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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第二章 魔女は楽になりたい
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第69話 古き英雄と新しき英雄 後編

 そして青白い光が変質していき、私の体が白い光に包まれる。

 

 つけていた光の神のペンダントも消滅し、目の前にあるのはまるで、転生した時のような光のトンネル……。


「そうか、どうやら私はこの世界を守って死ぬみたい。今回は楽に死ねそうだからよかった……のかも」


 光のトンネルを間もなく抜けるみたいで、目の前に眩い光が見えてきた。


 そう、確かこの光景は前に死んだ時と同じ、光の道と天国とも天界とも言われて……


「いや……まだ死にたくない! 私は、この悲しい世界を救うと決めた。魂に傷を負って転生して英雄として自分を取り戻しつつある人や、この世界で出会った人たちの人間の尊厳を、魂を弄ぶような非道に負けたくない!」


 神様……心ある強くて優しい神様、そんな存在がもしもいるならばどうか、私に世界を救う力を!


「もう二度と、私は人生や運命からは逃げない! 先生のような強い人に、誰かを守れる力が欲しい!」


 するとドレスが焼けて全裸になり、フレイアの破壊魔法で分解されそうになった時だった。


 私の胸に黄金に光輝く胸当て、肩甲、手甲、腰当、膝当、足甲が次々と装着されていき、鎧には今までと違って、背中に黄金に光り輝く羽根がつく。


 頭に光り輝くカチューシャが装着されると、耳を覆い、アゴまで伸びて急所をガードするヘッドギア、いやヘルメットのようになり、今まで以上の力が湧いてくる。


 首には、フレイアの攻撃で消滅した筈のピンクゴールドを細工したような、中心にルビーが入った薔薇の形のペンダントトップが再び具現化した。


「これは一体……」


 私が思わずつぶやくと、フレイアの放った青白い矢の光がかき消える。


「な! なんですって!? アタシの破壊魔法で消滅しないなんて!?」


 フレイアは、激しく動揺しているようだが、何が私の身に起きたんだろう。


「召喚魔術・光神(ヘイムダル)召喚」


 私の頭上に、光の文字が浮かび上がり、黄金に光り輝く鎧を着たイケメンが現れる。


 確かこの神は……確か私に力を与えてくれて、ロキに殺されたというヘイムダル、最上級神……だっけ?


「心正しき乙女よ……戦乙女(ヴァルキリー)よ、君がこの世界を救うのです。この世界で新たに生まれた、心ある英雄達と共に」


 私に告げると、光の神はフレイアを見据えた。


「あ、あなたはヘイムダル……どうして、死んだはずじゃ? なぜこの人間の女に力を……」


 フレイアは、私が理解できない言語でこの神に何か言っているようだが、顔も山羊になってて表情が読めない。


「全ての次元世界の生命の魂の光と、星々の光がある限り私は不滅だ」


「そんな、おかしいわよ! 例え神であっても魂が消滅したり、人間からの信仰心が無くなれば死ぬ。あなたの魂は、ロキのせいで確かに消滅したのに! そんなの全ての神を超えた、まるで逸脱者……まさか……」


「私の本体に気が付いたようだね? 私の本体も色々忙しくてね、多くの次元世界に分神や化神を作り出して多くの名を持ち……君達神々や、宇宙や世界、人々、星々や生命の光を見守っている。それでも、広大な次元世界全てを見通せるわけじゃないが」


 何を言ってるんだろうこの光の神様は。


 山羊顔のフレイアはこの神様を、私にもわかるくらい恐怖に歪んで怯えた顔で見てるけど。


「そ、そんな……ヘイムダル、い、い、い、いやあなた様の正体はまさか……ど、ど、ど、どうしてあなた様が、こ、こ、こ、ここに!?」


「私の本体が君に言った筈だが? 少しは人間の気持ちを理解するようにと。元々人間だった君なら、私の本体が言った事を理解できるはずと思ったが、私の千里眼でも君の今の、半ば邪神と化した姿と大罪は見通せなかった。残念だよ……」


 光の神は無表情でフレイアを見つめ、抑揚のない透き通った声で、私が理解できない言葉で何かを告げているようだった。


「君は、いや君だけじゃなくユグドラシルの神々は、オーディンを筆頭に大罪を犯しているようだ。私の本体が、生れ出る世界は慈しみをもって愛するようにと言った筈なのに……。全ての生命を愛するようにと願った筈なのに、君は私の本体の期待を裏切った」


「あ、ああ……」


「しかし分神のこの私も、今は力の大半を失い召喚された身……。召喚者が願ったこの世界を守るには、彼女の力が必要。そして君が人の身になった後も、生命と魂の循環と尊厳を、禁呪法魂召喚(セイズ)で好き勝手に弄び続けた罪は……すべての世界と生命と魂、そしてそれを生み出した……創造と光の神に対する侮辱……大罪だ」


 フレイアに何かを告げた後、ヘイムダルは私を見てにこりとほほ笑んだ。


「召喚術師にして戦乙女(ヴァルキリー)マリーよ、この元女神の非道に終止符を打つのです。私が君に与えた首飾りブリーシングと、新たな力ギャラルホルンで。君がこの悲しくも美しい世界の救いを願う時、私は君に力を貸そう」


 光の神が粒子の輝きとなって私が身に着ける鎧に乗り移り、元は冥界の杓だった私の杖は、形が概ねそのままだけど、笛のような無数の穴が空き、振ると不思議な音色を奏でる黄金の杖に形態を変えた。


「なぜだ、なぜお前はあのお方の巫女に選ばれたのだ! 人間界では救世主や預言者、そして選ばれし英雄や勇者でなければ、あのお方の加護は手に入らぬはずだ! お、お前は一体!?」


「知らないわよ。人間の美しさも、魂の輝きも無くした馬鹿女。私は、天界の天使の手違いとやらでこの世界に転生した日本の女子高生だけど……」


 ステータスを見なくてもわかる。

 今の私は……強い!


 眼下には、うっすら青く光り輝く地球のような星、ニュートピアがゆっくりと自転してて、さらに高空にはっきりと星々の海も彼方まで見える。


「この美しい世界は、あんたなんかに破壊させたりはしない! もう、あんたの好きにはさせないっ! 行くわよ、フレイア!」 


 私の魔力が倍以上に膨れ上がり、ロケットのように空を飛ぶ力が加速される。


時間操作(クイックタイム)


 天界の魔法で時の流れが緩やかになり、あの女が次に何を起こそうとするのか、攻撃のタイミングも……全てが見える!


 フレイアは、矢を目にもとまらぬ速さで番えて放つが、私は空を自在に飛びながら、矢の全てをかわして杖に魔力を込めた。


「すごい体が軽い、アニメや漫画で見た魔法少女みたいだ。当初圧倒されてたこの女との戦いで、正面から撃ち合える!」


 私がステータスのスキルを覗くと、使用可能な天界魔法が表示されて、まるでゲーム画面だけど……あった、これなら魔力量も少ない攻撃魔法。


虹星極光スターライトレインボー


 電子が収縮されて杖に吸収されていき一気に光がはじけると、フレイアに対して流星のような、尾を引く光の矢のような光線が次々と照射されていく。


 すごい、この魔法。


 私の意志で光が思い通りに放たれて、光を拡散させたり収束させて連射できてやばい。


 すると、フレイアからさらに禍々しい魔力反応を感じて、私は咄嗟に身構えるが、何をする気だこいつ。


 攻撃魔法? それとも新しい武器を具現化する?

 

「このままだと……いやまだだ! 私にはまだ奥の手がある! モード……グルヴェイグ!」


 山羊の顔から一転して、今度は元の人間の顔に戻ると、猫耳が生えてきて、鎧姿から黄金の猫の着ぐるみを着た姿になった。


「何よこれ。モードグルヴェなんちゃらってよりも、猫耳モードで雑なコスプレじゃ……」


「ほざけええええ、この姿だけは恥ずかしくてなりたくなかったのに……殺してやるっ!」


 猫耳姿になったフレイアは、次々と隕石のような魔法や、超高温のオーロラのような魔法を放つが、私は眼下の世界を守るため、バリアーを展開させた。


 すると隕石が何個か砕けると、死角からフレイアが一気に間合いをつめて、私に向かってくる。


「死ねぇ!」


 無茶苦茶な速さでフレイアが私に間合いを詰めてきて、パンチを繰り出してきたから、私は時の流れを緩やかにして、両手で杖を構えてバリアを張る。


 するとフレイアの拳からカギ爪が生えてきて、天界魔法のバリアが引き裂かれた。


「やばっ!」


 私は一気に後方に間合いを離すも、嫌な予感がして斜め右方向に軌道を変えると、空中でフレイアがアッパーカットを繰り出してきて、爪が私の頬をかすめる。


 私は咄嗟に杖を左手に持ち替え、胸甲に収納していた魔力銃ルガーをフレイアに連続で撃つと、一発放つたびに青白い光が粒子になって稲妻が走る。


 だが、猫の着ぐるみ姿になったフレイアに、ことごとく私の銃撃がかわされた。


 何とか隙を、こいつの隙を作りださなきゃ。


 確か先生は、私に戦い方を教える時にこう言ってた。


「相手が場の空気を一気に変えにきた場合、こっちは嫌な場面に陥る場合がある。そういう時はよ、相手の隙を待つんじゃねえ、隙を作るんだ。相手がビビる事したり、心に響きそうな事したり、言ったりして揺さぶりをしてやんのさ」


 エモい表現って奴かな?


 ネットで呟くといいね貰えそうな感じとは逆に、炎上させる感じの方がいい、ならば……。


「あんたはこんな美しい世界を、自分勝手に好き放題して……めちゃくちゃにして破壊しようとする馬鹿女だ!」


「なんですって!?」


「魂に傷がついてこの世界に転生した人を操って弄ぶなんて、何が神よ! あんたは……この世界で私を見守ってくれてた父ジョージを、お父さんを殺した。だから……」


 そう、この女のせいでヴィクトリー王国の王、名君と呼ばれたジョージは死んだ。


 私の事を陰で評価してくれてて、ずっと見守ってると言って微笑んでくれたこの世界のお父さん……。


 父の事を想うと、涙が流れてきて……だから……。


「だから……絶対にお前を許さない! お前なんか死んじゃえ馬鹿女!」


「黙れええええええええええええ!」


 フレイアが、猛スピードでこっちに突っ込んでくるけど、さっきの山羊顔じゃなくて、表情豊かな美しい顔にしたのは失敗よ。


 顔の表情が丸分かりで、頭に来てて冷静さを失っているのが手に取るようにわかる。


「もう少し、もう少しだけ引き寄せて……いまだ!」


 私は、魔力銃ルガーの銃身についた小型ライトに魔力を込めると、目前まで迫ってきたフレイアの顔面に出力をマックスにして照射した。


「うあ、眩しっ!」


 すると、あの女の目が眩んだみたいで、私への攻撃が空振りした。


 私はルガーを杖に一体化させて、渾身の打撃をあの女に、吶喊!


「ええええええええええええええいっ!」 


 杖をフルスイングすると、不思議な音色と共に風の魔力が増大して……あまりの力でハンマー投げの選手のように私の体が横に回転しながら、杖が特大の光のハンマーになり、フレイアの顔面を殴り飛ばす。


「きゃあああああああああああああああ!」


 物凄い速さであの女が地上に落ちていき、私は新たに得た鎧の力で、吹き飛ばしたフレイアの後を追うと、地上では先生と用心棒さんが、宙を舞いながら青白く輝く巨人と戦っており、港からかなり離れた海上でフレイアは海面に衝突する瞬間、何とか姿勢を立て直したようだった。


「こんな……何かの間違いよ! あんたのような人間が……あのお方の力を得て、アタシの力をも越えるなんて」


「いいや、間違ってるのはあんたよ。あんたはこの期に及んでまだ人の心を、私の気持ちを理解していない! この世界の美しさも、人間の強さも!」


 私が杖を両手持ちに構えて、フレイアに次々と光と電子の矢で攻撃する。


「マリーちゃん、援護するさー、死ねや不細工女(やなかーぎー)

「今だ、あのビッチの足が止まってる」

「攻め時だ、今こそ世界を、偽りの女神と英雄から奪還する時!」


 そして私を援護するためだろうか、みんなの銃撃や砲撃が、フレイアを攻撃して動きを止めた。


「クソッ、人間どもが!」


 フレイアがあまりの攻撃の苛烈さに、超高速で移動して陸地の方まで逃れ、私もその後を追いかけて、ギャラルホルンの杖へ魔力を込めていく。


 この角度ならば地表に当たらないはず。


 私が念じると、空気中の電子、陽子、重イオンが吸収されていき、電磁波で空間が歪み始めた瞬間、魔法陣が幾重にも具現化していく。


「いけえええええ、超荷電粒子砲(ライトニングバースト)


「そんなもの、二度とくらう……!?」


 フレイアが私の必殺魔法をかわそうとした時、電子の結界のようなものがフレイアを覆うと、その結界から光の槍のような魔法が、何本もあの女の体を突き刺す。


 動きが止まった馬鹿女はモロに私の魔法を受けた。


「父の仇め……お前は、私が殺すと決めた」

「ぎゃああああ、エリザベスめえええええ」


 フレイアは私の魔法で、吹き飛ばされていく。


 けど、エリザベスって……。

 まさかあの女、目を覚ましたの?


 私が視線を港で大破していたヴィクトリーの戦艦の方に向けると、甲板で黒騎士エドワードことアレクセイに、体を支えられているエリザベスがこちらを見つめていた。


 ちょうどいいわ、あの女にも私は言う事がある。


「マリー、私は……あなたに話が……」


「私はあんたに話なんてもうない! あんたが起こした戦争で多くの人が死んだ。もう、あんたなんかの陰謀なんかにも負けない! この世界に転生した私は、あんたみたいな悪には負けないから! ヴィクトリーを私の手に取り戻してやる!」


 そう、この女にはこれだけを言いたかった。


 いくらフレイアに騙されていたとはいえ、彼女がこの戦争を望んだ張本人。


 だから……私の今の力であの女もやっつけてやる。


 エリザベスの傍らにいる、オーディンの使者にして世界の破滅を望む、キエーフと言う国の最低王子も一緒に、今この場で倒す。


 私は、ギャラルホルンをエリザベスに向けると、エリザベスは両手で待ってほしいとジェスチャーした。


「待って、あなた……転生したって……一体あなた何者だったの? それに、死んだと思ったフランソワの王子が背広姿だし、イリア首長国ロマーノの王子もポロシャツみたいなのを着て、あなたは、いやあなたたちの正体は地球からの転生者なの!?」


 そうか、この女も転生者だった。

 おそらく私と同様、日本人。

 こいつの正体を掴んでやる。


「私の転生前の名前は、日本で学生をしてたけど、死んで生まれ変わった高山真里……あんたこそ、転生前は何者だったの?」

 

 私が日本語で語りかけると、エリザベスは顔面蒼白状態になって怯え出し、目を伏せながらアレクセイの手を引くと風の魔力でこの場から空を飛んで逃げ始める。


「待って、あんたの正体をまだ私は聞いてないっ!」


 私がエリザベスを追いかけようとしたら、先生の攻撃でボロボロにされた巨人が、猛スピードで私に向かってやってくる。


「フレイア様! くそ、な、何だこの力は!? お前は……マリアンヌではない!? この光の波動は、何者だ女!」


「マリー危ねえ! カス野郎がそっちに向かったぞ!」


 ていうか、こいつタイミング悪っ!


「せっかくエリザベスと、アレクセイを倒そうと思ったのに……いや、こいつを何とかする方が先!」


 巨人と一体化したジークが私に巨大な大槌を振りかざそうとするが、ようやくあんたの昔の妻じゃないって事がわかったみたいだ。


 私も風の魔力で急加速して、港の波止場に降り立つと、巨人を迎え撃つように杖を構えた。


「でやあああああああああああ!」


 私は振り下ろされる大槌に向けてガードするように杖で受け止めると、あまりの威力で足元のコンクリートが割れて飛び散って、物凄い力だ。


 それに火花が散って電撃が流れてくるけど、新しくなった鎧は巨人の力をものともせず、逆にどんどん私の体に、精神にエネルギーが湧きあがる。


 すると私の召喚魔法が発動し、ウンディーネが召喚された。


「ジーク、私が愛した人。私もあなたに伝えたいことがある……さようなら」


 ウンディーネの体が水と化して、巨人の体に纏わりつき、冷気に反応して凍り付く事で動きを封じたが、すぐにひび割れ始めて、この分だとそう長くはもたない。


「すげえ……どうなってやがんだ? いや、それについて考えるのは後だな。マリー、そのままこのカスの動きを止めてろ! 行くぜ!」


「親父、サポートするぜ! 時間停止(ストップ)


 巨人の周りの時空が、用心棒さんの天界魔法で停止する。


 なるほど、ああやれば時間が止められるのか、今度何かの機会に試してみよう。


 先生は刀を両手持ちにして、体当たりするように巨人に長ドスを突き刺すと時間が元に戻り、私にかかっていた力が急速に衰えていき、巨人が大槌を手から落とした。


 先生がさらにドスに捻りを加えて刃を押し込むと、刺された巨人の口や、刺された場所から、光と火花が散る。


「なんだ……巨人の膨大なエネルギーが吸われたと思ったら、今度は膨大な魔力の奔流が……貴様何を! クソ、光が……この巨人から離脱しないと、ぎゃああああああああ!」


「今だマリー、こいつを空の彼方へかっ飛ばせええええ!」


 私は、杖を両手持ちにして打席に立つバッターをイメージして、杖をバットのヘッドを立てるような感じで、まっすぐ前を見据えてリラックスさせて構える。


 ウンディーネの魔力が尽きたみたいで、氷の呪縛が解けた巨人は私に掴みかかろうとしたが、また動きを止める。


「今だ、マリー姫……早くこいつを、僕の意識が保てるうちに」


 フレドリッヒ!?


「僕がなりたかったのは、こんな英雄なんかじゃない。もしも生まれ変わりがあるならば、僕こそが偉大な英雄に……やめろ小僧! 早くこの巨人から逃れなければ死ぬんだぞ!?」


 そうか、彼も戦っていたんだ。

 アッティラとも、ジークとも言われた情念の塊のような男と。


「マリー姫、僕は君の事……大好きだ、だから早く!」


 私の目から涙が出てくるが、体重を後ろ足に乗せ、相手をボールと見立てて前足に体重移動させていき、あとは肘を開かず肩を崩さずに、コンパクトなスイングを……ソフトボールを空高く打ち上げるように、全ての力を込めてフルスイングのインパクト!


「いっけえええええ! これが私の流星衝(ホームラン)だああああああ!」


 思いっきり振り抜くと、ギャラルホルンが光のバットに変わり、不思議な音色と確かな手応えと共に、一瞬で巨人が空の彼方へと吹き飛んでいく。


修羅曙光(ヴァルナスーラ)


 先生が呟くと、まるで空が昼間のように明るくなったと思ったら、遥か空の彼方でピカッと光る大爆発が起き、遅れて大音響の爆音が空に響き、空に数えきれないほどの流れ星が流れ落ちた。


「俺の最強技の一つだ。盗んだ相手の魔力に俺の魔力も加えてやって、体内で魔力粒子同士を衝突させて爆発させる必殺の一撃よ。地上で爆発すると、大陸ごと消えちまいそうだから、おめえに野郎を宇宙まで吹っ飛ばしてもらった」


「うわ、えぐっ」


 あまりの凶悪な技の内容にドン引きした私は、思わず呟いた。


「それにあのガキ、最期の最期に男になったな」

「はい……まるで英雄のようでした」


 そう、フレドリッヒは男らしかった。

 私を庇ってくれて、男らしく私に好きって告白してくれて……。


「フレドリッヒ……」


 私は彼を思うと、全身に水膨れだらけの火傷を負って、髪の毛がボサボサになったフレイアは、怒りに満ちた顔で剣を持って突っ込んで来たが、私と先生は顔を見合わせる。


「よくも私のジークを、お前らああああああ」


 私はギャラルホルンを地面につくと、増大した土の魔力で、蟻地獄のような落とし穴がフレイアの足元に出来て、馬鹿女がはまる。


「きゃあああああ、また私に小癪な真似を」

 

 ついでに水の魔力も混ぜたから、もがけばもがくほど粘性が高い土で沈んでいく、底なし沼にしてやった。


「この私によくもこんな無様な……クソ! 出られない」


「へへ、いいザマだぜ馬鹿アマ。むかーし昔の転生前、縄張り(シマ)荒しに来やがった間抜けや、与太者を、山とかに連れてって同じように顔だけ土から出してやって、ヤキ入れたのを思い出すなあ。あ、転生後も似たようなことやったか」


 うわぁっさすがヤクザ、怖すぎるしドン引きなんですけど。


 すると、続々と先生の組織の人たちや、魂を覚醒させて自分を取り戻した各国の王子たちが集まり、フレイアを取り囲む。


「もう、あんたは逃げられない……。あんたのせいで、多くの人が不幸になった。父も、フレドリッヒも! 今こそ全ての非道を、この世界の人達の魂を弄んだ報いを受ける時よ」


「……殺すなら殺せばいいじゃない! せっかくアタシが生んだのに、愛してもくれない薄汚い人間どもめ!」


「ふざけんなよ……てめえの魔法のせいで、この世界に転生した可哀想な奴らの心も魂も歪んじまった! 人間を……魂の尊厳をなんだと思ってやがる! てめえ今すぐ落とし前つけろ! 詫びいれるなり指飛ばすなり誠意見せろオラァ!」


 先生がフレイアを睨みつけると、あまりの迫力に目を伏せてボソリと呟く。


「神であるアタシを認めぬならば、呪われればいい……こんな世界」


 フレイアのこの一言に全員殺気立ち、ジローがフレイアの頭を思いっきり蹴飛ばそうとしたが、先生は手で制止する。


「兄貴ぃ、もうくぬ馬鹿(ふらー)面倒さー。埋めてぃしまらー?」


「いや、こういう手合いは海に沈めるのに限る。こんな輩はもう女とも思わん。マリー姫よ、君はこいつに父上を殺された。君にはこいつに復讐する権利がある」


 ジローと龍が土に埋めるか海に沈めるか、問答してるけど、なんで……。


「なんで……あんたは……。私だってあんたの陰謀に利用されて、処刑されそうになって、こんな世界滅びちゃえって思って……。世界崩壊の召喚魔法発動して、モンスターとか沢山召喚しちゃって……」


「そうよ、あんたがこの世界をこんなにしたんだ! アタシはただ力を貸して……」


「けど、私は色んな人達と出会って、先生に色々教えてもらって世界を救おうと思ってるのに……なんで世界を担当してたあんたは……っなんて……無責任な……。あんたなんか殺しても、父はもう帰ってこない! 私を守ろうとしてくれたフレドリッヒも……」


 私の目から涙がこぼれ落ち、近くにいたジローが優しげな顔で私の肩に手を置いた。


「もういいよ、マリー姫。俺たちデリンジャーギャング団の掟は、殺しがご法度だ。それに……こんなビッチ俺達が殺す価値も意味もねえ」


 デリンジャーの言葉に龍もうなずき、先生は私を見て深いため息をつき、フレイアの前でウンコ座りする。


「デリンジャーの言う通り、俺たちがこんなズベ公に手を汚す必要ねえ。そんでよ、てめえがあくまでも自分が神って言い張るからには、神らしいケジメってのもあるだろう? そうだよな、ズベ公コラ?」


 先生の黒い瞳が一切光沢が無くなって、暗黒色めいた感じになる。


 この人消す気だ……。


 この期に及んで反省も後悔もないフレイアを、何らかの手段で殺す気満々な顔してる。


 憤怒の表情を通り越して、凍てつくような殺意を帯びた無表情になり、過去最高の恐ろしい表情になった先生がフレイアの目を見つめると、あまりにも怖すぎるのかフレイアは目を逸らす。


「俺たちはおめえにケジメはとらねえ。が、てめえが仮に神ならよ、せっかくだから神様の中でも、ケジメと殺し専門のお方にお越しいただくことにするわ」


 何それ……ケジメと殺し専門って。

 先生何を呼び出す気なの?


「二代目、そろそろ例のアップデート終わったろ? あとマリー、一旦指輪返してくれ。とっておきを召喚してやるぜ、ちびんなよおめえら」


「はい」


 涙をぬぐって私が差し出した召喚の指輪を先生が手にした。


 一体、何を召喚する気なの?

次回は、第二章ラスボスへのケジメです

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