第6話 その勇者凶暴につき
私は一体、何を召喚したの? 医務室の天井見たら確か……。
「召喚術式、勇者降臨」
という文字が浮かび上がって、いきなり全裸のイケメンがやってきたと思ったら、島の王国辺境兵や、領主のオリバー男爵を次々に……まさか、勇者とか召喚したの私?
あ、さっきの男がこっち戻ってきた全裸で。
うわ、なんかこっち見てニヤついてるんですけど。
ちょっ、怖いんですけど! 変態なんですけど! 何なのコイツ!?
にやけ顔の全裸のイケメンが迫ってくるとか怖いんですけど!
「Hi ladies, How are you? "How’s it going?」
ちょ、何か英語しゃべり始めたんですけど?
何がしたいんだこの変態?
通じないし、英語と微妙に違うし、ここの世界の言葉!
「ちっ、似てると思ったけど通じねえか。じゃあ、あの世界の言葉はどうだ」
あ、コミニケーション採ろうとしてんのね。
けど、私日本語とかわかるんですけど……。
「Saame tuttavaks! Vaga meeldiv?」
わけわかんないんですけど、宇宙語かな?
ていうかこの変態、語学能力とか高い?
「やっぱだめか、クソが! あそこにいる激マブとマブい看護婦口説けねえじゃねえかよ」
うわ、この男全裸で私たち口説こうとしてたの?
全裸でナンパする男とか初めて見たんですけど、超ウケるんですけど。
思わず私は、口に手を当てて笑ってしまう。
「お、金髪の君、いいねえ君。やっぱよお、女は笑ってる方がいい。まあいいわ、俺クラスの男だったら肉体言語で服とか脱いでくれんだろ。なあに、いつもの事よ」
いや脱がねえし!
何勘違いしてんの、この変態は……まあかなりイケメンだけど。
げっ、こっち近づいてきた!
ちょ、嫌なんですけど……なんで自分が召喚した男に私が!
「おう、君の名前聞かせてくれね? ちょうどおあつらえ向きのベッドとかあるし、そこの看護婦の姉ちゃんもいっしょに色々……」
すると、あんまり見ないようにしてた男の股間が……。
「いやああああああああああ変態!」
「へ? 日本語?」
私は思わず男を振り払うように、右手で上へはねのけようとしたら、ぐにゅッとした柔らかい感触が手に触れる。
「きゃああああああああああ、嫌あああああああ」
「ぎゃああああああああ俺の玉がああああああ」
男は股間を抑えてうずくまり、私は左手で右手をさすってさっきの感触を消そうとする。
なんなんだ、この男は……本当になんなんだ。
「だぁかぁらぁ、ここはどこで、君の名前は誰かって知りたかったわけよ俺は! まあいいや、怖い思いさせてすまなかった」
全裸の男は、ペチャラが持ってきた、昔スミス男爵が来ていた白いシャツと通気性の良さそうな、仕立てがいいズボンを履いて、私達の前に現れた。
あ、服着ると普通にかっこいい。
なんかジャニーズの、何だっけ?
この前会社作った時に脱退した、あの人に似てる感じ。
「ええと、あのう……あなたも転生者ですか? 私はこの世界のヴィクトリー王国に転生したマリーと言いますが、あなたは?」
すると男は私の前に立ち上がる。
「よくぞ聞いてくれたぜ! この俺様は幾多の世界を救い導いた勇者ま……まあいいや」
うわ、この男自分の事を俺様とか言い出した。
すごい、オラついててイキりすぎなんですけど。
あれだ、転生する時、キャラメイクしすぎてキャラになり切ってるのかなこの人。
それに何か最初自信たっぷりだったのに、名乗りを途中でやめたんですけど。
「ええとさ、これまでの君の経緯と、俺が何でこの知らねえ世界に来たかってのを先に説明してくれっか? 俺様超有名人だからよお、うっかり真名を名乗ると、この世界を管轄してる神と、俺の担当神とで喧嘩になりかねねえんだわ……縄張り荒らしってやつでさ」
自分で超有名とか言うか普通……。
ていうか、勇者って本当に神に仕えてるんだ。
でも、もしも私が天界で見たあの勇者だったら、召喚ガチャSSR出ちゃった感じだわ。
あの超絶チート勇者ならば、私の国を、そしてあの召喚を何とかしてくれる筈。
私は、今までの経緯を話そうと勇者の目を見つめる。
あ、やだ……やっぱりイケメン。
「ええと、私は天界で……」
「あ、やっぱいいわ。直接聞くより冥界魔法で君の事わかるから」
私は思わず、ずっこけそうになる。
そんな便利な魔法を使えるなら、最初から使えよと。
「なるほど、大体事情は分かった、かわいそうに……」
あ、なんだかちょっと悲しそうな顔つきになった。
悪い人……ではなさそう。
「ま、俺が召喚されたからには何とかなるんじゃね? ていうかよ、その天界のアホ天使、使えねんだけど? あとでその、召喚とやらで呼び出してくんない? 俺が話とか色々つけっから、マリーちゃんよ」
うわ、この勇者、天界の天使をアホ呼ばわりした。
あの天使、結構天界で偉い人みたいな感じだけど、話付けるってどうする気なんだろう。
あのサキエル、まるでこの勇者を邪悪の権化みたいに嫌ってたけど。
「話と言えば、さっきのオリバー男爵や王国辺境兵はどうしたんですか? こっちに来ないところを見ると、勇者さんが話を付けてきたのかな?」
「ああ、それね、ぶっ殺して、地獄に送ってやった」
へ? 今なんて?
「ええと、それはどういう……」
「ああ、あんな外道共生かしててもしょうがねえから、殴り殺したわ」
ちょおおおおおおおおおおお。
普通に殺人とかしちゃってる、この勇者。
やばいんですけど、私、何かやばい人を召喚しちゃったんですけど!
「心配すんなって、土魔法で穴掘って埋めといたからさ。ここ島だっけ? 周りの島民らにも、内緒なって口裏合わせもしておいたし。なあに、慣れたもんさ」
やばい、この勇者……絶対やばい!
さわやかな笑顔で、死体遺棄とか告白しちゃってる。
親指立ててサムズアップとかしてるし、なんなの一体!
転生前とか、何やってた人なんだろう、普通じゃないって。
「あとは、港に船とか停めてるボンクラ共か、早速ぶっ潰しに……」
「ちょ! ストップ、ストップ! まだ私、あなたのこと知らないから、もう少し教えてください!」
私の状態確認は、そんなに熟練していないから、他人にはまだ使えない。
けれど、自分が召喚した彼には使えるかも。
「状態確認」
私は、彼のステータスを覗き見る。
よかった、自分が召喚した者にはこれが使えるんだ。
じゃあ、私が召喚したモンスターにも使えるって事ね。
どれどれ……。
レベル30 クラス勇者
HP8888 MP893 ちから45、魔力62 すばやさ50 体力30 精神99 運30
スキル 属性魔法マスター 神霊魔法マスター 冥界魔法マスター ウェポンマスター 阿修羅一体化 正義の剣 根性 達人 剣聖 魔法剣 魔法銃 博徒の美学 意地の輝き 限界突破 竜の祝福 女神の加護(使用不可)閻魔の加護(使用不可)
あれ……スキルはチートっぽいの結構あるけど、なんか前に見た数字のちょうど10分の1以下に。
普通に強いは強いんだけど、その……微妙な数字に。
「あのう、勇者さん今……レベル30とかなんですけど」
「へ? マジかよおい、やべえよ、まさか……マリーちゃんさ、今レベルなんぼなん? その召喚魔術レベル」
「えーと、召喚術師レベル9です」
あ、なんか今、この勇者凄い面倒くさそうな顔した。
「じゃあ、しょうがねえわ。その、レベルだかラベルだか知らねえけど、マリーちゃんのレベルを上げれば、俺の力もアップすんじゃねえかな?」
うわ、RPGのレベル上げとかしなきゃなんないの?
めんどくさい、もっと楽がしたいんですけど!
「で、マリーちゃんは、召喚魔法以外の魔法とか、スキルとかそういうの使えんの?」
私は、この勇者に色々と説明する。
今のステータス確認のスキルと、他のスキルについて。
「絶対防御は、使いどころが難しいし、頭使うと思うが便利だな。あと、魅了のスキルも使い方次第で、レベルが下の男の動きとか封じれてやばい。あと天界魔法はすげえぞ? あれはやばい、時とか止めれるから」
うわ、天界魔法ってそんなチート魔法なんだ。
知らなかった。
「あと、魔界魔法……じゃねえ今は属性魔法って言うんだが、風特化か……悪くねえな、空とか飛べるぞ?」
え、属性魔法の風って使い方次第で色々できるんだ。
やはり、この人は歴戦の勇者……性格に難ありっぽいけど。
魔界魔法って言ってたんだ、属性魔法って。
「あのう、魔界って無くなっちゃったんですか?」
「ああ、それなー。マリーちゃん、世の中にはしらない方がいい事って、結構あるからよお……なあんてな? ハッハッハ!」
ああ、なんかしたんだやっぱり。
魔界とか悪魔とかの概念ごと消したんだ、この人が……。
「わからねえことがあったら、聞いてくれ。手取り足取り教えてやっから」
今一瞬、私の胸見ていやらしい顔した。
この勇者、性格破綻しまくってる気がする。
「それと、使えそうな道具とかガメてきたんだ。装備も武器も何もねえ状態で召喚されたからな」
勇者が持ってきたのは、数々の武器と道具だった。
ヴィクトリア王国製の魔法のマスケットライフルと鉛玉。
柄の長さも入れると1メートル位の、ヴィクトリア王国兵標準装備のバスターソード。
フランソワ製のマインゴーシュ。
オージーランドのモワイ族のシュロの木で作った棍棒。
ヴィクトリア王国兵標準装備の、メルトシープの皮のブレザー。
絹で出来た、黒のベストに、緑の羽根付き帽子、黒のポーチ、黒の革靴。
魔力量回復のポーションや、魔法の双眼鏡。
通信用魔法の水晶玉。
などなど。
「銃器があるのは幸いだったわ、これがあるのとねえのじゃ全然違うからよお。マリーちゃん、この道具の使い方とかわかるか?」
いやいやいやいや、一応王女だから知識とかでは知ってるけど……。
ていうか私、王宮生活だったんで、元女子高生ですから!
こんな野蛮な武器とか使ったことないっての!
「ない……です」
「そうかそうか、じゃあ今から使いに行こうか?」
「へ?」
私は王国標準兵の服装に身を包み、勇者と一緒にオージーランドのホバット軍港の対岸まで行くと、勇者は、100メートル先の港を警備していた王国海兵隊員を指さす。
「ほれ、あのボケ! あの仕事サボって煙草吸って、あっち向いてるやつ! ちょっとライフルで狙ってみようか?」
へ? いやいやいやいや、人間に向かって撃つとか無理なんですけど!
こんなもの人に向けて撃ったら、死んじゃうじゃない!
「構えは、両手で持つ。そんで狙う時は、こうちょっと肩幅に足開いて前傾姿勢になって、ストックを肩につけて頬しっかりつけて、脇締めるんだ。右手は引き金にはまだ指入れねえ、人差し指は伸ばす。左手で筒握って手首柔らかくすんのね。そんで、腰落として膝をクッションきかせるよう、曲げるのよ。簡単だろ?」
「え……えぇ」
勇者が実演してくれるが、本当に人に向けて撃つの?
嫌なんですけど、そりゃあ転生前に勇者や魔法使い志望って言ったけど。
「そっか、経験値稼ぎにいいと思ったが、初めてだし難しいよな? こうすんだ」
勇者は素早くライフルを構え、マスケットライフルの引き金を躊躇なく引き、魔法の弾丸が発射されると、一拍おいて海兵隊員のお腹に当たり、うずくまって倒れた。
「ハッハー、ナイスショー!」
本当に、撃ったあああああああ!
しかも当たって喜んでるよ、この勇者あああああああ!
「勇者さん! 彼らは大事なヴィクトリー王国海兵だから、王女としては殺されると困るんですけど!」
勇者はライフルを背中に背負い、右手で鼻の辺りをポリポリ掻く。
「ああ、そういやそうだ、じゃあ、話し合いだな。それがだめなら殺さねえ程度にぶちのめす!」
だあから、そうじゃないってええええええ。
何なのこの人? 元軍人?
いや言葉が荒いから、オラついてる、卍系の街の不良出身?
昔のヤンキーみたいな感じの人なの?
すると、勇者は右手に棍棒持って、私を左手で脇に抱える。
ちょ、なに!? 何する気なのこの人!
すると、私の体ごと勇者も空に浮いて……
「そんじゃあ、魔力で空飛ぶ実演よ! ひゃほおおおおおお」
「きゃあああああああああ」
物凄い速さで空を飛んで、軍港に到着した。
髪の毛もぼさぼさになって最悪!
うわ、王国海兵隊がロングサーベル持ってどんどん集まってきた。
「よおし、マリーちゃん、王女として呼びかけてくんね? 俺、まだこの世界の言葉わからねえから」
え? 何を?
すると、勇者が私の肩を叩き、魔力を流し込んだ。
「そうだな、喉の声帯を神霊魔法で強化したから、頭にかぶった帽子とって、私はヴィクトリー王女マリーである、無実の罪を着せた、エリザベスが王殺しの大逆人。私はエリザベスから国を取り戻すって、ちょっと言ってみ?」
え? 何を考えてるの? この勇者。
私が不安そうに勇者を見ると、彼は私に心配するなという優しい表情をする。
「私は、ヴィクトリー王女マリーです! 父、ジョージを暗殺し、私に無実の罪を着せたのは、姉であるエリザベス! 彼女こそがこの国の大逆人。私はエリザベスから国を取り戻し、ヴィクトリー女王として即位いたします!」
やっと主人公のチュートリアルが終わりました