第7話 男と女
「エリザベス様が!? 大逆人!?」
「ありえる話だ。王様と姫様の件出来すぎてる」
「しかし上からの命令だ従う他ない」
「いやマリー様が陛下を殺す意味がわからない」
私が王国海兵に宣言すると、海兵達が一斉に動揺し始め、勇者が拍手する。
すると、南の島なのに、暑苦しい赤い全身鎧のロングソードを装備した、総勢30名の騎士の一団が現れた。
あれは……まさか!
「我々は栄えあるヴィクトリー王国近衛師団所属、ヨーク騎士団である。殿下、お気持ちは察します。しかしながら、我らがエリザベス女王陛下の決定は絶対です。女王陛下に逆らうのならば、反逆罪として処断いたします」
どうしよう、彼ら近衛師団の騎士隊は、王国の精鋭……いくら最強勇者でもレベルが下がった今の状態じゃ……。
「なあ、なあマリーちゃん? あの赤い鎧着たクソボケ共、何て?」
「ええと、エリザベスに忠誠を誓ってるから、反逆罪として処断するって……」
私が説明すると、勇者の顔が恐ろしい修羅の顔に変わる。
「ああん? なんだとこの野郎。じゃあさ、この剣士様と、一騎討ちする度胸がある騎士野郎がいれば出てこいって聞いてくれる?」
勇者は、棍棒を握りしめる。
いやいやいや、そんなんじゃ勝てないでしょ。
ええい、もう知らない!
「彼は、この世界に召喚された異国の剣士です。一騎討ちに応じる騎士がいれば前へ」
私が宣言すると、一人だけ兜を被ってない赤い羽付き帽子を被った壮年の騎士が前に出る。
あれは……オーウェン卿!
サー・オーウェン・クルス・ジョーンズ公爵。
ヴィクトリー城で見た事ある。
あの鋭い眼光と、赤揃え、間違いない。
王国騎士団、剣術指南役の一人。
大剣クロスクレイモアの使い手にして、剣聖の一人と呼ばれる、魔法と剣技の腕は、大陸国家でも一目置かれる達人だ。
「ふむ、剣士とな。黒い髪に黒い瞳の肌が薄い黄色の蛮族よ、私が相手をしよう。王女殿下、立会人を願います」
そして、騎士団が人間の背丈を超える、長大なクロスクレイモアを、オーウェン卿に手渡す。
「ほう? なかなか良い道具持ってんなこのガキ。気に入った、俺が勝ったらアレを貰おう」
いやいやいや、向こうの方が年長者ですから!
なんなのこの勇者、どこまで俺様態度なのよ!
すると、勇者はオーウェン卿に頭を下げ、棍棒を持って右足を前にして、右腕と棍棒を突き出すように、脱力しながら半身の構えになった。
オーウェン卿は大上段に構えるけど、なんだろう……素人目に見ても、この勇者の構えと雰囲気が、剣の達人のような。
「王女殿下、この者、私を超える剣士かも知れませぬな。異国の剣士よ、貴殿を蛮族と申してすまぬ……いざ勝負!」
オーウェン卿が勇者に踏み込んだ瞬間、クレイモアがオーウェン卿の右手から落ち、勇者はオーウェンの左肩を棒で叩いて、オーウェン卿は膝をついた。
え? 何? 何が起きて……。
すると周りの騎士団や海兵が騒めいて、口々に呟き始めた。
「あの黒髪の男、達人だ……」
「然り、最速の大上段で、相手の右手首に打ち込んだオーウェン卿を、逆にカウンターで打ち下ろし、卿の右手首を砕いたのだ」
「うむ、そして二撃目で肩を砕き、戦闘不能にしたのだろう」
すっごおおおおい。
棒一本で剣の達人を倒しちゃった。
いや、木でできた棒の色が真っ黒く変わって……金属になってる。
剣だけじゃなく、魔法も一流なんだ。
私やっぱり、とんでもない勇者を召喚してしまったかも知れない。
そして、勇者は膝をついたオーウェン卿を見下ろし、棍棒を差し向けてる。
「今のは、小太刀の誘い出小手って技さ。どうする? 今度は魔法戦でもやってやろうか?」
「私の負けだ……どうやら、まだまだ剣の道を精進せねばならぬらしい……私に次があればだが」
オーウェン卿が敗北を認めた。
あの、王国剣術指南役の一人が。
勇者は左手に、真っ白く白熱する、光の球を具現化した。
「覚悟が出来たみてえだな? あんたなかなか、いい男っぽいが、俺の邪魔をするなら消えてもらうぜ」
止めなきゃ!
このままじゃ、あの勇者に、王国の至宝と呼ばれる剣聖が消されちゃう……あ、勇者がこっちチラ見して来た。
目で何かを訴えるけど……そうか、そういう事ね。
「しょ、勝負ありです! 一騎討ちの勝者は、黒髪の剣士!」
私は、サッカー審判のように右手を高く上げ、勇者の勝利を宣言した。
「クソ、ならばこの私が一騎討ちを」
「いや私がオーウェン卿の仇を取る」
「いや俺がお師匠様の仇を!」
うわぁ、一騎討ち終わったのに、今度は騎士団が全員、俺が俺がと勇者に一騎討ち仕掛けようとし始めて……まるで小学校の頃、遊具を取り合って、自分が一番だと争う男子みたい。
「やめろ貴様ら! 今の私の決闘を愚弄する気か!? 貴様らが勝てる相手ではない!」
「しかし団長! 我々は栄えあるヨーク騎士団、我々に敗北は許されません!」
「団長、我々はあなたの教え子! 師匠の仇を取るのが、弟子の務め!」
ああ、収集つかなくなって来た。
どうしよう……。
「マリーちゃん、こいつらなんて言ってる?」
「えーと、師匠の仇を取るのは弟子の務めと……我々に敗北は許されないと」
すると勇者が大爆笑した。
何がツボにはまったんだろう、わけがわかんない。
「そうか、なるほど、親方の仇を取るのが子の務めってやつか。俺が力を示して勝ち目がない勝負であろうと、向かってくるとは……いい、こいつら男だ! マリーちゃん、あんたの国は腐っちゃいねえ! 素晴らしい男達だ! 人間らしい情が溢れる、男の中の男達だ! ぶっ殺すには惜しい!!」
勇者の体が真っ白く光り輝く。
何だこれ……状態確認
私が勇者の状態を確認すると、スキル、意地の輝きで……嘘! ステータスが跳ね上がってる!
「マリーちゃん、こいつらに言ってくれね? 俺はお前達全員を男の中の男と認めるので、全員でかかってこいと。俺が負けたら命をくれてやる、そのかわり、俺が勝ったらお前らの大剣を貰うとな」
私は言われた通り、ヨーク騎士団全員に告げると、全員が一瞬驚きの表情をした後、敬意を示すようにクロス・クレイモアを勇者に掲げだした。
「黒髪の剣士よ、我がヨーク騎士団に、教え子たちに、騎士として男として、名誉ある戦いを与えてくれた事、このオーウェン・クルス・ジョーンズ、感謝いたす」
わからない、男って全然わからない。
こんなやり取りしなくても、お互い分かり合えるはずなのに。
あ、スキル博徒の美学というのが発動して、またステータスが……。
そして、スキルが発動している事に全く彼は気がついていない。
そうか、これが彼の戦い方なんだ。
「さあ、この勇者に向けてお前らの男を見せろ! 人間としての輝きを! 男の意地を見せて見ろ! 全員かかってこいやオラアアアアアアアア!!」
「ヨーク騎士団、いざ参る、かかれええええ」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお」
「我らの誇りを見せてやる!」
「相手にとって不足なし!」
ヨーク騎士団全員がクロスクレイモアで、勇者に斬りかかるが、勇者は全員へ目にもとまらぬ速さで動き、棍棒を振り下ろし、一人、また一人と戦闘不能にしていった。
強すぎる……この勇者……やっぱり剣の達人。
そして、勇者に斬りかかったヨーク騎士団全員が血を流し、ある者は怯えた目をして、ある者は何とか一太刀を入れようと隙を伺うように、勇者を取り囲む。
「どうした……来いよ? 俺が男の中の男と認めたてめえらの力はそんなもんか! 道具握ったらよ、相手に向けて一直線で突っ込むんだ! 勝てる勝てねえじゃねえ、てめえらの全身全霊を込めた男の輝きを、人間としての生き様を、この俺に見せて見ろ!!」
勇者が棍棒を構えると、騎士達は次々と斬りかかるけど、頭、肩、手首に打撃を受けて、騎士団全員が膝をついた。
すると、オーウェン卿がマインゴーシュ片手に、立ち上がる。
骨折している筈なのに、なんで……なんでこんな。
「言っていることはわからぬが、貴殿の想い、心がその太刀筋で理解できた。こんな男が……誇り高い武人がいたとは……。この世は、未知と美しさに満ちている! この私が全身全霊で剣を交えるに値する、最高の剣士に巡り合えたこと、神と、祖国ヴィクトリーに感謝! いざ尋常に勝負!」
オーウェン卿がマインゴーシュを構えると、騎士団が歓喜の歓声に沸き、手甲で、剣を叩き、二人を称え始めた。
なんで……勝ち目のない戦いに、男の人って意固地になるの?
「マリーちゃんよ、これが男だ! 男が持つ美しい輝きだ。どんな相手だろうと、自分の意地を通すため、自分の誇りと守るべき者がいる時に放つ、美しい輝きよ……。そして、この思いに応えてやるのも、また男!」
わからない……意地や誇りをぶつける前にやるべきことがある筈。
人と人とがわかり合えるのは、そんな事をする前にやるべきことがある筈だ。
「さあ、来いよ? その短剣で俺の胸を突くか、俺がおめえさんの頭を吹き飛ばすか……勝負しようぜ」
「貴殿に、我が全身全霊をぶつける! 我が剣士人生に一片の悔いなし!」
私は、無我夢中で一直線に駆け出し、二人が勝敗を決めようとするその刹那、私は二人の間に入った。
「な!? マリーちゃん!」
「姫様!?」
この二人には、死んでほしくない!
「スキル、絶対防御!!」
私のスキルで、二人を吹き飛ばした。
互いが意地を張り合う前に、人が死ぬ前に、私は女としてすべてを受け止める!
「あなたたち、男が意地を張り合うならば、私は……女として、片方の誇りだけでなく両方の誇りを守る! 私は二人には死んでほしくない! そして……勝負ありです!」
「マリー様、しかし」
「まだ我らは」
「もう少しだけこの戦士と」
ダメだ、騎士達は勢い付いている。
私はあなた達に、これ以上は……。
「うぉらぁ! この王女様がヤメと言ったらヤメだ! てめえら跪け!」
勇者は、日本語でがなり立て私の前に跪いた。
すると先程まで戦いあってた男達は、全員が私の前に片膝をついて跪く。
そして勇者は私を見てウインクして来た。
わからない、どうしろというの?
「この戦いに敗者はいねえ。騎士達の名誉ある戦い、お見事でしたって、言ってみ?」
そうか、この勇者は私の気持ちを汲んでくれたんだ……やはり、この人は勇者だ。
性格にやや難ありだけど……。
「この戦いの立会いを見届けた、王女マリーが宣言します! この戦いに敗者はいません! ヨーク騎士団の名誉ある戦い、お見事でした」
すると、騎士団とこの戦いを見守っていた、王立海兵隊から、歓声と拍手が巻き起こる。
「うおおおおおおおお!」
「マリー様万歳!」
「ヴィクトリー王国に栄光あれ!」
そして騎士団から、クロスクレイモアが勇者に差し出された。
「へへ、悪くねえ道具だ。俺が持つ喧嘩道具に相応しい。マリーちゃん、これ持ってみ?」
いやいやいやいや、そんな大きな剣持てないんですけど……私、女の子ですから!
勇者が軽々片手で大剣を持って、私は仕方なく両手で受け取るが……あれ重いは重いけど、私でも持てる。
まさか……状態確認
嘘……私の召喚レベルが15に上がってる。
ステータスも上昇して……なんで?
「ああ、召喚された俺が戦ったから、マリーちゃんのレベルとやらが上がったんじゃね? 親の総取りってやつかな?」
そうか、私が召喚した者が戦えば、経験値が私に入る仕組みになってるんだ。
「勇者さん、あの人達の名誉を守ってくれて、ありがとうございました。彼らは名誉ある王国の近衛師団の騎士団ですから」
すると、勇者はニヤリと悪魔のような、邪悪な笑顔になる。
「ほう、近衛か、良いこと聞いた。じゃあさ、エリザベスの連絡先知ってるよなあ? マリーちゃん、そこの赤い帽子の騎士に、エリザベスと連絡取るよう指示してくれる? あと、彼女の情報とか教えてくれるかな?」
え……何をする気なのこの人。
なんかすごい嫌な予感するんですけど。
知人から、タイトルなげえよ、流行りに簡単に乗ってアホじゃねえの? と嫌味を言われたのでタイトル変えました、皆さま申し訳ありません。
m(_ _"m)ペコリ