第48話 決意
私達は先生に連れられて旧魔王軍の戦艦バエルという、巨大空中空母の会議室に赴くため、先生の組織、極悪組の人達と乗船する。
ローズデリンジャ―ギャング団として、一緒についてきたオーウェン卿は、目の前で行われたノルド帝国の非道に憤りながら、ヴィクトリー王国近衛騎士団たちと、フランソワの騎士団、そしてロレーヌのジークフリード騎士団たちと、住人の埋葬に携わっていた。
「私達はマリー殿下と共に、このナーロッパを旅してきた。だが……我々が祖国で順守せねばならない騎士の道から外れたことが、この世界で行われている……。私の祖国は島国で大陸の内情は知らなかったが、このような非道、人間として許せませぬ!」
「大陸国家では互いの均衡を取るため、紛争や小競り合いはつきものです、オーウェン卿。しかし我らがマリア猊下やフレドリッヒ殿下は……世界を知らなすぎる! 戦があれば犠牲になるのは我らが騎士が守護するはずの民草ばかり! このフェルデナント、大公なる地位を皇室から得ておりますが、私とて武人であり、騎士だ! 貴殿の言い分は最もである!」
「然り、我らは誉れ高きヴィクトリーを発祥とする騎士」
「我らは弱き人びとを、民草を守護するために生まれたのが英雄ジークの騎士団。だが、今の我々は無力……悔しいです……」
騎士達が目の前で行われた大虐殺に肩を落とす中、背広姿のロバートさんが空から降りてきて、地面に片膝をつき、跪いて両手を組みながら祈りの言葉を口にする。
「天にましますわれらの主よ、御旨の天に行わるる如く地にも行われんことを。われらの罪を赦し給え。われらを試みに引き給わざれ、われらを悪より救い給え、アーメン」
ロバートさんは虐殺されたランヌの住民達へ十字を切り、転生前は敬虔なカトリック教徒だったのだろうか、神への祈りを捧げた後、冥界魔法を唱え、魂の供養を行なっており、私が呼び出したカミーラさんは、すごいデコった棺の中に入り、元の世界に帰っていった。
「はえー……兄貴ぃ、すっげえてーじな軍艦やん? 辺野古で見た米軍の空母や強襲揚陸艦とか目じゃねえさぁ」
「だろ? 俺様の力で支配した旧魔王軍の軍艦よ」
「魔王軍支配とかマジだったんだなシミーズ。やはりお前はクレイジーだ」
「ふふん当然じゃろ? 我が勇者マサヨシは魔王軍のみならず、旧魔界全域も勢力下におき、救済した最強の勇者じゃ。その実績は、創造神様や大天使様方、最上級神様達が一目置くほどじゃ」
女神ヤミーがふんぞり返りながら答えた。
……やっぱり魔王軍支配とか本当だったんだ。
創作物で魔王軍が味方になるとか見たことあるけど、魔王軍を力で支配して、滅ぼすどころか魔界まで救済して支配した勇者とか聞いたことない。
「我が艦にようこそお越しいただきました勇者様! サタナキア連合軍司令長官ライガーです! お久しぶりです!」
なんか、虎なのかライオンなのかよくわかんない黒い軍服着た大きい悪魔の人が挨拶してくる。
すっごい強そうなんだけど、なんか先生を見て冷や汗かいてて……先生この人や魔王軍に何したんだろうか。
肩に乗ってる先生が、ライガーって悪魔を見て、悪い顔してにやにや見てるし、怖いし聞きたくないけど。
「おう、ご苦労。アスモデウスの奴はまだ軍に復帰してねえのか?」
「は! 総司令官元帥閣下につきましては、育児休暇中なため、職務復帰にはまだ50年ほど時間がかかるかと思われます!」
「そうか、そうか。ずっと働きづめだったし、魔族って孕んだ後、なかなか出産まで時間かかるようだからなあ……」
……魔王軍って育児休暇とか取れるんだ。
ていうか旧魔王軍司令官ってやっぱり女性?
だとしたら、先生が前に言ってた魔王軍総司令官を惚れさせたって話は本当で、もしかしてお腹の中の父親は……。
そんな先生を、女神ヤミーが無表情でじーっ見てるし、なんか微妙な空気になり、私たちは船の会議室の中に入った。
「あ、水晶玉の着信やん。おう、俺だ……ベネッツィーのガラス投資と新商品開発の件どうなったん? ワインとかの空き瓶かき集めて新製品作るってよー。それヒンダスに高値で売りつけれて……え? 気泡できて職人が納得せん? 頑固やんなあ、てーげーでって言っとけ!」
あ、なんかヴィトーが色々商談の話とかしてる。
ガラス製品とか作ってるんだ。
あ、また水晶玉に通話し始めた。
「ああ、俺ぁだ。よし! ミラーノでサンゴ染め成功したが! うん、それスカーフやドレス作ってよお、色彩は花をイメージして……あ、待て、ベネッツィからまた連絡来た。おう俺だ、ガラスの件は? ん? おお、マエストロんが新開発の鉄砲開発したんか? うん、うん、あー、ベレッタンの? だからよー魔力消費抑えてよ、命中精度改善して……うん、その辺はてーげーに見栄え良くな」
この人、すごい勢いで通信用の水晶玉で連絡しまわってる。
王宮でもこんな感じで、色々とロマーノ王国の商品開発や外貨稼ぎや投資してるのかな?
なんかのんびりした口調だけど、いざ仕事となるとすごい精力的な感じ。
「おうマリー、あれが沖縄の極道さ。基本的に沖縄県人ってのは、急ぐのが嫌いで時間にゆったりしているってイメージだろ? だが裏を返すと、本州で通用したことが沖縄じゃ通じねえし、閉鎖的で商談とか交渉事が結構難しいところあんのよ。だが、普段ゆっくりでマイペースだが、いざ行動すると、勢いで一気に物事決めちまう。そういう二面性が沖縄の極道にもあって、シノギも全般的に見たらそこそこ上手い方だ」
そうなんだ、一見のんびりしてるように見えて行動する時はせっかち。
私が抱いてる沖縄のイメージは、海が奇麗な観光地で、みんな歌とかうまくてのんびりしてるようだけど、実情はなんか複雑な感じがする。
「そんでな、沖縄の極道は本土と違って、親兄弟の盃なんて初めなくて、仲良くなればみんな兄弟ってよ、横のつながりが強かったんだ。発端がくだらねえチンピラ同士の喧嘩なのに、仲裁人もいねえもんだから、勢い余って総力戦へエスカレートしやすいって特徴があって、それで死んだのが金城だ。この抗争劇はカタギも巻き込む多くの死人を出して、第6次まで繰り広げられ、約半世紀続いた」
うわ、私がイメージしてた沖縄とは全然違う闇の歴史。
なんか南国の楽園って感じがした沖縄に、そんな暗い過去があったなんて。
そこで明るそうに、冗談交じりで仕事の話しをしてるヴィトーのイメージとは全然違う。
「そんで沖縄の極道は、総じて腕っぷしが強い。空手の達人が多くて酔った米兵相手に喧嘩したり、米軍の武器かっぱらってて、大量に売るほど重武装してやがるから、結局俺の転生前の組も表立って事務所構えられなかった。まあ、うちらの組も諸先輩方が侵攻したことあるが、遠いし割に合わねえって諦めたのさ。それよか、沖縄側と喧嘩するよりも互いに干渉せずに、道具調達や、密輸の中継地点に使った方がいいだろうってね。沖縄のサツ連中、いい加減だしな」
「そうなんですか……やっぱりヤクザな世界にも県民性とか特色ってあるんですね」
「まあな。関西と関東じゃ方言やら文化も違うだろ? 極道もそれは同じで、テキヤなのか俺みてえな博徒出身かでまた違う。例えば東京の組織なんてのは、江戸の昔からある一家が多く、洒落者が多い。一見してカタギと区別つかない連中ばっかりで、情よりも実益を重視するドライな感じのイメージな一家多い印象だね。無論そうじゃない家風のところもあるんだが、東京と神奈川の組織はまた違うから面白いね」
へー、そうなんだ。
よその県民がよく都民をドライとか冷たいとか言うけど、そうなのかなー?
確かに昔ながらの気質というか、チャキチャキな江戸っ子っていうのが居なくなった気がするけど。
「広島に関して今は多少落ち着いたけど、昔はおっかなかった。縄張り入っただけでドスやチャカだけじゃなく、ダイナマイトとか飛んでくるし、殺し屋しかいねえのかよここはって思ったね。九州は、男気があって話せば気立てのいい連中なんだが、揉めるともうね、無茶苦茶してくる荒っぽくてめんどくさい連中。そんな感じ」
ああ……そうなんだ。
じゃあ、先生がいた組織はどうなんだろう?
「ん? 俺が転生前に天辺取った組織は、本家が関西の神戸にある最大手だ。といっても、俺は関西出身じゃなく育ちは東海地方出身だがね。もっと言うとおふくろも元は関東出身だし、俺そんな訛りとかねえだろ?」
確かに訛りとかないけど……口が悪すぎるし、声が大きくて巻き舌でなんか怖い。
「俺がいた組織は、元々戦前の神戸の港町で生まれたんだ。戦後は前にも話したが伝説的な親分の下、不良外人とかしばき回って、阪神地区の一家を次々傘下に加えて勢力を拡大した。関東の京浜地帯を仕切ってる、大手と似たような歴史だな。あそこも横浜港とか川崎港とか横須賀港とかあるし、親戚団体ってやつで表向き仲良くやってた。東京の連中と違ってね」
へー、関西は東京都とは仲が悪いけど、神奈川県とは仲がいいんだ。
けどこの世界の国家も、例えばバブイールに対抗するために、ヴィクトリーとフランソワが手を組んだり、ヴィクトリーが脅威になったらフランソワ中心に、別々の国が手を組み出すとか、あったっけ。
「そんでとにかく競争原理が激しくて、目立ちたがり屋が多い感じさ。それでいて、なんかあるとすぐに揉めた所にかちこめるシステムにしてる。日本全国の荒くれもんの集まり、カタギの会社で言ったら全国にチェーン店持ってる巨大企業よ」
巨大企業って言っても全然ピンと来ない。
バイトとかもしたことないし。
確か、先生がデリンジャーにした話によると組員が3万人って言ってたっけ。
「まあカタギさんの世界でもそうかもわかんねえが、大手企業に入れば安泰ってわけでも無くて、その中で何かを成したり、上に上り詰めるのは、並大抵の根性じゃ務まらん。組織内で敵を作らねえ事や、それでいて上に目をかけられるよう、何かで目立ってなんぼなんだよ。そうしねえと巨大な組織では埋もれちまうからな」
目立つ事と競争原理かあ。
けど、先生は何で目立ったんだろう?
「ああ、俺が巨大組織で頭角を現した理由か。俺についてきた最初の子分達や舎弟連中が優秀だったのと、最初に盃貰った親父さんがすげえ人だった。そして何が決め手になったかと言うとよ」
先生はガッツポーズするような感じで右手の握りこぶしを私に見せる。
「俺が目立ったのは金と暴力だ! もうね、極悪組と揉めたら、修羅の権化の人斬りマサとその配下の猛者達がやってくる。そう全国の親分衆に知れ渡るくらい、無茶苦茶喧嘩やったよ。まあ、今思うと褒められた話でもねえし、何度も娑婆と刑務所行ったり来たりしたし、人に暴力を推奨する気もサラサラねえがな」
「だからよー……」
いつの間にか、通話を終えたヴィトーが話に加わるが、確かに何となくだけど、そういう感じがしてたけどそこまで怖い人だったんだ。
「俺ぁが兄貴に最初に会った府中の監獄でぃ、歳が一回り以上だった我に、物怖じする所か、絶対に勝てないと思わせるくらい、気迫と暴力がやばさったん。そして兄貴の恐ろしさは暴力だけやあらん。常に社会見てぃアンテナ張って、知識得るため本を読んとる、しんけんな気真面目さやん」
なるほど、常に新しい知識を真面目に勉強しながら、裏社会で極悪な暴力を行使する凶暴な怪物が、転生前の清水正義というヤクザの大親分。
「……けどな、それだけじゃあ人は付いていかねえんだ。今のおめえならわかるだろ? デリンジャー。俺の何が転生前で失敗したかって」
「ああ、シミーズ……なんとなくな。頂点に上り詰め、圧倒的な強者になったお前は、力に溺れ、その暴力で多くの恨みを買ったんだ。そしてその苛烈な生きざまに、周りもついていけなくなった……違うか?」
「そうだ。人はな、生き方で人生が変わっていく。俺は頂点に上り詰め、本来成すべきことを忘れて道を外れたんだ。金と女と権力に溺れて、誰もついてこなくなり、最後は一番愛した舎弟でもあり、最愛の子分だった男に人生のケジメをつけさせられた」
そうなのね……先生はトップに上り詰めたけど、腐敗した独裁者のようになり、それが元で転生前に死んだのか。
「兄貴ぃ……それ言えば俺も。コザと那覇の仲間が作ったん沖縄の組織も、本土につくんか一本でやるか迷っててぃ……俺ぁ出所後の現状にイラついてた。そんで俺ぁは組織でふんぞり返り、アシバーの本分を忘れてぃ、体張ってた同じコザの弟の一派を、生意気だからってぃ、シノギ奪ってぃ追い込んだ……。酷いリンチも加えて……。恨み買って当然やん? 俺ぁそれで復讐されてぃ死んだ」
「俺もだシミーズ。市民に義賊だなんだってもてはやされたが、自分の掟を破りサツを殺した人殺しだ。だからサツや国から目をつけられたのさ。結局のところは俺もヴィトーも自分の本分を、生き方を貫けなかったんだ」
この人達は、愛する者から裏切られたり、愛していた地元から裏切られて……そして自分の生き方を貫けなかったから魂に傷を負ったんだろう。
そしてそれが転生前の自分の生き方のせいって事もわかって……。
「私も、組織や仲間のイタリア系移民の名誉を回復するために何でもやった。だが名誉ある男だと自負していた私は、老いて掟を破り、家族を尊重するという生き方を貫けず、妻も、息子も、孫も……全てを失った」
いつの間にか私達の前に現れたロバートさんが、会話に加わるが、先生が私の肩から飛んで、ロバートさんの肩をポンと叩いた。
「だが、俺もロバートも二度目の人生では己の生き方を貫いてる。俺は任侠道、こいつは名誉ある男の道。お前らは転生後の人生で何を望む?」
転生後の人生の生き方。
先生は言ってたっけ、生き方をしっかり持てば、迷いも隙もできないと。
「我の望みは人々の幸せさぁ。皆が笑い合える国にするん、いくさ世はもうごめんさぁ。琉歌の通り命どう宝やん」
「俺は、人が人を殺さねえでもいい国にしてえ。そして俺は弱き人を守るための、けん銃だ。自分の生き方を、この世界で貫き通す」
私も……転生前のお父さんに殺されたのも、いじめられたのも、結局は楽がしたいって勉強からも逃げて、学校からも逃げて……だから……。
「私も、もう逃げない。どんなに苦しくても、きつくても、前を向いて歩いて行くんだ」
私達が決心した時、会議室に先生の子分の人達や、ロバートさんの組織の人達が入ってくる。
会議室の椅子には、イヤホンマイクが置かれており、装着すると異世界の人達の言葉がわかる仕組みになっているらしい。
「親父、ノルド帝国の国家構成と拠点、そして主要な連中の情報がわかった。いつでも喧嘩しに行けるよ。あ、ロバートの叔父御、金城の叔父貴! ご苦労さんです!」
「ミスターマサヨシ! ご機嫌いかがでしょうか!」
用心棒さん達が、ロバートさんやヴィトーに次々と頭を下げ始め、先生にロバートさんの組織の人達が声をかけた後、ノルド帝国の情報を私達に伝える。
ノルド帝国は、精霊神フレイを神として崇める3つの国家領域で構成され、精霊種が帝国の実質の支配者で、その下のエルフが皇族の1等民族、ドワーフ、フェアリス、ホビットが2等民族、その他のハーピーや獣人、ウェアウルフやリザードマン、オーガといった種族は、奴隷という名の3等民族となり、厳しい身分制度社会を敷いているみたい。
「なるほど、なるほど、そんでノルド帝国の首都はクリスタニアってとこで、スーデン領域政都がガルフスタン、フィン領域の政都がスヴェアねえ。じゃあ、夜までにこの3つ潰しちまおう」
へ!?
先生今なんて!?
「兄弟マサヨシ。我々は3つの部隊に分かれて急襲するわけか? 分担はどうする?」
「親父、ホランドってとこのエルフ連中にも話つけなきゃ。一応王子さんと将軍さんは、うちの客分として身柄を預かってるけど」
いやいやいやいや、相手は北方一の大帝国なのに、私達が首都を急襲するって……。
それに夜までに戦争を終わらせるとか、意味がわからないんだけど。
「ああ、それな。じゃあよお、デリンジャーギャング団主力が、首都制圧するから、兄弟も同行してくれ。二代目、おめえは仲裁役としてホランドを抑えろ、手打ちに持ってけ。ブロンド、おめえは栄流巫連合の騎士団で、フィン領域のエルフ連中相手だ。ガイは怒倭亜夫興業総出で、スーデンのドワーフ連中ぶっ叩け。で、ベリアルのやつは来てんのかい?」
「親父、ベリアルはその……」
「親父さんベリアル本部で寝てる」
「うちの本部長起こそうとしても無駄」
え、ベリアルって誰?
先生の組織の人?
ていうか大事な戦争の会合なのに、すっぽかして寝てるとか、ニート過ぎる。
……不登校になってた私が思うのもなんだけど。
「チッ、あのガキ本部長のくせに、何やってんだよ二代目体制はよお。やつが来たら楽だったんだがしょうがねえ、サタナキアの連中総出で首都急襲すっか」
えぇ……。
きっと酷いことになる……魔王軍使って、相手国襲うとか勇者がやる事じゃないんですけど……。




