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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第一章 王女は楽な人生を送りたい
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第29話 王女マリーは楽な人生を送りたい

 どうしてこうなった……。


 私はスリットがついた赤いドレスを着て、真っ赤な羽付き帽子を被り、口元にスカーフを巻いて、大きな城の内部で、ペコペコ頭を下げて使用人達にけん銃を向けている状況。


 転生する前は、高山真里と言う名の女子高生で、今の名前はヴィクトリーの王女マリー・ロンディウム・ジーク・ローズ・ヴィクトリー……長いからマリーって呼んで欲しい。


 今フランソワ王国最南端、この世界有数の港町、マルセールのポレニ城にいる。


 そこで私がしてる事はと言うと……。


「オラァ! 俺らはローズ・デリンジャー・ギャング団だ! 用がすんだらすぐ帰るからよ! デリンジャー首尾はどうよ?」


 大きく黒いピストルを構えながら、建物に入る着物姿に濃紺の中折れ帽子を被る先生は、水晶玉で通話しながら、先に建物に入って行ったアンリの後を追うように、領主の部屋がある方向に向かう。


 先生や私を援護するように、ロマーノ最新式魔力ライフルのバレッタを持ち、ミラーノ製の黒ジェストコールコートに黒ズボン、白のベストに赤い羽根つき帽子の、ヨーク騎士団の面々が、それぞれ見張り役、制圧役、援護役に分かれて、城の配置についた。


「ヴァンス公め、かなり溜め込んでるな。俺はこいつに湾岸事業を整備しろと命じて出資したが、ここまでため込んでやがるとは……下調べしたとおりだ! このクズ野郎、やはり領民の若い女を奴隷にして、ロレーヌやバブイールに売り飛ばしてやがった! 金庫ごとかっさらう! 強盗は野球と同じでチームワークが命だ! そっちはどうだ、シミーズ!」


「おう、今向かってる! 野郎の身柄をさらうぞ!」


 アンリは、ロマーノで仕立てた転生前の仕事着に着替えていた。


 頭にはドブスというメーカーに似た、ダークブラウンの中折れ帽子を目深に被り、シャツは真っ白な、コットンオックスフォードのようなダブルカフスに、黒地で白の水玉模様のネクタイを締めてる。


 紺やチャコールグレーのストライプ柄に、ウエストがシェイプされた、3つ揃いのダブルブレストと、幅が広いバギーパンツと言われる、ダークブラウンのスーツ上下。


 手にはあのイケメン用心棒さんが持ってきた、可変式魔力銃を手にする、まるでギャング映画に出てくる、マシンガンみたいな銃に姿を変えていた。


 そしてスーツ上下に、真っ黒のロングコートを羽織る姿は、すごくダンディーで長身の彼に似合ってるけど、周りが中世ヨーロッパの服装なので、かなり浮いて見える。


 きっかけは、1週間前の世界会議。


 突如この世界に現れた、先生いわくエリザベスの大邪神召喚の件。


「やはりな、エリザベスのガキは利用されてやがったんだ。この件、かなりべえ案件だ。俺が感じ取った魔力反応は……召喚されて力が下がってるとはいえ、やべえ奴だ。おそらく……本調子なら最上級神の力を越えて……破壊神と同格レベル。そして取り巻き連中も、チラッと見えた魔力反応だと、最上級神クラスの化物ばかり。なんなんだあいつら」 


 破壊神と同格とか、全然実感がわかない。


 そもそも、なんでこの人そんなコネ持ってるんだろう。


「先生は、破壊神とかの強さって知ってるんですか?」 


「知ってるよ、嫌って程力を味わったことがある。はっきり言って勝てたのは偶然だ」


 戦ったことあるんだこの人……。


 なんなんだろう、歴戦の勇者なんてものじゃない。


 歴戦とか、そんなレベルじゃないほど、この人は死戦を繰り広げていたんだ。


「俺が喧嘩した中で、特にやべえ相手が三人いた。一人は魔皇ルシファーことサタンの、魔王軍と魔皇軍……こいつらは絵図と組織力がえぐい奴らだった。一人は破壊神シヴァ……多分神の中で最強だろう。普段はイジっても、笑って許してくれる気のいいおっちゃんだけどな。最後の一人は龍神、九頭龍大神ドラクロア……力と魔力が桁外れで、隙を突かなきゃ勝てなかったクズ野郎だ」


 ちょ……なんか私でも知ってる、やばそうな悪魔と神の名前をサラッと言ってるこの人。


 ルシファーとか、サタンとか、シヴァとか喧嘩したって、やっぱり普通じゃない。

 

「だが、こいつはそれに名を連ねるくれえ、やべえ奴だろう。神界があまりにもやばくて、封印していたのにもかかわらず、この世界に潜ってた配下の連中が、絵図引いて復活を望んでたと俺は推測する。多分入念に、この世界を舞台に、神へ復讐の絵図描いてた連中。おめえの召喚魔法もその絵図の一部かもしれねえ。おめえを送り込んだ天使も、もしかしたら大邪神の野郎の手の者かもな」


 私を転生させた天使、サキエルも……大邪神の一派の可能性。


 考えたことも無かった。


「あと、俺の推測を述べるがいいか?」 


 アンリは、ヴィトーと共に言葉を交わし己の所見を述べる。


「おそらく、ヴィクトリーだけじゃない。世界のあらゆるところ、このナーロッパだけじゃなく、そうなるように仕向けられてる気がする。相手は神だろ? 神ならば人間の運命も操れて……」


「違う。それは違うぜデリンジャー。人の運命は生き方で変わる。創造神さんですら、全てを見通せないのが人間の生き方だ。だが神や邪神連中が描く絵図は、ハンパじゃねえ」


 ヴィトーは、うーんと唸りながら、頭を掻いた後、手を膝にポンと叩いた。


「兄貴ぃ、まずは状況整理さ。まず、この世界には神を恨んでる邪神の一派がいる。そしてこの世界の神々は、兄貴はめる陰謀企てた。ここまではあってるかなー」


「まあ、だいたいそんな所だろ」


「そんでさー、兄貴一体何したの神に? エリザベスがなんか言ってたさー」


 先生は考えた後、ため息をついてこう言った。


「あー、それな。俺が世界救済の旅に出た後、気がついた話でよ。すげえ身勝手で人間いじめてる神連中とかばっかりいて、むかついたんだ。最上級神達にそれ告発して、最終的に創造神さんに掛け合って、そいつらケジメとして人間の身に落として、人間界に放り込んだ」


 ちょ、この人神にケジメつけたって……やっぱりヤクザとか以前に、ヤバイ人だこの人は。


 魔界の悪魔どころか、神々とも喧嘩したとか、はっきり言って頭おかしい。


「あーそれさー、恨まれてるって兄貴ー」


 だよねー、絶対恨まれてる。


「お前すごいなぁ、クレイジーだ」


 うん、確かにすごいしクレイジーだ。


「おそらく、この世界担当して、人間の身に落ちた神野郎がいやがる。そして、その神の親族が精霊界と組んで……そういう事か! フレイアって神野郎が兄貴のフレイと仕組んだな。そして、そいつはエリザベスの側にいて絵図描いてる」


 私は、王宮の大貴族や侍従に至るまで、思い浮かべたが、全然見当がつかない。


 誰がいつどのようにして、エリザベスに陰謀を吹き込んだのか、今の状況では情報が不足してる。


「なるほどねー。じゃあ清水の兄貴、多分こんな感じさー。まず大精霊フレイと、人間になったフレイアが組んでる。そして二人とも創造神と兄貴に恨みを持ってる。だからよー、しにヤバイ邪神をエリザベス通じて召喚した」


「ああ。本当にその兄妹神が組んでるか、裏取りしてえが、状況的にはそれが可能性高いだろ。だが、この世界でも、奴らがアホだから人間と亜人が敵対してる感じだ。こいつらの兄妹仲はよくねえ気がするな」


 え?


 この世界で”も”って先生言ったけど、やっぱり問題がある神達なのか。


 それに、ヴィトーはパリピ感満載で、南国気質でのんびりした喋り口だけど、本来の魂を取り戻したら、めちゃくちゃ頭がいい。


 先生と同様、転生前はろくに学校なんて通ってないとか言ってたけど、勉強が出来る出来ないじゃなく、本来頭がすごいキレる人なんだ。


「神のくせに、スモールマインデッドな奴らだ。正面切っても勝てないから、シミーズを罠にはめる形で、こちらに弱体化されて召喚されるよう陰謀を考えた。そしてその大邪神とやらの配下が、フレイとフレイアを主人の復活の為に利用した……そんな所だろ?」


 アンリの言葉に、先生はうなずいた。


「見えてきたな、俺がケジメつける奴らが。そしてマリーも、野郎らの絵図に利用されたんだ! この世界の奴らおもちゃにして、人間なめやがって……絶対に許さねえ! ケジメとってやる!」


 ああ、嫌な予感する。


 この世界、全然平和でもなんでもない。


 表面上は地球の中世ヨーロッパのような世界だけど、まるで滅びに向かってまっしぐらの、最悪な世界。


 それに、もう一つ私が疑問に思っている疑問があった。


「先生、魔王やってたって本当ですか?」


「ああ、本当だ。俺の遠い前世は神ですら怯え、魔神すら震え上がる魔王だった。神々と喧嘩する時、6本の手で中指おっ立てながらな。そして魔界を魔王として救済した。それが真相だ」


 やはり先生が使う阿修羅一体化は、魔王の力で、その力で魔界を救済したんだ。

 

 6本の手で中指立てて、神々と喧嘩してたとか、何それ怖い。


「アヴドゥルのやつにも伝えよう。奴の本来の魂は、俺達と同様、男の中の男だろう。それにこれは世界の危機だ」


 アンリとアヴドゥルは、お互いを認め合ってる関係を築いているようだ。


 ヴィトーとは険悪そうだったけど。


「俺ぁ、あいつ嫌いだけどアンリが言うなら任せるさー。フレドリッヒはどうするさー?」


「奴も根は悪い奴じゃないと思う。ただ、親がなあ……」


「あーそれねー」


 教皇マリア・ジーク・フォン・ロレーヌ。

 ジーク教の教皇にして、美貌の女皇帝。

 そして、フレドリッヒのお母さん。


 あまり良い評判は聞かないけど、大陸中央の諸侯を支配する、女傑。


「よっしゃ、じゃあデリンジャーは先にアヴドゥルの野郎に連絡を繋げ。マリー手伝ってやれ。情報与える事で、奴に貸が出来る」


 私は、アンリと共にアヴドゥルに連絡を取り、先程の話を伝えた。


「その情報、間違い無いか? アンリよ」


「確証はない、我が友よ。が、あの英雄シミーズという名らしいが、奴は歴戦の英雄だ。それに、嘘を言ってる男の目じゃ無かった。マリー姫もヴィトーも同意見だ」


「信じられん。我が神フレイアが、この世界が滅びるかもしれない、大邪神とやらと陰謀を企てたなんて荒唐無稽すぎる。第一、そのシミーズとやら、魔王と名乗ったのだろう? お前達が謀られている可能性を俺は考えてる。確証が掴めるまで動かんぞ、俺とバブイールは」


 そう、普通はそんな話信じられるわけがない。


 ましてや、信心深いバブイールの人達が信仰する神様がらみの話だし。


「だが、情報をくれた礼と言ってはなんだが、フランソワはお前の父、ジャン王が心臓発作で急死し、お前の弟のルイが即位し、摂政にロレーヌのフレドリッヒの小僧が就いたぞ。私が言ってる意味、わかるな?」


 え? アンリの弟のルイ王子ってまだ10歳で、ジャン王が体が弱かったなんて聞いた事ないんですけど。


 まさか……。


「なるほど、よくわかった。ふざけた真似をしてくれる、ロレーヌ共め! という事は俺の強奪相手が増えたって事だな、我が友よ」


 フランソワ王国が、ロレーヌ皇国に乗っ取られたんだ。


 だとすると、おそらくヴィクトリーとフランソワの戦争の流れは、ロレーヌの意向に沿ったもので行われる可能性がある。


「そういう事だアンリよ。私はフレドリッヒの小僧や、マリアの女狐なんぞより、お前があの国の君主に相応しいと思っている。そして英雄となったお前を倒し、私の臣下にして、マリー姫を手に入れる。西方を支配し、大陸全土を支配する、大英雄を目指すのが私の目的だ。がっかりさせないでくれ」


 ちょ、この人もなんかすごい野望抱いてる。


 信長の野望や三国志列伝とか、大戦略シリーズじゃないんだから、中二すぎるんですけどこの人。


「ふん、その分じゃあ、お前まだ自分の魂に向き合えてねえようだ。お前の魂は、なんて言ってるんだ? なあアヴドゥルの中にいる誰か。人間の尊厳を、想いを、生き方を、誰かを愛する気持ちは止められねえ、そう言ってるはずだ。友よ、また会おう」 


 アンリは水晶玉の通信を切った。


 彼は、先生も転生前の生き方に憧れた伝説のデリンジャー。


 彼の生き方を許さななかった、アメリカ合衆国政府が、恋人を買収や脅迫をしてまで、彼を殺すために陰謀を巡らせた。


 人を殺さずの信念を抱いていたギャングの彼にとって、なんて皮肉な人生。


 どちらが悪か正義か、わからないまま命を落としたのが彼だ。


「なあ、マリー姫よ。俺は今度こそ持たざる人々の希望となり、悪しき者から悪しき財産を奪い去り、弱き人びとの、貧しい人々の銃になりてえ。誰かが俺を求める限り、俺の魂は不滅だ」


 本当の魂を取り戻した彼は、民衆の英雄を目指している。


 先生と同じだ。


 人の持つ美しい光を愛し、悪しき魂を憎んでいる。


「というわけで、フランソワで強盗稼業をスタートさせる! 俺の二度目の人生のプレイボールだ!」


 そんな感じで、フランソワ救済の強盗団が結成された。


 私のミドルネームのローズと、アンリの転生前の通り名、デリンジャーをくっつけて、ローズ・デリンジャーギャング団と命名された。


「ちょっと待ってよ兄貴! 何で(わん)が入ってないのさ!?」


 ヴィトーは、先生に食って掛かる。

 自分が強盗団のメンバーに入っていないのが不満だったようだ。


「馬鹿野郎おめえ、ロマーノ王の力使って、おめえは情報収集とサポート役だ。それにおめえ、国家運営あんだから、まずは国内を中央集権化と、富の再分配だっけ? さっさとやれ!」


「……わかったさ兄貴。いいなー、俺ぁも、コルトのピストルとか持って暴れてーなー」


 そんなわけで、私はヨーク騎士団と先生とアンリと共に、ロマーノの交易船でフランソワ南端の港町、マルセールに到着した。


 ペチャラは、医術が発展して、文献が沢山ある古都ロマーノに残って勉強がしたいと言い、ロマーノの大学図書館で、留学生という身分で勉強の日々を送っている。


 彼女は、更に知識を蓄えてこの世界初の女性医師になるのが目標。


 それに比べ、私は領主のヴァンス公爵の城へ、押し込み強盗している状況になってる。


 なんだろう、私はこの世界でお姫様に生まれたのに……父殺しの汚名を着せられるわ、処刑されそうになるわ、神の陰謀で魔物を召喚してしまうわ、島流しに遭うわ、ヤクザな勇者と出会うわ、世界救済の旅に出て、今は大国フランソワで押し込み強盗をしてる状況。


 王女として生まれたのに、全然楽じゃない人生なんですけど!


「デリンジャー、間違いねえ! ここの城主のヴァンスって野郎を見つけた。今からこいつの身柄(ガラ)(さら)うぜ」


「了解だ、シミーズ。よおし、金庫も城の金目のものも、全部このデリンジャーがいただいた! 怖い思いをさせてすまなかったな、この城の女中や侍従たちよ! それでは諸君、オーヴォワール!」


 アンリは優雅なお辞儀をした後、マシンガンを構え、左肩に金庫を担ぎながら颯爽と城から抜け出し、金貨がたくさん詰まった重い麻袋を、ヨーク騎士団たちが運び出し、無力化したヴァンス騎士団の馬車に乗り込み、大型馬車を港まで走らせる。


「てめーこの町の娘っ子をさらって売っぱらう、奴隷商してやがっただろ! 港のどこにいるんだこの野郎! 言えよ外道オラァ!」


「ぎゃあああああああああああ」


 馬車の中で、先生が小男っぽいヴァンス公に拷問している。


 靴を脱がせ、足の指を一本ずつへし折るヤクザな拷問を……。


「シィット……殺すなよ、シミーズ! 俺の強盗団では殺しは認めてねえ」


 何だろう……正しい事をしてるっぽいのに、一々手口が荒っぽい。


「ったく、俺の冥界上級魔法、叫喚地獄(ペイン)使えれば、楽にこいつの言質取れんだがな。まだ全然使えねえよレベル低すぎて。ちなみに、港のA倉庫に娘っ子たちは監禁されてる。おら、そうだよなぁ? もう一本言っとくかこの野郎! まず名乗りを上げろ!」


 あ、また先生がヴァンス公の足の指をへし折った。


「うぎゃあああああああ! やめてくれ! 言う、言うから! このレイモンド・マルセール・ド・ヴァンスは嘘をつかないと約束する! 俺は確かに国に黙って奴隷商をやった! A倉庫からもうじき、バブイールに向けて奴隷は出荷予定だ! 話したぞ! これ以上私に暴力を振るうのはやめて……」


 酷い……同じ人間なのに、領民たちを商品としか扱ってないこの貴族。


「何だとコラ? 出荷だとこの人でなしが! おいデリンジャー、やっぱ殺していいだろ? ちなみに今の音声はもう、冥界魔法の封印(ダムト)でツボに録音済みだ」


「だめだ、殺しはルール違反だ。お前、昔の仲間だったネルソンの奴にそっくりだよ。しょうがねえ、そのスカンバッグ野郎、殺さなきゃ何やってもいい!」


 あ、先生が凄い悪そうに笑った。


 そう、私の先生は悪を憎む勇者だけど、その所業はまさに悪漢(ピカロ)そのもの。


「俺もよ、この世界じゃねえ別の世界に娘が何人かいるんだわ。目の中に入れても痛くもねえような、可愛い孫娘だっている。そんでな、子供を誘拐して売り飛ばすクズ野郎を見るとよ、つい殺したくなるのよ……わかるか? テレレレッテレ~極道のドス―」


 あ、先生がドスを持ち出した。


 ていうか、なんでドラえ●んの声真似? 孫娘とかもいるのこの人!? 


 つうか先生、ド●えもんってより、ヤクざもんだよね?


 やばい、絶対ヤバイことする気だ。


「指全部出せおらぁ! 子供達に愛される猫型ロボみてえな手にしてやんからよお!」


 ちょ!?


 先生、この貴族の手をドラ●もんみたいにする気だ。


「ひぇぇぇぇぇぇ」


「まずは小指(エンコ)からサクッと行っとくか! なあ!?」


 先生がヴァンス公の指を切り落とそうとした時だった。


「ローズ様、前方に大型馬車が複数! 指揮官が剣! 複数の騎士達が魔力ライフルを構えている状況! あの紋章は、青に金の炎と星、そしてリボン付き、フランソワ王立国家憲兵騎士団です!」


 馬車を運転する騎士団長のオーウェン卿、強盗団ではクルスと呼ぶことに決めた、私の近衛が国家憲兵騎士団襲来を知らせる。


 多分、城の人が水晶玉で通報したんだ。

 そりゃあそうだよ、私達貴族を誘拐して、押し込み強盗したんだから。


「早速来やがったぞ! この国のおまわり共が検問張ってやがった! デリンジャー、迎え撃つぞ! ローズ、援護しろ!」


「殺すなよシミーズ、魔力弾を砂鉄か高圧放水に変えるんだ!」


 異世界に転生して、平和に楽に生活したいのに私……馬車に乗って異世界の警察みたいな騎士団と銃撃戦になってる……何なんだろうこれ……。


 そして、デリンジャーの通り名を持つアンリの銃の腕前は、やはりすごい。


 マシンガンの一斉掃射で、憲兵騎士団を蹴散らす。


「ハッハー! 検問突破したぜ! ヤクザなめんなおまわり共が!」


 無茶苦茶だ……。


 全然楽じゃないんですけど、私の転生後の人生!


 そして、私達は港で売り飛ばされそうになってた、幼女たちを救いだした。

 続々と港町に、漁師たちが私たちの前に集まってくる。


「誘拐された娘たちを保護してくれ! 俺達はローズ・デリンジャーギャング団だ! この町の領主は外国に、子供達を売り払って富をため込んだクズだ! そして俺は……民衆達の味方だ!」


 アンリが帽子を取って、王家の証である胸のペンダントを見せると、漁師たちが騒めきだし、猿ぐつわをされたヴァンス公が目を剥いて、アンリを見る。


「王子様だ! 死んだとされてた王子様が蘇った!」

「俺も見たことある! この前シシリー島に行くってお姿を!」

「へへえ、王子様! 娘っ子達をうちらで保護しやす!」


 そして、アンリは強奪した金貨を港にばらまいた。


「この金は、本来お前達市民が手にすべき財産だ! お前達の金を受け取れ!」


 マルセールの漁師たちが歓声を上げる!


「てめえはケジメだ! 命はとらねえが、ケジメ取るぞこの野郎!」


 あ、ヴァンス公が先生に灯台へ連れてかれて……ドラ●もんの刑に処す気だろう。


 そして、生きながら鎖で灯台に吊るされたヴァンス公と、奴隷商を国家に無断でやっていた証拠の音声入りツボに、ローズ・デリンジャーギャング団参上という置手紙が灯台の入り口に置かれる。


 こうして私たちは、追跡してきた国家憲兵騎士団を振り切りながら、マルセールの街で強奪した金品を、馬車からばらまき回り、大国フランソワを舞台に新たな冒険をスタートさせる。


 きっと楽とは程遠い、厳しい旅を予感させて。

次回第一章ラストです

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