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冒険の世界へ 7

 そこは結構開けた空間だった。そして、その場所の中央には一本の大きな木があった。


 地面からは木のものであろう巨大な根っこが飛び出しており、この場所全体を我が物としているようだ。


 そして、その木のそばで騎士団長であるレイビィア・アタニアが気絶していた。


 「おい、大丈夫か!?」


 揺さぶり起こそうとするが、反応がない。


 死んでいるのか?と思ったが、喉が動いている。どうやら呼吸はしているようだ。


 「私はここよ」


 やいちは耳で声を捉える。この声こそ、頭の中でささやいてきた少女の声であり、今回は空気を伝って聞こえてくる。


 声が発せられた方を見る。それは中心に生えた大きな木であった。


 「これが……アンタか」


 「もうちょっと詳しく説明するなら、この大木の裏に埋め込められた宝石に宿った霊魂、というのが正しいわ」


 「アンタは何故俺をここに呼んだんだ?」


 やいちは大木にゆっくり、ゆっくりと近づきながら言う。


 「あなたが…私の契約する者に相応しいと思ったから」


 「最近、知り合いから聞いた。人間は魔法が使えない、でも妖精と契約することで魔力が扱えるようになると。その時は何も思わなかったが、妖精の契約時のメリットって何だ?」


 そう質問しながら、彼女が言っていた木の裏の宝石を確認するために木の後ろへ回る。


 「私たち肉体を持たない妖精には生まれた理由がある。それは……上界へと昇天すること」


 「上界?」


 「あなたの生まれた元の世界よ。この世は上位の魂が住む上界と下位の魂にあふれた下界に分かれているの。まるで大きな建物のように、一階、二階、三階と上界の世界は無限のように存在してる、下界も同じ。地下一階、地下二階と無限に在る。その上位の世界へと羽ばたく存在、それが私たち妖精。人間も同じよ、何度も死んで、生まれ変わる。この輪廻の先にあるのが上界の世界。でも、上界へ行くには条件があるの。それが上位に住むに値する『魂』と『肉体』。もっと正確に言えばその二つの『情報』が要るの。だから妖精である私たちは輪廻転生によって洗練され、上位の者に匹敵する肉体の持ち主に接近し、契約をすることでその情報をもらう。そして、多くの人間と契約を繰り返し、魂を磨く。これが契約のメリット」


 「で、上位の世界から堕ちてきた俺の肉体の情報があれば、昇天できると?」


 「そういうこと」


 やいちは話しながら、木の周辺を調べてると、本当に宝石があった。


 それは赤く炎のように輝く、ルビーのような宝石だった。まるでやいちに反応するかのように光っている。


 「私も、あなたも。契約をしてデメリットはないはずよ」


 やいちは彼女の言う通りに宝石に触れようとする。しかし、その直前でピタリ、と手が止まる。


 「どうしたの?」


 「あの団長はどうしてあそこで気絶していたんだ?」


 「ああ、コイツは私に強引に触れようとしたからよ。彼女にもかなり上界の民に近い肉体を持っているわ。でも、魂の精錬がなっていない。欲にまみれすぎているのよ」


 やいちは気絶している団長の方を見る。よく見てみると、彼女の右手にはいくつかの擦り傷が出来ている。


 きっと、彼女の言う通り、無理やり宝石をその右手に取ろうとして、反撃を喰らったのだろう。


 (欲にまみれている、ねぇ)


 会ってすぐであるため、アタニアを擁護することは出来ない。しかし、彼女の雰囲気からして決して悪いような人物ではないように見えるのだが……。


 「どうしたの?何か問題が……?」


 「いや、なんでもない」


 やいちは今度こそ、手を伸ばし、彼女を手につかみ取る。その瞬間、ビカッ!とまるで雷が落ちてきたかのような光が宝石を中心に発生し、やいちごと辺りを包み込む。


 「うおっ!」


 手のひらが熱く感じ始める。それがこの強い光から脳が錯覚しているのか、それとも本当に熱が出ているのか、わからなかった。


 その感じる熱は徐々に全体に現れ、やいちは炎で包まれているような気分になる。


 ものすごい熱さだというのに、それはどこか安心できた。


 まるで、母のお腹の中にいるような、やさしさ、人のぬくもり。それらが具現化し、自分を守ってくれているような。


 「う、うおおおおっ!」


 ぶわり!と体中から何か噴き出る。それは、まるで湯気のようにほとばしっている。


 「これがあなたの魔力よ!にしてもすごいわ!私もいくつもの人間と契約してきたけど、あなたはやはり上界の住人なだけあるわね!これほどの力、初めて見るわ!」


 「あ、熱くてしょうがないんだが!俺の体は大丈夫なのか!?」


 「大丈夫!安心して、そのまま流れに任せて!」


 「くううっ!」


 妖精の言う通り、やいちはそのまま流れに身を任せる。そして……。



 数分後。やいちの魔力は収まり、やいち自身はぐったりしていた。


 「はぁ、はぁ!くっ、はぁ!」


 汗が額や、背中から吹き出し、肉体を冷やそうとしている。


 「落ち着いたようね!これで契約は終わったわ!」


 いつのまにか手放し、地面に落ちていた宝石が語りかける。


 「そうか、そういえば、お互いの名前を言ってなかったよな?俺の名前はやいちだ」


 「私の名前はスピネルよ。よろしく、流星の勇者様」


 自己紹介を終えると、やいちはスピネルが宿った宝石を掴み、ズボンのポケットに入れると、気

絶していた団長を担ぎ、森から出ることにする。

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