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冒険の世界へ 3

 次の日、ずっと寝ていたやいちは寝ることは出来ず、朝になるまで起きていた。


 時刻的には朝の八時ぐらいだろうか、この部屋に何者かが入ってくる。


 すぐに相手の顔を確認する。すると、昨日やってきていた副団長のエイビル・レニアスだった。


 「おっ!どうやら起きていたみたいだね、調子はどうだい?」


 「問題は……ない。少し訛った体のために外を歩こうと思っていたところだ」


 「では一緒に散歩でもどうかな?異国、というよりかは君の場合は異界の土地と言った方が良いかな?そんな場所を一人で歩いて迷ったらどうしようもないからな」


 「そうだな。じゃあ一緒に歩きますか」


 そういってやいちとレニアスは病室から出て、外を歩き始める。


 外は空気がとても良く、草木の良い匂いに、のどかでどこか懐かしい匂いがする。


 元の世界は車や工場から出る排気ガスばっかりで、あまり自然に対して良い環境じゃなかったからそのように感じるのだろう。とても気分が爽快になる。


 気温は低くなく、高くもない。しかし、風は冷たく、太陽は熱く照り輝く。それからして季節は冬明けの春か、もしくは秋か。


 外には民家がちらほらあるが、どこかの街というよりかは、農村のようだ。少し遠くの方を見ると、広大な畑があり、地がきれいに耕されている。


 外を出て一歩、一歩と汚れの大地を歩き、永遠に続くような人と自然が共生する風景を眺めていた。


 「少し歩き方にぎこちなさがあるみたいだな」


 レニアスがやいちの歩きさまを眺めながらそう言う。


 「まぁ、長い間寝ていたんだ。しょうがないですよ」


 そういって、歩みを止めることなく周りを散策する。


 「にしてもキレイな風景ですね。空気が気持ちいい」


 「そうか?こんな場所、この国にはたくさんあるぞ……。といっても私は農村出身の騎士だからなこのような景色は子供の頃からずっと見ていた。街の出身でその生活に慣れた者からしたら、このような景色に価値を見出すものなのかもな」


 そういって歩いていると、いつのまにか農村を出て、畑の中を過ぎ、木々が鬱蒼と生える森の手前まで来ていた。


 「さて、ここから引き返した方が良い。この先は魔物も出たりしているし、奥には彼女がいる」


 「彼女?」


 魔女のようなものでも住んでいるのだろうか。


 「ああ、この奥には大妖精がいる。太古の昔からここに住む彼女の名前を知る者などあまりいない。歴史書の中でも姿を現すだけ。明確には描かれない彼女だが、この世界に貢献したことは多く、今なお、彼女は待っている。自分に契約するにふさわしい者を。その資格の無い者がこの森に入るとどうなるか……」


 やいちは薄暗い森を眺める。その話を聞いたあとだと、そこから吹き出す風は生ぬるく、いやなものを感じさせる。


 レニアスはそこから立ち去ろうとする、しかし、やいちは彼女のあとを追うことなく、数秒の間森を見ながら風を浴びていた。


 「おい、行くぞ!中に入られると誰も助けに行けないからな!」


 そういわれても、やいちは固まったままだ。彼はなんとも言えないものを感じていた。なんとい

うか、第六感とでもいうべきだろうか。ここには、自分にとって必要なものがある。そう思わされていた。


 「おい、大丈夫か!?」


 ぼうっっとしているやいちが心配になり、彼に近づいてくる。そしてはっ!と現実に戻らされたやいちは、「すまん、少しな……」と言う。


 「全く、心配かけさせられたよ。まぁ、勇者殿である君であれば、奥から感じる彼女の気配を読み取ったのかもしれないな。じゃあ行くぞ」


 そういって立ち去ろうとしたその瞬間。


 (またおいで、あなたにはその『資格』がある……)


 「!」


 少女のささやく声が聞こえ、後ろを振り返る。


 そこには森しかなく、未だに怪しい風が吹き出している。


 やいちはなんとなく理解した。これは幻聴のようなものではない、と。しかし、今はまだ来るべきではないと察し、ここから立ち去る。


 少し遠回りをしながら、農村の方に帰ると、村人らしき人たちがこちらに向かって走ってきている。


 村人と言っても農作業をしている者たちというより、弓矢を持っていることから狩人のようなものだと瞬時にわかる。


 「はぁ、はぁ!」


 レニアスは村人の様子を見て、何かを悟ると、その者に話しかける。


 「そこの者!少し待て!」


 村人は騎士の恰好をした彼女に気づくと、「助けてくれ!」と言いながら、慌てて走ってくる。


 「近くの……林で…はぁ、!はぁ、!仲間と……狩りをしていたら、ま、魔物が!」


 息切れをしながら、さっき起こった事を話してくれる。


 「わかった!他の仲間は!落ち着いて話せ、人数とか、その時の状況をもっと細かく!」


 「はぁ、はぁ。な、仲間は俺を含めて三人だ。魔物はスライムが八体で、慌てて逃げたもんで、みんなバラバラになっちまった。どっちの方角なのかは少しわからないが、急に魔物が現れたもので、一人だけ足を負傷しちまって!きっと今頃……」


 「わかった!アンタは村に戻って私の仲間に伝えてくれ!待機している奴らは宿にいるはずだ!」


 レニアスはそう言い、村人はそれに頷き反応すると、再び走っていく。


 「俺も村に帰った方が良いだろ?」


 「そうだな。だったら勇者殿も―」


 しかし、彼は勇者だ。戦闘経験は無さそうだが、何かしら役に立つかもしれない。


 「いや、勇者殿。君も一応来てくれないか!何か出来ることがあるかもしれん!」


 戦闘経験がないやいちだが、騎士で戦闘経験豊富の彼女が言うのだ。何か考えがあるのかもしれない。そう思ったやいちは何も考えず、彼女についていく。

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