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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第二章 魔女は楽になりたい
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第51話 精霊サラマンダー 前編

「ちっ、くっそめんどくせえトカゲ野郎が出てきやがったぜ。しかもあの斑点模様、毒とか絶対持ってんよ、めんどくせえ」


 確かに、この巨大ドラゴンというか精霊の竜の力はハンパじゃない。


 精霊種とは、やはり人知を超えた力を持っているのだろう。


 フューリーも、ウンディーネも、強大な力を持っていた。


「兄貴ぃ、まるでハブみてえな、やな目付きしてるさ。しにヤバイ感じがビンビンくる……くぬドラゴン、強い(ちゅーばー)


「ああ、この世界の伝説にうたわれてる精霊竜だ……フランソワの守護聖獣とされている」


 先生以外は、みんな冷や汗をかいている。


 おそらくこの感じ、この精霊竜のレベルは軽く100を超えてる筈。


 そして蛍光色のオレンジと黒のまだら模様で連想するのは、スズメバチ。


 ネットで見たことあるけど、ああいうのは警告色とかっていって、自らが危険であると自然界で外敵に自分が危険だとアピールし、畏怖させる効果を持つと言われる……だっけ?


「親父、こいつの熱線もやばい。この戦艦、ちょっとやそっとじゃダメージ受けねえのに、煙拭いて出力低下してる……おいら全魔力で艦隊を天界魔法でガードするから、親父達はあのトカゲを! 電磁防壁(バリアー)」 


 用心棒さんが周囲にオーロラのような天界魔法のバリアを張った。


 すごい、天界魔法ってこんな事も出来るんだ。


 私たちが戦闘態勢に入ると、無数の炎の玉のような光が浮かび上がる。


 感覚強化魔法で姿を確認するけど、あれは、炎の翼のトカゲ?


 無数の炎のトカゲが私たちの周りを包囲して、高空にも関わらず、周囲が高温になって陽炎で視界が歪み始める。


「貴様らのような人間共が、我ら精霊種の支配領域に来るなどあり得ない事だ! ただの人間ではないな? そこの男からは我が精霊力の波動を感じる」


 精霊竜サラマンダーが、酷薄そうな爬虫類特有の目で睨みつけると、デリンジャーは不敵に口元を吊り上げて笑う。


「しかもこの軍勢、この俺が大戦で散々蹴散らしてやった魔界の軍勢! 何者だ人間!?」


 この精霊竜、悪魔と戦ったことがある?


 どうやら、この元魔王軍の軍勢に混乱してるような感じ。


 すると、先生が悪そうな顔で笑い、着物をはだけて背中に炎を纏った阿修羅像の入れ墨が入っている、6本腕の漆黒の魔人の姿になった。


「げえっ! 貴様は……盗賊王アースラ!? 魔界最悪の、凶暴にして極悪な大魔王の一人……貴様はまた我らが精霊を辱めて……い、嫌だ、なんでこいつが、なんでこいつがここにいるんだあああああああああ」


 うわ、めっちゃビビってる。


 先生の今の阿修羅形態に、この精霊竜めっちゃビビってるけど、確かその姿って、先生の遠い前世の姿だったっけ?


 大昔、どれくらい昔かはわからないけど、先生の前世だった魔王は、この精霊竜と戦ってる。


「へっへっへ、てめえビビってやがるだろ? この俺様の戦闘形態に。どれ、ちょっと心を拝見してやるか……酷い事しやがるなアースラの奴。そりゃあ、こいつがこんなビビってもしょうがねえって、やっぱあいつ凄いワルだ」


 あ、先生が元の姿に戻った。


「本当は、こんな事はしたくねえんだがしょうがねえ。おいおめえら、そこにブンブン飛んでる炎のトカゲら、捕まえろ一匹残らず」


 え? 先生は何を考えてるんだろう。


 まあ……確かによく見ると、この空飛ぶトカゲ、何か愛嬌ある顔をして……。


 あ、私が見つめると目を逸らした。


「や、やめろおおおおおおおおお。眷属達よ、逃げるんだ! この魔王に囚われた先は……照明器具もできる愛玩動物として魔界に売り飛ばされ、檻のようなランプの中や、魔王殿の照明扱いにさせられるうううう! 大戦が終わり、フレイ様に助け出されて名誉勲章受章されるまで、俺はみじめな思いおおおおおおおおおおお」


「うわ、何それ……ひどっ!」


 思わず私はドン引きして呟いた。


 大昔の先生、この精霊にそんなひどい事してたんだ。


「やっさあ、みんなあのトカゲちゃん(アンダチャー)捕まえれ! さすが兄貴さ、くぬトカゲちゃん(アンダチャー)売っぱらえば、照明器具としてナーロッパの新しい投資にできるなー。マングース的な動物とぅ対決させるショーも金になりそうやん♪」


 うわぁ……この人も転生前に先生の弟分だけあって、思考回路がヤクザだ。


 あの精霊捕まえて商売する気満々で、目が¥マークみたいになってる。


「でもどうやって? 奴ら確かにあそこの親より遥かに小さいが、凶悪な魔力反応だぞ? こっちが消し炭にされちまう!」


 確かに、デリンジャーの言う通り周囲にいるのは、見た目がイモリくらいの大きさのトカゲに見えるけど、どうやって大人しくさせて捕まえればいいんだろう?


 なんか威嚇の仕方がピャーって言って、ポ●モンっぽくてどこか可愛気だけど、この炎のトカゲを大人しくさせる方法なんてあるんだろうか?



「うむ、それではアレの出番かのう?」

「アレですねお嬢様」


 アレ? アレって何?


 女神ヤミーには、あの空飛ぶ無数の炎のトカゲを捕まえる手立てがあるって言うの?


 すると、目の前の空間が歪んで女神ヤミーは、黒いずた袋を取り出し、ワンコが袋に潜ると、大型の掃除機を咥えて出てきた。


「皆のもの、あの精霊達を弱らせるのじゃ! この掃除機で吸い取ってやるわい」


 女神ヤミーはドヤ顔で掃除機のスティックを、構え出すが、あれ、吸引力の変わらないただ一つの掃除機っぽいんだけど……転生前のうちの家でも使ってたけど、どうみてもダイソ●なんですけど。


「……あのーその掃除機ダイ●ンですよね? しかもコードレスタイプの」


「なんじゃそれ? これはV10じゃぞ? マサヨシの知識をもとに我が臣下達で作成した、吸引力が変わらないただ一つの掃除機で、吸い込んだゴミを焦熱地獄に放り込んで処理することで、神界で大ヒットしたのじゃ」


 やっぱり●イソンだこれ……。


 ていうか先生も、転生前にあの掃除機使ってたんだ。


「しかし参ったのう。此奴ら高熱を出してて、このままでは電化製品ゆえ壊れてしまう。何かいい方法はないかのう」


「来るぞ!」


 デリンジャーが私達の盾になるように前に立ち、炎を纏ったトカゲの群れが、次々と体当たりして私たちを襲う。


「クソが! なめんじゃねえ!」


 デリンジャーが、魔法銃をマシンガンに変えて次々とトカゲに銃弾を撃つが、高温すぎて弾丸が溶かされる。


 そして高空にもかかわらず、周囲の気温がどんどん上昇し、私の唇が渇いてカサカサになるくらい高温になり、空の色までがオレンジ色に変わっていく。


「やらせるか人間め!」


 上空のサラマンダーが、炎の羽に太陽の光を溜め込んで……。


 やばい、さっきの熱線で攻撃してくる気だ。


「てめえの相手は俺だ! トカゲ野郎!」


 阿修羅一体化した先生が、サラマンダーに飛び蹴りを放つと、物凄い勢いでサラマンダーの巨体が吹っ飛ばされた。


 ステータス表記は、やはり200レベルオーバー。


 この状態になった先生は、私たちの3倍……いや4倍以上の力になるようだ。


「ヤミー、無間地獄だ! こいつらじゃこの竜に勝てねえ! 俺もろとも放り込め!」


「わかった! 爺や、マサヨシを手助けするのじゃ! 無間地獄(インフィニティヘル)


「ワオーン」


 黒毛の柴犬が、巨大な魔獣の姿に変化する。


 額から角が生え、口からは青白い光、燃えるように光り輝くタテガミに、赤い体色と鋭い爪、燃え盛る炎のような尻尾の……まるで神社の狛犬のような神々しい姿だった。


「シーサーやん! あれシーサーやん! 沖縄の守り神さまやん! さすが清水の兄貴、シーサーさんが兄分とかでぇーじやん!」


 ヴィトーが魔獣、いや神獣になったワンコ見て指差して叫ぶけど、確かに沖縄のシーサーにも似てるかもしれない。


「無間地獄の中なら、マサヨシも爺やも本来の力を発揮できる! ここはあやつらに任せて、お主らはあの精霊種を無力化するのじゃ!」


 先生とワンコと巨大なサラマンダーは、暗黒空間に放り込まれたけど、一緒に無数にいる小さいトカゲもろとも放り込めば良かったのに。


「いや、このクラスの上位精霊と、この数の眷属の精霊達じゃとまずい。精霊界の干渉力と、最上級神に最も近かったとされるフレイの魔力で、地獄の封印が解かれるかもしれぬ。実際に、魔皇や竜神との戦いで、似たような事が起きたのじゃ。それにそこの精霊種達と、親である上位精霊を引き離す事は、双方の弱体化につながる。マサヨシはそこまで読んで戦っておる」


 女神ヤミーの言う通りなら、さすが先生。

 やはり歴戦の勇者……元魔王でヤクザだけど。

 しかし問題は空飛ぶ無数の炎のトカゲ。


「どうやっておとなしくさせれば……」


「なんくるないさー」


 ヴィトーがヌンチャクを振り回しながら、向かってくる炎のトカゲに次々と打撃を当てると、トカゲから炎が消えて、気を失ったのか、甲板の上で動かなくなった。


「今じゃ!」


 女神ヤミーが掃除機を手にして、気を失ったトカゲ達を、吸引力が変わらないただ一つの掃除機で吸い取っていく。


 けど、どうやってヴィトーは、あのトカゲをおとなしくさせたんだろうか?


「マリーちゃんにアンリ君、アレさー。トカゲちゃん(アンダチャー)は、体温が低くなると冬眠するっちゅう。昔、おばあが子供(わらし)だった琉球って言われてた時代、冬に雪が降った日があったさ。年中元気な沖縄のトカゲちゃん(アンダチャー)も、カエルちゃん(アタビチャー)もみんな動かなくなったって話やん」

 

「そうか、低温よ! 爬虫類は低温に弱いと言うけど、それはこの精霊達も同じってことね」


「ようし、じゃあこのミニミ軽機関銃をぶっ放してやるぜ!」


 デリンジャーは、魔力銃を機関銃に変えて、ウンディーネの精霊魔力で作った氷の弾丸を、次々と発射してトカゲを倒していく。


「シィット、数が多すぎるぜ! 次から次に湧いてきやがる! 一体、何百いや何千匹もいやがるんだ? 持たねえぞ俺の魔力が」


 アンリの背後から炎魔法で攻撃しようとしたトカゲに、ヴィトーがヌンチャクを風車のように回してガードした。


「確かに数が多すぎるさ! 軍艦にいるサタナキアてぃ連中も援護してぃくれるがー、こう多いと大変(てぇじ)やん!」


 確かに数が多すぎる……これじゃまさしく焼石に水の状態。


 私も氷の範囲魔法で攻撃するが全然数が減らないし、攻撃した事で、炎のトカゲの凶暴性が増しているし。


 どうやってこの数を相手にする?

 いっそ天候ごと変えて雪でも降れば……。

 待てよ……。


「……ここは高空で、魔法の触媒になる雲が沢山あって、元から気温が低い……なら!」


 私は鉄パイプのような杖を持ち、ウンディーネの魔力を発動させると、胸のペンダントが反応して青く光る。


「お願い、ウンディーネ! 力を貸して!」


 私の体が一瞬下着姿になったと思ったら、召喚されたウンディーネの体が鎧になり、次々と腕や足、肩、足、腰にプロテクターが、頭にヘッドギアが装着されていき、水の波動を持った青く輝く鎧姿になった。


 杖の先端に青い宝玉が具現化し、柄の部分が水色の色に変わっていき、上空にこの世界の文字で、〝上位水精霊召喚″が浮かび上がる。


 ウンディーネの強大な魔力が、私の体に流れてきて……これならば、絶対零度は無理でも、この周囲の天候を変えられるはず。


「マリーちゃんその姿、何だばー!?」


「何が何だかわからねえが、精霊魔法の波動を感じる。それに髪の色も瞳の色もブルーになった。そうか、召喚魔法とやらでウンディーネを召喚して、水の力を纏ったんだ」


 そう、これはおそらく本来の私の召喚魔法。


「多分、生命力(HP)魔力量(MP)、そして体内の血液を触媒にして、ウンディーネを召喚後、ヘイムダルという光の神の力が作動して、鎧として身に纏った……と思う」


「なんじゃ!? 前にも金色の姿になったが、これ見よがしに乳を強調しおってけしからん! 神である我を差し置いて目立ちおってからに!」


 強調してねえよって!


 私がこの鎧の装着や配置を決めてるんじゃないっての!


 なんかよくわかんない、ヘイムダルって神様が作用してるんだから。


 ていうか何なのこの女神?


 自分が胸やお尻が小さいからって、一々突っかかってくるし。


「あなたに力を貸します。それに、転生したジークのあの泣き顔、胸がスッとした」


 鎧になったウンディーネが話しかけてきた。


 そうか、やはりフレドリッヒは、閻魔大王の言う通り、英雄ジークの生まれ変わりで間違いないんだ。


 そして私は上空に杖を向け、魔力を一気に高める。


 イメージするのは雪雲の乱層雲で、天気予報でやってた、西高東低の冬型の気圧配置。


 先生は言ってた、魔法はイメージの力、冬型の高気圧に雲の気圧を低くして……天気を操る!


気象改変(アノゥマリーズ)


 私が魔力を解き放つと、眼下の雲海が船の上空にせりあがってきて、真っ黒い雲が青い空を覆い尽くし、一気に猛吹雪になった。


 先生は言っていた。


 自分の不利な状況ならば、自分の力で場を変えてしまうのが勝利への道筋であると。

後編に続きます

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