魔力開花 2
やいちはさっきまで自分が本当に『自分』だったのか、疑問になり、近くで割れていた窓ガラスの破片で顔を確認する。
俺は何を考えていたのか?
「はぁ、はぁ!」
恐ろしい。この力に飲み込まれかけていた自分が。そして、それほど強大な力を持つこのエネルギーが、怖くなる。
「まだ、ヤイチの精神と肉体は魔力に慣れていないのもあるし、まだ未熟なのよ。これから魔力を使っていけば、いずれ暴走することもなくなるはず。今は、ちゃんと適量出すことね」
そう言われ、再び魔力で肉体を覆う。
(この程度なら……大丈夫みたいだな)
そう確認すると、魔力を収める。
「良し、問題ない」
そう言って、額の汗を腕で拭くと、スピネルとその場から離れる。
これらの状況を見ていたローブの男は
「やはり……魔力とは違う、高エネルギーを発生させるあの男。上界の人間というのは確定した。次は奴の性格がどうなのか?という所だな、もし奴がこのような状況で自分のことだけを考えずに困っている人を救うというのであれば、まさに『勇者』の名にふさわしい者であるというのが確定し、我々の前に立つ障害物になりかねない」
しかし、上界の人間が特別であるということを彼は知っていた。
だからこそ、やいちをどうやって利用するかをひたすら考える。敵になっても、あれほどの高エネルギーを保有する存在を殺して無駄にするというのはもったいない。
「とりあえず、街に放ったガーゴイルも減ってきたことだ。次の段階へと移る」
そういって、懐からまたもや小瓶を取り出す。そこには水が入っており、その中にミミズのようなものがうねうねと泳いでいる。
「さぁ、行け!」
こぽっ、と水が出る軽い音が聞こえる。そして、ミミズのようなものが出たと思えば、どんどんそれはでかくなっていき、そこには一体の巨大な化け物が現れた。
それはまるでウミヘビと同じ姿をしているが、大きさは二十メートル以上。歯は全てがギザギザしており、獰猛な顔はまるで悪魔だ。
それは水の無い陸でバタバタと動き、一般市民を引きつぶしていく。あらゆる建物も崩壊させて
いく。上空のガーゴイルから身を守るために家の中に逃げ込んでいた者も、その動きによって殺されてしまう。
「またなんか出たぞ!に、逃げないと!」
「もう、なんなんだよ!」
街からはさらなる人々の悲鳴や、絶叫であふれかえる。
「この化け物め!俺が食い止めてやる!」
やいちを槍で助けた巨漢は巨大なウミヘビから逃げる人々とは逆に、化け物に向かって槍を構えて走り出す。
「うおおおッ!」
大きく飛び上がり、鋭い突きを奴に突き刺す!のだが、逆にその刃が欠ける。
「ちぃっ!俺の突きが刺さらねぇ!でも、ここだったら……」
再び大きく飛び上がる。今度は巨大なウミヘビを土台にしたため、さらに高く飛んだ。そして、空中で腰をひねり、腕を回したりして態勢を変え、再び突き刺す。だが、今度は硬かった表面ではなく、柔いであろう目へと刃が向かう。
「少しはおとなしくなりやがれぇぇぇぇ!」
ぐちゃり。
予想通り、目は柔く、突き刺さる。
「良し、どうだ!」
と喜びながら、もだえ苦しむウミヘビによって振り落とされる。
上手く受け身ととり、地面に着地する。
「俺が出来るのはここまでだな、あとは騎士団にでも任せるか。だが、こんな化け物がいるとはな……」
そういって、このウミヘビの被害者にならないよう立ち去ろうとする瞬間。
「グギャギャ!」
上空からこちらに向かってくるガーゴイル。明らかに頭を狙ってきている。油断した男だったが、それでもギリギリでかわす。しかし、無傷とはいかず、右腕がちぎり取られる。
「ッああああああ!」
断面を左手で抑え、叫ぶ。ひたすら叫ぶ。
「くッそう!」
痛みで頭がいっぱいになる。再びガーゴイルがこちらに向かってやってくる。
(よ、避けねば!)
必死に動くが、さきほどとは違い、動きがにぶくなっている。
「ここで、終わりか……」
諦めかけたそのとき、どこからともなく魔力の球がやってきて、ガーゴイルを吹っ飛ばす。
「ギャッ!」
そのまま、暴れるウミヘビへとぶつかり、化け物の腹と地面に押しつぶされる。
「お、お前は……さっきの嬢ちゃんと、少年じゃないか!」
やいちとスピネルは急いで近づき、状況を確認すると、自分よりも巨体の男の左腕を掴んで肩を貸して歩き始める。
「す、すまねぇ。市民を守る側だった俺が助けられるなんて」
「問題ない、さっき助けられたんだ。今度は俺が助ける番だよ」
といって暴れる化け物を背に逃げようとする。のだが……。




