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中学生惑星  作者: 桁くとん
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第16話 飛行機の墜落

第16話です。

では、どうぞ。

 



 塩川医院の駐車場に停められたオフホワイトのミニバンをオグちゃんは借りることにした。


 僕とオグちゃんは三郷(みさと)中学校に行って、登校している生徒たちに異変について話しに行く。

 三郷中学まではここから5km程だから、走ったって本当はいい。

 でも、何かあった時に備えて車で行った方がいい、とタダシくんが言って鍵を渡してくれたのだ。

 僕とオグちゃんを、タダシくんと亜美さんも見送りに来た。

 別に今生の別れでもないのに。


「これからは、一度別れたら二度と会えなくなるってことも十分あるからね。手が離せない時は無理だけど、余裕ある時は見送るわよ」


 そう亜美さんが言う。

 そこまで物騒なのかな?

 でも、朝家を出る前には親にもう会えなくなるなんて思っていなかったはずだから、亜美さんの気持ちはわかる。

 僕だって、今朝は普通に母さんはリビングダイニングで料理をしていて、父さんが畑から野菜を持って帰ってきて、おばあちゃんが仏壇(ぶつだん)にご飯を運んで、めぐは僕が家を出る直前に起きて来る、そう思っていた。

 でも、そうじゃなかった。

 なら、これから先にも同じようなことがあるかも知れない。


 「大丈夫、タダシじゃなくて俺が運転するんだから。あんなロボットみたいに腕ピーンの運転で五竜市から戻れたんだから、それに比べりゃ全然大丈夫だぜ」

 

 「オグ、調子に乗るなよ。畑と公道は違うんだ」


 「へっ、畑の方が凸凹してるから慎重に運転するようになるんだよ。……ところでタダシ」


 「何だよ」


 「……済まなかった」


 「……いや、……僕も悪かった」


 そう言って二人は目を()らした。

 普通こういう時は握手とかするんじゃないだろうか。

 でも、そんなドラマみたいなことは、なかなか現実じゃ出来ないものなんだろう。


 「たわし、よくわかんないけど、アンタ単純だけど素直でいいじゃん。そうじゃないとね。素直じゃなくて尖ったら、たわしじゃなくて栗のイガになっちゃうからね。どうせならウニになってくれればいいんだけどさ。中身食べられるし」


 「ねーさん、栗だって中身食べられるぜ」


 「値段が違うでしょ。栗はおばあちゃん家で食べ飽きたし」


 「……ねーさん、ありがとな。ねーさんがタダシをやり込めてくれてスッとしたぜ」


 「アンタ途中で止めたくせに。まあでも、私も不安やモヤモヤをぶつけられてスッキリしたからヨシだけどね」


 「……僕はサンドバックじゃないぞ」


 タダシくんがボソッと言った。


 その時、塩川医院の上空を、けっこう低い高度で旅客機らしい飛行機が通り過ぎた。

 たまに米軍機が何かの演習で飛んで、翌日地元の新聞に反対の記事が出るくらいに、この辺りを航空機が飛ぶこと自体、珍しい。

 旅客機の航路からは外れているからだ。

 旅客機は、北に向かって飛んでいく。

 LCCの派手なカラーリングの機体がハッキリ見えた。

 旅客機は三郷町(みさとまち)の北に位置する獅子ヶ見山(ししがみやま)の峰のわずか上を通過し北に消えていった。


 「へえ、珍しい。何か、僕らの出発をお祝いしてくれてるみたいだね」


 僕は呑気にそう感想を言った。


 「新潟空港へでも行くのかな?」


 亜美さんもやっぱり呑気にそう言う。


 「いや、多分航路を外れたんだ、パイロットが砂になってしまって」


 タダシくんはそう推測した。


 「最近の飛行機ってオートパイロットで着陸までやってくれるんじゃないの? 下手な車よりも安全って聞いたことあるけど、どうなのよ? タダシ?」


 亜美さんの疑問にタダシくんが答える。


 「いや、性能のいいオートパイロットは離陸時以外は誘導してくれるらしいけど、巡行飛行中だけ誘導するっていうオートパイロットもまだあるらしい。あの飛行機は高度制限以下で飛んでいたみたいだから、多分、着陸は操縦士が手動で行うタイプで、操縦士が砂になって消えてしまったから着陸予定空港を超えて航路を外れたんだと思う」


 「じゃあ、これから飛行機が落っこちて来る心配もしなきゃならないってこと?」


 「いや、多分こんなところまで飛んでくるっていうことは滅多にないんじゃないかな。着陸まで誘導してくれるタイプなら空港に着陸するだろうし、操縦士が着陸させるタイプでも、大半は海に落ちるんじゃないかな」


 「つーか、飛行機の中でも、砂になる異変が起こったってことなのか……」


 「多分、そうだろうな。いや、これから亜美さんと色々情報を集めないと、何とも言えないけど……」


 「何かさ、日本だけでこの異変が起こってるのかな……空中の飛行機の中でも起こってるんだとしたら、何となくだけど世界中でこんなことになってる気がするんだけど……」


 僕はそう口に出して、自分の言った言葉なのに怖くなってしまった。

 そして、次々に世界の国々で一斉に大人が砂になるところを想像してしまった……

 

 「翔太、日本中だろうと世界中だろうと、俺達がやることは変わらないぜ、そうだろ? 色々心配もあるだろうけど、やることはやらなきゃな。悩んでたって怖がってたって、何も始まらないぜ」


 オグちゃんがそう言って、僕の肩を叩く。

 オグちゃんの、こうゆうところは本当にありがたい。

 人を勇気づけて、引っ張ってくれるんだ。


 「じゃ、行こうぜ」


 オグちゃんがミニバンの運転席を開けて乗り込もうとした。

 その時。


 ドドーン、と地面が揺れ、ドカーンという音が北の方角から遅れて聞こえて来た。


 「墜落(ついらく)したんだな。けっこう遠くの山中みたいだから、三郷町(みさとまち)には被害は出ないだろう」


 タダシくんが言う。


 北の、獅子ヶ見山(ししがみやま)の向こう側から、細く煙が立ち昇っていくのが見えた。


 もし、あの飛行機の中に15歳以下の子供が乗っていたら、どんな気持ちだったんだ?

 周りの大人が操縦士も含めてみんな突然砂になってしまい、何が起こっているかわからないままに、飛行機と運命を共にせざるを得なくなる……理不尽すぎる。

 せめて何が起きているのかくらいは知りたいだろう。


 不条理な出来事に巻き込まれて、何も指針がないなんていうのは不安と混乱を高めるだけだ。

 サッカーで守備から入るゲームプランだったのに、開始早々不運な失点をしてしまった時みたいなものだ。

 守備組織が混乱したままだと、更に失点を重ね、大差で試合を落としてしまう。

 そうならないために。

 ピッチの選手(三郷中の生徒)俯瞰ふかんした情報を伝えないといけない。

 そしたら、何かいい知恵だって出るかも知れない。


 「行こう、オグちゃん。運転お願い」


 僕はオグちゃんより先にミニバンの助手席に乗り込んだ。

 


 



 



 



 


第16話でした。

第17話は明日投下できそうです。

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