再結集 2
やいちはメニューを見ず、すぐに呼ぶボタンを押すと、普段頼むハンバーグとドリンクバーを注文する。
「にしても格闘家、なんでここにいるんだ?お前東京の方にいるんじゃなかったのか?」
「いやぁ、それが一か月前ぐらいに事故を起こしてしまってな。その怪我の影響で半年は練習するな、って言われたんだ。それで、地元にいったん帰ってこれる時間が出来たから、こうしてここにいるってわけだ」
そういえばニュースでそんなの言っていたな、と思い出す。
こうして最近周囲で起こった話や、過去の懐かしい記憶でしゃべりこんでいると、頼んでいた料理がやってくる。
「なんだ、お前まだ昼食べてなかったのか?」
「ゲームに熱中していて忘れていたんだよ」
「はっ!お前らしいな。やっぱりまだゲームは上手いんだろ?大会とかでないのか?」
「上手いことは否定しないが……大会に出れるほどの実力はないよ」
そういってあつあつのハンバーグを口の中に放り込み、自分が思っていたより熱い肉で。はふはふ、としている。
「そんなことねぇと思うけどなぁ」
現実というのは厳しいもんだ、才能がある格闘家だからこそ、凡の限界っていうのを知らないだけだろう。
そう思うと再び自分の事が虚しくなってくる。幼馴染の中で才能の無い自分の存在意義とは…。
「ん?あれはどっかで……」
格闘家はズズッとドリンクバーで頼んだホットココアを飲みながら、窓の外を見る。
「あ、あれは!」
カップを勢いよくテーブルの上に置き、ガタリと立ち上がる。それにやいちはビクッと驚き、箸で掴んでいた熱々のハンバーグが頬に当たる。
「あちちっ!い、いきなりどうしたんだよって…あっ!」
やいちも窓の外を見る。ファミレス前の道を通り過ぎようとしているのは…。
「「は、博士!」」
二人は息ぴったりに声を合わせて言う。
丸眼鏡に、白衣の姿。この真夏日をダルそうに歩く彼女こそ、天才であり、彼らの幼馴染の一人である博士であった。
ファミレス内からこちらを見る視線に気づいた博士は二人と目が合う。すると、眼鏡をくいっと直し、微笑む。
「まさかお主らと会うとはなぁ~!」
博士もファミレスの中に入り、ドリンクバーだけを頼み、冷たいコーラを飲んでいた。
冷え冷えのドリンクを飲むことで、さっきまでダルそうにしていた彼女は完全に元気を取り戻していた。なんなら、おっさんがビールを飲むように「ぷはぁ~!」と言っている。
「博士も変わらねぇな!」
「そりゃ私は私のままだよ。にしても格闘家、お主結構空手を頑張ってるそうじゃないか?アメリカの方でも時折ニュースで見るぞ」
彼女はこのように、
「おっ!俺も有名人のようだな」
「そういえば…博士は何でここにいるんだ?アメリカの方に留学してるんじゃ…?」
「あっちの方での研究が一息ついたから、こっちに一か月ほど帰国してきたんだよ。全く…体力のない私を休みなしで半年も働かせるとは……。ブラックじゃったよ……」
彼女は海外での体験を思い出したのか、顔を暗くさせながらテーブルに突っ伏す。
「本当に大丈夫か?まぁ、元気出しなよ」
そうして三人はしばらくクーラーの効いた、南国のような冷たいファミレスで談笑していた。
時刻は午後七時頃。夏という季節は太陽の出ている時間が長いが、さすがにこの時間帯になると、空は暗く、夕日の赤色だった世界も、闇に染まりつつある。
「今何時だ?……っと、もう七時か。はやいなぁ」
「そうだな。さて、このまま晩御飯でも食べて帰るか?」
そういいながら、博士はメニューを眺めている。
「俺は昼ごはんがそもそも遅かったからなぁ、家で食べるかな……?そういえば、俺の親いないから、自分で晩飯も作らなきゃいけないのか」
そのセリフに格闘家が反応する。
「ん?お前の親、今日いないのか?」
「ああ、親父は出張。母さんは旅行だってよ。だから、数日の間家は俺一人さ」
「だったら、お前の家で久しぶりに遊ばね?夜ぶっ通しでよぉ!」
「確かに!それはいい考えじゃのう!」
そういわれ、確かに、家の中を自由に出来るうえ、自分も含め三人がしばらく予定がない休みだ。それに最近、あの頃のように…。と思っていた。
「……そう、だな!じゃあ、コンビニでお菓子、コーラとか買って今から俺んちで遊ぶか!」
「「おう!」」
三人は立ち上がり、レジで会計を素早く済ませると、コンビニへと向かう。
この外は夜が近いというのに熱いのだが、太陽が出ていないぶん涼しく、風も熱風から、生暖かいものへと変わっている。




