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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第一章 王女は楽な人生を送りたい
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第4話 復讐者達

 ヴィクトリー王国名君ジョージ3世暗殺と、暗殺犯である王女マリー処刑、エリザベスがヴィクトリー女王即位の重大ニュースが、ナーロッパ大陸全域に広まり、ニュートピアと呼ばれる世界は、大混乱に陥った。


 そして混乱に拍車がかかるよう、突如現れた怪物たち。


 まるでこの世界で語り継がれる英雄ジークが討伐したとされる、神話のようなモンスター達が現れ、世界各地に展開し、ヴィクトリー王国対岸にある各国の砦が襲撃され、甚大な被害を被る。


 するとヴィクトリー王国の使者や、伝書鳩が世界各地に派遣され、この変異は国王殺しの大逆人にして、世界を滅ぼす呪いを残した、マリー王女の怨念であるとの声明文が発表された。


「そんなわけあるかよ、ふざけるなあ!」


 この異変の真相に最初に気が付いたのは、戦闘経験豊富で国家の英雄と言われ、190センチの長身にして、青髪を短く刈り、口に青い顎髭を生やした、ヴィクトリー王国の同盟国家、フランソワ王国一の伊達男とも称される、第一王子のアンリ・シャルル・ド・フランソワ。


 執務室で怒りのあまり彼が執務机を叩きつけると、木製の机が割れて粉砕される。


 そして自分の執事をベルで呼び出した。


「おい爺や、いけ好かねえけどあの4か国の王宮の王子宛に伝書鳩飛ばせ! 一週間後のフランソワ時間0時ジャスト、水晶玉であのクソ馬鹿王子達とヴィクトリア王国についての会議を開く! いいか?」


「かしこまりました、殿下」


 そして1週間後のフランソワ時間の0時ジャスト、ナーロッパ大陸の人間国家で大国と呼ばれる王子達が、マジックアイテム水晶玉の前で同時通信を開始した。


 会議の出席者は、発起人のアンリ・シャルル・ド・フランソワ。


 大陸東に位置するバブイール王国皇太子、アヴドゥル・ビン・カリーフ。


 大陸中央のロレーヌ皇国皇太子、フレドリッヒ・ジーク・フォン・ロレーヌ。


 大陸南方の大公国ロマーノ王子のヴィトー・デ・ロマーノ・カルロ。


「すまん、呼び出して申し訳ない。議題は、この大陸で起きた、数々の変異についてだ」


「その様子では、フランソワ殿は何か掴んでいるようだな? 我がアヴドゥルの名において、今夜の妻達との甘いひと時を中止したのだ……有益な情報を求む」


「汚れた蛮族め、そんな話はどうでもいい事です。フランソワの雑種よ、あのヴィクトリー王国の話、でっち上げなのでしょう? あのマリー殿を陰謀に陥れたエリザベスの」


「まったく、あのヴィクトリーのせいで世界経済が冷え込んでしまった。おかげで投資話がパーだ。それに、マリーちゃん、おほん、マリー殿はあんなことが出来る姫じゃない。我々の共通認識でしょうよ」


 王子達は全員気付いていた。


 自分達が一目惚れした、あの可憐で人の好さそうなマリーが、世界を滅ぼす召喚術師にして国王殺しの大逆罪を犯す事など、タチの悪い陰謀であることを見抜いていたのだ。


「なあ、こうしてこの4か国の王位継承者が腹を割って話すのも、今後もう無いかもしれないけれど、この俺、アンリの話を聞いてほしい。俺は女に惚れたことなど一度もない、人生で一度たりともだ」


 表面上友好を装いながら、陰謀溢れる大国の王子達が、今回は心の底から本音を話す。


 マリーの死の報が、彼らの心をこの世界ではありえなかった心境へと変えたのだ。


「それは初耳だな、フランソワ殿。貴殿のような男ならば、言い寄る美しき女も多かろう? フランソワは美女が多いと有名だぞ? まあ我がアヴドゥルは女好きにて、この世の半分を占める女は我がものだと思っているがな」


「茶化すな、カリーフ。だが、俺はあの美しい姫を見て思った。俺の運命の女が、俺が全身全霊で愛を捧げるに値する女が現れたと……。マリー姫の処刑に使われたのは、俺の国の最新処刑機器だ。ギローチンと言って、屈服しない亜人達や愚かな罪人共を、見せしめのためと苦痛なく人道的に処刑するよう、将来の死刑制度を廃止するため、俺が臣下に言って作らせた首をはねる機械だ……俺は……悔しい……」


 アンリの告白に、一同が絶句した……。

 そして通信の後、アンリのむせび泣く声がする。


 アンリの男気と男泣きにつられるかのように、他の王子達も目頭が熱くなり、最年少のフリドリッヒ皇太子も、声を上げ泣く。


「俺は、俺の愛する者を、初恋の姫を奪い、もはや悪の王国と化したヴィクトリーを許さない! 父を説得し、我が神フレイアの名において、ヴィクトリーと戦を交え、エリザベス共々滅ぼす所存である!」


 アンリは、通信でつながった王子達に、ヴィクトリー王国と戦争の決意表明をした。


 神の名を出して戦争することは、この世界では聖戦を意味し、他国が仲裁不能となる、相手国への絶滅戦争を意味する。


「アンリ・シャルル・ド・フランソワ、あなたを雑種と馬鹿にした物言い、この場で謝罪しましょう。僕も、初めて女性を好きになりました……薔薇のように美しいマリー殿を。おそらくあの怪物たちは、我らが英雄ジークの血筋を引く、召喚魔術によるものです。我々皇国も、周辺国との混血が進み、その力は皇国でも失われましたが、海を隔て混血の機会も無く、我らと祖を同じくするエリザベスならばあるいは……」


 皇国の皇室では、すでに召喚術を扱える者はいなくなり、そのかわりに英雄ジークの信仰の加護たる神霊魔法と、周辺の隷属国の王族との混血で絶大な魔力を有したのが、ロレーヌ家だった。


「我がアヴドゥルにも謝罪が欲しいものだな、フレドリッヒの小僧め。アンリよ、これは我が国の歴史でもありふれた話だ。バブイール王国は代々王位継承争いが激しくてな、王族だけで数千は越えるゆえ、致し方ないが……真相は至極簡単な話。あのエリザベスという女は、自分が王位に就きたいから、ジョージ王を毒殺し、マリー姫に罪を擦り付け処刑したのだ」


 権謀術数渦巻く、バブイール王国の皇太子にまで上り詰めたアヴドゥルは、今までの話を総合し、エリザベスが今回の陰謀の中心にいると看破する。


「そんな感じでしょうよ、カリーフさん。うちの首長国連合も似たようなもんです。半島内で都市国家同士で延々と血みどろの内部争いしてたからね。そして自分の召喚術で魔物どもを召喚し、邪魔な周辺国の要所を攻撃して、それを死んだマリーちゃんに擦り付けたってところでしょ? あのクソ女は!」


 ヴィトーは、通信しながら最新式の魔力と火薬の混合銃を、自室の時計に向けて発砲した。


 彼は楽天家で平和主義者を装ってるが、その本性は短気で血の気が溢れる、首長国家間の紛争を収めて盟主になった大公の末裔であり、その血を色濃く受け継いでいる。


「我がバブイールに古いことわざがある。悪の非道が栄えた試し無しと……。マリー姫は、私も正妻として迎えたかった……。よかろう、マリー姫の手向けに我らの手で復讐戦と行こうではないか? アンリよ、君のフランソワ王国は、亜人達と戦争中につき、それほど兵は割けぬであろう? ならばうちは東方最強と呼ばれる、魔法戦士の精鋭部隊と暗殺ギルドを、義勇軍として派遣しよう。そして、周辺国すべてに根回しして、ヴィクトリーに経済封鎖をかける」


「僕の皇国も兵を出し、長年の仇敵でしたが、フランソワと同盟しましょう。我らが英雄ジークの名を冠した、世界最強のジークフリート騎士団及び、精鋭魔導士隊を引き連れ、この僕自らも出陣する! アンリ殿、いいですね?」


「うちの都市国家は、貿易と投資と金融で食ってる国なんで、カリーフさんのバブイールと、うちで海上封鎖と金融封鎖をかけちまえば、ヴィクトリー王国は島国。干上がっちまうだろうぜ? あと船が入り用なら、うちの軍艦も貸すんで、よろしく。俺はよく惚れっぽい性格と言われるが、あんなかわいい子を殺した性悪女は許せねえ」


 王子達の頭に浮かんだのは復讐の二文字。


 この日、険悪だった4人の大国の王子達が手を組み、後にこの世界で、マリー大同盟と呼ばれる軍事同盟が秘密裏に結ばれることとなった。


「かたじけない、我らが同志たちよ。先陣は我がフランソワが務めさせていただく! 準備にはおそらく半年、いや、できるだけ早く戦争準備をするぞ! 我らが愛したマリー姫の報いを受けさせるため、悪の王国と化したヴィクトリー王国の討伐のため、今こそ世界の結束を!」


「おう!」


 しかし彼らは気が付かなかった。


 王国のみならず、この世界の大国へ復讐を企図する、悪しき復讐者がいたことを。


 そしてその存在によって、この世界で結ばれた男たちの高潔な友情も、マリーの心も引き裂くような、世界存亡の危機となる事を、まだ彼らと彼女は知らない。


 一方、世界を滅ぼすほどの召喚魔術を発動させたマリーはというと……。


「あつうううううい! 足の傷は治癒したけど、船の中あつううううい!」


 マリーは、ヴィクトリー王国を西に向かう、船に揺られ、流刑地であるオージーランドを目指す。


 彼女の力を恐れて、ヴィクトリー王立海軍の軍艦が数隻護衛について。


 そして船内は、罪人の逃走防止のため、海上とを船を照らす直射日光で温められ、蒸し風呂の様相を呈しており、あられもない下着姿になったマリーが、船内で大の字になっていた。


 マリーは、エリザベスの勅命により処刑命令を変更され、流刑罪を受けたので、体力を回復できる食材には事欠かず、船には、栄養価の高い水牛のチーズと、植民島の名産品にして、この世界の砂糖の原料である、トウキビ草を蒸留した、高純度のアルコール、ラムウ酒が大量に積まれており、それを流刑者たるマリーには、自由に与えられていた。


「ういいいいいいいい、ヒック! 飲まなきゃあやってらんないってえの! げっふーい! ないが世界を滅ぼす召喚魔術よ! うぇっぷ、馬鹿じゃないのお、こちとら楽な生活送りたいからあ、転生したのにいいいいい、うぉえっぷ」


 ラムウ酒に酔ったマリーは、水牛のチーズに沸いた蛆虫を見て、けたけた笑い出し、口に頬張る。


「ううううん、この白いトッピングのチーズうみゃああい! このお酒甘くてワインよりおいしい……うっ船酔いなのか酒酔いなのかあ、わからないいいいい、あっはっはっは、おえええええええ」


 三半規管が酒酔いと船酔いでおかしくなり、彼女の視界がぐるぐる回る。


 その姿を見た、船員たちはマリーの男らしい飲みっぷりに、心惹かれてた。


 マリーの持つ固有スキル、魅了によるものである。


 彼女は自らが意図せず、ステータスの運の高さも相まって、徐々に状況を好転する、反撃の準備が整っていた。


 あとは、彼女を導く存在さえいれば、流刑を脱出することが出来る。


 例えば、この場で自身が天界で知り合った、あの上級主天使サキエルを召喚すれば、船から脱出も出来うる可能性が高かった。


 しかし彼女は楽を追い求めるあまり、自分の欲求には素直である。


 そう、彼女にとって最高に楽な状態、睡眠という名の欲の状態。


「あはははは、この船旅いいいい、あつぅい事を除けば、最高に楽な生活かもしれなヒック、ういいいいいい、寝よ!」


 あられもない姿で寝るマリーに触れようと、船員の一人が寝込みを襲うも、運の高さと寝相の悪さが相まった、マリーの無意識の蹴りが、襲おうとした船員を撃退する。


「ああああああ、玉がああああ、俺の金の玉があああああ」


 マリーの踵蹴りが股間に当たり、下腹部を抑えて絶叫する、船員の悲鳴が辺りにとどろく。


 そして、マリーの寝込みを襲おうとした船員は、仲間たちから袋叩きされたのであった。


 船旅から1か月、マリーは流刑地であるオージーランドに到着した。


 白い砂浜に、美しいサンゴ礁の島々。

 そして島というには、あまりにも広大な大地。


 辺りはトウキビ草が生い茂り、原住民たちが奴隷となって畑で働かされていた。


 プランテーションと呼ばれる熱帯、亜熱帯地域の広大な農地に、王国が資本を投入して大量に農作物を作り、それを安価で高品質のラムウ酒や砂糖、飲料や、紙などに加工して、世界中に取引しているのが王国の主産業の一つである。


 そして働くのは、原住民と子供達。


 男達は、皆兵役につかされ、後方支援物資運搬や、王立海軍に徴兵させられていた。


 鞭を持ったヴィクトリー王国兵が、辺境に派遣された憂さ晴らしに、原住民に暴力を振るうのは日常茶飯事で、原住民の女たちの大半も王国兵に強姦され、徐々に混血が進み原住民の民族浄化をも企図する、ヴィクトリー王国の暗部である。


 人間の尊厳が奪われたオージーランドの光景を見て、マリーは涙を流した。


 自分たち王侯貴族が楽をするため、王都のみならず世界の果ての辺境も搾取される弱き人びとの姿を見て、マリーは父のみならず、歴代王家の闇を見せつけられ、絶望の涙を流す。


 子供たちが蹴られ、女たちが鞭うたれる光景を見て、マリーは船旅による疲労と、自身の体を蝕んでいたアルコールの効果で、その場に崩れ落ちて気を失った。


 そして彼女の持つ復讐心と、世界救済の想いに呼応するように、マリーの体内の魔力回路と異世界のゲートが繋がりつつあった。


 女子供への非道と、人間の尊厳を踏みにじるような悪を激しく憎む、この世界とは別の異世界で活動中の、ある男へと繋がる、召喚のゲートが繋がろうとしていたのだった。

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