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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第二章 魔女は楽になりたい
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第39話 大戦勃発 後編

 フレドリッヒが、ホテルパリスでフランソワ北部より亜人の大軍勢とヴィクトリー王国が侵攻してきた報を聞く3時間前の事である。


 マリー達は、このフランソワを舞台に大戦が繰り広げられようとは夢にも思わず、夕食後の小休憩の後に、夜明け前の首都パリスに到着した。


「へっへっへ、襲撃(カチコミ)と言ったら夜明け前が基本だよなあ。こんな馬車じゃなくてダンプでもあったら、正面から突っ込めるんだけどよう」 


 勇者マサヨシと女神ヤミーが、小人化で弱体化しながらも馬車を透明化し、これを補助するようにマリー達が風の魔力で、馬車で浮かせ物音もたてずに、ルービック宮殿前の庭園に着陸させる。


「ああ、その通りだ。この時間は最も人間が油断し、寝静まっていて警備は手薄。さすがは日本一の武闘派と呼ばれていただけはあるな、兄弟。だが、ダンプはこの任務には向かないし、これは隠密で宮殿を我々の手に収めるのが目的だ」


 黒のスーツに身を包み、中折れ帽子を被った勇者ロバートがマサヨシに応える。


 今回の計画は、フランソワ王宮をアンリの手で強奪し、防衛設備等が整ったこの城を拠点にし、アンリがローズデリンジャ―ギャング団の首魁、デリンジャーである事の宣言と共に、自身が死んだとされていたフランソワの正統後継者、第一王子のアンリ・シャルル・ド・フランソワであることを明かし、ロレーヌのフランソワ支配の正当性を挫くことが目的である。


「ヘイ、もう少し声のトーンを下げろ。この城は西方最強と言われるジークフリード騎士団と、フレドリッヒの奴がいるやも知れんのだぞ?」


 デリンジャーことアンリは、魔力銃をトンプソンにして、全員に注意を促す。

 

 合理的かつ、表向き国際法を順守する真面目なロレーヌ人達の事だから、この宮殿にいくつかある、大客間を拠点にしている可能性が高く、そうでないならばパリスの名を冠して、交通の要所であるシャンゼリー大通りに建てられた、ホテル ・ル・モンデ・パリスに占領軍がいる可能性があった。


「いや、この宮殿には軽装の警備兵だけだな。金物の臭いや、人が集まった時に発する生活臭や体臭もそこまで数は多くない」


 転生前からの特殊能力、異常発達の嗅覚によって、ここには占領軍がいない事をロバートは看破し、他にも事前にアンリが作成した、宮殿の見取り図に目を通して記憶し、常人の100万倍はあるような犬並みの嗅覚で、宮殿にいるおおよその人数を割り出す。


「はあ、疲れた。でもここを抑えれば、私達は楽になるんですよね? 先生」


 マリーは欠伸を噛み殺しながら、師であるマサヨシを肩に乗せて、鉄パイプのような魔法の杖をもぎ手に持ち、クルスこと元ヴィクトリー王国近衛のヨーク騎士団長、オーウェンより魔力回復用のポーションを左手で受け取った。


状態確認(ステータス)


 自身の能力値を確認すると、ウンディーネとの戦闘の成果でレベルが42に上がり、全てのステータスが宮殿にいた時よりも、10倍以上になっていたのに驚いた。


――そうよね……私も二カ月ちょっと前までは、普通に王女してて、あの晩餐会から苦難と激闘の連続だったし、嫌でも強くなる筈だよね。


 マリーは精神的にも肉体的にもタフになっていた。


 しかし、目の前にいる百戦錬磨の男達と比べれば、まだまだ自分の力は不足している。


 そう思った時、肩に乗ったマサヨシが、マリーの右の耳たぶをキュッとつねった。


「その考えは違う、もっと自分に自信を持ちな。こういう大仕事の前に、そういう考え方をしていると隙を生むことになる。おめえさんだけが戦うわけじゃねえ、俺達もいる事を忘れるな」


 マリーは肩に乗ったマサヨシを見つめ、縦に小さくうなずく。


「そういう事だ、マリー姫。俺達は独りじゃない、チームだ。まだまだゲームは1回裏で、君は指名打者で、守備の要のキャッチャー。いわばチームの切り札、そうだろ?」


「ベースボールか、懐かしいな。私も故郷NYのイースト・ハーレムのリトルリーグでプレーしてたよ。リトルイタリーの同学年の奴らと、よく練習試合をしててなあ。小さい頃の私は気が強くて運動神経も良かったが、パワーが少し足りなくてね……6番サードだったな」


 アンリの野球談議に、ロバートは懐かしそうに話に加わる。

 

 サードは、ファーストとセカンドに素早い送球が求められ、痛烈な打球を捌ける勇気がいるポジションであり、6番打者は3から5番のクリーンナップで返しきれなかった走者を一掃できる、勝負勘が強く、そこそこパワーのある選手が選ばれることが多い。


――ちょ、なぜか知らないけど野球経験者ばっかり集まってるんだけど。


 マリーは吹き出しそうになり、ヤミーはニヤリと笑い、話に加わる。


「となれば、我はエースで4番じゃのう! 飛距離はピカ一じゃ」


「声がでけえんだよ、アホ。おめえは野球より、どっちかって言うとサッカー……」


 マサヨシが言い終わる前に、宙を飛んだヤミーの前蹴りがマサヨシの股間を蹴り飛ばし、マリーの肩の上で悶絶すると、一同が苦笑いした。


「さあて一回裏で打席は俺達に回った。点を取りに行こうぜ」


 アンリが宣言すると各人が馬車を降り、ルービック宮殿へと駆け出し、警備にあたっていたフランソワの近衛騎士隊を、音もなく昏倒させていきながら宮殿の裏手から中に侵入する。


 城の内部を知り尽くしてるアンリと、ロバートが斥候役で先頭に立ち、ハンドサインを送るとマリー達が加わり宮殿の中を音もなく駆けだす。


 潜入する事10分、宮殿の奥深く、玉座の間に侵入しようとした時、ロバートが手を挙げた。


 待ての合図であると同時に、中に誰かいるという事。


「……誰かいるな。だが……これは……死臭だ。それと血の匂い、複数の刃物を持つ男達の匂いもする」


 風魔法で音もなく、ロバートは王の間の鍵を開錠しドアをサッと開けると、冥界魔法で音と光を込めた魔法の手榴弾を投げ込んだ。


 大音響が王宮の間に轟き、刃物を構えた黒のローブの男達に、消音器(サイレンサー)を具現化させた魔法けん銃ガバメントを発砲して戦闘不能にする。


 そして玉座近くで胸から血を流して倒れていた美しい少女と、10歳くらいの少年の姿を目にしたアンリは血の気が引き、その場に跪くようにして両膝を床についてうな垂れた。


「……俺の、転生後の妹と弟だ……」


 アンリの一言にマリーとヤミーは絶句して思わず死体から目を背け、激高したロバートは、まだ息のある黒いローブの男の腹を蹴飛ばし、小人化したマサヨシもリンチに加わる。


「てめえら……よくもやりやがったな! てめえどこのどいつだマザーファッカーが」


「兄弟、このクズ野郎ら……バブイールって国の暗殺者だぜ。命令した野郎は……」


 アンリはうな垂れながら、右手の掌を見せてマサヨシの言わんとする先を制した。


「シミーズ、ロバート……もうういい。俺のギャング団は殺しはご法度だ。あいつに……アヴドゥルに連絡をこれからつけるから」


 フランソワより1時間早くバブイール王国は夜明けを迎え、寝室でアヴドゥルは悪夢にうなされる。

 

「息子よ、どうしてだ! なぜ俺の言う事をきかんのだ! お前が来てくれれば我々の地位と財産は保証すると、相手側も!」


「父上、私はあなたに……従えません。奴らは母上を殺したのですよ!? 信用できるわけがない!」


 夢の中で成長した息子と自分は、何かを言い争ってる。


 だが、息子は私に何かあったら必ず助けに来ると言い残して、自分と別れた。


 しかし、息子は自分を助けに来ないばかりか自分を見捨てて……。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 脂汗をかきながら悪夢に絶叫して、アヴドゥルは目を覚ますが、夢の最後はまたしても思い出せなかった。


 枕元にあった水晶玉が振動して、着信先がアンリであることを知ると通信に出る。


「私だ、アヴドゥルだ」


「よう……アヴドゥル。俺は今、パリスのルービック宮殿だ。お前の所のアサシンに、俺の妹と弟が殺された……言ってる意味は分かるよな?」


「!?」


――いや、意味が解らない……俺はそんな命令など出していない。他ならぬお前の家族を殺すような命令など、俺は……。


 そして、頭脳明晰な彼がある事実に行き着くと、水晶玉を手からポロリと落とした。


 そう、自分が昨日の軍議でアンリがフランソワを奪還する推測を立てたことで、このアンリをフランソワ王家もろとも葬り去り、あわよくばマリー姫の身柄も抑える事で、自分が提唱した西方進出の障害の一つが減り、誰がそれで得をするのかを思い浮かべた先は、一人しかいなかった。


「そうか……そういう事か……。すまない、アンリよ。これは、俺の命令によるものじゃない。が、俺は皇太子として命令した者の名前を明かすわけには……」


「ああ、お前の命令じゃない。お前の父親がこいつらに命令したんだろう!? ハキーム・ビン・カリーフがな。なあ!? お前の魂はなんて言ってるんだ!? 本当の魂はこの非道に……」


「黙れ! お前に俺の何がわかる! 俺は……この大陸を統べるためだけに生まれてきた、アヴドゥル・ビン・カリーフだぞ! 俺は……転生前とやらで、息子に裏切られて死んだ、みじめな海賊なんかじゃない!」


 アンリは、激高したアヴドゥルの転生前の正体を知る。


 彼の転生前の正体は、海賊。


 それも、名のある英雄クラスの海賊であろうと、妹と弟が殺されて意気消沈しながらも、それでも不屈の闘志と魂を持ったアンリは推測した。


「私は、これより西方を目指して出征する。次に会うのは戦場だろう……さらばだアンリよ」


「待てよ! お前も……愛する者に裏切られたって思いでっ! 何かを成し遂げたくてこの世界に……」


 アンリが言い終わる前に、アヴドゥルは水晶玉を床に叩きつけて粉砕した。


「俺だって……こんな吐き気を催すような非道! 許せるか!! だが俺にどうしろって言うんだ!!」


 フランソワから遠く離れたイースターのトップカップ宮殿で、転生前に英雄とまで言われた元海賊アヴドゥルはやり切れない思いで、ベッドの上に座り両手で頭を抱えた。


 一方同時刻、亜人達が海と陸、そして空から、フランソワに侵攻する。


 この攻撃には、ノルド帝国精鋭部隊とヴィクトリー軍の共同作戦と言う名目で実行される。


 亜人達はエルフ、ドワーフ、ホビット、獣人やハーピー達で構成され、各々が北方のノルド帝国から、最新式のルーン武器や、精霊力が宿った弓と、特殊金属で身を固めており、ホランド国のエルフ達に加勢しつつ、フランソワ北部のランヌの辺境公率いる騎士団を撃破後に、占領。


 占領地となったランスでは、亜人による復讐でヒト種が老若男女問わず虐殺される。


 そして兵站を補給後、セール川沿いを伝うように、首都パリスへの攻撃を画策していた。


 一方のヴィクトリー城のエリザベスは、ノルド帝国のエルダーエルフの長老達との通信が終了し、ほっと息をついたのもつかの間、ロキが用意した魔力増強装備にドン引きする。


「あ……あの、これを私に着ろと?」


 ロキは、困惑するエリザベスの顔を見て、ワイングラス片手に、悪い笑顔になった。


「うん、きっと似合うと思うよ? クックック」


 ロキが用意したのは、肩から胸元まで大きく開いた漆黒の羽付きドレスと、ロキの靴同様先の尖った靴に、大きな黒いとんがり帽子。


 まさしく魔女の装備である。


「これは君の召喚魔法や、属性魔法を大幅にアップする神の装備さ。それとも、僕がせっかく君のために、魔力消費してまで作った服とアクセサリーを、着れないって言うの?」


 ……着ないと……殺される。


 エリザベスは、ロキから衣類を受け取ると、個室で着替えようと思い、玉座から立ち上がった。


「どこ行く気なの? ここで着替えてよ。恥じらう君をつまみに、ワインで一杯やるのも悪くないと思ってね。このワインはゲロマズだけど」


――間違いない、この神……性格最悪。しかも露悪趣味全開の……ドSだ。


 エリザベスは王冠を玉座に置き、ドレスを脱ぎ捨てて下着姿になって、魔女の衣装に着替えると、魔力が大幅に増したのを感じ、自分が全知全能の魔女になったのだと大いなる力に酔いしれそうになる。

挿絵(By みてみん)


 この力があれば、どんな相手にも負ける気はしないと。


「似合ってるじゃないか。あとそのくそダサいメガネ外して超視力の魔力与えて、センスの欠片もない髪型も変えといたから。今度でいいから試しに、ニブルヘルからあいつら召喚しようか? ティターンって連中で、あいつらも僕と同じ巨人族かつ今の神々に恨みを持ってるんだ。ティアマトの奴もこっちに呼ぼうかなぁ? みんな僕の刑務所仲間で、僕の巨人軍に入れようと思ってね」


――神なのに刑務所って……。


 邪悪な笑みを浮かべるロキを見たエリザベスは、やはりとんでもない神を召喚してしまったと、魔女の装備を身に着けて高揚した気分から一転、絶望の表情を浮かべた。


 ロキはニヤつきながら、魔法の水晶玉で絶望の表情のエリザベスの画像を撮る。


「うんいい、今の表情グッドだ! やはり人間は面白い! しかし亜人と言われる精霊の眷属達。まあ彼らも魔力回路と、魂の構造が違うだけでヒト種なんだけど、相当人間国家に恨みが溜まってるね。君も気を付けた方がいい」


 すると、玉座の間に黒のフードコートを身に着けた、元神フレイアが現れる。


「僕のお楽しみの最中に、いきなり表れるなんて相変わらず野暮な女だ。今のところ君の考えの通りに事が進んでるよ? そういえば君さ、相変わらずアホそうだから気が付いてないようだけど、アースラを手助けしてるの、冥界の最上級神らしいじゃない? ヤマってやつで、神の中では新参者だけど、かなりやり手なんだってさ。妹の方にも会ったけど、君の事を殺す気満々だけど、どうするの?」 


 自分が人間の身に貶められた原因の、神の名を聞いて敵愾心むき出しのオーラを出す。


 彼女は人間の身に堕ちてはいるが、力そのものは衰えていなかった。


「うーん、なるほどねえ。君はそのヤマの一派にも復讐する気なのか。まあ僕としては縁もゆかりも恨みもない奴だから、どーでもいいんだけど……。なるほど、そうかだから君はこの世界の人間を……相変わらず身勝手な女だなあ君は」


 エリザベスは、古い神の言葉で語られる会話なため、理解が出来なかった。


 ただ一つ自分がわかる事は、この女が自分の味方で、貴重な情報源であるという事。


 しかしエリザベスは、このフレイアが自分の味方であるという思い違いを、後々後悔することになり、フレイア自身も、自らの目論見が崩れる事を、邪悪だが聡明なロキだけが見抜きほくそ笑む。


「まあいいや。冥界には僕もコネがあってね、君のために情報を仕入れてやろう」


 ロキは神通力を使い、何者かと会話を始める。


「もしもし? うん、僕だよ。ヤマとヤミーって奴どんな奴ら? へー、これは面白い! なるほどね、ヤマって奴なかなかやるじゃない! 仕事ができる奴は嫌いじゃないが、僕の計画の邪魔になるから。うん、その辺頼んだよ」


 フレイアは、今のところロキが自分に協力的なのを見て、ほっと胸をなでおろした。

 

 しかしこの悪神ロキは、自分の楽しみの為ならば手段と方法を選ばないことを知っているので、決して信用や信頼はできないと己に言い聞かせ、通信先かつ自分の協力者との会話に、耳を傾ける。


「え? オーディンの馬鹿、こっちに戦乙女(ワルキューレ)送ってくるの? アホじゃないかあいつ。せっかく僕が面白おかしく楽しもうってのに、この世界滅ぼす気かあの馬鹿。ま、いいか、何とかするよー、じゃあねー」


 ロキが陰謀を巡らせていた時、玉座の間が開き、主要大臣や閣僚達が王の間に入ると、エリザベスの衣装に驚き、大臣全員が呆然とした表情になり、フレイアとロキは透明化の魔法を使って姿を隠し、様子を見つめる。


「エ、エ、エリザベス陛下……そのお姿は?」


 外務大臣のウィリアムズ公爵、財務大臣レスター公爵、そして宰相ボートランド公爵が、黒い衣装に身を包んだエリザベスを見て、呆然とする。


「周辺諸国が私を魔女呼ばわりするならば、いっそ魔女になる事を私は決意しました。私とヴィクトリーを貶める輩には、私の頭脳と新たに得た魔力で屈服させてやりましょう。ふふ、うふふふふ、あーっはっはっはっは」


 大臣たちは全員、恐ろしいほど魔力が高まったエリザベスを見て鳥肌が立ち、恐怖のため顔が引きつり背筋がゾッとしてながら、名実ともに魔女になったエリザベスを見て恐れおののく。


 その様子を、透明化したロキが声を殺して爆笑し、フレイアはロキの露悪趣味に眉をひそめた。


 そして大臣たちは、花のように美しく愛嬌の合ったマリー姫を思い出し、もしも彼女がこの女と入れ替わって即位してくれたならば、祖国がこんな目に遭う事もなかったのにと思い、涙が流れ出そうになるのをぐっとこらえる。


 エリザベスは神と運命に翻弄され、人の心と転生前の名前、竹田絵里(たけだえり)の名と、転生した目的全て忘れ去ってしまった。


 このやり取りから少し前、ある男は別の陰謀を企てていた。


 男は、この世界の全てを憎んでいる。


 この世の不条理を憎み、心は悪に染まり、全て滅びてしまえと思いながら、北方ナーデル地方よりも更に東方にある、チーノ大皇国大公国と国境を接するルーシーランド諸侯や、富を蓄えるも迫害を受けているジュ―の商人達と、連絡を取り合う。


 彼の策略により、ナーロッパを舞台に大戦が引き起こされ、フレイアをこの世界の神であると正体を見抜き、自身の本心を隠しながら彼女を協力者に仕立て上げた。


 心の中で、お前なんか滅びてしまえとフレイアを罵りながら。


 彼は、かつて人間国家から虐げられたと思い込み、亜人達からもヒト種の元奴隷と下に見られ、自分と同じく世界を憎むルーシーランドと、同じく差別を受けている流浪の民、ジュ―の商人たちと手を組み、元々遊牧民族であるハーンに金と知恵を出し、チーノ大皇国を簒奪させ、全てを飲み込むような巨大な怪物を生み出そうと、ナーロッパのみならず世界大戦を画策していた。


 まるで人の持つ悪意を濃縮したような、神をも欺く恐るべき男である。


「そういうわけだ。これ以上、貴君たちとの通話は怪しまれるので、また日を改めて」


 男は長い髪を束ね、ヴィクトリーの軍艦内部の、自身にあてられた部屋の中で、甲冑を慣れた手際で着込んでいき、戦の準備をする。


 人類も亜人も全て滅べばいいと思いながら。

次回は戦闘回です

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