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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
最終章 召喚術師マリーの英雄伝
304/311

第299話 最終戦争(ラグナロク) 前編

 マリー達が最終決戦を行なっている最中、ルーシーランド連邦を手中にした悪魔のような男、ソ連のベリヤの魂を宿したイリアが、禿げ上がった頭を掻きながら、困惑の表情を浮かべていた。


 その原因の一つが、ヴィクトリー王国新政府外相となった元黄金薔薇騎士団長にして、王国随一の政治能力を持つシュチュアートからの脅しである。


 内容は、ルーシーランド連邦は一切の戦闘を中止し、武装解除せよという内容。


 交渉に応じればヴィクトリー国内で、ルーシー連邦と世界大戦を引き起こそうと企てた連邦建国の父、マルクスの身柄を引き渡すという。


 しかし一時間以内に交渉に応じなければ、マルクスが企てた世界大戦の陰謀の件で、ヴィクトリー王国がルーシー連邦へ宣戦布告すると同時に、王国刑法に基づき、マルクスを私戦陰謀罪で起訴すると通達がなされた。


 こうして一時的に友好的だったヴィクトリー王国外務省が、一転して連邦と敵対関係なったことに、イリアは考えが追いつかず耳を疑う。


ーーなんと複雑怪奇な情勢……世界中で政変が起き、今までの国際関係が全然成立しなくなってる。やはりヴァルキリーの伝説が残る、あの美しい少女の影響か……んー、やはり欲しい! 全世界を仮に敵に回しても、あの美しい少女を私のモノにしたい!


 そんなことを妄想しながらイリア自身、マルクスの身柄などはどうでも良かったが、連邦内に信奉者がいるために、形だけでも交渉に応じなければと考える。


 ヴィクトリー王国と話をつけるため、ビデオ通話式通信機を作動したが、その瞬間ジッポンに電波ジャックされた。


 そして一時間以上に渡り、ジッポン政府外務省から、通訳官が翻訳を躊躇うような罵詈雑言の嵐のような恫喝を受けることになる。


「私が書記長代行にして外務責任者イリアと申しますが、あなた方はジッポン政府の……」


「なんちゃコラ? おどれのような小物が出てくるたぁ、ワシらジッポン政府なめとんかコラ?」


 なんだこいつらはと、イリアは眉を顰めた。


 なんでジッポン側の外務省は、外交官の経験もないような、チンピラのような若者らが渉外担当しているんだと。


 外交官は通常、外国との交渉や文化交流、情報分析や同胞に保護活動を行うことから、基本的にはベテランの政治家や官僚が担当し、基本は物腰を柔らかく、時には態度を厳しく、本国と他国との折衝を行うのは洋の東西に共通する。


 だが、ジッポン新政府はあからさまにルーシーランド連邦に威嚇するような、態度をとっていた。


「まあまあ、カオル。そねーな圧かけたら向こうさんお話ができんよ。あ、自分は外務大臣の桂いいますわ。うちのカオルが怖がらせてすいませんねえ。なんちゃら代行の小物くさい小役人さんよお」


「小役人だと!? 私は、今では連邦の全権を!!」


「あ゛? なんちゃコラ?」


 ジッポン側の外務大臣と名乗る青年の七三分けの髪型が、いつの間にか自身で髪を撫で付ながら髪型をオールバックに変えて、喧嘩傷でついたような額の傷が白く光り、気迫を込めて睨みつけてくる。


 大臣補佐についてる青年も、短髪にパーマをあてて威圧感のある髪型をして、眉毛を全部剃り下ろして怒りジワだらけの風貌の強面に、イリアは冷や汗を流す。 


「おう小物コラ? おんどれらの国、誰が頭かはっきりせんし、おどれと話しても時間の無駄じゃ。一番偉い言う書記長とやらと話がしたいけぇ、はよ呼んで来い」


「い、いや呼べと言われても……」


 書記長のイヴァンは、イリアが書記長室で謀殺したため、すでに故人であるため呼べと言われても、連れて来れるわけがない。


「ワシらの外務大臣が呼べ言うんとんじゃコラァ!! おどれじゃ話にならんけぇ、はよ呼んで来んかいコラァ!!」

 

「書記長イヴァンに関しては、急病のため先程医務室に運ばれ、このイリアが全権をですね……」


「なんちゃコラ? 小物風情が調子ええのう。そういやあ、エルゾのカムイ王太子様が言いよったわ。先の試合で勇者様を謀殺する言うて、おんどれら連邦が企んじょったらしいのぉ?」


 エルゾの王太子カムイが情報を漏らした!?


 イリアは顔面蒼白になりながら、首を何度も横に振って否定するが、これに関しては紛れもない事実である。


「い、いやそれはその……」


「なんやワレェ? チャンピオンを利用して、勇者様を殺した陰謀の張本人がやっぱりおんどれらかコラ? 勇者様はワシらジッポンの英雄じゃった。その勇者様を殺したお前らは、覚悟できちょるんじゃな?」


「えーと、そのようなこと私に言われても……覚悟とは……」


 のらりくらりと、話題をかわそうとするイリアに対し、オールバックの桂外務大臣が拳を机に叩きつけ、補佐の井上カオルが刀を抜く。


「ようわかった。おんどれら喧嘩上等かコラ? ワシら新政府ジッポンは幕府と違うて甘ないで。ワレェ、ワシらなめとると軍隊送ってぶち殺すで!! おう!?」


「わしらに喧嘩売っとんかゴラァ!! 受けて立っちゃるで!!」


ーー話が通じる状況じゃない……。


 イリアは思いながら、悪魔との大祖国戦争の最中、ジッポンの介入を阻止すべく、思考を巡らせた。


「いえいえ、それはイヴァン閣下が全て考えたことでして、私共はあなた方ジッポンと戦争などと……」


「じゃけぇそのイヴァン呼んで来いって言うてんじゃろワレェコラ!! てんくらじゃ!!」


「それともワレが、わしら新政府と交渉できる立場なのか今すぐ示せコラこのボケ! つばえんなハゲ眼鏡コラ!!」

 

 罵詈雑言の嵐に、ついにイリアは通話先のジッポン外務大臣に激怒した。


「さっきから聞いてれば、我々ルーシーランド連邦をなめてるのはそっちじゃないか!! おまけに私のことも馬鹿にしてるだろう!! 戦争がしたいのかだと? 我が連邦の最終兵器を、お前らの首都に撃ち込んでもいいんだぞ!!」


 こんなチンピラのような、外交も知らぬ小僧共にナメられてたまるかと、イリアも強気の態度をとるが、西郷から連邦制圧の大義名分を無理矢理にでも作れと言われていた桂は、内心ほくそ笑む。


「ほー、わかった。うちらジッポンへの宣戦布告と受け取ったで」


 イリアは怒りから一転、自身が通信先の若者にハメられたことに気がつく。


 最初からジッポン新政府は、自分達ルーシーランド連邦との戦争を望んでいるのだと。


「……あ、いや今のは言葉のあやで……」


「何があやじゃ、因縁(あや)つけよってこのボケ! おんどれらシバキ回したるで! 吐いた唾飲まんとけや!!」


「ワシら喧嘩上等じゃけぇよお。今から喧嘩しに行くけぇ、待ってろや馬鹿助が!!」


 イリアがジッポン側との渉外に頭を悩ませる中、ヴィクトリーへの回答期限が過ぎてゆくのと同時に、西郷はヴィクトリー王国新政府及びチーノ共和国から政権交代した臨時政府と、テレビ通信で首脳会談を行なっていた。


「こちらはヴィクトリー王国首相となりました、ハリー・ジーク・アイリー・ハーヴァードと申します。ジッポン新政府、西郷総理大臣閣下ですな? それと……あなたは?」


「うむ、ヴィクトリー王国ハーヴァード首相閣下、お話できて光栄にごわす」


「チーノ共和国改め、大明共和国臨時政府大統領、鄭芝龍(チャンジーロン)だ。この場を借りて臨時政府を立ち上げたことを発表する」


 テレビ通話の中、三人はお互いを見つめ合う。


 陸軍大将の経験があるハーヴァードは、西郷を年こそ若く見えるが、自分と同じく軍務経験豊富で将官経験もありそうな武人であると気付く。


「ふむ、もしかして西郷総理は軍務経験がある侍出身か? 落ち着きや態度、それに所作を見るに一流の武人に見える」


「なっほど、やっぱい……わかっお人にはわかっか。いかにもこん西郷、軍務に従事したこっが何度か」


「奇遇だな。私も昔は軍歴があってね、船団を率いた経験もある」


 ハーヴァードが見るに、鄭と名乗った老人と、西郷という若者の二人は、まるで何度も人生を繰り返して、兵を率いてきたと言わんばかりのオーラを発する。


 二人の海のような澄んだ瞳と、圧倒的な存在感と威圧感に、ハーヴァードは二人を将官級の器ではなく、大軍団全てを統べる帥の域にまで達してると息を呑んだ。


 同時に、ヴィクトリーの名将軍と呼ばれた自分をも超える器を持つ男達に初めて出会い、ハーヴァードは世界は広いと感じ入る。


「皆、互いに武人なら話は早か。戦後処理として然るべき賠償金が支払われるならば、こちらで捕縛したヴィクトリー将兵、及び旧チーノ共和国将兵の身柄と軍艦は、丁重に貴国へ送り届けもんそ。これで互いに遺恨無しじゃ」


「かたじけない総理。これを奇貨とし、我が大明臨時政府が、いまだまとめきれてない旧軍の掌握に利用できるであろう。それと賠償金は私の私財で賄う」


「こちらも新政権とはいえ、先に手を出したのは我が軍であることは事実。ジッポンへの謝罪と賠償金と共に、我が国の将官と海兵達の身柄を引き受ける」


 ヴィクトリー王国との戦後処理を早急に解決し、両国が現在直面している問題へと話は移行する。


「では戦後処理はこいで終わりちゅうこっで、事前に聞いてた通り、大明共和国とヴィクトリー王国は、我が国と同盟を結ぶ所存じゃな?」


「うむ、世界の東西が手を結べば、女王陛下が願った世界恒久平和が実現するやもと私は確信している」


「その通り、これはそちらの坂本君が提唱した世界の自由貿易の、貿易航路が安定するためでもある」


 これは未来も見据えたものでもあり、洋の東西が手を結べば、世界各国の交易路が安定する。


 このため交易で富を築くのに適した島国のジッポンとヴィクトリーはおろか、民主国家になった大明共和国含め、全世界の利益になる経済的、軍事的な同盟であった。


「よか! 同盟の件、お受けいたしもす」


 こうして三人は通信先で互いが一流の武人であることを確認し、同盟を結ぶ。


「お二方、我がジッポンは鎖国を解き、自由経済へ移行すっとどん、貴国含ん世界主要各国ん状況は? 中東に関しては、我が国の坂本龍馬が覇権企業の社長になったことで、ある一定の影響下においたじゃしが」


「隣国のヒンダス帝国が、政情不安定化しつつあると聞いた。皇位継承者の皇太子が、突如廃太子になったことで妹君が皇位を継いだが……あの帝国も大きな国だ。皇太子派閥が相次いで失脚したことで、各派閥のどこの誰が主導権を握るかで、内部争いしているのだろう」


「うむ、ヴィクトリー王国及びホランド王国が適切な介入をしよう。あの財団の資金源になっていた麻薬製造も完全に解体させる。我が国とホランドは、あの国へ少なからずの影響力があるからな。ヒンダスが安定すれば、周辺国も安定化するだろう。ジッポンと大明国にも協力をお願いする」


 財団が崩壊したことで、世界不安定化の流れを断ち切ろうと洋の東西が連携をとる方針に決まる。


「よか、そいでハーヴァード首相閣下、本題じゃがルーシーランド連邦の状況ばどうなっちょっと?」


 ハーヴァードは、キエーヴ共和国とルーシーランド連邦とで引き起こされた戦争の件について、簡潔に説明する。


 旧西ライヒ帝国とで連合軍を組んだキエーヴ共和国軍は、開戦当初の防衛戦は勢いはあったものの、連邦軍の物量に押されて国土深くまで侵攻され、民間人への大量虐殺が引き起こされた。


 しかし連邦軍の補給線が伸びたことにより、前線への物資調達に遅れが出たことと、家族を殺された者たちが雑多な武器をとって、市街地でのゲリラ戦を仕掛けたことによる厭戦気分で連邦軍の士気が低下。


 現在は共和国軍が攻勢を強め、連邦軍による侵略戦争が、一転して連邦にとって苦しい防衛戦を強いられていた。


 連邦軍の大半は、18歳から26歳までの農家の若者達を大量に徴兵したため規律がなく、使い捨ての兵隊達なため、士官は兵士を雑に扱ったことでゲリラ戦で大量の戦死者が発生。


 またかつてのルーシーの王族が、停戦に向けて即位宣言したこと。


 これを聞いた軍事的天才の西郷は、世界を滅ぼすほどの悪意を持ったルーシーランド連邦に、国家解体とルーシー王家へ国家移譲を仕掛ける好機であると判断する。


「なっほど、ワシらが介入すべき場面じゃな。我が軍は現在再編成をしちょっ最中じゃっどん、まずは治安維持ちゅう名目で、腕利きの武装警察隊を先遣隊として派遣。そん後は軍を彼ん国に送り込ん形で、制圧す」


「であるならば、西郷総理。我が国の空域を利用するといい。我が大明からならば、ルーシー連邦へすぐ行けるだろう」


「我らはヴァルキリー様、女王陛下のために、現在全軍を動員している最中。すでに北極海経由で、友好国含めた戦闘部隊を連邦首都へ派遣した。それと監視衛星からの画像と観測から、彼のルーシーランドの地で大量破壊兵器が使用され、伝説の大邪神らしき巨大な怪物も確認されている。もはや一刻の猶予もない」


 300年前のジッポン戦国末期に到来し、莫大な被害をもたらしたという、大邪神率いる百鬼夜行伝説の再来に、西郷は息を呑んだ。


「……やっぱい伝説ん百鬼夜行、大邪神ん復活じゃしか」


「その通り……世界の危機だ」


 前世でエムと直接戦闘した結果、重傷を負った鄭芝龍は自身が経験した悪意を思い出す。

 

「300年前、私の前世の話だ。私は君らがいう大邪神と、大邪神が率いた百鬼夜行と戦闘経験がある。君らの君主、ヴァルキリーと呼ばれる彼女や、今は亡き兄弟分イワネツと共に、あの悪意に立ち向かったんだ」


「おお、天女様や兄弟のお仲間じゃったか」


「その際のことを、ぜひ」


 鄭芝龍は、一瞬目を伏せて首を横に振った。


「恐ろしい悪意だったよ。大邪神、エムと呼ばれたあの悪意は、ナーロッパ全土で大量破壊攻撃と麻薬汚染を引き起こして、ジッポン全域も地獄のような有様にした。私も四肢を切られる重傷を負ったが……そうか、蘇ったか……あの伝染する恐ろしい悪意が……」


 伝染する恐ろしい悪意。


 大邪神がどんな相手かを、西郷とハーヴァードが理解するに十分な表現である。


「伝染する悪意……では我らが女王陛下、ヴァルキリー様と聖騎士様による特別軍事作戦の概要をあなた方にも」


 ナーロッパ諸国連合軍精鋭が、ルーシーランド連邦を攻略するという大方の話を、今は亡きイワネツから、西郷も鄭芝龍も聞いていた。


 ジッポンでは天女と逸話の残る、ヴァルキリーこと勇者マリー率いるヴィクトリー王国最精鋭部隊が、ナーロッパで聖騎士と逸話の残る、復活したロレーヌ皇国の皇帝となったフレッド率いる特殊部隊とで、ルーシーランド連邦の核兵器を破壊もしくは奪取と、世界の敵の排除。


 同時にルーシー王を宣言したアレクセイ・イゴール・ルーシー率いる、ヴィクトリー黄金薔薇騎士団、フランソワ共和国コマンドー部隊、イリア共和国最精鋭の特殊介入憲兵隊が、首都モスコーを制圧する二段構えの特別軍事作戦。


 だが、もはや復活した大邪神エムによりマリーの計画の半分が頓挫しかかっていたことから、特別軍事作戦が修正を迫られた。


 このためヴィクトリー王国全軍とジッポン新政府軍とで大邪神討伐を行いつつ、広大なルーシーランド連邦全域を治安維持という名目で制圧することとなる。


「止めもんそ、ハーヴァード首相閣下。こん世界を滅ぼさせんために、ルーシーランド連邦を制圧すっ。ここは力を見せんにゃいけん場面じゃ、後の世のためにも」


「ああ、止めよう西郷総理。そのためには貴国らの力が必要だ」


「うむ、300年前はジッポンとナーロッパ、そして勇者達が手を結ばねば勝てぬ相手だった。今こそまた世界を一つにして、あの邪悪に立ち向かおう」


 するとビデオ通話の周波数に、割り込む形でアスティカ大陸の首長連合の長、スーという老婆の姿も映り込む。


「我らアスティカ首長国連合も……悪意を止めるため優秀な戦士達を送り込んだ。私は首長国連合の長老のスー」


「アスティカ? おお、あの亜洲輝果でごわすか。300年前ん伝説に残っ大陸やったな。天女様より話は聞いとります。我が名はジッポン内閣総理大臣西郷ち申します」


「ああ、確かマリー君とシミズが解放した地だったか。いつぞやの、大陸での最終戦争ではあなた方に助けられた」


 西郷は突如映像に映った老婆に頭を下げ、鄭芝龍も懐かしそうに当時を思い出す。


「我々からも感謝を。我がヴィクトリーの即位式典に、遠方から使者を送って祝っていただきありがとうございます。首相のハーヴァードです」


「私も恩人のマリーを、助けるために。大邪神と呼ばれたミカトリに決着をつけるために、人々の幸福と平和のために、私達も」


 西郷とハーヴァード、鄭芝龍も、首長のスーに頷く。


 そしてスーは首脳達に、大邪神と呼ばれたエム、ミカトリともミクトランとも呼ばれた者の正体を明かした。


「うむ、何度も転生して邪悪さと力を増した元は人間だったと聞いていた。あの戦いのあとも、やはり恨みは消えてなかったか」


「なっほど、元はおいもいた地球の、古代アメリカ大陸の精霊の巫女が、大邪神と呼ばれた悪意の正体でごわしたか」


「うー、ミカトリは、元は一部の悪意ある精霊が生み出した儀式の巫女だった。メソ、アステカに伝わる生贄の儀式……何度も転生して力と悪意を高めて、地球の白人社会に復讐するのがミカトリの目的」


「白人社会への復讐……おいの前世時代で西洋列強ち呼ばれた国々ん、世界秩序ん犠牲者でごわしたか」


 前世の西郷も、西洋列強に対抗するために仲間の志士達と富国強兵を推し進めた記憶が蘇る。


「ミカトリの悪意は恐ろしい、次々人に伝染する。もはやミカトリの本来の巫女としての意思は、遠くに追いやられ、何度も転生したことによる影響で、多くの怨念が宿ってる」


「そうやったか。そいが我らが相手にせんにゃならん、大邪神ん悪意ん源でごわすか。では我らが立ち向かうには、いけんしてすりゃ?」


「悪意に立ち向かうには、善意が必要。私達は、あなた方の大陸に善意の念を送っていましたが……悪意の力が強くて。でも、こうして私はあなた達と話をしてわかりあえばきっと」


 悪意に立ち向かうには、世界で善意を高めなければならないと、アスティカのスーは、首脳達に訴えかけた。


 するとふいに西郷は、前世の維新志士時代に交流があったある文化人を思い出す。


「吉之助はん、お侍様がいくら強い言うても、結局夷狄の黒船には勝てまへんでした。征夷大将軍たる幕府に、もはや日本を守る力もありまへん」


「やったらどうすりゃ良かとな? 和尚」


 月照とも呼ばれた僧侶は、前世の西郷の問いに袈裟姿の僧侶は手を合わせて祈る。


「人を……ええ人達を集めて流れを変えるんです。善意ある人を、志のある人を集めて、吉之助はんがこの国を救うんです。私がその祈りを、歌を歌います。天子様にもその歌を届けましょう」


 西郷が頼り、後に安政の大獄と、己の行動が原因で命を落とすことにもなった僧侶月照も、同じことを言っていたのを思い出し、アスティカのスーを見て深く頷いた。


「そちらん話はわかった。自分も、そう思う。悪意に立ち向かうには、多くん善意を示さんにゃなりもはん」


 そしてハーヴァードも、主君であるマリーが即位した時のスピーチを思い出す。


「我らヴィクトリーも、陛下のスピーチを忠実に実行いたします。人の善意と想いを信じて、勇気を持って世の悪を退けましょう。愛を持って、人と人とがわかり合える世界を目指すために」


 そして鄭芝龍もまた、世界に再び善意の規範を構築するため、スーに同意する。


「やりましょう、我らがその規範を、この世界で作りましょう。私の思いを、あなた方に伝えたいがよろしいか?」


 西郷達は、鄭芝龍に一斉に頷く。


「私は……何度も転生して商いに携わり、見出した道がある。人は皆、自分と他者と比べる性質がある。そして自分達と違う価値観、違う風習文化を下に見て、劣ったものだと断じることもある。だが……」


「ええ、わかっちょいもす。だが我々は、ちごっ文化と価値観でせ共感しっせぇ、認め合う心があっ」


「そう、その通り。我々は一人一人が培ったものが違う。生まれも、出身も、文化も、風習も、肌の色も。だが……それを尊重し合い、お互いの違いを尊重して……認め合うことができればきっと未来への道は開ける!!」


 ハーヴァードと、アスティカのスーも鄭芝龍が示した道に共感した。


「私の友は、ジョン・デリンジャーはこう言っていた。何度生まれ変わったとしても、人の思いも、誰かを愛することも止められはしないと、これこそが真理だ……我ら人間の」


「そん通りじゃ。我々は人間であっ以上、誰かを愛さんではいられん。そん思いはどげん世界でん、どげん時代でん、どげん時でん!」


「必須敢於正視,這才可望敢想,敢說,敢做,敢當。物事に、人間の秘めた善意に、思いに正面から取り組んでこそ、道に到達できるはず。かつての英雄達と、イワネツが残した思いを……今度こそ」


 首脳達にスーの思いが通じて、世界で善意を伝えるために、恒久平和のために最後の戦いに挑もうと決意する。


「よか! 敬天愛人! 各々方、良き心意気でごわす。共に手を取り合いもんそ首相、大統領、首長殿。我々はもう一人じゃなか!」


 前世で英雄と呼ばれた西郷隆盛は確信する。


 人の願いと思い、救いを願う祈りが届き、世界が救いに満たされようとしているのを魂で感じ取り、魂が傷ついて転生した者達の世界で、善意を唱える。


「悪が人々を虐ぐっ世界を否定しもんそ! 善意ち思いが報わるっ世界にしもんそ! おい達が、世界中が悪を退くっためん最後ん戦いを祈念し、皆で悪意に抗いもんそ!」


「うむ、今こそ世界恒久平和のために、未来のために! 洋の東西が手を取り合い、互いを尊重する社会に! 我らが主君、ヴァルキリー様が望んだ善意の世界を!」


「みんなで悪意に終止符を。我々アスティカが、あなた達と共に未来を築くためにも」


「うむ私も戦場へ向かう。マリー君と……現代の心ある者達を守らなければ。今度こそ人々の幸福を願って、俺も……今度こそ!!」


 こうして、世界恒久平和を構築するための大同盟が結ばれ、300年前の世界大戦で、離れ離れになっていた旧大陸と新大陸が善意で結びつき合う。


 そしてジッポンの羽根田国際空港の滑走路には、虹龍国際公司が製造した、大型の超音速輸送機が並べられていた。


 この輸送機に新政府武装警察、新撰組の面々や龍馬率いる海援隊のヤンキー達や、レイラが率いていた愛羅武勇のレディース達が乗り込んでいき、治安維持用の最新鋭の起動兵器も格納庫に搭載される。


 搭乗した土方が、無線で龍馬とやりとりを始めた。


「おう、坂本!! おめえが用意してくれた民間機で俺たち新撰組を戦場まで運べや!!」


「おう、任せとき! うちの会社が用意した飛行機で、真里ちゃんを助けに行くぜよ!! 人々がいがみ合う世界はこれで終わりや! わしらで世界を救う!!」


 前世の記憶をうっすらと思い出しつつある、この世界でも天才剣士と呼ばれた冲多は、戦場に向かう土方の嬉しそうな顔に苦笑した。


「トシさん、めっちゃワクワクしてんよね。これから生きるか死ぬかの戦場に行くのにさ。前はこう、なんだろう、しかめっ面ばっかだった気がするのにさ」


「ああ、おめえは覚えてねえだろうが、前の世界じゃ、色んな戦いを長州や水戸、それに薩摩とやったべ」


「まあね、みんな武士になりたかったし、無茶苦茶やったよね」


「で、最後は北の果ての蝦夷地にまで行ってよお……終わったはずだった。すると生まれ変わったらどうだ? また俺たちゃおまわりやって、今度は蝦夷地よりも最果ての北の戦場まで行って斬り合いだ。まったく、不思議な運命だべ」


「まあ、俺は前みたく体壊してないしね。今度は最後まで付き合うよ、総長」


 航空機のエンジンがかかると、超音速輸送機が飛び立ち、ルーシー連邦カルガー地方を目指す。


「やい坂本! この飛行機、向こうに着くのはいつだ!?」


「音速の20倍で飛ぶぜよ! 着くまで30分かからんき!!」


「よおし、行くぜ新撰組!! 俺たちの最後の戦場へ! 敵は大邪神、相手にとって不足ねえべ!!」


 龍馬と土方が戦地へ助太刀しに赴くのと同時刻、連邦最高権力者になったベリヤに耳を疑う一報がもたらされる。


「な、なんですって!? ナーロッパから多数の航空機が首都モスコーの空に!?」


「は! 同志書記長代行。レーダーと監視衛星の画像で所属を確認すると、機体にはユリのマークと獅子のマーク。鉄十字のマークに、赤薔薇のマークも。間違いありません、ヴィクトリー王国軍、旧ライヒ帝国軍、フランソワ共和国軍、イリア共和国軍の識別マークです!!」


 イリアは、ヴィクトリー王国外務省への回答期限が過ぎたことに、今更ながら気がついた。


 そしてこんなにも早く首都上空に、多数の航空機を飛ばしてきたのは、最初からルーシー連邦を制圧するために、ナーロッパ諸国全体が大動員をかけてきたのだと。


「なぜ気付かなかったんですか!! 空軍は無能の集まりか!!」


「いえ、それが……直前までレーダーにまったく機影がなく……その……」


 ヴァルキリーことマリーが、自身の電子魔法でハッキングを仕掛けた効果によるものである。


 イリアは、自身が命名した大祖国戦争が文字通り国家存亡の危機に陥ったことに絶望して、禿げ上がった頭に玉のような汗をかく。


 彼の遠い記憶の中の、前の大祖国戦争で、首都がナチスドイツに包囲され、圧倒的に不利な状況の攻防戦の中、130年ぶりの大寒波波と豪雪で敵が退けられた記憶。


 あの時は奇跡が起きて祖国が救われたが、今回の戦いは制空権が敵に完全に握られ、気象条件も味方せずに大軍団に包囲された状況にイリアは絶望する。


「首都防空へ伝達、すぐにスクランブル発進させなさい!」


 イリアが命ずるが、すでに連邦の航空戦力の大半はカルガー地方へ向かわせており、その結果、悪魔の軍勢に大半が撃ち落とされていた。


 もはや連邦の防空網は無きに等しく、首都上空の制空権は、ナーロッパ連合軍が手中に収めていた状況である。


「ええい、防空兵器で撃ち落としなさい! 親衛隊を全て動員し、首都モスコーを死守するのです!!」


「は!!」


 モスコー上空の、ヴィクトリー海軍空中空母の戦闘指揮所では、ルーシー王に即位宣言したアレクセイ・イゴール・ルーシー。


 ヴィクトリー名では、デイヴィッド・ロストチャイルド・マクスウェルと、その補佐でつく黄金薔薇騎士団副団長にしてヴィクトリー海軍元帥、ランヌ侯が並び立つ。


「前騎士長、失敬……ルーシー王陛下、敵国首都上空です」


「今まで通り騎士長で良い、ランヌ侯。ヴァルキリー様やアレックス、そして聖騎士様が、今頃カルガーの地で悪と戦っておるだろう。我らも騎士として、世界のために正義を成すぞ!!」


「は! 騎士長!! 連合国統合司令部より連合軍に伝達! 本作戦の指揮をとる、ルーシー王陛下ならびにヴィクトリー王国海軍元帥ランヌである! 諸君達の作戦目標は、敵国ルーシー連邦の首都制圧にある。第一目標、敵通信施設、及び主要官公庁! 発射(ファイア)!!」


 多国籍軍の爆撃機が一斉に、ルーシー連邦の通信施設と国家主要機関に対してミサイルでピンポイント爆撃を行い攻撃が成功した。


「第二目標、モスコー川含む主要6河川の鉄橋全てへ攻撃!! 首都中心を孤立化させ分断する!!」

 

 運河の橋へミサイル攻撃を敢行した結果、首都モスコーは、完全に陸の孤島として孤立する。


「うむ、十分だ。諸君、第三目標は対空兵器を無効化。その後、首都広場議事堂前に精鋭部隊を降下させよ! 本機及び随行機は近隣空港に強制着陸後、首都空港を奪取! 敵首脳部を逃すな!!」


 ルーシー王アレクセイが命令を下し、首都モスコー攻防戦の火蓋が切って落とされた。

世界の明日を夢見た人々の思いは、後編に続きます

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