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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第二章 魔女は楽になりたい
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第36話 精霊ウンディーネ 前編

 結局1時間以上走ったけどきつかった……。

 ロバートさんは、怒ると先生より無茶苦茶するし、何なのあの卑猥ソング?


 アメリカ軍って、なんかカッコいいイメージだったけど、下品すぎる。


 でも色々と知識を得たし、杖の使い方を習って少しは自身がついた気がするし、まあいいか。


 ロバートさんは騎士の何人かで、今夜の晩御飯を探しに森の奥に出かけ、私は馬車の陰に隠れて泉のほとりでドレスを洗い、水浴びする。


 先生とロバートさんのご飯は、とても美味しくて、プロの料理人顔負けの腕を持ってる。


 先生は転生前、部屋住みで鍛えたって言って、ロバートさんは転生前の実家が、レストランしてたって言ってたっけ。


 部屋住みって何ですか? って先生に聞いたら、相撲部屋みたいに、親方や兄弟子の世話するような感じだって言ってたけど、ヤクザの部屋住って事自体、一般人だった私には全然想像つかない。


 それで今夜は、馬車に積んだニンニクと玉ねぎで、森にいる鹿か猪を、森のキノコと一緒に赤ワインで煮込んだ、パスタ料理にしようかって二人して相談してた。


 あと、ジッポンという国の、イワネツという男についても。


「イワネツだと!? 確かか? ヴァーツェ・スラヴ・イワンコフ、奴がこの世界にいるのか!?」


「ああ、俺ら冷戦世代で最恐最悪と言われた、暴力の権化のような野郎で、俺の組とも商売してた。筋金入りのロシアの大物ヤクザだ」


「知ってる。ニューヨークで、俺のビジネス相手だった男だ。なぜ奴が!? あいつは俺や君なんかより、遥かに極悪で、おそらく地獄の刑期が万単位。シャバなんかに出て来れないはずだろ? ヴィトーやミスターデリンジャーとは違って、存在そのものが暴力のような奴だ」


 どうやら、とんでもない転生者が、この世界にいるようだ。


「だよなあ、あいつやべえよ。金になるなら核兵器だろうが、ミサイルだろうが、なんでも売っぱらっちまうような、ロシアンマフィアだぜ? しかも俺らは、一応脅迫とか交渉とかして、相手と血を流さねえ努力はするが、あいつらロシア連中は、すぐ相手を殺しに行くだろ? 野蛮すぎんよ」


 ヤクザな先生や、マフィアのロバートさんが、暴力の権化だの、存在そのものが暴力だの言ってるって事は、かなりまずい転生者みたいだ。


 元暴力団の人達が、そこまで言うなんて普通じゃない。


「その表現は正しくない兄弟。マフィアとは名誉ある男達、我らコーサノストラのみ。奴らはブラトワと言って、規律(ボール)ある()泥棒(ザコーネ)とも言う。もっとも、ソ連崩壊後、仁義のない不良組織(パンク)が増え過ぎて、過去のものとなったらしい。あいつはそれで虚無感を感じて、合衆国にやって来た」


「なるほど、アメリカと司法取引してソ連やロシアの情報を売る事で、あいつはアメリカやEUでシノギしてた。だが、結局FBIのおまわり共にパクられて……」


「ああ、それで強制送還され、もはや仁義もなくなったロシアの組織間抗争で死んだのが、奴だ。なあ兄弟マサヨシ、奴は本当に我らが親分(カポ)、閻魔大王様が魂を送ったのだろうか?」


 先生は腕を組んで唸りながら、色々と思考を巡らせてるようだけど、この世界にはまだまだ謎が多くて、本当に救済出来るかどうか、不安を感じる。


「だが兄弟、あいつは野蛮で暴力的だが、頭がキレるし仁義は通る。我らコーサノストラとのビジネスで、奴が裏切った事はない」


「それな。チャイニーズ連中よりも、ビジネスに関しては誠実だった。露助連中はみんないい加減で、アホの酔っ払いのアカだと思ったが、あいつは几帳面で義理堅い所があったね。だからよ、ヴィトーに野郎の動向を探らせてる。俺が言うのもなんだが、今は敵に回したくねえ」


「同感だ、奴と敵対するのは今は得策じゃない。敵対するには、まだまだ我々の情報が少な過ぎるし、マリー君が対処しきれないだろう」


 情報の重要性……先生が私に口酸っぱく言ってたことで、情報不足はこちらの隙になる。


 ジッポンのノリナガと言われる、イワネツこと、ヴァーツェ・スラヴ・イワンコフについては、今は様子見という事になった。


 そしてこの世界のお風呂事情について。


 正直言って、水は冷たいしシャンプーとかないから、フランソワ製の石鹸で体を洗うけど……この世界のお風呂事情はそんなに良くない。


 そりゃあ神霊魔法の信仰力の加護で、体は清潔に保たれるし、香水の技術も発達してるから臭くはないんだけど……特に洗髪事情が悪くてリンスなんてものはない。


 私の場合、天界のキャラメイクみたいなので、ウェーブがかった髪の毛にしたから、櫛を入れるのが大変で、時間がかかって全然楽じゃない。


「そうじゃろう、そうじゃろう。勇者が行くような世界には、大抵シャワーや風呂にリンスやシャンプーやら、我の大好きなスイーツがないからのう。まったく救済されるまでは、困った話じゃわい!」


 私のすぐ脇で、15センチくらいに縮小した、女神ヤミーが体を洗ってた。


 すごい奇麗なお肌と体してるけど、胸とお尻はその…………いや、何も思うまい。


 それにこの女神、ちゃっかり持ち込みでリンスインシャンプーとか持ってきて、身体が小さくなってるのに、魔法で宙に浮かせてチョンと頭にリンスのせて、髪になじませてる。


 だから香水とかつけてなさそうなのに、フローラルっぽい、いい香りさせてるんだ。


「なんじゃ? お主も使うか?」


「え? いいんですか?」


 すると女神ヤミーは意地悪そうにニタッと笑う。 


「どーしよーかのう。数が限られてるしのー、のう?」


 うわ、眉と口元が吊り上がって、女神にあるまじき意地悪そうな顔して私を見てくる。


 ……間違いない、この女神いじめっ子のドSで性格にやや難がある。


「まあいいわい、マサヨシに色目使ってるわけでもなさそうじゃし、マサヨシにもその気はなさそうじゃ。もしそうなら、あの全身生殖器の股間を蹴り飛ばしてやるところじゃわい」


 あ、リンス渡して来た。

 やったあ! 久しぶりにこれ使う。


 それと何があったかは知らないが、この女神、やっぱり先生の事が好きなんだろう。


 先生もお尻蹴られたり悪態つかれてるけど、この女神を見る目が、嫌そうな感じじゃなくて、年下の困った女の子を見てるような、そんな感じがするし。

 

「……あの男は、我が法廷で裁いた罪人じゃった。月に数回開かれるかどうかの、極悪人専門法廷被告人の極悪犯があやつじゃったわい。我は最初あやつが大嫌いじゃった……兄である閻魔大王に取り入り、最悪の世界で任侠道などという戯言を、貫き通せるわけはないと。じゃが、違ったのじゃ……あやつは、人の世の闇に堕ちながら、それでも人の世と心を信じておった」


 私は、転生前の先生を知らない。


 わかってるのは地獄行になるくらい、酷いことをしてきた人なんだろうなと言う、おおよその予測くらいしかつかない。

 

「今のあやつではない、転生前のあやつは、普通の人間が眉をひそめるくらいの外道じゃ。そして、人生のどこかで投げやりな感じと言うか、外道な自分をヤクザなんだからしょうがないと、あきらめと開き直りに近い感情を抱いておった、悲しい男じゃった」


 確かに……ヤクザなんて裏稼業をしてる人なんて、どこかまともじゃないという、偏見めいた所を私は持っていた……でも……。


「でも、転生後に本来の魂を取り戻して違ったんですよね? この世界のアンリや、ヴィトーのように……そしてロバートさんのように」


 女神ヤミーは両手で泉の水をすくって、髪の毛についたリンスを落とす。


「あやつの魂の源流は、元々は正義の神と呼ばれた、闘神アースラ様……地球では阿修羅とも呼ばれる、神でもあり大悪魔でもあり、最後は人間になった、我の憧れの方じゃった。けど我はアースラ様関係なく……いや何でもない」


 神でもあり悪魔でもあった闘神阿修羅ことアースラ……。


 ロキが言ってたけど、神から魔王になって、再び神になったけど、結局神であることが嫌になって人間になったという伝説の男。


「我も、兄様も元は魔界の大魔王と呼ばれる系譜、まっとうな神ではない……。多くの魔界出身の元大魔王を神界に神として召し上げたのも、アースラ様の功績じゃ。そして、魔界と言われた世界を美しい世界に変えたのも、アースラ様とあやつじゃった」


 そんな……この女神も、冥界で会った閻魔大王も元は神じゃなく、大魔王?


 全然理解が追い付かないけど、彼らを救ったのが魔王だった時の先生なの?


 それじゃあ先生は、勇者マサヨシと呼ばれた男は、私なんかが先生と呼んで気軽に接していい存在ではないかもしれない。


 今の話が本当ならば、それはまるで……。


「なるほどね、アースラ。僕が目をかけてた事だけはある。凄いじゃないか、まるで逸脱者だ。僕の時代の神々は、ああいう手合いをそう呼んでいた」


 いつの間にか破滅神ロキが、タイの涅槃像のように、右手を枕にして湖の上空に浮かんでいる。


「ああ今日は僕、戦う気なんてないから気にしないで。ちょっと悩める乙女の顔とか姿とか拝んで、目の保養しようと思ってね、クックック」


 ……性格わるっ!

 でもそれが仮に本当なら助かるわ。


 私たちの裸を見られるの、はっきり言っていい気しないけど、正直言って、今の状況じゃ勝てないし、戦う気がないなら助かる。


「き、貴様あああああ、よくも我をこんな無様な姿に!」


「ちょ!? 刺激しないでって、女神さん! 武器は馬車に置いてきたし、今の私たちが束になっても、絶対勝てないから!」


 女神ヤミーが、ロキを睨みつけると、何が面白かったのか、ロキはケタケタと笑い出す。


「そういう事、君たちは僕には勝てない。いい話を聞かせてくれたお礼に、僕も君達に助言がしたくなった。この泉、フレイの眷属の精霊が潜んでるよ? 気を付けた方がいい。君達乙女には、奴の力は効果がないけど、他の彼らはどうだろうねえ」


 え!?


 この人、いや神はなんで私たちにそんな事を?

 いや、私達を油断させるための罠かもしれない。


「そうだ、神だった時のアースラの話をしようか? 彼は確かに正義を盲信してた、面白味のない神だった。そして自分の正義に思い悩み苦しんでいた印象だね。……先輩として何度か助言しただけど。だが今の彼は……素敵だ。自由だけど、どこか脆そうで、だけど精一杯人間を演じてて、歪だけど美しい」


 この神は、何を言ってるんだろう?

 全然意味が解らない。

 何が言いたいんだ、こいつは。


「うーん、僕の気持ちがいまいち伝わらなかったみたいだが、まあいいや。その歪な美しさ、君達にも感じるよ。人間と言うものは、そういう不完全な美しさかもしれないね。あのアースラが、人間に惹かれた理由、なんとなくわかってきた。じゃあね、気を付けるんだよウンディーネに……そしてこの世界に介入しようと企んでいるだろう、オーディンの眷属神にも」


 言いたい事言って、ロキは姿を消した。

 なんだったんだろう。


 ウンディーネ? アンリに宿った精霊力の一つが確かそんな名前だった気がした。


 私達は用心のため、装備を取りに馬車に向かう。


 馬車では、スレイプニルが雌馬に寄り添って寝ており、私はドレスと銃と鉄パイプを装備する。


 女神ヤミーは、小さい体ながら長大な金棒を装備して、みんなが集まる泉の反対側の辺りに向かうが、楽しげな笑い声が聞こえて来た。


「いやあ、こんな所で美しいレディに出会うとはなあ。私の名前はアンリと言う。何かの縁だ、ご飯でも食べていくといい」


「君、この辺の人かな? 今こんなチビっこいナリしてっけど、俺マサヨシってんだ。君の事もっと知りたいなあ」


 何これ……青のロングヘアーで美しい水色のドレスを着た女が、先生達やヨーク騎士団に囲まれて、楽しそうに談笑してる。


 年の頃は、見た目20代前半くらい?


 すごい品が良くて、私よりも王女様っぽい感じだけど……あ、目があった。


「ウフフ、美しい殿方ばかり。彼らを我が眷族にして、一生私の言う事しか聞けないように……」


 女が言い終わる前に、女神ヤミーが金棒をジャイアントスイングする様に振り回して、攻撃した。


 すると女は液状化して攻撃をかわし、スライムみたいに変形して、泉の(ほと)りに立つ。


「なんじゃこのクソ女め! 我が勇者達に手を出すとはいい度胸じゃ! 名を名乗るがよい」


 多分女神ヤミーが聞くまでもないと思う。

 彼女はきっと……。


「私の名前はウンディーネ。あなた方が魔力を使い、女にまつわる歌を歌いながら、泉の周辺を50周した事で、ジークの封印が解けて召喚されました。この美しい男達を、精霊界に連れて行って、私の夫にしてしまいましょう」


「な!? なんですって!?」


 なんか英雄ジークに封印されてたっぽい、この女精霊を復活させて召喚させたのって、もしかして……さっきの卑猥なランニングソングのせい!?


 しかもこの女精霊、逆ハーレムフラグ立てようとしてるんですけど! 


 なんて女だこの精霊、自分勝手すぎる。

 だが、一応は説得してみよう。


「いえ、それ困るんですけど。私、このニュートピアを救済しようと考えてる、マリーと言います。この世界、人間になったフレイアや、邪神フレイ、それと破滅神ロキにはよって滅茶苦茶に……」


「おほほほ、フレイアの馬鹿女はともかく、我らが元老フレイを邪神認定するなんて。いい度胸ですね人間の女? 殺しますよ」


 ダメだ、全然説得が通用しない。


 それに先生やアンリに騎士団達も、目に光が無くなって、あの精霊女の力で操られ、自我を失ってしまってる。


 ならば、あの精霊を撃退するしかない。

後編に続きます

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