第96話 大統領救出作戦
私は土の魔力を使い、マグネシウム粉末と水の魔力で硝酸アンモニウムを作り出し、瓶に込めていき、信管も取り付けよう。
「マリーちゃん、うりぃなんだばー?」
「閃光手榴弾。以前ロバートさんに教えてもらったんだけど、この中身が割れれば、強烈な音と光で相手を怯ませられる。先生は光と音を爆発させる前に、冥界魔法で圧縮して閉じ込める形で、相手に投げつける魔法で使ってたけど」
そう、FPSゲームでもお馴染みの、便利なアイテム。
ゲームだと画面真っ白になる演出だけど、現実だとカメラのストロボをモロに受けた感じで、目に残像とか残っちゃうから、直視しないようにしないと。
「なるほど、じゃあ俺ぁ達が先に一階から突入するさぁ。マリーちゃん達はすぐ二階から突入して、たっぴらかす。調子乗ってる奴ら全員生捕にすんさー」
そう、私達はローズ・デリンジャーギャング団で、殺人集団じゃない。
殺人はルール違反がチームの掟。
「生捕りにすると便利さー。へっへっへ、我のロマーノに謝礼金はいるし、奴ら貴族共のドラ息子っぽいから、人質にしてデリンジャーの共和制反対派の元貴族らの親たち脅せるし、身代金や賠償金とれて、マリーちゃんの名前も上がって一石二鳥、いや三鳥、四鳥さー」
ええっと……ああ、そういえばこの人も遊び人って名前のヤクザだった。
まあいいや、これも人助け。
デリンジャーを救う事は、新しく共和国家になった、この国の歩みを助ける事になる。
私達は音も無く、大統領官邸に近づき得意の風魔法で私は、背広姿の騎士団と窓の側に立つ。
バロンを胸に抱えた私は、地上のジローと頷き合った。
「やっさー、こっちは派手にいくさぁ! えいさああああああああああ」
物凄い威力の正拳突きで、大統領宮殿の正門をジローが吹っ飛ばす。
「私に続いてください、突入します!」
窓ガラスを杖で叩き壊し、私達も建物に突入する。
一階に10人、二階にいる人数は10人。
王座の間とそれに続く廊下が半分ずつ。
少しでも多く倒せば、その分この後の戦闘が楽になる。
「なんだお前らっ!」
ロマーノ製、突撃魔力銃を構えた黒い背広の男を、私は杖で思いっきり殴り飛ばした。
敵の配置はバロンのおかげで、だいたいわかってる。
レスター以外の敵を排除しないと。
「貴様ら何者だ!」
長い廊下からは、物音を聞いてこちらに男達が駆けつけてくる。
ライフルを向けてきた敵へ、私は閃光手りゅう弾を二本まとめて投げつけると、眩い光と音で相手を怯ませた。
できるだけ音は鳴らしたくないんだけど、自分たちがやられるよりは全然マシ。
「今です!」
黄金竜騎士団の面々が、消音器付きの魔力ピストルを水の塊に変えて、相手を吹き飛ばす。
他にも、散弾銃のように拡散させた砂鉄の塊を放ったり、金属の鎖付きの弾丸で相手を拘束したりして、この人達めちゃくちゃ強い。
「殺すなよ! 殺しはルール違反だ!」
「生かして拉致って……いや逮捕するんだ!」
「野球みたいにチームプレーでいこう!」
「……野球ってなんだっけ?」
相手が3人いたのに一気に制圧しちゃったけど、この流れならさほど苦戦しないで、楽にレスターまで行ける。
下の階でも銃撃戦っぽくなっていた様子だが、お腹に響く様な閃光手りゅう弾の音がしたと思ったら、男達の怒号と打撃音なんかも聞こえる。
相手が反撃する前に、先制攻撃で一気に無効化するのが、ゲームでも現実の戦いでも最も有効な手段だ。
あっという間にシーンとなり、階段の踊り場でジローと残りの騎士団に元アサシンのハッサーンと合流した。
「マリーちゃん、一階は制圧したさぁ! どさくさ紛れで、一階にいた人質も逃げさせたー。こっちは敵が8人やしぐわぁ問題は……」
「ええ、おそらくデリンジャーの拘束場所。二階の大統領執務室、旧王座の間。そして私達が倒したのは4人だから、残り8。けど、ジローの所で討ち漏らし?」
「おかしいさー、入念にたっぴらかしたさー。まるでー、隠し通路か何かで移動したような」
そんな話をしながら私達は廊下を走り抜けると、バロンはピタリと動きを止める。
「臭いが移動した。複数の銃器を持った男達と、主犯格のメスの臭いが移動したぞ! それに……気を付けろ! 一階に一部の敵が移動して、挟み討ちにされている!」
「うそ、どうやって?」
まさか、ジローの言う通り、隠し通路とか階段とかそういうので移動した?
挟み撃ちって事は、足止めされてると……相手から囲まれてこっちがやられる。
「とりあえず前に進まなきゃ、みんなで警戒しながらデリンジャーの元へ」
私達は2階バルコニーを抜けて、前後を警戒しながら、デリンジャーのいる王座の間まで慎重に移動する。
なんだろう、廊下の曲がり角が怖い。
敵が潜んでて、アメリカ映画みたいにマシンガンみたいのでダダダダダって撃たれたら、怪我人が出るし、撃たれる前に撃っちゃうのがいいんだろうけど、相手を殺したらルール違反。
難しい状況だけど、でもやるしかない。
騎士団達が、ハンドサインで廊下の角に鏡を入れて、先の様子を見ようとした時、廊下からぬっと私の目の前にライフルの銃口が飛び出し……。
「うかーさん!」
「え? お母さん?」
私がジローの声に呆気に取られてたら、何発も発砲されて思わず私は体をかがめた。
すると、ジローが私の盾になるかのように覆いかぶさったが、なんだろ私の頭から生ぬるい液体が流れて……。
ジローは私に覆いかぶさり、動きが取れないでいた。
「姫殿下、どいてください! ジロー様!」
私は騎士に羽交い絞めされてその場を動かされ、倒れたジローに騎士は回復魔法をかけている。
「うかーさんてぃ、危ないって意味さー……。へへ、マリーちゃんゴメン、訛りすぎてたさー」
私達を騎士団が盾になるように囲むが、ジローは大量に出血していた。
お腹を撃たれ、おそらく殺傷能力を魔力で高めた弾丸が数発当たったのか、弾は貫通していたが背中の衣服の一部が破けて、私の掌よりも大きいくらいの傷口、肉がえぐり取られた感じで酷い銃創が出来ている。
「くそ、ジロー様の傷口、回復魔法阻害効果の火傷を確認しました。ジロー様の回復には時間がかかります。マリー姫殿下、油断なさらぬよう願います」
ちょ!? ヤバいこれ。
こんなの1発当たっただけで、ジローみたいに戦闘不能にされるし、これ程の威力の魔法銃なら、ヘタすると手足千切れちゃったり、頭に当たったら即死だ。
「マリーちゃん、冷静になるさー、俺ぁなら大丈夫……。なあに、お姫様のキッスでもあれば、完全回復さぁ」
わざと軽口言って、私を安心させてるようだけど、顔色めっちゃ悪そうだし脂汗かいてるし、全然大丈夫じゃなさそう。
どうしよう、考えなきゃ……私を庇ったせいでジローが。
状況をなんとかしないと、この突入作戦が失敗する。
「ぎゃっ!」
「グアッ!」
精鋭の竜騎士団達が次々に、銃弾を浴びて負傷して倒されていく。
そうか、相手も消音器を使ってきて、姿が見えないから多分透明化してるんだ。
「ふふ、どうやらあたしにも銃の才能とかあるみたい。ジョンに前世で習った事あるの。羨ましい? 小娘! あんたなんかに、ジョンは渡さないっ!」
その声色はアンナだ。
そうか、さっきの銃撃はアンナからのもの。
でも声の方向は……天井だ。
おそらく、精霊魔法を使えるフランソワ人だから、透明化魔法を使いつつ、彼女は風の魔法で天井に浮いた状態でいるか、もしくは天井裏に潜んでる。
「そこだ!」
私は声がした方向に、魔力をうんと高めた魔力銃ルガーを撃ち込むと、天井に大穴が空き、ガラスの割れる音がして水晶のかけらがパラパラと落ちる。
「しまった、これは魔法の水晶玉」
侵入者対策で、あらかじめここに設置されてたんだ。
すると、私の後頭部に熱い筒状のものが押しつけられ、髪の毛が焦げた匂いがしたが、もしかしてこれって……。
「さよなら泥棒猫」
殺されるっ! ヴァルキリーにならなきゃ。
いや絶対防御で……。
ジローも負傷しながら、必死に銃を構えるけどだめだ、間にあわ……。
瞬間、後頭部に銃口を押し付けられた感触が無くなって、空気が爆ぜるような音がした瞬間、天井が一部崩れ、再び私に銃口が突きつけられた。
「てめえ! 俺の後輩を殺してどうすんだアバズレ! ジョンのガールフレンドは、野郎への交渉で使うのに、お前アホか!」
どうやら寸前のところで、魂がレスターに切り替わったみたいで、なんとか助かった。
……いや、全然助かってなんかいない。
私が人質にされてしまった事で、騎士達も動きを止めて、悔しそうにレスターを睨み付けてる。
私達は完全に、背広姿のライフル持った集団に取り囲まれてしまった。
「なかなかやるようだが、経験の差がモロに出たな。前世のサツ連中なら、人質の事なんざ考えなしに、屋敷に銃弾の雨を浴びせてきたか、屋敷に火をつけることくれえはしてきた。ジョンは嫌がったが、野次馬の奴らに、私服のサツがいるかもしれねえから、逃げる時にマシンガン撃たなきゃならなかったしよ。それに比べりゃあ、おめえら甘々だぜ」
無茶苦茶言ってるよこの人。
いや、無茶苦茶なのはこの人が生きてた時代の警察か。
「まあ、お前ら二人は糞生意気だが、俺の可愛いデリンジャーギャング団の後輩でもある。殺しはしねえ、サツは別だがよ」
レスターと、手下の黒服の男達は黄金竜騎士団の面々に銃を向ける。
「……お前変わってねえな……ネルソン」
「ああ、娘っ子の姿してるから、誰かわからなかったぜネルソン」
「ネルソン、リーダーから言われなかったか?」
「ああ、そうする必要はあるのかと」
口々にレスターに向けて呟くが、この人達も前世の……記憶を思い出しつつある?
「てめえら……そうか、そういう事かい。ちくしょう、お前らも生まれ変わってジョンの所で遊んでるわけかよ、俺抜きで。来い、マリーとかいうボインちゃんよお。お前らはそこで待ってろ、犬もだ。怪我人を治して俺の手下を解放しろ」
私は両手を後ろ手に鎖で縛られ、猿ぐつわされ、レスターの手下にルガーと鉄パイプ状態の杖、ギャラルホルンを奪われて王座の間まで連れていかれた。
重厚な木製の扉を開けると、目の前にはタンスがバリケードのように置かれ、ジグザグに遮蔽物が置かれているが、おそらくは突入してくる相手の行動を制限させて時間稼ぎに置いているんだろう。
彼女、いや今は彼と言ったほうがいいかもしれないけども、銀行強盗で培ったスキルのようなものだ。
デリンジャーは執務机に向き合い、玉座に縛りつけながらこっちを睨みつけているけど、今の状況良くないわ。
デリンジャーを助けようとしたのに、逆に人質にされちゃったし。
先生は確か、私にこんな事を話してくれたことがある。
「マリー、おめえさんに今日話す話題はよお、相手にさらわれた時の話だ。前世の若い時や転生後も何度も経験したことあるが、こいつはなかなか精神的にくるもんがある。特におめえさんは女の子だから、それこそきついことされるのも覚悟しなきゃあなんねえ。だから、俺はおめえにそのことを話してやる。まあ、そういう間抜けな事態にならなきゃいいんだがな」
さすがヤクザな勇者だけあって、そんな危ない目に何度もあってるんだなって思ったっけ。
「まずよお、サツにパクられた時の話は置いておくぜ。さらわれる理由は同業者だったら、だいたいが相手側のシノギの障害になったり、恨み買われたときとか、喧嘩の時よ。まず覚悟すんのは、過酷なヤキだ。俺が前世で一番最初にさらわれた時は、盃もらったばっかの17、8のガキの時分でな。いきなり腹ぶっ刺されてよ、車に押し込められたわけだ」
「あ、はい」
「そしたらよ、やったのは男二人と女の三人組だった。指示役が女で、男二人は女の関係者。俺は、腹刺されて気を失う振りして野郎らの隙を伺っていたわけだ。とりあえず、体かわすためにさ。けど、両手縛られたし、車どっかに向けて走ってるし、ドア開けて逃げようにも走行中の車だし、めんどくせえなあって」
転生前の私だったら恐怖で震えちゃう状況だけど、そういう状況をめんどくせえって思えちゃう先生が、凄いって思ったっけ。
「そんな事考えてたら、顔をぼっこぼこに殴られたわけさ。意味わかんねえだろ? だから俺は気を失ったふりしてじっと奴らの話聞いてた。そしたら、主犯格の女はなんて言ったと思う? こいつが、あたしに二股かけた東海興業のジゴロのマサだよ! やっちゃえユタカって。そんで、俺を殴ってる野郎は拳をピタリと止めた。え? こいつヤクザもんなの? えっちゃんって言ってよ。運転席の男が言った、やべえよ豊君さ、ヤクザにこれだけしちゃったら、仕返しされる。殺しちゃおうかって」
つまり相手はヤクザじゃなくて、女が知り合いの男をけしかけてヤクザ襲わせたって事なんだろう。
おそらく先生の話は、1960年後半の昭和中期の話なんだろうけど、現代と違って治安悪すぎてこわって思ったっけ。
「そんで俺を殴った野郎は、山に埋めるだのなんだの言ってるわけよ、一丁前に。馬鹿じゃねえのかよ、そんなもん女一人と男二人で、人一人埋める穴なんざスコップあっても簡単に掘れるわけねえだろ、アホの素人めって思ったわけだ。そんで俺はそいつらのヤキにビビるどころか、思考を切り替えた。こいつらの車売っぱらえば金になるし、女も落とし前で売女にしちまえば金になる。車持ってるって事ならば多分金持ってるだろうし、男共も家族親類巻き込んでこのネタで恫喝続ければ、俺の集金マシーンになるなってさ」
つまりは思考の切り替え。
ネガティブな精神状態を、いかにポジティブに持っていくかがカギと言うお話だった。
ていうか、そもそもの原因は先生の浮気のようだった話だけど。
「それで先生はどうしたんですか?」
「おう、俺もどうせ1回寝ただけで俺の女面した、名前が悦子だかなんだかって目星つけた。そんで馬鹿二人は豊と雄三ってのがわかったわけだ。ここまでわかりゃあ十分だって思って隙見てよ、脱出さ」
「え? 走行中の車からですよね? どうやったんですか?」
「まず後部座席の野郎を、頭突きでボコボコにすんだろ? そうすっとその女は馬鹿だから、車止めろって言うだろ? で、運転手の野郎もテンパってブレーキ踏むだろ? 縛られた両手でなんとかドアロック外してドア開けんだろ? するとパラシュート開くみてえに、風圧でさらに車の速度落ちんだろ? あとは車からダイブよ。そんでナンバー覚えて、ダッシュで体かわしたわけさ」
なんか、前世からハリウッドのアクション映画みたいなことしてるよ、この人って私は思った。
そう、自分に圧倒的に不利な状況であるならばまずは安全なところに一旦身を引くのも、一つの方法で、最終的に勝てばいいってお話。
「そんで、そこはもう山のふもとだったから、往生したぜ。半日かけて組が面倒見しているところに辿り着いた俺は、組で世話になってる兄貴にこの件を報告した。そっから、兄貴の許可とって地獄のヤクザの追い込みよ。素人なんかになめられたら、ヤクザ稼業なんかやってられねえからな」
うわぁ、自業自得とはいえその人たちのその後を思うと同情する。
「酷ぇのは、最初報告した兄貴だったぜ。てめえ、素人と女にこんなざまにされやがって、なんで相手ぶっ殺すなりなんなりする気合見せなかったんだって、腹刺されてんのに木刀でヤキよ。もうね、渡世の理不尽さを身にしみて感じたよ。ぶっちゃけ、木刀のヤキの方が痛かったけど、頭と顔と腹と利き腕はヤキが入らなかったから、兄貴の優しさを感じたね」
うん、全然意味わかんないって私はその時思ったっけ。
「こんな感じで素人の場合は隙だらけでいいが、問題はこういうのを生業にしてる玄人の集団だ。俺も印象に残ってるのが、2回目に担当した世界で敵にさらわれた。そこは、まあきつかったよ……。魔界の悪魔って言われる勢力の残党共が悪さしてて、弱い奴らを文字通り食い物にしてやがる世界だった」
「え? でも先生が魔界は勢力下に置いたって言ってたのに、先生が手こずる魔王軍みたいな勢力が、次元世界のあちこちあったって事ですか?」
「ああ、魔界は酷い環境だったからな。ルシファーってのが、移民政策ってのを打ち出して、それに感化された大魔王や魔王連中が多かった。ジークのカスによって、この世界に呼び出された魔王連中の一派もその流れだろう? 俺は女に騙されて一服盛られてよ、気がついたらさらわれてて、磔にされて処刑にされる寸前だった。やべえだろ?」
やばいって言うか、そこまでに至る経緯がよくわかんないし、状況が酷すぎて意味わかんないって私は思った。
「まあ、こんな事は一度や二度じゃねえから、俺はまずやろうとしてる背後関係の動機を探ったわけさ。処刑人の野郎に聞いたら、そいつボンクラで話わかんねえ感じだった。だから、上のもん連れて来いって言って誘き寄せようと思ったんだ。まあ、通じなくて、槍で腹ぶっ刺されたけど」
お腹刺されて、殺されそうな状況で先生がやったのは死んだフリ作戦。
心臓を魔法で止めたフリして、上役を誘き寄せたという事だった。
「俺の心臓が止まって、俺が死んだと思ってのこのこ上役が出てきやがった。そいつは魔王アンドラスって野郎で、異世界で力蓄えて、旧魔界……今はルミエール・ソレイユって名前にした世界を縄張りにって考えてたクソボケだったわけよ。俺の命とって代わりに支配しようと企みやがった、縄張り荒らしだ」
「それで、先生はやっつけたという事ですね」
「おう、昔見た漫画のように阿修羅バスターくらわした後、フクロウみてえなマスクしてたから、それはぎ取った後で、ヤキ入れよ。で、勘弁してくれ死にたくねえって泣き入れやがったから、ケジメで小指落とさせて金ふんだくってやった。それであくまで死んだって事にしといて、俺の丁稚にしてやったな。なぜなら、さらに魔人のワルがその世界にいたもんでよ、ちょうどいい鉄砲玉が手に入ったぜってな」
先生の事、悪の魔王や魔人よりもある意味タチ悪いって私は思った。
けど、こういう人じゃないと強い悪には勝てないのかもとも。
「さらわれたとしても絶対に付け入る隙はある。諦めの選択肢は、世界を救うものに許されねんだ。だが、おめえは女の身だからある意味じゃあ男よりもきついヤキが想定される。そういう目に遭わねえように、よーく考えるんだ。そしてもしもそういう状況になったら、周りを見渡せ。そして女であることもおめえさんの武器だ。その指輪の力もな」
そう、私にはまだ生命力と魔法量を消費して唱えられる指輪の力も、本来の召喚魔術だって残されてる。
女の武器ってのは、そのー、ちょっと恥ずかしいから使えないけど。
あとは、どのタイミングで召喚を使うかが勝利の鍵。
「マリー、くそっ! おいネルソン! 彼女を放してやれ!」
「それは俺の話が終わってからだぜ、ジョン。なかなかいい乳してるじゃねえか、小便臭そうな小娘だが悪くねえな」
レスターは、私の体をまさぐり始めた。
く、駄目……抗えない、なんなのこれ。
レスターの体は小柄で顔があどけない感じの可愛い女の子だけど、こんなこと……ダメだって、頭がぼーっとして声が出ちゃうし……あ!
「へっ、胸の間にこんな代物隠し持ってやがったぜ。顔に似合わず、なかなかのじゃじゃ馬だぜ。見たことがねえナイフだな」
私が最後の手段に隠し持っていた、先生から預かってるドス。
私の武装が完全に奪われてしまった。
「なんかよお、ちょっとムラついてきちまったぜ。このアバズレの体まさぐっても、自分の体いじってるみてえで全然だが、久々に女の体触れるとたまんねえよな」
「てめえふざけんな! ヘレンに、お前のカミさんに言いつけてやるぞ!」
「馬鹿野郎ジョン、それこそまた蜂の巣にされちまうじゃねえか。それにヘレンは……地獄にいなかったから天国か別の世界に生まれ変わってんだろ? 俺の勘だがよお」
二人共英語使ってて、意味は分からないけど何かを言い争ってる?
「よう、はやい所さ、決めてくれねえかなジョン? 俺を仲間に入れてくれるのかよお」
「その前に、マリーを解放しろネルソン。そうしたらおめえの話を聞いてやる」
「あーん? それじゃあ意味ねんだわジョン。デリンジャーギャング団の掟、入団希望者はリーダーとほかのメンバーから承認される必要がある……だろ? だからこいつにはここにいてもらう……クソ! アバズレ! おとなしくしてやがれってんだ」
レスターは、ピストルをこっちに向けてきたのと同時に、手下達も私達に銃を向ける。
まずいわ、こいつ全然隙がないし、魂が二つあるせいかどっちかが主導権を握ろうとして、ひどく不安定な状況。
そして、もう一人のアンナは私を殺そうとしてるし、透明化魔法とか強烈な魔力弾を使用する、魔法の使い手。
なんとかして召喚する隙を見つけないと。
魂が入れ替わった瞬間?
いや、アンナだと確実に私を殺しにくるし、レスターの場合は抜け目のない歴戦のギャング。
どうすれば……。
その時、魔力の力で灯っていた筈の大統領宮殿の照明がふと消えて、しばらくすると非常用魔導装置に切り替わったのか、すぐにまた明かりが灯った。
「んだよ、ジョン。おめえんち、電気とかちゃんと払ってんのか?」
「知らねえよ、だいたいこの世界の魔導システムは、人間の魔力に反応してるんだ。どういう仕組みかは知らねえ」
すると、王宮の間にいたレスターの手下の一人が消えていた。
この部屋には6人いたのに、5人になってる。
「リーダー、ガストンがいねえ」
「さっき真っ暗になった時、消えちまった」
レスターの手下はライフルを持ちながらキョロキョロして辺りを見回す。
なんだろう、神隠しに会った感じで本当にいなくなってる。
「どうせトイレだろ、勝手にこの場を離れやがって」
その時、一階にいたレスターの手下が、血相を変えていきなり部屋に入ってきた。
「リーダー、やべえよ。突入してきた野郎らの姿が消えちまって、マルタンやニコラ達も姿消しちまった! 何か俺達に起きてる!」
「なにぃ……」
レスターも、辺りをキョロキョロと見まわし始める。
一体、何が?
「シーッ、私だマリー君」
ロバートさん!?
透明化魔法を使って気配も完全に消して、私達を助けにきたんだ。
「私の合図で突入したようだが、君たちが先に攻撃してくれたおかげで、私も相手の戦力を削ぐ事に成功した。前世の若い時代、私がいた騎兵隊の分隊も、ベトコンにブービートラップや、狙撃されて一人ずつ消されていったが、その恐怖はなかなかのものだぞ」
ベトナム戦争こわっ!
ていうか、平然と敵にも同じことできちゃうこの人もこわっ!
「それにそろそろ頃合いだマリー君。召還を使うんだ。円卓の騎士団か、武神隊四番隊、またはグレイフォックスでもいい。この場合は数で攻めるべきだ」
私の猿ぐつわが外されて、私を縛っていた鎖も解かれた。
指輪に魔力を集中して、なんか一番強そうな名前の軍団を召喚する。
「いでよ武神隊四番隊、この状況を打開して!」
続きます




