」


 めぐが後から入ってきて、ベッドで寝ているおばあちゃんにそう声をかける。


 「おばあちゃん、具合悪いの?」


 めぐがそう言っておばあちゃんを揺り起こそうとして近寄る。


 僕はめぐの前に割り込んだ。

 めぐはムッとするが、おばあちゃんの部屋で怒鳴る訳にもいかないので無言で僕を睨みつける。


 「おばあちゃん、おはよう」


 僕はそう言っておばあちゃんの布団の上から肩の辺りに手を掛け、揺り起こそうとした。

 布団の上から触った布団の中の感触は、おばあちゃんじゃなかった。


 布団の端から畳の上に、さらさらと砂がこぼれて砂埃が僅かに舞った。







第2話でした。

次の話は出来上がりましたら投下します。

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