第43話 勇者の軍団
私達は召喚したメリアさんと、その娘のマリアちゃんと別れて、パリスから120キロ離れたランヌの街の手前に転移する。
場所は平原のようなところで、地図によると北側にランヌの町、南が森林地帯で、あとは見渡す限り、平原か畑しかないような場所。
辺りには不快な臭いが周囲に漂い、気分が悪くなったから、ハンカチを口元に当てる。
空は暗雲が覆い……木が焼けた臭いもするけど、このなんとも言えない何かが焦げた臭い、煙臭いようなアンモニア臭というか、髪の毛が焦げたような生臭い感じの……悪臭。
ロバートさんは周囲を見渡して、怒りの表情になり、ランヌの町の方向を睨みつけた。
「……死臭だ、ベトナムの戦場や数々の異世界で嗅いだ匂いがする。大量の人々が焼けた匂い……間違いない、虐殺しやがった……フランソワ北部の人達を」
「そんな……虐殺って……」
「奴らはやられたから、やり返してんだ。俺とフランソワは、多くのホランド人と呼ばれる、ハーフエルフの亜人達を虐殺した。報復って奴だ」
アンリことデリンジャーは、悔しそうに俯いて、両拳を握り締めていた。
やられたらやり返す、倍返しだ……というドラマがあったけど、そんな事を繰り返したら世界はいずれ滅びてしまう。
「もはや……我らの相手は人間としての心を失っているやも知れぬの。我らも急いだほうがいいかもしれぬ」
女神ヤミーがしかめ面になり、一緒に転移したフランソワの騎士団や、ロレーヌのジークフリード騎士団も、虐殺が行われた地に対する異様な雰囲気に落ち着かない様子。
「待て!」
先生は、突然全員に待ったをかけた。
「おめえら、場の空気に呑まれてんぞ? 喧嘩前にそんなんだと、隙が出来る。うちらの組の人間が転移するのを待て」
そうか、先生は戦闘経験豊富な勇者。
みなが、浮き足立ってるのを感じ取ったんだ。
「転生前の評判はともかくとして、日本一、抗争経験が豊富だった事はあるな。殺しの技量は私が上だが、指揮官としての戦闘経験がずば抜けている。さすがはあのジェネラル・テイラーの……」
ロバートさんがなんか呟いてるが、先生が私の肩でささやく。
「おう、今からおめえさんは、酷く凄惨で、醜い人間達の業を見るかもわかんねえ。だから……心を強く持て。デリンジャーは、本来の自分を取り戻したが、それが仇になって足枷になる可能性がある。喧嘩は、子分達がどんなに頑張っても、親であるリーダーがブレたら、勝てる喧嘩も勝てなくなる。だからおめえが、気を引き締めろ! 何があってもだ」
なんだろう……。
この人が言うと、勇気が湧いてくる。
勇者って概念自体、正義のヒーローみたいな感じで、イメージがイマイチだった。
けど、勇者とは、勇気がある人を指すのではなく、誰もが恐れる困難に立ち向かい、偉業を成し遂げ、人に勇気を与える存在の事を指すのが、勇者という概念なのかもしれない……先生のように。
「その通りだ。リーダーは冷静でいなきゃあならない。ミスターと君がギャング団のリーダーだ。どんな場面だろうが、リーダーたるもの変節してはいけない。一時の感情に流されれば、全体を俯瞰して観る事も、決断力も発揮できない。信じるんだ、人の美しさを、魂の本来のあり方を」
ロバートさんの言葉にも勇気がわいてくる。
この人はどんな時でも、人の美しさを信じて、今まで生きてきた凄みがある。
そして、こちら側には勇者が二人もいる。
ヤクザだしマフィアだけど、人間の可能性を信じて、世界を救いに導いてきた人達が。
私達が、警戒しながら勇者達の軍団を待ってると、突然前方の平原が歪み始めた。
すると様々な種族の軍団が現れて、私達の前に跪く。
背丈が小柄な女子くらいで、真っ黒い鎧着て大きい武器を持った、バイキングがしてたようなツノ付き兜をつけた、浅黒い肌で髭もじゃなドワーフ集団。
赤い胸当てと、赤いヘルメットのような兜をつけた機械仕掛けの長弓持ちな、白い肌のエルフの弓兵集団に、肌が黒くて剣とか杖を持った、銀髪で紫色したトゲ付きの鎧に身を包んだ、エルフの騎士団。
他にも、銃器と刃物で武装した集団や、背が高い獣のような顔をした集団に、角を生やした鬼のような集団とか、なんかもう無茶苦茶怖そうなのが集まって、私達をガン見してくる。
空には空飛ぶ戦艦が何隻も姿を見せて……翼を持って飛んでる妖怪みたいなのや、巨大な竜に乗った軍勢や、全身黒尽くめで鎌とか槍とか持ってる人達も集まって来るけど、これ……なんかもう、勇者の軍団というよりも、魔王軍っぽいんだけど……。
「親父! これから出入りだろ? 極悪組でも特に腕が立つ奴らを中心に集めて来た……ていうか親父どうしたのそれ? ヤミーのお姉ちゃんもすげえ小さくなってるし」
イケメンの着物の用心棒さんに、集団の幹部っぽい人達も続々とこちらに集まり始めた。
「おう、そのうち元に戻るだろうから気にすんな! とりあえず、サタナキアの特殊部隊を斥候に出しとけ」
指輪で呼び出した時と違って、何を言ってるかわからなかったけど、連絡事項っぽい何かかな?
「ロバートの叔父御! ご苦労さんです! 叔父御のファミリーは、サタナキア2番艦、ベルフェゴールに集まってやす! うちのもんがご案内しやすんで、どうぞ! 道具も揃えときやした」
あれ? 今度は英語だ。
これならば、会話の内容がなんとなくわかる……いや、英語の成績アレだったから、やっぱ全然わかんない。
「うむ、すまないが案内を頼む。ミスター・デリンジャー! 何かあれば水晶玉で呼び出してくれ、うちのファミリーで援護する。じゃあ兄弟、また会おう」
「おう、またな。どれ、揃ったか」
なんだコレ……。
総勢何人いるんだろう……。
なんか、ここに集まったフランソワ軍や、ジークフリード騎士団が呆気に取られて、呆然としてる。
「どうぞ、親父さん。マイクです」
あ、いつかの美少年エルフな、風のシルフさんがマイクを渡してきたけど、コレ私が代わりに受け取ればいいのかな?
私は肩に腰掛けた先生に、マイクを向ける。
先生はスウっと息を吸うけど、嫌な予感がする……急いで私の両手で耳を塞がなきゃ、すごいヤバイ感じが……。
「おめぇら! 今回の喧嘩相手は、破滅神ロキとか言うクズヤロー! 最上級神と同格の、元精霊界元老フレイ! そして元上級神にして女神フレイヤだ! 喧嘩相手に不足ねえ! 俺達が掲げる信条は!? 大義名分は!?」
「弱きを助け! 強きを挫く任侠道!!」
「ちょおおおおおおおお! 右耳がああああああ! 右耳の鼓膜がヤバイんですけどおおおおお!」
私の絶叫をよそに先生は話を続ける。
「そうだ! この世界は上辺だけ小奇麗で、魂に傷を負った奴らばかり転生して、争い合ってる悲しい世界だ! そして……そいつらの運命や、生き方を弄ぶ最低最悪のワルがいる! そんな最低のド外道を俺は許せねえ!」
「うおおおおおおおおおお!」
「絶対に許すな、非道を!」
「人間の尊厳を俺達が守るんだ!」
「ぶっ飛ばしてやるぜ、オイラ達極悪組が」
何を言ってるかわからないけど、凄い熱気だ。
そして、先生はまるでロックスターやアイドルとかそんなレベルじゃないほど、カリスマ性を持ってて……これが勇者の力か。
「そして仁愛の世界の奴ら! 俺のかわいい子分達! やっと奴らの尻尾を掴んだぜ! 元々おめえらの世界を最初に作ったのは、フレイとフレイア! あいつらはお前達の世界を放置して仁義なき世界に変えちまい、この世界も奴らのせいで仁義がねえ世界に変わりつつある……。俺は……奴らに相応しいケジメを取ってやる! そしてお前達がこれから戦う亜人連中も、そいつらに道具にされた悲しい奴らだ! 救ってやろう! 俺達の手で、ワルを挫いてこの世界を救済する!!」
「うおおおおおおおおおおお!」
「勇者様ばんざああああああああい!」
「許せません! 今こそ鉄槌の時!」
「我々が救われたように、この世界も!」
「マッサヨシ! マッサヨシ!」
内容はよくわからなかったけど、凄い盛り上がってる。
「親父! これ、親父のために用意したプレゼントだ」
ん? 用心棒さんが空を指さした。
パラシュート付きの何かが降りてきて……なんか四角くてタイヤがついてる大きいものが。
先生はニヤリと笑ってるけど……。
すると、地響きのような排気音をたてて、それは降りてきた。
「へっへっへ、わかってるじゃねえか! やっぱりよお、カチコミと言ったらダンプだよなあ」
……中世ヨーロッパチックな世界に、巨大なダンプカーが現れたけど、意味がわからない。
他にも、上空の軍艦から戦車のような車とか、弩付きの軽トラとか、巨大な車輪のバイクとかが、パラシュート付きで次々に降下してくるけど……。
なんだろう? 世界の法則が乱れてってるような、世界観ぶち壊しみたいな感じは。
「ヘイ、シミーズ! なんだこれ!? なんかトラクターぽいのとか、装甲車っぽいのやオートバイクの化け物のようなのが、次々と地面に降りてるが……」
「おう! デリンジャー、ダンプの運転頼むぜ! カチコミだ! 俺の組でワル共粉砕してやらあ!」
なんだかよくわからないけど、私はダンプカーに乗り、玉座のような助手席に座り、デリンジャーは運転席、他の主だった人達は、馬車ごと荷台に移動する。
「よおし、行くぜ野郎共!!」
私が乗るダンプカーの後に続くように、軍勢が大型バイクや、装甲車に、バギーに乗り込んで、北方を目指し、他の騎士達の馬や馬車も後ろに続いた。
しかもこのダンプカー、デフォで演歌とか流れてるし、何で演歌?
「なんか足りねえなあ? 演歌もいいんだが……あ、そうだわ、おうサタナキア音楽団! 音鳴らせ! 勇者のカチコミに相応しいテーマよ!」
先生がダンプの無線通話すると、上空の船団から吹奏楽の音色がしてくるけど、これ……アレンジされてるけどドラク●だ。
ドラゴ●クエス●の勇者のテーマだ……。
「ヒャッハー! 一番槍はドワーフ兵団じゃああああああ」
「喧嘩じゃあああああああああ!」
「ヒャッホー、ヒャッホッホッホ!」
ドワーフ達は車輪が巨大な大型バイクに二人乗りしてまたがり、でっかい斧とか剣とか金棒を装備してる。
他にも真っ黒の軽トラみたいなのにエルフ達が乗り込み、空には戦闘機や蝙蝠のお化けみたいのや、妖怪みたいなのや竜が飛び交って火を噴いて……やっぱりこれ勇者の軍団ってよりも、魔王の軍団のような……。
幹部っぽい人達やエルフの騎士団達はともかく、何ていうか全般的にガラが悪いし不気味すぎる。
これ勇者のパーティーが、行進するってよりも、なんだろう……まるで村々に略奪したり蹂躙しに行く魔王軍とか、世紀末救世主な漫画に出てくる、悪の軍団みたいな感じがする。
「Oh、すげえな、シミーズ。シカゴの街で聴いたオーケストラみたいだ。バッハか? それともモーツァルトか?」
いやいや、そんなんじゃなくて、これド●クエのメインテーマだって!
と言っても、1930年代に生きてたこの人に、ドラゴ●クエ●トって言ってもわかんないだろうし、まあいいか。
「ハッハーこれだよこれ! 転生前の若い頃やったファミコンのド●クエのテーマよ! おい、次はファイ●ルファ●タ●ーのテーマ流せ! オラオラ勇者様のお通りだ馬鹿野郎!」
あ、先生の世代だとWiiやプレステとかDSでもなくて、ファミコンなんだ。
せっかくだし、モンハ●のメインテーマとか、私もリクエストしようかなあ。
あ、今度はどっかで聞いた事がある哀愁たっぷりの曲が流れたけど、これなんの曲だっけ?
「ほう? ゴッドファーザーの愛のテーマとはシブいねえ。ロバートの兄弟の野郎がリクエストしやがったな。まあ、あいつ転生前のニューヨークで、マジもんのゴッドファーザーしてたしな」
やっぱり、転生前……あの人ゴッドファーザーだったんだ。
「勇者様、斥候のグレイフォックス中隊からの映像分析結果です。到着予定の町の住人半数の死亡を確認。首を切断されて、町の街頭に晒される形で、黒焦げにされた胴体が串刺しにされております。生き残った子供や女達が……何て奴らだ! 巨大な盾を持ったドワーフ達が、女子供を盾に縛りつけてやがる! 空にはエルフ達が笑いながら、死体に弓を射って……悪魔と呼ばれた我々でも、吐き気を催す邪悪さだ!」
なんだろう、すごい緊迫した無線が流れてきて、何を言ってるかわかんないけど……女神ヤミーの血の気が引いた青い顔になり、先生のこめかみに血管浮かんで、目が充血して恐ろしい顔になった。
「よう、デリンジャー。亜人国家とやらは一線を超えた。俺の組で奴らぶっ殺す許可くれや」
怒ってるとかそういうの通り越して、何とも言えない寒気がするような表情で、先生が言った。
おそらく、私達がこれから向かう町は、想像を絶するような酷い事になってるんだろう。
すると、町の街道に入ったら黒焦げになった何かが長大な槍でくし刺しにされてて、人形のような頭が街頭に無造作に置かれていた。
まさかこれって……。
「……ダメだ……。殺しは……ルール違反だ。例えどんな事があろうとも、どんな相手だろうが……デリンジャーギャング団の掟、殺しはご法度だ。これはこの世界に転生した俺が招いた罪と業。だから……もうこんな事は終わりにしてえ……頼む」
デリンジャーは運転しながら、目に涙をためて顔が真っ赤に紅潮していた。
「そうか、わかった……。じゃあ、殺す以外は何をしてもいいな」
先生は、ダンプの無線をONにして、私は無線機のスピーカーを先生に持っていく。
「おめえらぁ! かち込むぞ! 俺達の頭、デリンジャーが殺しはご法度だと言った! だからよお……徹底的に俺達極悪組の怖さを外道らに教えてやれ!! 行くぜ野郎共! 邪魔する奴らは全部ぶちのめす! 喧嘩開始だ!!」
こうして、私達と北方の亜人国家との、長い一日……異世界間戦争が始まった。
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