第30話 終える者と始める者達 前編
馬車の運転は土地勘があるアンリが担当し、助手に先生がついてアヴィーニョの町を目指す。
空は夕日で赤く染まり、うっすら街道が仄暗くなっていた。
アヴィーニョは、元々古代ロマーノ帝国時代発展した交通の要所だったが、千年前の英雄、ジーク率いるジークフリート帝国との戦争で荒廃し、アンリがヴァンス公に命じて、交通の発展のために復興事業をロマーノのヴィトーと共にやっていたという。
「ちくしょう、俺の愛車だったV8フォードがあれば、すぐに行けるのに」
「V8フォードねえ。俺の転生前の愛車なんてよお、防弾仕様にした真っ黒の車体に、ホイールとフロントグリルを純金でコーティングした、ロールスロイスのV12気筒、いかつい超最高級車のファントム・エクステンデッドよ。神戸って町でこいつ見かけたチンピラ全員、最敬礼するようなよお。ベンツのマインバッハやAMGも悪くなかったがな」
「なんだと!? ロールスロイスのファントムだって!? ヤクザって金持ってるんだな! だが、車だったら断然USAだ! ドイツやUKはともかく、日本人が車なんか作れんだろうからな」
「んだコラ? 俺が死んだ2019年なんか、おめえの国でもアメ車乗ってる奴らなんか、少数派よ。俺も若い頃キャデラックに憧れたが、おめえの国の車産業終わってんよ? みんな乗ってるのは日本のトヨタかドイツのBMWだ」
「ファァアアアアアアッッッック!! 嘘だと言ってくれよシミーズ、どうなっちまったんだ俺のステイツは!? V16とか作ってたキャデラックが見向きもされねえなんて! ていうか聞いたことねえよトヨタなんてメーカー! 未来で何があったんだ一体!?」
男の人って、車の話になると凄い生き生きするようだけど、先生って死んだの2019年なんだ。
私が死んだのが2020年だから、わりと最近の話。
私死んでから天界で長い時間かけて、得々ポイント貯めてた間、この人は最悪の世界とか、難度EXと呼ばれる世界を救うために奔走してたんだろう。
「しかし、そのスーツいい趣味だな? ダークブラウンとはまたシブい」
「そうか? 俺が死んだ時代じゃスタンダードだが、日本人は着物だっけ? 着てるんだろ?」
いや、普段着物は着ない。
どちらかと言うと、お年寄りが着るイメージで、大人はスーツか企業のユニフォーム、私のような学生は大体は学校の制服を着る。
「転生前の晩年は着物が好きで普段着てたが、洋服にも目がねえ。喧嘩相手の東京のヤクザもんに、うちのもんが、野暮ったいと馬鹿にされたのがきっかけだ。その日のうちに、東京に来てる三下全員、最低でもダンヒル一式揃えてやったね」
うわぁ、見栄っ張りすぎる。
馬鹿にされて悔しいのはわかるけど、極端すぎるんですけど。
「そしたら服のコレクションにハマってな。基本俺はオーダー物だったが、他にもスキャバルのベルベッドがお気に入りで、ジョンフォスターの、黒のストライプも好きだった」
「ほう? ブリディッシュスタイルってやつか」
「ああ、ブリティッシュ・スタイルが俺に合ってた。アルマーニのスリムフィットやシャツ、ヴェルサーチのブレザーに、プラダの黒のロングコート、ボルサリーノの帽子も気に入ってたけどよ。あと靴はグッチやエルメスかフェラガモな、これは譲れねえ」
あ、ヤクザもプラダとかグッチとかエルメスとかフェラガモ好きなんだ。
確かにプラダやエルメスのバッグとかコートとかいいよねー、憧れる。
「俺はブルックス・ブラザーズで全部オーダーして、ポロコートを羽織ってたね。クラーク・ゲーブルって好きな役者が着てたから、奪った金で一式そろえたよ。そして靴はオールデン一択。腕時計は、仕事中は頑丈で正確なボールウォッチの金時計が相棒だった。部屋着では、アバクロンビー&フィッチをよく着てたな」
え? アバクロンビー&フィッチって、あのアバクロ?
結構歴史あるアパレル企業なんだ。
ていうか、この人達結構おしゃれなのか、洋服の話題がどんどん出てくる。
「腕時計は昔ロレックスを集めてて、オーデマ・ピゲのロイヤルも一個持ってた。オーデマ・ピゲは女受け良かったなぁ、若衆共はロレックス以外は、ウブロやフランクミュラーよくつけてたが。まあ一番のお気に入りは、転生前の子分にプレゼントされた、パテック・フィリップよ。あれはいい時計だったぜ」
え? 何それ? オーデ……何!?
ウブロ? パテックなんちゃら?
そんな時計の名前聞いたことない。
フランクミュラーは、どっかで聞いた事あるし、ロレックスやオメガにブルガリとか、カルティエなら知ってるけど。
私そういえば、カシオの白のベビーG持ってたなあ……お年玉で買った、初めての時計。
「マジか!? どれもスイスの最高物だぞ! ウブロやフランクミュラーは知らんが。パテック・フィリップかあ懐かしい。俺も大枚はたいて、シカゴの街でカラトラバモデルを購入したが、あれはいいモノだ、最高だな」
え? 結構有名なんだ。
そのパテックなんちゃら。
「なんだおめえさんも持ってたのかい? カラトラバのクンロクってやつかあ、いいねえ悪くねえなあ。だが、俺がつけてたのは、プラチナのグランド・コンプリケーションモデルよ。永久カレンダーついてて、文字盤黒でクロノグラフ機能もあって、ダイヤ散りばめた極上の逸品、すげえだろ?」
「なんだそれ! 永久カレンダーとかすげえな! いくらだ!?」
私のベビーGちゃんだって、カレンダー機能付いてたし、ピンクの秒針にストップウォッチ機能や、ライトに完全防水付きで、1万5千円もしたんだから。
時計なんて、可愛くてオシャレに使えて、機能的なら何でもいいと思うんだけど。
「あーUSドルで、20から30万ドルくれえじゃね? 日本円だと3千万円くらいかな、いやもう少し値が張るな」
「うおおおおおお、すげえなそれ! 欲しい!」
ちょ!? 私のベビーGちゃんの2千倍以上する時計とか信じらんない!
ていうか、そんなのプレゼントする子分の人が凄い。
「まあ、そんな無駄金ばっか使ってたし、俺がクズ過ぎて俺の組織で内部分裂が起きて、その時計くれた子分にぶっ殺されて死んじまったけどな」
そうなんだ、それが先生が死んで異世界転生した理由なんだ。
「まあ、転生前の俺なんざおめえと比べれば、子分の数が多かっただけの、チンケな外道よ。かつては3万以上いた組織も、俺の不細工な様とサツの手入れでダメにしちまったのが俺だ」
「いやいやいやいや、お前なんだその馬鹿げた数は!? あのアルカポネや、ジョニー・ザ・フォックスに、音に聞こえたNYの大ボスのサルヴァトーレや、あのラッキー・ルチアーノですら、そんな馬鹿げた数の子分いなかったのに! ボクシング賭博の興行してた、伝説のファイブ・ポインツ・ギャングだって1500人くらいだぞ? おかしいだろ! 何やってんだよ、日本のサツは」
あー、アメリカのギャングのこの人から見たら、日本のヤクザ組織って異質に見えるんだ。
まあそうだよね、よく考えたら一つの組織に3万人も犯罪者が集まってるって事だし。
「ヤクザは数じゃねえ、人間の質だ。まあ色々てめえの組の子分に教育してきたつもりだったが、俺自身がきちんと出来てなかったから、隙が出来てダメになっちまったよ。転生した後になって気が付いたがな。それと日本のサツは多分、地球世界で一番優秀だと思う。俺なんて何度パクられたか」
「ふん、サツに撃ち殺されなかっただけましだね」
ああ、そういえばアンリは、転生前恋人から裏切られて、FBI捜査官達の不意打ちで、殺されたんだっけ。
「日本のサツはチャカをあまり使わねえが、基本的にヤクザもんよりも銃の腕は上だ。柔道とか剣道の武術の達人ばかりだし。その中でも優秀なのが刑事連中で、かなり頭がキレる連中ばかりよ。それに、日本のおまわりには、基本的に賄賂とか通じねえからな」
いや、そりゃそうでしょ。
ヤクザに買収なんてされたら、世界有数の検挙率があるって言われる、日本の警察とかガタガタになっちゃうし。
「それに、馬鹿はおまわりになれねえ仕組みになってる……マヌケは多いがよ。それが約30万いるんだぜ? ヤクザ以外はみんなビビっちまって、犯罪の発生率も数も、世界の主要国では下から数えたほうが早い。あいつらが日本最大の暴力団だっつうの」
いやいやいや、それ犯罪者の詭弁ですから。
交番や警察署で、真面目に働いてるおまわりさんに謝った方がいいって。
小学校の社会科見学とかで行ったけど、みんないい人だったし。
「何だそれ!? 連邦捜査局のGメン連中や、ニューヨーク市警やシカゴ市警とロス市警や保安官の総数より多いぞ? それに全員武術の達人ばかりとか怖すぎるな」
「だろ? そんで奴らテロや暴動対策や、ヤクザ対策に、機動隊って武装警察を1万人以上備えてる。そこから選抜された、マシンガンどころか、軍用ライフルや狙撃銃とか持ってるような、特殊部隊って殺しの軍団とか300人以上いる。武術とチャカと殺しを極めた、忍者みてえな達人集団だ、やべえだろ?」
「やべえな、日本って国は魔境か何かか!? お前そんな奴ら相手にしてたのか?」
いやいやいやいや、日本は世界有数の平和で安全な国ですって。
まあ、犯罪被害者の私が言うのもなんだけど。
「俺が言うのもなんだけど、あいつら全員が異世界転生とかしたら、多分普通に世界救済とかできるね。実際、俺は異世界を救済した、日本の女おまわりを知ってる」
え? 私が転生する前に天使に見せてもらった、あの女刑事勇者さん、先生の知り合いだったの!?
「そうか……ところで話の途中だが、さっきから生臭くねえか? 血と肉が腐ったような臭いだ」
「だな、お客さんだぜ。全員戦闘準備だ! 空から来るぞ!」
私は、魔力銃を懐から取り出し、ヨーク騎士団全員が魔力ライフルを空に向けると、空から吹き下ろしてきた物凄い突風が馬車を吹き飛ばし、私達は馬車から投げ出された。
「きゃああああああああああああ」
先生は華麗に着地し、私を庇って体を両手で受け止め、空を見上げ、ヨーク騎士団は体制を整え、私とアンリも空を見上げる。
上空にいたのは、恐竜のような大きな頭、コウモリのような翼、猛禽類のような脚、先端には矢尻のようなトゲがついた尻尾を持つ、頭から尻尾までを入れると15メートルはありそうな……ドラゴンだった。
ステータスを確認すると、モンスターはワイバーンという名で、レベル37でHPが7000で、防御力は低いが、力と魔力と素早さがかなり高い。
ワイバーンは口から燃え盛る隕石のような炎の玉を吐き出し、街道は炎に包まれる。
「くそ、ドラゴンだ。体色は手が翼になってる赤の飛竜タイプ。体色が緑じゃねえから、こいつはワイバーンのクリムゾンバーンか! 知能は低いが、凶暴性がかなり高い! 炎と風で攻撃してくるぞ!」
アンリは的確に射撃を加え、騎士団と私も援護するけど、空を飛ぶ速度が速くて、動きが目で追えない!
通り過ぎたと思ったら、爆音と衝撃波が遅れてやってくる。
「目で追おうとするな! 攻撃する時の悪意を感じろ! マシンガンで攻撃するんだ! 翼を狙え!」
先生が無茶苦茶言うけど、こんな化物どうすれば。
「俺がやる、任せろ!」
アンリは可変式魔力銃に魔力を込める。
すると、ギャング映画で出てきたようなマシンガンから、地面に設置するようなタイプの、砲身を6つ束ねたような大型の機関銃になったが、あれはテレビでもゲームでも見たことあるから知っている。
砲身を回転させながら、大量の弾丸を発射するバルカン砲。
アンリは体をサラマンダー化し、魔力を高めた。
「くらえ空飛ぶトカゲめ! 人間なめんじゃねえぞ!」
蜂の羽音を大きくしたような爆音が響き渡り、翼をボロボロにされたワイバーンが墜落し、先生が刀で何度も首を突いて絶命させる。
だが上空から、大量のワイバーンの影。
赤のワイバーンだけでなく白のワイバーンと、黄色のワイバーンが戦線に加わった。
「チッ! アイスバーンとデインバーンもいやがる! 魔界かここは!?」
ワイバーンの口から血が滴って、アゴから飛び出してるのは人間の……手……。
「くそう! やつらフランソワで無茶苦茶やりやがる! 俺が救うべき民衆達をよくも!」
アンリは水精霊の力で、砲身の熱を冷ましながら上空にバルカン砲を発射し、先生が大型の魔力ピストルで、ワイバーンを撃ち落とすが、数が多すぎる。
するとワイバーン達は、上空から一斉に、炎の玉と氷の玉、そして電撃を、地上に向けて放つ。
「スキル、絶対防御!」
私はスキルを使用したが、絶対防御は一日に一回のみでもう使えない。
おそらく、私が処刑場で召喚してしまい、エリザベスの召喚術で操ったモンスター。
そして、全長20メートルくらいありそうな、巨大なドラゴンが見えた。
銀色の体色が、夕陽に反射して、オレンジ色に光り輝く、ティラノサウルスに翼が生えたようなドラゴン。
こんなに大陸の南側に侵攻してくるなんて……このフランソワの人達は私に召喚された獣に、酷い目に遭ってる……私の本来の召喚魔術のせいで……。
「あれは……リンドブルムの亜種……」
先生はピストルを上空に構えながら呟いた。
「リンドブルム? 状態確認」
私はあの巨大ドラゴンのステータスを確認した。
リンドブルム レベル70 HP60000/60000 MP4000 攻撃200 防御180……ゲームのラスボス並のステータスなんですけど……。
「ちょ!? 何なのこのドラゴン! ヤバイなんてもんじゃない、私のレベルを大きく上回って」
「そうだやべえぞ! あの野郎のドラゴンブレスは、ヘタすりゃ都市区画ごと吹っ飛ぶ!」
先生は阿修羅一体化して、大型ピストルを何連射もして、アンリもバルカン砲で攻撃するが、巨体なのに銃撃を尽くかわして、ドラゴンの口が光り輝き出した。
「マリー、竜帝だ。爆炎の竜帝を召喚しろ!」
バハムート?
確か、ゲームでも最強クラスの召喚獣だったような、巨大なドラゴン。
私は指輪を掲げて、MPとHPを込めた。
「お願いバハムート、私に力を貸して!」
すると、夕日に包まれた空に暗雲が立ち込め、上空から全長100メートル位の、真っ黒いドラゴンが現れた。
ドラゴンの頭部には、腕組みした人影が見えるけど。
「おーい、おめえの力であそこの雑魚モンスター共、ちょっと吹っ飛ばしてくれよ」
「あげん雑魚ドラゴン、ダーリンがぼてくりこかせば良かやろ! せっかく新しかマニキュアんお手入れして、ジョン太郎に餌やっとったとにー」
ええと、なんか可愛い女の子っぽい声がバハムートから聞こえて来たんだけど、何これ?
「おめえそんな事言ってっと、今度新しく仕入れる予定の、あの世界の最新ファッション誌やらねえぞ? いいのかー」
あ、バハムートがリンドブルムの方向いた。
「そりゃ困るけー、あん雑魚共しゃしゃっとジョン太郎と殺してしまうねー! 愛しんダーリン!」
えーと、このドラゴンもしかしてバハムートじゃなくて、ジョン太郎とかういう雑な名前のドラゴン?
ドラゴンの上に乗ってるのが、バハムート?
「ジョン太郎、あん雑魚ぼてくりこかせ」
真っ黒い巨大ドラゴンが、リンドブルムに突っ込み巨大な腕でアッパーカットすると、リンドブルムは悲鳴を上げて空高く吹っ飛んだ。
そして風圧でワイバーン達も上空に巻き上げられ……。
「きゃああああああ、何これ!? パンチだけで風圧すごいんですけど!」
ステータスを確認すると、今の一撃でリンドブルムのHPが、残り1万まで減っている。
そして、ジョン太郎と呼ばれたドラゴンの頭に乗った人影が、上空のリンドブルムに両手を掲げた。
「吹き飛べ雑魚共、兆光爆炎」
すると真っ白の巨大ビームのような光線が、ジョン太郎の頭から発射され、リンドブルムを一瞬で消しとばした。
うん、強いとか、そういうレベルじゃない。
オーバーキルすぎるし、アンリやヨーク騎士団の面々も、ポカーンと口を開けて空を見上げる。
あ、真っ黒い竜ことジョン太郎から、人影が飛び降りて、先生のもとに降り立った。
それは赤い振袖着た、赤茶色の髪の毛をした美しい女性で、人間とちょっと違う点は、頭に二つの赤い角が生えてて、耳が尖り、瞳の色が金で瞳孔が縦に長く、お尻の辺りにトカゲのような尻尾が生えていた。
「ダーリン、会いたかったばい。今なんしようと?」
なんで博多弁? なんで方言女子?
それになんか、凄いギャルっぽい感じだ。
目尻を吊り上げてて、まつ毛が綺麗に手入れされてるし、眉毛も整えてて、リップも派手ではないが、さり気なく濃い感じにしてて、ちょっとかっこいい。
「おうそれな。俺この世界で、大邪神くせえのと喧嘩すっから、この子に力貸せ。マリーって言って俺の娘だ。マリー、紹介する。竜帝バハムートこと、ドラミよ」
ドラミちゃんって言うのか。
歳はいくつくらいだろう?
私よりもう少し上で、18歳から20歳位に見えるけど。
「なんね大邪神とか? ダーリンの力なら、そんな雑魚ぼてくり回せるやろ?」
「あーそれなー。ちょっと俺の本来の力が出せねえ状況なのと、複数の神連中や精霊が関わっててめんどくせえんだわ」
うん、先生が本来の力を出せないのは私の召喚レベルが、足りないから。
と言っても、さっきの戦いでレベルが滅茶苦茶上がって、私もレベル30になり、先生のレベルも60になった。
パワーレベリングって奴だろうか?
私も結構戦闘経験積んでるし。
そしてドラミと、巨大ドラゴンのジョン太郎は、元の世界へと帰って行った。
「へー竜人かー。若いのになかなかやるねー」
「!?」
ふいに私達は声がした方向を向く。
この男なのか女なのか、年齢すらもわからない、中性的な声には聞き覚えがある。
金髪で赤い瞳をした背丈が150センチくらいの、古代ギリシア人が着けてたような、白い布のようなキトンを身につけて、爪先がとんがった茶色いブーツを履いた、男の子のような、女の子のようなすっごい美形の子が、街道の大岩に腰掛けてる。
「よう、てめえが“終える者”とか言う野郎かい?」
大邪神”終える者”が私達を見つめていた。
アンリや騎士団が、私を庇うように前に立つ。
「うん、君の姿が見たくてねアースラ。もっとも、僕が封印されたのは、あの神界大戦が起きた大昔の話だったし、アレはなかった事になったみたいだから、僕の事は覚えてないか」
アースラ……。
遠い昔の前世で、魔王だった時の先生の名前。
「今日は君の姿と、エリザベスちゃんの妹君を、見に来ただけ。元気そうで何よりだアースラ。僕は君の事を気に入ってたからね。風の噂じゃ、君やルシファーの奴も堕天して、魔王やってたんだっけ? どうしょうもないな神界は」
「何もんだよ、邪神だろてめえ?」
「僕は神さ。ただし、最上級神みんな怯えちゃって特別に4類指定されちゃったけどね」
先生は、額から汗をかきすごい嫌そうな顔をしたけど、何その4類指定って。
「ああ、マリーな。魔王とか邪神とか神界と天界の指定があるんだ。1類指定が、元神とか天使が堕天したいわゆる魔王。2類がそれを超える力を持った、いわゆる大魔王。3類が、発覚した段階で存在を抹消しなきゃいけねえやべえ奴。魔神とか邪神とか、鬼神とかそんな連中。4類とか聞いた事ねえよ、なんだそりゃ?」
「君は知らなかったか。魔界は神や危険生物専用の牢獄、いわば雑居房みたいなものさ。4類に指定されると、魔界に悪影響与えるって理由で送られず、ニブルヘルって監視が厳しい、極悪神専門の特別刑務所のような所に送られる。僕、世界を滅ぼす破滅神とも言われてるからさ」
ちょ!?
この神、自分で自分の事を極悪神とか、破滅神て言っちゃってる。
「僕、そこを支配してたから。もうニブルヘルは今の神を恨んでる原初の神々ばっかりでね、モンスターばっかりの過酷な世界なんだ。だから僕は軍団作ったのさ。もうね刑務所に飽きたし、暇つぶしに喧嘩しようよ、僕の巨人軍と」
「読売ジャイアンツかこの野郎! 中日ファンの俺に喧嘩売ってんのか!?」
「野球かこのお子様が! 何が巨人軍だ! ジャイアンツは嫌いなんだよ!」
先生とアンリは”終える者”に突っ込むけど、そうじゃない気がする。
「まあ、僕もまだ本調子じゃないし、君の姿が久々に見れてよかった。じゃあねアハッハッハ」
“終える者”は姿を消した。
楽しそうに笑いながら。
次回に続きます




