色欲 34
そのように活躍を見せるヒンデルに対し、少し対抗心を持っているのか。グインデル少将も魔法を唱え始める。
「原点魔法〈アクシオン〉!」
空中に魔法陣が展開される。詠唱からして、先ほど放った周囲の環境をガラリと変えてしまうほどの巨大な一撃を放てる魔法だが、今回はあれほどの威力はいらない。
そのため、魔法陣は小さく、用いる魔力もそこそこで抑えている。
そして、まるでレーザービームのように魔力が発射される。その形はまるで黒い柱のようだ。そして、その黒い柱が通過していく付近の大地、空間、いろんなものがその魔法によって抉れ、敵もまた破壊されていく。
そして、とうとうやいち達は目的であった下水道……最初にグインデルによって放たれた〈アクシオン〉によって剥き出しになっている箇所へと到達する。
下水道の側面が亀裂している部分を発見。そこから、それぞれが侵入していく。
その下水道の中は、ある程度広かった。少し大きめのトンネルのようだ。
下水道という割には、排泄物のような不快な匂いはしなかった。やはり、錬成術によって発生する処理水のための下水道であるからだろう。だからと言って、決して気分の良い匂いで充満しているというわけではない。
それに、わざわざ通常の下水道と処理水用の下水道を分けて造っている時点で、この処理水に危険物が含まれていると予想が出来る。まぁ、今回、作戦立案時、何も注意を受けなかったため、浴びただけで皮膚が溶けたり、火傷のような傷を負うほどの危険性は無いのだろう。
やいちは改めて周囲を見渡す。 ここは普通であれば真っ暗なのだろうが、所々が破損し、そこから太陽の光が漏れ出ている。とは言え、視界が悪いことには変わりない。
姫の左手の中が光り出したと思えば、そこからさらに光が空中へ分散し、周辺を照らす。
魔法知識の無いやいち、格闘家、レイビィアが少々驚くが、それに対し「下級魔法だろ?さぁ、さっさと進むぞ」と姫ではなく。ヒンデルが答え、ガンガン前へ歩いて進む。
ここに来るまでやいちが先頭だったが、今度はヒンデルを先頭に進み始める。
内部にも、もちろん敵はいたが、外に出ていた連中よりももっと弱体化しているようで、一発、刃を入れると、サックリ両断出来てしまう。
「本当にゾンビ達が弱いし、ここまで余裕で進めれているが、大丈夫なのか?」
博士も言っていたが、ここまで進んでこの程度なのは、やはり逆に不安を感じてしまう。やいちは逆に警戒心をより強く高めながら、そう呟く。そして、その呟きに対して
「それが、偵察部隊をここに送り込んだときは、数部隊全滅しているんだが……」
とアリッサ・グインデル少将もまた、事前に聞いていた情報と現在、自分自身は現場にいて感じているこの差に強い疑念を抱いていた。
だが、進まないわけにはいかない。
ここに敵がいる、それ以上の情報が無いため、ここで逃してしまうと、次に犯人を追い詰められるのがいつになるのか分からない。故に、これが罠であっても、後退はしない。
そうしているうちに、八人は広い空間へと到達する。