第37話 精霊ウンディーネ 後編
女神ヤミーは長大な金棒を、私は先生から預かった、魔力銃パイソンを両手に持つ。
この精霊を何とかしないと、男達は操られたまま。
ならば、この精霊を止める!
「行くぞ、戦闘開始じゃ! 奴にはおそらく物理的な攻撃が効かん! 魔法と魔法銃のエネルギー弾で攻撃するのじゃ!」
私は女神に頷き、パイソンを両手で構えて片膝をついて3連射した。
イメージするのは、相手を凍りつかせるダイヤモンドダスト。
魔力銃デリンジャーと違い、一発一発が高出力の氷のエネルギー弾を撃ち出す。
「チッ、私の水の体を凍りつかせる気ですか? だが、こんなエネルギー弾、上級精霊の私には無意味です!」
何かくる!
私は直感し、一瞬天界魔法を作動させて、その場から前転して立ち上がり距離を離すと、ウンディーネの手から高圧放水が発射され、私がいた後ろの岩が水圧で吹き飛んだ。
あんなもの受けたら、怪我どころか、全身の骨を砕かれて戦闘不能にされる。
「人間め! 私の水流砲をかわすとは……これはどうでしょう? 千斬万水」
ウンディーネが手を振るうたびに、5つの水圧カッターが具現化する。
「時間操作」
私は、時間の流れを緩やかにして、目の前に出現する水圧カッターをかわしながら、パイソンの冷却弾でウンディーネを攻撃した。
ウンディーネの繰り出す水圧カッターの威力はすさまじく、私の後ろで生い茂る森の木々が、次々と切断されて……あんなの当たったら、体が真っ二つにされちゃう。
「うふふ、復活してだいぶ慣れてきました。あなたの魔力、そして動きも私の精霊眼ではっきり見えます。私と殿方との楽しいひと時を邪魔した報い、受けてもらいましょうか?」
ウンディーネの魔力が急上昇したが、それに応えるかのように、泉の上空に巨大な魔法陣が浮かび上がったが、まさか女神ヤミーの魔法!?
「神である我をなめおってからに! 貴様を無間地獄の暗黒空間に放り込んで、封印してやるわい!」
そうか、彼女は腐っても神。
ステータスは先生と同様、10分の1以下にされてるけど、MPは低下してない筈。
「誰が腐れじゃ! くらえ無限地獄」
ウンディーネの周辺に暗黒の空間が現れて、吸い込むように飲み込んだ。
「すごい、さすが女神」
即死攻撃とか使えるなんて、ハンパじゃない強さだ。
「まあ、弱体化したとはいえ、我にかかればこんなもの……」
すると泉から高圧放水が放たれ、女神ヤミーの体が吹き飛ばされた。
「そんな、ウンディーネは無限地獄に放り込まれた筈なのに」
すると、泉から全長20メートル以上になったウンディーネが姿を現した。
「今のは冥界の神の力ですね。なぜこの世界に、フレイア以外の神が来たのかは知りませんが、私の分身体を倒したくらいで、いい気になってもらっては困ります」
泉全体が光り輝き、水の魔力を巨大化したウンディーネに供給してるようだった。
「まさか……この泉自体が彼女の本体?」
まずい、この泉の大きさは外周400メートル以上はある。
それだけの水、どうやって消滅させれば……。
「さあ私の愛する殿方達、あの女を倒すのです」
ウンディーネに操られた騎士達やアンリが私の方に、武器を持ってゆらりと近づいてきた。
どうしよう、勝てるビジョンがまるで浮かんでこない。
すると私の周りを取り囲む、騎士団やアンリが、黒い影のようなものに、首の辺りを不意打ちされ、全員がその場に昏倒した。
「おいおい、俺の神様をいじめんなよ。大事な神様なんだからよ」
先生が、戦闘不能にされたヤミーをお姫様抱っこして回復魔法をかけている。
「あなた、私の水に触れるか飲んで、私の虜になったはずじゃ……」
「ああん? なるほど、それがてめえの能力か。百戦錬磨な勇者の俺様が、そんなもんで操られるわけねえだろ? アホか性悪女め」
そうか、先生はわざと操られてたフリして、この精霊の動向を探っていたんだ。
この精霊の能力は、強力な水の魔力と、この水に触れるか飲んだ男を操る能力。
「マリー、時間稼ぐぞ。狩りに出かけたロバートが戻ってくりゃあ、多分あの女に勝てるはず。そしてあの女……耳貸せ」
先生は私の肩に乗って、耳打ちする。
この精霊……可哀想な女。
英雄ジークに恋をして、彼のために尽くしてた。
けど大陸を支配したジークに、用済みになったらここに封印されて、千年間ずっと孤独に過ごしていたんだ。
「先生……私、あの人可愛そうだと思います……救ってあげたいし、助けてあげられれば……」
「それはダメだ。俺の神様に手を出した時点で、それはねえ。女に手を上げるのは不本意だが、俺はあの精霊、ぶち殺すって決めたから」
ああ、先生は女神ヤミーを傷つけられて、本気で怒ってて、今までで見てきた中で、物凄い怖い顔つきになってる。
二人とも、普段はお互いふざけあってて、先生も女神をからかったり、逆に蹴飛ばされたりしてるけど、きっと色んな世界を冒険して、固い絆で結ばれてるんだろう。
「おう、ウンディーネとやら。てめえが手を出したのは冥界の上級神ヤミーよ。でよ、おめえ形式的には、まだ所属が精霊界だろ!? 協定は知ってるよな?」
あ、今先生が凄い悪い顔つきになって笑った。
巨大化したウンディーネは、顔が引きつり始めたけど、協定って何だろう?
「そ、それは、この女神が先に私に手を出して……」
「何だコラ? こっちは他ならぬ創造神様の許可いただいて、最上級神の命令で、世界救済の喧嘩しに来た勇者の一団だ馬鹿女が! 先に手を出したのは、てめえだアホめ! だからよ、こっちとしては、てめえ始末するスジ通させてもらうわ。マリー、フューリーの馬鹿召喚しろ」
そうか、あの精霊がいかに強大な水の力を持ってても、あの超大なパワーを持つ大精霊、水のフューリーには勝てないって事かも。
「わかりました! 出でよ、水のフューリー!」
私が召喚の指輪を発動すると、今度はエプロン姿のフューリーが召喚された。
「ちょ、ちょっとお、何なのこれ!? 森のエルフ達やホビット達とクッキー作ってたのに、何でまた呼び出されなきゃならないわけ!? またあのアホ勇者、マサヨシの仕業なの!?」
この人いつも間が悪い時に召喚されてる……。
クッキー作りとかとか女子っぽい事してるところなのに、なんか申し訳ない気分になってきた。
「あ、アホ勇者いた。すごいチビになってる。やーい、チービ、チービ、チビマサヨシ」
「うるせえメスガキが! おう、あのウンディーネってのが喧嘩売って来たからよお、おめえこいつの処遇決めろ。神界と精霊界の協定違反だ!」
先生が私の肩で精霊二人に怒鳴りつけるけど、耳がキーンってなるから、もう少しトーンダウンでお願いしたい。
「はあ!? 何でここにウン子がいるのよ! 何あんた? 協定違反とか馬鹿じゃないの!? 殺すよウン子!」
ちょ、あんな可愛い精霊なのに、他の精霊をウンコ呼ばわりしたんですけど!
この大精霊、口が悪すぎる。
それに今知ったが、神様と精霊はお互い協定結んでる……。
そうか、先生はこの戦闘が有利になるよう、大義名分作るのと、とロバートさんが駆け付ける時間稼ぎをする気なんだ。
「なんですって!? このイカレのフューリー! 精霊界を半ば追放処分になった、あなたなんかに、口出される筋合いはありません!」
うわぁ……お互い仲が悪い通り越して、険悪すぎる。
精霊って思ってたのと違って、みんなこんなに仲悪いのかな?
「バーカ! あたしあれから功績立てて、創造神様からの人事異動で、大精霊に出世したから! それで、あんたの上司の大精霊兼上級神にして、元老フレイは反逆罪で精霊界から破門ね。もうめんどくさいから、あたしが殺そうか? こいつ」
あ、フューリーの魔力がグンと上がって……。
「う!? 私ともあろうものが、千年の封印で、彼女が神魔精霊大戦の、英雄と呼ばれてたのを忘れてて……対応を誤った……殺される……」
ウンディーネの青白い顔がさらに血の気ひいて、真っ青になった。
「いいよ、ケジメはうちでつけとくから。で? こいつの処遇は?」
「そうね、もうフレイもその一派も、精霊界とは関係ないし、預かり知らぬ事だから、あたし知ーらない。そう言うわけだからウン子、勝手にそこで死んでちょうだい。あたしクッキー作りに戻るから!」
フューリーは鼻歌交じりで元の世界に戻っていき、その姿を茫然とウンディーネが見つめている。
「そういうわけだからよ、ケジメだ。始末させて貰う」
先生が、私の肩に乗ったまま手を上げると、巨大化したウンディーネの頭が吹き飛ばされた。
「きゃああああ、この泉に、私の領域に強力な毒と高熱の何かが炸裂して……なぜ!?」
頭は再生したようだけど、次々ウンディーネの水の体が次々爆ぜていき、その度に、何処からか大砲のような銃声が遅れて響く。
「へへ、ロバートの野郎、大口径ライフルで長距離狙撃してやがる。弾は多分、超高温に熱せられた劣化ウラン弾。毒と熱の攻撃、エゲツねえ」
うわ、何それ怖い……。
ていうかウランって……この泉が放射線やら重金属汚染とかで、もう使えなくなるんですけど……。
「いやだ、死にたくない、どうして!? 私の何が悪かったって言うんですか!? ジークは私を騙してここに封印した! あんなに大好きだったのに……。だから、あんな男を忘れて美しい殿方達と結婚して……見返そうと思ったのに……何でえええええええ」
ウンディーネの悲痛な叫びに、いてもたってもいられず、私はロバートさんの射線に立つ。
「おい、危ねえだろ? 何やってんだよ。ロバートの兄弟が、あの性悪女をぶっ倒せねえだろうが」
先生は、女神ヤミーを傷つけたこの精霊を殺す気で、ロバートさんもそうだろうと思う。
だけど私は……!
「彼女も、魂に傷を負ってる。私や、この世界の人達と一緒……だから、私はこの精霊を救いたい!」
私は杖を右手に持ち、左手で薔薇の形のペンダントトップを握り締めると、私の体が光り輝いた。
私の体に光の粒子が纏わり付き、一瞬下着姿になると、私の胸に光輝く黄金の胸当て、肩甲、手甲、腰当、膝当、足甲が次々と装着されていく。
光り輝くカチューシャが装着されると、耳を覆い、アゴまで伸びて急所をガードするヘッドギアになり、光の鎧の状態になる。
あの謎の光の神、ヘイムダルが言い残した、ヴァルキリー状態になった。
「わかった、おめえがあの精霊のケジメとれ。そして、救ってやんな」
先生は、右手の平で真っ赤に燃える炎を具現化し、チカチカと合図を送ると、ロバートさんの銃撃が止んだ。
「人間め! 姿が変っただけで何だというのだ! 私の邪魔をする者は神であっても許さない!」
ウンディーネが放った水の魔力で出来た無数の泡が、私の体にまとわりつく。
まずい! 何か来る!
「水素爆発」
私にまとわりついた泡が、瞬間的に高温状態になり、大爆発を起こす。
「きゃあああああああああああああ」
私の体は爆発の衝撃で吹き飛ばされ、森の木々をなぎ倒しながら岩に叩きつけられた。
痛い……衝撃で息が詰まって……頭がくらくらする。
この黄金の鎧状態じゃなかったら即死だった。
「調子乗ってんじゃねえぞ馬鹿女が! マリー、杖に水と土の力を込めろ! 魔法はイメージの力だ。高吸水性高分子をイメージするんだ。水と土の魔力に神霊魔法を組み合わせ、塩とエチレン、アクリル酸にして、高分子を生み出せ!」
「へ!? ちょ!? 今なんて?」
先生の言ってる事が高度過ぎてよくわかんない!
高校の時、物理とか化学とか理系全然だめだし!
「チッ、高吸水性ポリマーばらまけたなら、水を吸収できちまって、こいつを弱体化させられるんだが……そうだ! 砂利や石灰みたいな砂をイメージして、杖に魔力を込めろ! そして魔力込めた杖を泉に入れるんだ。泉をコンクリ詰めにしちまえばいい」
ああ、それならばイメージがわく。
私は杖に石灰や、砂の魔力のイメージを送り込んだ。
「人間め、何を考えてるか知りませんが、とどめだ!」
ウンディーネが水の魔力の高水圧カッターを繰り出し、私は地面を転がりながら攻撃を避けると、何者かの魔力で宙を浮き、馬上鞍に跨がるが、まさか。
「スレイプニル!?」
私が跨ったのは、8本足の白い神馬スレイプニルの、体高2メートルを超える背中。
「ヘイムダル様の戦乙女よ、私の力を貸そう」
スレイプニルは森の中を物凄い速さで駆け巡り、ウンディーネの高圧カッターを次々とかわし、体が光り輝くと、ウンディーネに向けて口から光り輝く雷撃を撃ちだした。
「迅雷兆電」
「ぎゃあああああ、体が、私の体が維持できなくなるうううううう」
ウンディーネはスレイプニルの雷撃に、たまらず原型を維持できなくなり、泉に姿を消した。
「お、おい馬公! おめえ神界法は……」
先生は何か叫ぶが、スレイプニルは縦横無尽に泉の周りを駆けまわり、風切り音が凄くて全然聞こえないが、何か重要な事を言おうとしているようだった。
スレイプニルは嘶くと頭部に真っ青に光り輝く角が現れ、上空の月が隠れ、真っ黒な雷雲が辺り一帯に立ち込め、気圧が変化して大雨になる。
「死ぬがよい、疾風神雷」
上空から極大な稲光と共に、光り輝く雷が轟音と共に泉ごと吹き飛ばした。
あまりの威力に、私の額から冷や汗が流れ、泉があった場所は巨大なクレーターの跡が残るだけ。
すさまじい熱量なのか、クレーターの地面がガラス状になっていた。
そして吹き飛ばされた水が、雨となって降り注ぐ。
「見たか! 二流精霊よ、これが神の力だ!」
すごい、これがスレイプニルの力……。
でも、これじゃあ私が救おうとしたウンディーネは……。
すると、スレイプニルに乗った目線が下がっていき、私の背丈と同じくらいまで下がっていく。
スレイプニルは、ぱっと見、ただの奇麗な白い牡馬になった。
「な! 私の足が4本に! これではただのイケメンなダーラナ原産の白馬じゃないか!?」
「え!? 何!? ウンディーネの攻撃!?」
先生は魔法で宙を飛び、小さくなった平手で思いっきりスレイプニルを引っ叩たく。
「てめえ馬と鹿って書いて馬鹿かコラぁ! 神界法39条、人間界で神が力を二度使うと神の力を失うって、規定されてんだろが!」
ええええええええええええええええええ。
あの神の攻撃、違反行為だったの!?
「えーと、スレイプニル? ただの馬じゃ……フランソワ国内を走り回ったような、凄い神の力とか使えなくなっちゃうんですけど」
「忘れてた……戦乙女出てきたんで、舞い上がってしまい、調子乗ってすいません……」
「すいませんですんで、勇者がいるかこの野郎!」
これじゃあ、明日先生とアンリが考えてた、首都パリスでの作戦が……どうしよう。
「そもそも女! なぜ貴様が今は亡きヘイムダル様の力を得たのだ!? 意味がわからないぞ」
「えぇ……」
意味がわかんないのは、こっちもなんだけど。
ていうかだめだこの馬……。
早く神界ユグドラシルのアースガルズとか言う所に帰ってくれないかな?
「おめえが意味わかんねえよ! 人が描いてた絵図ダメにしやがって! やっぱおめえケジメで馬刺しか!? モモ肉辺りを生姜醤油かこの野郎!!」
「ヒヒィィィィィィン! アースラ様あああああお助けええええええええ! 僕美味しくないですからあああああ! 許してくださあああああい!」
「うるせえ! おめえ俺の拒魔犬の兄貴がいたら、速攻で馬肉の刑だぞ! 後ろ足とケツ肉かじり取られてよお!」
先生が、スレイプニルの頭をどつき回る。
本当にどうしよう……。
あのランニング後に計画した話では、私達とロバートさんがロレーヌ兵士を制圧していき、パリスのルービック宮殿に、スプレイニルに乗ったアンリが現れて王位を簒奪。
ナーロッパの中心、フランソワ王国を私たちの拠点にして、オーディン神の戦乙女達と交渉事をするつもりだったのに。
その時、スレイプニルに乗った私たち目がけて、水の塊がぶつかってきた。
「きゃあああああああああ」
私はあまりの威力で吹き飛ばされ、地面に尻もちをつく瞬間に後ろ受け身をする。
見渡すと、スレイプニルも足を怪我して動けないようで、先生も今の攻撃の衝撃で、地面に膝をついている。
「危なかった……私の体を上空の雨雲に同化させてなかったら、消滅させられていた」
ウンディーネ……スレイプニルが作り出した雨雲に同化して、今の攻撃をかわしたんだ。
けどもう泉の水が消滅して、彼女が存在できるのは、周囲にたまった複数の水たまりだけ……。
「なぜ……なぜあなたは! ここまでしてまで、こんな事になってまで!」
「私はジークを! 亜人達や超大国ロマーノから、人々を救うために力を貸してほしいといったあの人が、大好きだった! だから……あの人を忘れるために……私は負けない!」
悲しい、この精霊もこの世界の人々も魂に傷がついてて……。
だけど私も負けられない。
今この精霊に操られた私の仲間を取り戻さないと、この世界の人々が救えない!
「来いウンディーネ! 私は、悲しいあなたの想いを受け止めてやる!」
あの槍の訓練で教えられたように、私は杖を中段に構えた。
コンクリート化する魔力を込めた一撃、これで彼女を行動不能にする。
すると周囲にたまった水たまりを瞬間移動しながら、ウンディーネは私への攻撃のタイミングを計っている感じだ。
しかも、水たまりに多数の分身を生み出して、どれが本体かわからない。
これでは杖の砲撃は使えない。
魔力チャージしてる間に、分身体に攻撃される隙が生れる。
ならば本体を見つけ出してこの杖の一撃に賭けるしかない。
私は杖の先端に魔力を込めると、杖の先端が古代の石槍のようになった。
「行くぞ人間!」
「時間操作」
私は天界魔法を発動し、時の流れがゆっくりになる中、水圧カッターと、水の大砲のような攻撃をかわしていく。
「どれが本体? 見極めなければ、この勝負勝てない」
時の流れが緩やかの中、私は左手で魔力銃デリンジャーを握り締め、分身体に氷のエネルギー弾を撃ち込むと、5体あるウンディーネの中で、明らかに顔を歪める個体を見つけ出す。
「そこだ!」
私は神霊魔法で身体強化して、風の魔力で加速し、杖でウンディーネの本体を突いた。
右手を伸ばし、突いた瞬間に手首の捻りを加える。
「あ、あ、私の体が石化して……力が……」
「片手突き、見事だな。相手の胸元を奇麗についた渾身の突き! 金を敲き石を撃つ、敲金撃石と言ったところか」
なんか先生が難しいこと言って、カッコいい技名付けてくれた。
そして、ウンディーネの水の体が石像のようになり、動かなくなった。
「お、俺達は何を……」
アンリ達が正気に戻り、激しい戦闘が行われて、クレーターのようになった泉を見て、唖然とする。
「見事だった、訓練の成果は出たようだな。それと色々狩りの収穫があったぞ」
ロバートさんが、全長150センチはありそうな、銃のお化けのようなライフルを担いで現れる。
狩りに同行したオーウェン卿達が、丸太に吊るされた大きいイノシシと、縛られた騎士団何人かを連れてきたが、あれは……ロレーヌの鉄十字騎士団?
真っ黒いマントとミスリル銀の鎖帷子に、胸のプレートに漆黒の十字が描かれてる。
「冥界魔法でこのジャガイモ野郎共の心を読んだ。この森、ロレーヌとか言う国の騎士団に囲まれていたぞ? 全滅させて、指揮官をさらってきたがね。我々を暗殺し、マリー姫の身柄を取ることが目的だったようだ」
あ、多分きっとフランソワのパリスを占領統治したフレドリッヒが送り込んできたんだ。
目的は、先生の暗殺と私の身柄。
彼の心は……このウンディーネを封印した英雄ジークのように、悪に囚われているのかもしれない。
「チッ、なめやがって。フランソワの憲兵のおまわりじゃ対処できねえから、俺らの居場所を掴んで殺しに来やがったって事か……長居は無用だな。それとこいつのケジメどうしようか?」
先生は、石像になったウンディーネの前にうんこ座りしながら、石像の足を眺めて、一瞬いやらしい顔して笑う。
「何が起きたかわからないから、まず経緯を説明してくれないか? シミーズにロバート」
私たちは、操られていたアンリ達に、この泉に封印されていたウンディーネの話をした。
そして話を聞き終わった、アンリがウンディーネの前に立つ。
「愛する者から裏切られたって気持ち、痛いほどよくわかる。けどミス・ウンディーネ、男を見返す方方なんざ、この世にはいくらでもある……そうじゃねえのかな?」
「あなたに何がわかるんですか……あなたなんかに」
「俺もそうだった。転生前、愛する女に裏切られ、死んで地獄に堕ちた。悔しいよな……けど、あんたほどの魅力のある女だったら、そんな能力使わなくても、振り向く男なんかいくらでもいるだろ? なあ、俺は間違ったことは言ってるか?」
「……」
アンリは転生前に愛する人から裏切られた経験があるから、人の痛みや悲しみがわかる、優しい男の魂を取り戻していた。
「あなたの想い、理解はできる。けど、それで他の男の人を操って……自分の寂しさを紛らわせていいなんて事、違うと思う」
石像になったウンディーネから涙が溢れ出している。
彼女や、この世界の人々がこうなってしまった原因に、私は憤りを覚える。
先生の言う通りだ。
魂や、心が傷ついた人々の運命を弄び、己の利益に利用する何者かがこの世界で活動している。
私は、そんなひどい存在を許せない。
たとえ相手が神であっても。
「ウンディーネ、力を貸してください。私達は、ジークのようにあなたを裏切ったりはしない! 私はこの世界を救いたい!」
ウンディーネの石化が解けて、その場で崩れ落ちて涙を流した。
森に雨が降り注ぎ、ウンディーネの体が再構築している。
彼女と私は契約して、この世界を救う旅に同行してもらう。
「なあ、ロバートの兄弟? こいつらに世界を救わそう。いい男達と、いい娘だ」
「ああ、美しいな兄弟マサヨシ。人の持つ美しさとは、本来こうあるべきだ」
こうして、私達は女神ヤミーの立会いの下、精霊の契約をした。
「精霊ウンディーネよ、お主はこやつらに力を貸すこと、我の権限にて許可する。世界救済を成し遂げた暁には、我がお主を精霊界に復権することを約束しよう」
私の本来の召喚魔法を女神ヤミーの権限で強化し、ペンダントの力でウンディーネを召喚することができて、アンリは精霊魔法の強化を、ウンディーネと約束した。
「おーい、終わったか? 早くしないととアルデンテなイノシシの赤ワイン煮込みパスタ、君たちの分が無くなるぞ? 玉ねぎをローストし、ニンニクで臭みを消して、森のアンズタケを入れた逸品だ」
「隠し味に、塩気とコクが出るようにロマーノ産の魚醤を足しといた。おめえの分も食っちまうぞ、ちんちくりん!」
あ、契約の儀式終えた女神ヤミーが、ダッシュで、大きな鍋の元まで走って行った。
こうして私たちは、ウンディーネの心を救済し、明日フランソワ首都パリスでの決戦を控えた、英気を養う。
この美しくも悲しい世界の救済を願って。
次回、世界情勢に移ります




