冒険の世界へ 4
「や、やめてくれぇぇ!」
一人の男性が、叫びながら足を引きずって逃げている。追いかけてくる相手はドロドロとした、
異形な生物であった。
その異形の者は口のような所から自身のドロドロの部分を空中で弧を描きながら飛ばしてくる。
「うぅっ!」
その液体は彼の引きずっている右足に当たり、皮膚を溶かし、肉にダメージを与えていく。
さらに異形の生命体の後ろからさらに数体、同じ生命体がやってくる。
「もう、ダメか!」
最後のあがきとして、狩りとして持ってきた弓を使って攻撃しようとする。しかし、この数に、ただの矢を放ってもあいつらを倒せないことなんでわかりきっている。
「うおおおおおッ!」
せめて、一体でも倒せれば!その思いで一矢、また一矢と連続で放つ。
しかし、ドロドロの体はそれをドロドロの体で飲み込み、体内で溶かしていく。次から次へと向かってくるその矢は全く効いていないようだ。
やつらは狩人の目の前までやってきて捕食しようとしてくる。
(もうだめか!)
そう思っていると
「逃げろ!そこの者!」
剣を持った女の騎士が狩人を守るように素早く現れ、剣で彼らを薙ぎ払う。
異形のやつらの体には剣で斬られた跡が残ったが、すぐに修復していく。
「早く!逃げろ!」
その言葉を聞いて、足を引きずらせて急いで走っていく。
「あ、ありがとうござます!」
しかし、礼だけは忘れず、言い残していく。
「や、やっと追いついた……」
やいちも彼女に遅れてやってくる。
彼の両手には事前にレニアスに貰っていた短剣がある。
「これが、スライムか……。あ、危ない!」
やいちは思わず叫ぶ。全てのスライムたちは口から液体をレニアスに向かって吐き出される。
しかし、剣で全て向かってくるそれらを避けることなく、弾いて防いで見せる。
「ま、マジか!」
レニアスの戦闘力の高さに驚くが、よく考えてみれば、この国を守る騎士団の副団長なのだ。こ
れほどの力を保有していてもおかしくはないのかもしれない。
「はぁ!」
彼女は足に力を入れ、強く前に踏み込む。そして、一斉にスライムたちに切り込んでいく。しか
し、肉体が液体である彼らにはあまり通用していないようだ。
「ちっ!やはりあまり物理攻撃は効果的ではないか……。勇者殿!援護できそうか!」
「えっ、いや、わからないけど、とりあえずサポートしてみます!」
戦闘をしたくなかったやいつだが、今後自分は幼馴染である格闘家、博士、そして姫を探してい
くことを目的としているのだ。旅の途中、魔物で襲われても良いように、こういう所で戦闘に慣れておかないといけないのかもしれない。
「では行くぞ!私は目の前にいる敵に集中する。私が気づいていない敵、例えば後ろにいる敵な
どと相手をしてくれ!」
「わかりました!」
そういってやいちは彼女の背中を守るように動く。
レニアスの動きは素早く、まるでスケート選手が氷の上で何度も回転するかの如く周囲を警戒し
て戦っている。その動きに必死に合わせながら、やいちはとにかくスライムたちに短剣で少しずつ
斬っていく。
それに比べ、レニアスの動きはやいちよりも圧倒的に素早いうえ、強く、深く敵に切り込んでい
く。
(お、追いつけない!)
とやいちは思っている。しかし逆にレニアスの方は、自分の動きに遅れているものの、戦闘初心
者であるにも関わらずしっかりサポートとしての役割を果たせていることに驚く。
(副団長の私に追いつこうとするなんて……やはり彼の力は未知数だな)
そう思いながら戦闘していると、物理攻撃に強いはずのスライムたちもやいちとレニアスの攻撃
に回復が追い付かず、一体、また一体と倒れていく。
「これで最後だ!」
レニアスは強く切り込み、スライムを一刀両断する。真っ二つになったスライムは「ぐろぉ、
お」と死に際の声を上げて倒れる。
「さて、これで終わりだな。しかし、まだ、近くに魔物がいるかもしれないな。あの足を負傷し
た村人も気がかりだ。勇者殿、行こうか」
「そうだな」
そういって二人はその場から離れようとする。すると……。
「素晴らしい!やはり副団長の名は伊達ではないな!」
ぱちぱち!と拍手しながら、何者かが近づいてくる。その何者かは数人の騎士を連れている。
「団長!」
レニアスは驚きながら、その者に近づいていく。やいちも、遅れて向かう。
「魔法も使えないのに、あの複数体のスライムたちを剣だけで倒すとはな。それに……そこの、
君が連絡があった勇者だね?都でも噂になっているよ。『流星の勇者』がやってきたとね」
団長と呼ばれる彼女は兜を脱ぎ、軽くやいちに向かってお辞儀し、手を出す。
「私の名前はレイビィア・アタニア。この国の騎士の団長をやっている」
やいちも頭を下げ、アタニアの手を掴み、握手を交わす。
「俺はやいち。よろしく」
軽い自己紹介をすると、「さきほどの村人は無事確保し、安全な所まで連れて行って治療をして
いる。我々はこの辺りを少し見回る。ご苦労だった、休むと良い」と言って団長たちはやいちたち
が向かう逆方向へと歩いていく。
やいちたちが見えなくなった時、団長は一人の部下に命令した。
「あの『流星の勇者』を見張っておけ、彼がやることすること全て逐一私に教えろ」
そういうと、部下は「どうしてでしょうか?」と質問する。
「お前もあのような男を勇者と思っているのか?バカか?急に降ってきた者を勇者とは呼ばん。
伝説にあることだろうと、あれは得たいの知れない者だ。だから見張っておけ、良いな!」
「はっ!」と敬礼し、やいちの方へと走っていく。
(あれは―危険分子だ。私の前に立ちはだかるかもしれんな)
そう思いながら、残りの部下を引き連れて見回りをする。