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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第二章 魔女は楽になりたい
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第49話 宣戦布告 前編

「悪っさびーん兄貴ぃ、急いで来たから自分の道具持ってきてねえさー」


 道具? 

 え? 何、道具って。


 ヴィトーが言う道具って、お化粧道具とか、文房具とかじゃないのはわかるけど……何?


「叔父貴、そういう事もあろうかと、道具ならオイラ達が用意してやす! おい、マシュ、オルテ、金城の叔父貴に道具持って来てくれ」


 会議室の長机に、ピストルとか刃物とか打撃武器とか、防具にマジックアイテムを山ほどドワーフ達が持ってきた。


「……道具って、えーとその道具の事ね」


「あたりめえだろ。極道の仕事道具って言えば、喧嘩道具よ」


「いや先生、世間一般では全然当たり前とかじゃないんですけど」


 すると、ヴィトーは先生の組織の品々を鼻歌交じりで吟味する。


「さすがは兄貴の組さー、品揃えゆたさん! この黒いメリケンサックいいあんべーさ。あいっ! 重っ! お、このピストル、コルトっぽくてハバやん」


「叔父貴、それはウッズマンって言って、精密射撃とかできる万能魔銃ですぜ。バレルも魔力で取り外せて消音器付きとかロングにしたり、普段はショートバレルなんかすると、隠し持つとき便利です。あと7色鉱石を応用して、少魔力でレーザーやスコープやピストルストックもつけられやす」


「お前マサトやんけ? やーでぃきやー、さすが兄貴の(わらし)さー。このピストルとサングラスにブレスレットにネックレスなマジックアイテムん他に、トンファーやヌンチャクねーん?」


 イケメンの用心棒さんが対応してるけど、なんか、洋服とかアクセサリーを店で店員に聞いてる、女子っぽい感じがするけども、ヤクザな武器選択なんだよねーこれ。


 なんか思わず白目をむきそうになる。


 あ、ドワーフが長さ45センチくらいの赤い棒っぽいのを2本持ってきた。


「叔父貴、でしたらこれはいかがでしょう? これ魔力で具現化した鎖つければヌンチャクに、取手をイメージすればトンファーになりやす。棒同士をくっ付ければ、相手ぶん殴れるヒヒイロカネチタン合金の棍ですぜ? 無論、魔力で棍の長さも変えられるし、魔法もエンチャントできやす。それと召喚システムの指輪もどうぞ」


「やっさ、それ借りるさー」


 あ、なんかアンリが羨ましそうな顔して、武器を眺めてる。


 確かに、買い物する時に他の子が、あれ超ほしーとか、これいい感じーとかやってたら、自分も欲しくなるよねー。


 懐かしいなあ、私も高校の時に友達がいた。


 なんて名前だっけ?


 死んで転生して時間も経つし、名前も思い出せなくなったけど……絵里ちゃんだっけ?


 私の後ろの席の子で、帰り道も一緒で一緒にカラオケ行ったりプリクラ撮ったりして……懐かしいなあ。


「おいてめえら、何ボサッとしてやがる。我らがミスターデリンジャーが、道具をご所望だ。用意して差し上げろ! 新しいシャツと背広もだ!」


 ロバートさんが、ダークドワーフ達に指示して、武器とか洋服とかマジックアイテムとか山ほど用意してきて、ロバートさんは先生と顔を見合わせてお互い笑い合った。


「兄弟マサヨシよ、そっちの世界の、無骨でほんの少しセンスがイマイチな日本製っぽいブツもいいが、うちの世界で用意したブツは、なかなかなものだろう?」


「あん? おめーさんの世界の加工技術は、まだまだだが、さすがイタリア系だけあって、ブツのセンスと見栄えだけはいいなあ、俺はいらねえけど」


「ぬー、兄貴が用意したブツに文句言いんが? 俺は兄貴ん舎弟(うっとぅ)で、兄貴の組は俺ぁの可愛い身内ぬーが、おめえとは兄弟(チョーデー)でもなんでもねえんが? 兄貴なめてんと、やーくるさんどー?」


 ……なんか張り合ってるんですけど。


 ヤクザな勇者とアシバーの王子が、マフィアな勇者と互いの世界の装備とマジックアイテムで、意地を張り合ってて、なんかすっごい大人気ないし、周りの子分の人達がソワソワし始めてるし。


「おほん、我はそんな事よりお腹が減ったのじゃ。昼食の用意をせよ、我が勇者達よ! のう? 爺や」


「ワン!」


 へ!?


 なんか女神ヤミーが、いつのまにか元通りの大きさに戻ってて、黒の柴犬っぽいワンコ抱いてるけど……あのワンコいつの間に入って来たんだろう。


 なんか黒毛に目の上の毛が丸い白い模様で、昔の公家がしてたような、麻呂っぽい感じの眉に見えて可愛い。


「全員礼だ! 兄貴! ご苦労さんです!」

「拒魔犬様! ファミリー達よ頭を下げろ!」


 は!? え!? 何!?


 先生達一斉にあのワンコに頭下げ出したけど。


「あ、兄貴ぃ? 何してんのさー。そこらにいる(いん)ちゃんじゃ?」


「み、見たことない犬種だけど……お前らどうしたんだ? クレイジーにもほどがあるぞ?」


「あれどう見ても普通のワンコじゃ」


 私達が疑問を呈しても、女神ヤミー以外の全員があのワンコに頭下げてる。


 意味がわからない。

 もしかして新しいジョークか何かなの?


「うるせえ! 兄貴だ俺の! 冥界序列正五位にして公爵、親分側近の拒魔犬の兄貴だ!」


 えーと……やっぱりどう見ても可愛いワンコだし、わけがわからないが、とりあえず頭を下げておこうっと。


「うむ、ご苦労。表をあげよ」


 柴犬なのに、ハスキーなボイスでワンコが私たちに答えるけど、え? ちょ? え!?


「きゃああああああああああ、しゃべったあああああああ、ワンコが喋ったあああああ」


「オーマイガッ! 喋ったぞこの犬!」


「あぎじゃびよー! 妖怪(まじむん)!? なんだばあああああああ」


 先生が舌打ちして、私達の頭を次々と引っ叩く。


「口が利けて当たり前だろうがボケ! そこらにいる犬っころじゃねえんだぞ! 俺の兄貴なめやがって、ぶち殺すぞ!」


「ワン!」


「へい兄貴、失礼しやした! あとでこいつらには兄貴の偉大さを、きっちり教育しときやすんで」


 どうやら先生よりも、あのワンコは偉い人……じゃない、偉い犬のようだけど……あ、なんかワンコが、口からぺっと試験管に黄色の液体が入ったのを吐き出した。


「冥界に伝わる状態異常解除の妙薬じゃ。我もそれで元通りなったわい。マサヨシよ、これを飲むがよい」


 なるほど、あれで女神ヤミーは元の大きさに戻ったんだ。


 けどあれ、ワンコのヨダレでベトベトしてて、ちょっとばっちい気が……。


「押忍! 兄貴いただきやす!」


 先生が両手で試験管を持って、中身を一気に飲んで、女神ヤミーが口に手を当てて含み笑いとかしてる。


 ヨダレも試験管伝って先生の口に、おええええええええ。


 すると、先生の体が一瞬にして光り輝き、元の大きさまで戻る。


「よっしゃあ、なおったぜ! 兄貴、ありがとうございやす」


「うむ、それはそれとしてマサヨシよ、お嬢様にふざけた言動をとったようだな? 食事がなければ草でも食べろとか」


 あれ、先生冷や汗かき始めて、鼻の辺りをぽりぽり指でかいてるところを、拒魔犬と呼ばれたワンコが、ほくそ笑んでる女神ヤミーの膝から離れて先生まで駆け寄る。


「あ、いえ、その兄貴。ちょっとした行き違いと、言葉のあやでして、はい……」


「貴様がいながら、敵に遅れを取り、ヤミー様に危害が加わるばかりか、貴様自体が無礼を働くとは言語道断! 尻を出せ!」


 あ、ワンコが唸り声上げて先生のお尻に噛みついた。


「ぎゃあああああああ、兄貴、痛えです! そのケジメだけは勘弁! ぬああああああああ!」


 あれは……甘噛みとかじゃなくて、思いっきりお尻を噛まれてる……。


 噛みながら頭ぶんぶん振ってるし。


 みんな唖然としながら口を開けてる。


「あ、えーと親父、武器庫にあった阿修羅刀ヴァルナと、新しい超合金オメガ製のドスね。神とか精霊相手だと、この道具いるだろ?」


 先生の子分の人達が苦笑いしながら、新しい刀と短刀をそっと机に置いた。


「マリーちゃん、悪いけど親父にパイソン返してくれねえかな? 代わりにこれ使いなよ」


 用心棒さんが会議室の机に、銀色の拳銃をごとりと置くけど……えーと、何この銃。


「これはルガーって名前の回転式(れんこん)式小型魔力銃で、エルフの素材精製技術とドワーフの金属加工技術で作った、最新式マグナムだ。スコープは付けられねえけど、グリップの魔力レーザーで狙いつけれるし、銃身には小型ライトもついてる。銃本体は小さいけど、魔力回路を細工してあって、魔力チャージ後に強烈な魔力弾を5発撃てるブツさ」


 あ……うん、なんかよくわかんないけど、最新式の魔力銃らしく、魔力銃デリンジャーよりも全般的に一回り大きい感じだが、それでも先生のパイソンに比べたらはるかに小さい。


「ありがとうございます、用心棒さん」


 このルガーを持った感じ軽いし、グリップが細くてピンク色のゴムっぽいから握りやすかったし、握った途端なんか緑色のレーザーが出てくるし、短い銃身には小型ライトが内蔵されてて、魔力を込めると懐中電灯みたいにピカッと光る。


 しかもパイソンに比べて、かなり軽く出来てるし、形もおしゃれでカッコいい。


「爺や、マサヨシの仕置きはその辺で良いから、食事にするのじゃ」


「ワン!」


 私達は船の食堂で食事をとる。


 なんか食堂みたいな感じで、転生前は給食だったし、転生後は王宮生活だった私にとって、すごい新鮮な感じがした。


 今日の献立は和食。


 お米に卵焼き、お味噌汁と野菜の漬物と、何かの天ぷら、なんのお肉かわからないステーキが出て来たけど、美味しくて涙が出てくる。


 ベリアル牧場産らしいけど、先生の組織の本部長って人が、どうやら牧場経営してるようで、そこのお肉らしい。


 転生して16年間、和食なんて一度も食べてなかったし、私が生まれたヴィクトリー王国の食事……なんか雑だったから……。


 感激して、ご飯を10杯くらいお代わりすると、男性陣がドン引きしてたけど、何かまずいことしちゃったかな?


 そういえば、フランソワ国内を強盗しながら旅してた時、みんなお腹いっぱい言ってて、残ってた、パスタ全部食べたら、作ってくれたロバートさんも苦笑いしてたっけか。


「なんじゃあの娘……。毎回思うが、あれだけ食べて太らないとか羨ましいのう。栄養が全部あのけしからん乳に行っとるのか?」


 いや、関係ねえし!


 自分がおっぱい小さいからって、女神からのやっかみはやめてほしい。


「なんじゃと! この破廉恥な乳女め! 我の乳が小さいと申すか!」


 やば、この神様心が読めるんだった。


「飯はほどほどにしとけよ、これから喧嘩だからな? さてと、おい! アレ持ってこい」


 先生は、子分の人から渡された注射器を持って、自分の腕に注射した。


「ふいー、魔力と気力が漲ってシャキッとしやがるぜ。おめえらも打っとけ!」


 えーと、何それ?

 なんかいけないお薬っぽい感じがする。

 特にヤクザなこの人がやってると……。


「兄貴ぃ、ヒロポンは基本売り物っしぃ……体ん中入りりんは……そのーちょっちゅなー……」


「ちげえってんだよボケ! シャブじゃねえよ金城! 感覚や筋力体力魔力ブースト用のポーションだっての。エルフの妙薬だ! おめえ俺がシャブとかヤクの類いが嫌いで扱わねえの知ってんだろ!?」


 いや、どう見ても覚醒剤にしか見えない。

 ていうか注射嫌いなんだよなあ……。


 インフルエンザとかの予防接種でも涙目になったことがあるし。


「あ、これ一応は内服でも大丈夫なんですが、親父さんが直接血管に入れたほうが効果が発揮しやすいって言って……ただし凄く苦いです」


 風のシルフこと、ブロンドっていうイケメンのエルフさんが飲んでもいけると言ってくれた。


 ただし苦いらしい。


 みんなよく平気で、知らない薬を体に注射できるなあ……まあいいか、これを一気に飲んで、ステータスアップしよっと。


「じゃあ飲みます。注射嫌いだし」


「お、おいマジでやめた方がいいぞ。マジですっげえ苦いから。あれだぞ? 正露丸とか龍角散の臭い濃縮しまくったような、感じでやべえって」


 いや、大丈夫でしょ。


 たしかに先生が言うように、嫌な感じの薬臭い感じだけど、量が少ないし、イケる!


 私は試験管に入ったような薬を、鼻つまみながら一気に胃に流し込んだ。


 数分後、私は美味しかった食事ごと、トイレで戻してしまい、エルフのくれたリンゴジュースを飲んで、口直ししする。


 ステータスみたらアップどころか、HP微妙に減ってたし、やめればよかった。


 その後、船の通信施設へと赴く。


 そこは映画館のように、大きなスクリーンがあり、軍服に身を包んだ50人以上の魔族の人達が、小型スクリーンを眺めながら、パソコンみたいな機械に、タッチパネルと一体化した机で作業してた。


 なんていうか、科学力とか地球よりも遥か上を行ってる気がする。


「国同士の戦争でもよ、極道の喧嘩でも、マフィアな喧嘩でも、ガキの喧嘩であっても、テメーと今から喧嘩すんぞって伝えるのが筋だよなあ? ロバートの兄弟」


「そう、基本だよな兄弟マサヨシ。たとえどんな世界だろうが、社会だろうが、神だろうが悪魔だろうが……おっと失敬、もう悪魔なんていないんだったな。ミスター、そしてマリー君、今からこの船の魔道の力でノルド帝国首都クリスタニアへ映像と音声を送る……宣戦布告だ!」


 ……宣戦布告って。


 もう戦争状態に入ってるから、こんなの無意味なんじゃ。


「了解だ、ロバート。ヴィトーもいいか?」


「あいよー。聞くところによると、くぬ外道(げれん)共、戦争(いくさ)で無抵抗な街ぬ人たち殺ちゃんだろ? こっちが正義って見せんとダメさー」


 確かに、フランソワ側はいきなり攻め込まれて無抵抗な街の人達が大量に殺された。


 そして相手側はエリザベス以外は宣戦布告してない状況。


 先生が言う、大義名分はこちら側にある。


「上級神たる我ヤミーが許可する、此度の非道に対する宣戦布告を述べるが良い」


 女神ヤミーの承認を得た私たちは、ノルド帝国に宣戦布告を行う。

後編に続きます

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