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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
最終章 召喚術師マリーの英雄伝
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第286話 ラストミッション 前編

「ありがとう、無事でよかったわジロー。こっちなら大丈夫、全て終わらせてみせる。イワネツさんによろしく」


 あっちでも世界最強の男カムイと決戦か。


 イワネツさんが作ってくれたチャンス、絶対ものにしなきゃ。


 ごきげんよう、この度ヴィクトリー王国女王となりましたマリー・ロンディウム・ローズ・ヴィクトリー、人呼んで勇者ヴァルキリーと申します。


 長ったらしい名前だし、ヴァルキリーも私の形態変化に過ぎないからマリーと呼んで欲しい。


 おそらく私にとって最後の戦場。


 勇者としてのラストミッションになるだろう、ルーシーランド連邦領カルガー地方へ向けて、シシリー空軍将校ティアナが操縦する大型輸送機で最後の戦いに赴く。


 創造神から直々に下された指令は、大邪神エムの再討伐、戦神バルドルの討伐、そして闇の存在クレアーレの思惑を阻止すること。


 レイラの魂を人質にしたバルドルは、この地でアレックスの肉体を手に入れて、絶対無敵の超存在として復活を果たそうとしてる。


 それを阻止するために、エムと絵里もおそらくは現地入りしているはず。


 そして、バルドルと敵対中の闇の存在、先生の肉体を乗っ取ったクレアーレも控えているはずだから激戦は免れないだろう。


 再会したスー曰く、どこかの宇宙には新たな魔界が何個も生まれてて、おそらく闇のクレアーレの手下とかが支配者として君臨している。


 このことから、クレアーレの支配下に置かれたモンスターや魔族達が襲いかかってくることも考えられるし、私が先生を乗っ取ったあの闇の小物に勝てるかというと、正直自信がない。


 これに対抗するには、闇のクレアーレの力を解き明かすことなんだけど、ティアマトと交渉中のロキからの連絡はまだない。


 なんとか戦いに間に合って欲しいんだけど、クロヌスもロキもマイペースだし、最悪彼らの助力とかがない場合も想定しないと。


 それと、私達の侵攻ルートにあるルーシーの偵察衛星と防空レーダーは、私が電子魔法でハッキングをかけておいた。


 じゃないと、ルーシー連邦を制圧する前に輸送機ごと撃ち落とされかねないしね。


「ヴァルキリー様、いえ女王陛下! まもなく当機はルーシー連邦カルガー地方に到着! 繰り返します、当機はまもなくカルガー地方に到着します!」


 大型輸送機の格納庫から、操縦者のティアナのアナウンスが流れる。


 普段私が接してる感じじゃなくて、声の抑揚とかも消して軍人に徹してるわね。

 

 輸送機に同乗するアレックスもジョンも、緊張しているのか表情が強張っている。


 ここはリーダーとして、みんなを勇気づけないと。


「みんな、ここが最後の決戦の地よ。大丈夫、私もフレッドも各国の精鋭部隊もいるから、この戦いに絶対勝利できるわ」


「ええ、ヴァルキリーさん。救いましょう、世界を、そして仲間のレイラを」


「おう、とことん付き合うぜダチ公。世界をよくわかんねえ奴らに好きにさせてたまるかってんだ」


 意識不明状態になったレイラは、チーノ共和国からジッポンの八州地方博田まで移送され、集中治療室で治療を受けている。


 ジッポンといえばちょうどお昼前かな?


 今頃、世界ヘヴィ級ボクシングのタイトルマッチをしてるはず。


 このビッグマッチに全世界が釘付けになってるはずだから、私たちが特別軍事作戦を行う絶好の好機というわけね。


 今のうちに、ヴィクトリー軍の偵察衛星にリンクさせたタブレット端末で、カルガー地方の周辺地理に目を通しておかなきゃ。


 やはり事前情報通り、平野部に高速道路や鉄道が通り、運河も張り巡らされた交通の要所って感じね。


 カルガーから南西150キロの区域は、キエーブ共和国とルーシー連邦の最前線戦闘区域だから、やはりここは戦争の最重要拠点なのは間違いない。

 

 このカルガーは地球世界でいうところの、ロシア連邦、ウクライナ共和国、ベラルーシ共和国国境に近い地域。


 イワネツさんはロシア出身だから、その地について、地球時代のソ連とかロシアの話を私にしてくれた。


「カルガー、地球のロシアではカルーガとも呼ばれた場所は、大公国時代から交通の要所だ。中世では要塞都市、近年では工業都市として栄えてきた。そして中世から第二次世界大戦にかけて戦乱の犠牲になってきた地でもあるんだ」


 イワネツさんの話によると、地球世界のカルーガと呼ばれた地も、中世の昔からモスクワ防衛の要所で、多くの戦乱に巻き込まれた場所だったという。


「そう、地球のロシアではカルーガと呼ばれたのね。勇者イワネツ」


「ああ、イワン雷帝時代以前から、この地はキエフ・ウクライナからモスクワまでに至る、最重要的な戦略拠点ってやつでよ。核搭載可能な超音速爆撃機も置かれたキーロフの基地もあった。それと有名なのはコゼリスクとオブニンスクだな」


「コゼリスク? オブニンスクって?」


「このニュートピアではなんと呼ぶかは知らんが、コゼリスクという町は、歴史的な文化財も多いカルーガの観光地ってやつだ。だがソ連時代、ここは裏の顔があってな。町のすぐ地下にはソ連戦略ロケット軍の親衛隊用に地下サイロが作られてたんだ」


 イワネツさんが言うには、ソ連カルーガ地方のコゼリスク地下には、戦略核ミサイルを扱う部隊が配備されてて、観光地を装いながら町の住人の殆どが、軍関係者だったらしい。


「この世界は、アスティカ大陸を除いて地球のユーラシア大陸の地理と酷似するから、やはりここに戦略核ミサイルの地下基地があるのは間違いないようね」


「おそらくな。そして核燃料生成や核研究施設や世界初の原発なんかもある科学都市、オブニンスクに相当する核開発拠点も抑えておく必要もある。だからまずキーロフの軍事基地をぶっ叩き、続いて原子力施設のオブニンスクを制圧。そして、目的地のコゼリスク地下のどこかにある地下核ミサイル基地をぶっ叩く。ルーシー連邦を敗北に追い込むには、首都モスコーに近いこの3つの最重要地点をなんとかする必要があるぞ」


「ええ、そして戦略核ミサイルは多弾頭式のマーヴね。一度に10個以上の核爆弾を相手国に叩き込み、国家そのものを滅ぼせる威力を持つ、悪夢の超兵器。おそらくルーシー連邦は、これを大量に配備しているはず」


「ああ、こいつの発射は絶対に阻止しなきゃならん。そのために、俺が試合やってる隙に、お前達はカルガー三拠点と首都を制圧してほしい。大丈夫だ、きっとうまくいく。試合が終わり次第、俺も加勢に行くからよ」


 ヴィクトリーの監視衛星を使用して、地球ではキーロフと呼ばれた地、ヴァーロカを確認すると、イワネツさんの言った通り、巨大なレーダー施設に軍用滑走路がある空軍施設が見つかる。


 地球ではオブニンスクに相当する地域オプニシュクには団地が立ち並び、工場や研究機関っぽい建物や、広大な敷地に大きな煙突が目印のコンクリート建の発電所が確認できたが、おそらくここが核燃料を濃縮してる研究施設で原子力発電所ね。


 さらに偵察衛星の画像を拡大してコゼリスク、この世界ではチェルニゴブという場所を確認すると、民家の煙突に偽装した感じの、地下に続く排気口や、地面に造られたコンクリートと巨大な鉄のシャッターが複数確認できた。


 おそらくは地下数十メートルから数百メートルの深さに、核ミサイル発射サイロがあるはず。


 その地下にあるミサイル発射施設が、エリやバルドルが待ち受ける、運命の地……というやつね。


 この作戦には私達以外にも、大型輸送機に搭乗しているのは、魔力の指輪で魔法戦もできて、空挺降下可能な黄金薔薇騎士団最精鋭GVF。


 正式名称はレッドベレーの中でも最も練度に優れたゴールド・ヴィクトリー・フォースと言うらしく、アイリー出身者とシュビーツ出身者で構成されている。


 騎士団と言っても、装備してるのは最新ライフルや、アサルトスーツの上にボディアーマー着て、ガスマスク的な面頬を装着してる、現代的な特殊部隊って感じね。


 もっとも彼らも魔力の指輪を装備してるから、魔法戦も可能な特殊部隊といったところか。


 そして現地では、すでに元ジッポンの隠密部隊の忍者の軍勢が中東側より侵入して、現地で情報収集にあたっているはず。


 この輸送機以外にも、ロレーヌ皇国の空軍機と高高度大型輸送機が、私たちが乗る輸送機をガードするように飛んでいた。


 ロレーヌ側の輸送機には、私もフランソワ首都パリスで交戦したことがある、ナーロッパ随一の特殊戦術中隊GSG9、ジーク・スペシャル・グループ9中隊とかいう精鋭部隊も同行してる。


 同時並行で、フランソワとイリア、両共和国からのコマンドー部隊と、ヴィクトリー黄金薔薇騎士団主力部隊のレッドベレーも、ルーシー連邦首都モスコーを制圧するため向かっていた。


 これらナーロッパ統合軍の総指揮を執るのは、私とロレーヌ皇帝に即位したフレッドで、副司令官として首都モスコーに赴くはアレクセイ。


「お祖父様、御武運を」


 出発前、アレックスとアレクセイは抱擁を交わす。


「アレックスよ、今こそ我が一族の呪われし運命を、悪しき神の呪縛を断ち切る時が来た。お前は世界の希望だ。老い先短い私だが、お前の輝かしい未来を築くために、ワシは最後の戦いに」


「僕も、仲間のために、世界のために戦います。ヴァルキリーさんがいる限り、僕も悪には負けません」


 文字通り、彼ら家族がこの世界の救済の鍵となる。


 そしてもう一人、不屈の魂を持つ彼も。


「へーい、アレックス。ワールドシリーズ最終戦、9回裏で俺たちのターンだ。決定点をとりに行くぜ。お前は強い、お前の人生はお前だけのものだ。だから信じろ、仲間の意思も、お前の持つ可能性を」


「ええ、僕は僕を信じます。そして仲間も、あなたも、もう一人のお祖父様」


「よせよ。俺はお前に、この世界に生まれた息子や孫にも、家族らしいことをしてやれられなかった。アンナ……ルイーズにもな。だからお前は生き残れ。お前の肉体を奪おうとするクソ野郎が来たら、俺がお前を守る」


 アレックスの父方の遺伝は、デリンジャーの孫にあたるアレクサンドルから受け継がれたもの。


 遺伝子操作で生み出された彼の血縁上の祖父は、デリンジャーになる。


「よう、マリー。聞こえてんだろ? あの時、俺たちが命を賭けて守ろうとした明日を守ろうぜ。世界の明日を奪おうとする奴らから、明日を強奪してやろうや」


「ええ、明日のために」


 明日が楽しくなるために、今をがんばろう。


 今度こそ魂が傷ついた人たちの理想郷、ニュートピアが救われるために、みんなで。


 そしてこの作戦は、世界から秘匿された中で行われる、世界大戦を防ぐための戦いになる。


 ただ、この作戦には懸念事項とかがあって、それは……。


「そろそろ上空ね。行きましょう、私の騎士団達。私達で世界を救う。二度と世界大戦を起こさないための、最後の戦場よ」


「うむ、我のマサヨシを取り戻すためにお主らの奮闘を期待する!!」


……この作戦には女神ヤミーが同行してる。


 多分転移魔法でこっちに来たんだろうけど、女神ヘルからこの世界での活動許可とか、ちゃんともらったのかな。


「あ、えーとよろしくお願いします、女神ヤミー様。それと閻魔大王様からは、その時がくれば使いの者を寄越して、私たちに秘策を授けてくださるようですが、何か聞いてますか? あとこちらは具体的な作戦とか決めてますが、アドバイスとかあれば是非」


「知らんわい。さあ者共よ、決戦の地に向かうのじゃ」


 マジか、ノープランかよこの女神。


 彼女のあまりの無軌道振りに、思わず白目剥きそうになった。


 ま、まあ彼女も女神の中では戦闘能力がかなり高いから、大いに助かることもあるわね。


ーーお嬢ちゃん、いざという時は俺の力を使え。使い方は覚えてるよな?


 ええ、アースラ。


 あなたの力をお借りします。


ーーヴァルキリーよ、おそらくバルドルはアレックスという青年に取り憑こうとする時、実体化するはずです。そこが最大のチャンスです。


 ええ、ヘイムダル。


 それにもう一つ、この作戦を成功に導くための秘策も勇者ブロンドが……。


「まもなく目的地、後部ハッチ開きます。後部ハッチ開きます。ご武運を、女王陛下ヴァルキリー様。それとアレックス、王子殿下も無事に帰ってきてね」


 いよいよか。


 輸送機の後部ハッチが開き、突風が吹き荒ぶ中、私たちは上空から地上を見下ろす。


 暗い……現地時刻は夜明け前だから、闇の中に飛び込む感じだわ。


 感覚強化の魔法で下を見渡すと、降下しようとする地点からおよそ南に数キロ行ったところに、巨大なレーダー施設や、滑走路とか整備された輸送機や爆撃機が置いてある。ここが第一目標地点、ヴァーロカ軍事基地ね。


「降下するわよ。騎士団は私に続いて! フレッド、ロレーヌ軍特殊部隊の準備は?」


「準備オーケーだ。先にマリー達が降下を! あとから僕率いるGSG9達もパラシュート降下する!」


「わかったわ。地上で合流しましょう。行くわよみんな!!」


 風の魔力を発動させて、私が最初に降下した。


「ちょ!? 我を置いてゆくなマサヨシの弟子め!」


「行くぜ、ダチ公」


「ああ、ジョン」


 ヴィクトリー黄金薔薇騎士団の精鋭部隊も、私に続いて降下してゆく。


 着地地点は、基地近郊の広大な麦畑。


 部隊を事故なく降下させるには、絶好の場所ね。


 地上に降り立ったら、黒装束の忍者達が麦畑をかき分けて私たちに駆け寄ってくる。


「ヴァルキリー様、栄えあるヴィクトリー黄金薔薇騎士団に加入した服部以下100名、御庭番衆でござる。周辺の敵勢力斥候部隊は、我らがおおかた無力化しました」


「ありがとう、忍者達。これより上空から降下してくる、ロレーヌ軍精鋭部隊と合流の後、ヴァーロカ軍事施設に突入します」


「はっ!!」


 しばらくすると、上空からフレッド達も降下してきた。


「マリー、あまり時間をかけてはいられない。この軍事基地は僕らが制圧する。君はオプニシュク研究都市を」


「ええ、原子力発電所を私たちで占拠して、核物質を奪取しに行くわ。忍者服部、あなたはフレッドの支援を。両拠点制圧後は、例の最終決戦場チェルニゴブへ」


 魔法を使える私と騎士団たちは、軍事基地を迂回してルーシー連邦首都モスコーから、南西100キロの距離にある、キエーヴ国境に近い研究都市オプニシュクに向かう。


 街の団地の住人は、起きてるか。


 電気が付いてて、歓声もしてるけどおそらくはイワネツさんとカムイのタイトルマッチを視聴中って感じだわ。


 団地から2キロ行った郊外に、巨大な原子力発電所が建ってて、おそらく首都一帯の電力をここで賄っているっぽいわね。


 しかしあれね、前世で福島原発事故とか見たけど、原発施設ってやっぱりめちゃくちゃ広い。


 東京ドーム何個分? 


 100個分近いかしら?


 おそらくこの広大な敷地内は、重武装の軍や警察がパトロールしてて、フェンスや敷地内は侵入者用にセンサーも仕掛けられまくってて、内部も24時間体制で警備兵が警戒してるはず。


「GSV隊長、サリヴァン伯」


「は! 女王陛下!!」


 部隊を率いる元傭兵の凄腕騎士を呼ぶ。


「キエーヴ王アレクセイ陛下が、連合軍を率いて首都モスコーを奪還するにあたり、この原子力発電所と研究所を我々が占拠します。それと核燃料の確保も。敵勢力総数は不明ですが、なるべく早く済ませたい。ですので30分以内でここら一帯の制圧、可能かしら?」


「可能です。我らは世界最強精鋭の騎士団です」


 彼らも世界最強の騎士団とか言っちゃうくらい、自信たっぷりだけど、ここは通常の拠点制圧とは異なる。


 施設や原子炉が万一破壊でもされたら、この作戦に参加した私たちだけでなく、この地域の人々も爆発と放射線汚染で全滅しちゃうから、慎重にいかないと。


「隊長も聞いてる通り、再度留意事項が何点か。警備兵は排除しても構いませんが、作業員と研究者は無傷でお願いします。原発施設を維持させないと、原子炉が暴走するのでこれは避けたい。それと原発施設への直接攻撃、特に原子炉への攻撃はカルガー地域丸ごと吹き飛びかねませんので、これも禁じます。また、奪取する核物質は慎重な取り扱いを。奪取する際は、鉛で厳重に封印し、施設のトラクターを使用して降下地点まで持ち出します。可能かしら?」


「可能です。問題ありません」


 頼もしいわね、じゃあ早速……。


「おお、広いのう。さて、さっそく我が冥界魔法で手っ取り早く……」


 ちょ!? 人の話聞いてねえしこの女神!!


「あの、女神様。ここは原子力発電所なので魔法攻撃とかしちゃうと、爆発とか放射能汚染でやばいことに……」


「なんじゃとお!? なぜそれを早く教えんのじゃ!」


 いや、さっき私の騎士隊長に説明してたよね!


 なんで人の話とか聞かないのよ、この女神。


 あーもう、めんどくさい!


 先生じゃないと、この女神をうまく扱えない。


「まあいいわい、それとさっきから外道の匂いがプンプンするのう。知り合いかの? お主の」


「え?」


 すると私達を見下すように、黒のローブを着た集団が姿をみせる。


「ふふふ、見つけましたわ」


「この声は……やはりあんたね。ヴィクトリア」


 私達を待ち受けていたかのように、魔女と化したヴィクトリアが、魔女の軍勢を引き連れて宙に浮かんで私達を見下ろしていた。


「あんたも待ち受けてたってわけね、馬鹿女」


「馬鹿? 馬鹿なのはあなた方です。ここに来ていただいたことで、わたくし達が倒しに行く手間が省けました」


 上等じゃない、ここで決着をつけてやるわ。


「もうあんた達を率いた魔女トレンドゥーラもいない。ここであんたの悪意を止めて見せる」


「グランドマスター、トレンドゥーラを倒したようですが……ああ、アレックス。あなたもわたくしに会いに来てくれたのですね」


「ヴィクトリア……」


 相変わらずこいつ、人の話を聞かないわね。


 アレックスに夢中みたいだけど、まあいいわ。


 原子力発電施設に被害が及ばないよう、馬鹿女を刺激せずに、一気にやっつけて……。


 ん?

 

 女神ヤミーが、ヴィクトリアを見て何やら意地悪そうな笑みを浮かべてるが……。


「ほう? この外道、どうやらそこの男が好きなようじゃのう? 外道のくせに恋する乙女とは、難儀な外道じゃわい。ハッハッハ」


「は?」


 は?


「おい、お主。あの外道お主のことを好きなようじゃが、どう思う?」


 アレックスに話を振るけど、ちょ、何を考えて。


「あ、え、いや無理です」


 ちょ、女神ヤミー何を考えて。


 アレックスも真面目に答えないで、はぐらかすとかしてくれないと、あの女ますます……。


「ぷっ、ブワッハッハハハ無理じゃと。失恋は悲しいのう、悔しいのう。今どんな気持ちじゃ外道?」


「あのー女神ヤミー様、場所が場所なんでこの女を刺激するのはそれ以上……」


「そういえばヴァルキリーにも散々撃退されたようじゃの? ぷーくすくす。何度も倒されに来て恥ずかしくないのかのう?」


 人の話全然聞かねえしこの女神!


 げっ、ヴィクトリア顔真っ赤にして涙目になっちゃってる。


「な、なんですかあなた? う、薄汚れたジッポン人のような衣服を身に纏って……」


「ヨゴレは貴様じゃろ阿呆め。臭そうだから寄るなクサレ外道めが」


「〜〜〜〜ッッ!!」


 うわぁヴィクトリア泣いちゃったよ。


 どS過ぎるこの女神。


「い、い、いいでしょう、あなたからまず血祭りに……」


「お? 雑魚が我に一丁前の口叩いてるのう? ざーこ、ざーこ、雑魚雑魚外道の馬鹿女!」


 だああああああああ、やめてって!


 この馬鹿女を刺激するのマジやめて!


 ぷっつんすると、何するかわからなくなるくらい、こいつ馬鹿だから。


「このおおおおおお、わたくしを誰だと思って……」


「貴様こそ我を誰だと思ってるのじゃ。我こそ冥界序列第二位にして、閻魔王の異名を持つ女神ヤミーじゃ。それに貴様、もはや自分が誰かすらわからなくなってるようじゃが、どうやら地獄の懲役を抜け出した……」


「神!? 神ですって!? きいいいいいいいい、わたくしからアレックスを奪おうとする愚かな神め! 死になさい!!」


 ヴィクトリアが、原子力施設もろとも吹き飛びかねないくらいの魔力を高めて、原子力発電所目掛けて魔法を放った。


 建屋が爆炎に包まれ、あたり一帯サイレンが鳴り響き、一気に発電所の警戒レベルがマックスになる。


「だああああ、もう! こうなったらここで決着をつける!! 行くわよ魔女ヴィクトリア!! 騎士団総員戦闘準備!!」


 騎士団達も魔法の力を高めて、魔女達に一斉にライフルを向けると、原子力発電所の警備兵達の装甲車も一斉にこちらにやってくる。


「終わりにするよ、ヴィクトリア。君の悪事もここまでだ」


「アレックス! この素晴らしいわたくしのものにおなりなさい!」


 女神ヤミーの挑発で戦闘が始まり、私たちと魔女達、そしてルーシー連邦兵士達の三つ巴の混戦状態となる。


「女王陛下をお守りしろ!!」


 騎士団達が私を取り囲むが、これじゃうまく戦えない!


「いえ、騎士団!! 私たちがこの場を食い止める! あなた方は原子力発電所と研究所の制圧……いや、職員達へ退避を呼びかけて!」


「は!! 総員、発電所ならびに研究所の警備兵を制圧せよ!! 非戦闘員を施設の外に!!」


 騎士団に指示を出したけど、無茶苦茶な状況だ。


 発電所もろとも私達を殺そうとしてくるヴィクトリアを止めながら、ルーシー連邦軍や魔女の軍団をなんとかしないと。


「外道共め! 我が地獄に送り返してやるわい」


 魔女達が魔法を放つ前に、女神ヤミーのでっかい棍棒で次々と吹っ飛ばされていく。


 さすが戦闘力は女神の中でも屈指の実力ね。


「わたくしの同志達を!!」


 ヴィクトリアが、以前私たちに放ったアイアンメイデンを無数に具現化させるが……。


「させるか馬鹿女!!」


 馬鹿女の頭に、ギャラルホルンを叩き込む。


 地面まで吹っ飛ばしたヴィクトリアに、アレックスとジョンがそれぞれ追撃を加えていく。


「このおおおおおお、アレックスを惑わす下級貴族の分際で!!」


「うるせえビッチ!」


「ヴィクトリア、僕らの戦いも今日で決着をつける!」


 ジョンがヴィクトリアの背後から回し蹴りを放ち、アレックスは魔剣グラムでヴィクトリアの喉を突いたが、ヴィクトリアの体が膨れ上がって魔獣化し始めた。


「どいて!!」


 私がギャラルホルンで、魔獣化したヴィクトリアをかちあげて、電子魔法でさらに追撃をくわえていく。


「ヴァルキリーめ!!」


 私とヴィクトリアで魔法の撃ち合いになるが、ヴィクトリアの背後の空間がグニャリと曲がる。


「隙ありじゃ!!」


 空間転移した女神ヤミーが、巨大な金棒をヴィクトリアの頭目掛けてフルスイングして、原子力発電所の壁まで吹っ飛ばした。


「神め!!」


 頭部から出血しながらヴィクトリアが上空を飛び、私たちの周りの原子を魔力で激しく振動させ、超高熱魔法を放とうとする。


「そんな魔法、もう見切ってるわよ!」

 

 光速移動した私は、ヴィクトリアのお腹に電子の穂先を具現化させたギャラルホルンを押し当てる。


一兆電撃(テラバースト)


 その瞬間、彼女の体に超高圧電流を一気に流した。


「ぎゃああああああああ!!」

「終わりよヴィクトリア!」


 ヴィクトリアに電流を加えながら眼下を見渡すと、騎士団が原発施設の警備兵たちを次々排除してるわね。


 ヴィクトリアによる原発への攻撃は予想外だったが、これで予定通り私達が制圧できる……?


 突如ヴィクトリアの周囲の空間が歪み、上空で稲妻が轟き、地面からも地響きがしてきたが……これは魔法攻撃?


 いや、ヴィクトリアにはもう、抵抗できる力は残ってない。


 何かやばい予感がした私は、光速移動でアレックス達の元に戻る。


 ヴィクトリアに大ダメージを与えたけど、上空から得体の知れない何かを感じるわ。


「ん? 月が二つ?」


 空を見上げると地球世界よりやや大きい満月の隣に、光り輝く月がもう一個現れたと思ったら、徐々にもう一個の月が大きくなって……。


 これは、巨大な人工物!?


 全長どれくらい!?


 空を覆い尽くして……凶悪な魔力反応がして……。


 巨大な人工物から、まるで黒いインクのような墨汁のようなのが吹き出して、夜明け前の空を漆黒に染めてゆくような禍々しい無数の何かが広がって……ちょ!?


「ちょ!? 何これ!」


「ヴァルキリーさん!!」


「なんじゃあこりゃ! なんかデカくてやべえのが空からやって来やがった!!」


「マサヨシの弟子よ、何が起こってるのじゃ! それにこの悪意の波動、もしや!?」


 星みたいな人工物が上空に現れたと思ったら、ドラゴンだとか空飛ぶ羽を持つキメラだとかの化け物や、魔族達の無数の軍団が空から一斉に降下してきた。


 しかも、こいつら統率が取れてる。


 おそらく隊長格の魔族を中心に、陣形を組み合わせて……これは魔法陣!?


 陣形そのもので魔法陣を描くことで、軍団の魔力を増して、こんな戦術的な陣形見たことない。


 私達やヴィクトリアも想定してない状況になって、大量の化け物達の出現で、原子力発電施設からも悲鳴がして、アレックス達も恐怖で動けなくなって、私も嫌な汗が全身から吹き出してきた。


「はあ、はあ、はあ、ヴァルキリーめ! これは……」


 いや、私が聞きたい。


 何が起きてる?


 まるで世界の終わりのような光景。


 化物が描く魔法陣と巨大人工物で空を覆い尽くされた。


 こいつらの総数は少なくとも数万いや、あの惑星型の人工物からは凶悪な魔力反応がそれどころじゃ……。


 わかってることは、私の想定を超えた何かが起きてる。


ーーお嬢ちゃん、あの魔獣共はかつて魔界にいた知恵ある魔獣。それに、魔獣を率いるは魔族の軍団だ。あの数、まともにかちあったら俺の力を持ってしても厄介だぞ。


ーーええアースラ。あれはまさしく魔界の軍勢。ここまでの規模の軍を率いてるとは、伝承にあるような大悪魔に間違いないですね。


 うっわ、どうしよう。


 確かに規模的に、300年前にエムが率いた魔人たちの軍団と同規模かそれ以上。


 随行させた騎士団はおろか、この世界の軍隊を総動員しても勝利は……難しい。


「ニンゲン共か」

「我らが暗黒魔界を害する痴れ者はどこか」

「いっそ我らが力で世界ごと滅ぼしてしまえば」

「待て、対応は宰相閣下が行うようだ」


ーーやはり、ここに来てるのは最低でも魔将か魔王クラスは確実。クソ生意気にも俺が昔建国した阿修羅大王国軍より質も規模も上だな。


 うわぁ……大魔王軍よりも強いってこと?


 やはり闇のクレアーレの軍団なのだろうか。


 すると超強そうな感じの、悪魔の軍勢を率いる見覚えのある女が私たちの前に姿を現した。


 黒のパンツスーツにくすんだ金髪、そして黒い肌の美形だけど、化物じみた魔力を持つ女、こいつは!?


「あなた……魔宰相ベゼル!?」


「久しぶりだね、極悪勇者の弟子ヴァルキリー。ふふふ、これより我らが陛下のお出ましだ」


「ヴァルキリーさん、これは?」


「アレックス、あれは魔宰相ベゼル、別名ベルゼバブ。先生が苦戦した魔王軍宰相。大悪魔の魔神よ」


 なんでこいつが。


「これで愚かな神々に復讐できる。我らが陛下の領域を脅かす者を滅ぼし、我らは陛下と共に神共を滅ぼして差し上げましょう」


 まさか彼女は、闇のあの小物に関係してる?


「あなたやはり闇のクレアーレと関係してるのね」


「ふっふっふ、喜びなさいニンゲン共。まもなく君たちを抑圧した神を我らが消し去る。その時こそ真のサタンの世界が、魔の世界が生まれるのです」


 もしかして先生が闇の小物に乗っ取られたのも、こいつが全て計画した?


「ヴァルキリー、これは……この化物達はあなたが呼んだのですか?」


 いやあんたも化物だから。


「君から、やはり我らが陛下を愚弄する波動も感じるな。触覚役ご苦労だったね、褒めてあげましょう」


「触覚役? わたくしを馬鹿にして!」


 魔獣化したヴィクトリアが、ベゼルに爪の攻撃を繰り出したが、小蝿化したベゼルにあっさりかわされる。


 そして小蝿状態から実体化したベゼルが、ヴィクトリアの至近距離でソードオフショットガンを向けた。


「せっかく褒めてあげたのに。まあいい、魔に堕ちたての新参兵にはしつけが必要だね」


 ベゼルの魔力を込めた砲撃で、ヴィクトリアが体中穴だらけにされて、一瞬で戦闘不能にされたが……やはりこの女、強い。


「この性悪魔族め! 今度こそ貴様を地獄に落としてやるわ!!」


「君だって元は魔族じゃないか。かつて魔界を三分した大閻魔王国の姫君よ。それに……」


 ベゼルは戦闘不能になったヴィクトリアに、邪悪な笑みを浮かべながら見下ろした。


「ふふ、彼女の魔の波動が、我々をこの地に引き入れたんだ」


「どういうこと?」


「あのイレギュラー、意図的に造られた大邪神。エムともミクトランとも呼ばれた存在。我らが陛下を脅かす大邪神の創造主の存在を見つけ出すために、陛下はトレンドゥーラと呼ばれたニンゲンの下僕に力を与えた。そして彼女はそのトレンドゥーラから、魔の力を授けられたことで、その魔の波動を感じた我々はこうしてこの場に来れたというわけだ。我らが陛下の御敵を見つけ出すために」


 なんてこと。


 つまりヴィクトリアの魔の波動をセンサー代わりにして、こいつらもバルドルの居場所を見つけ出したということか。


 完全にやられた。


 先生はかつてこう言ってた。


 ルシファー率いる魔王軍で一番厄介だったのがベゼル。


 蝿の王ベルゼバブと呼ばれた魔族一の頭脳を持つ、この女の知能だったと。


「さあ、平伏すのですニンゲン共よ! これより全ての魔を統べる我らが陛下が、天空魔城ダイモン・パラティウムからお出ましになる!」


 上空の魔城とやらからRPGのラスボスみたいなのが出てきそうな荘厳な曲が奏でられて、人影が降りてくる。


「ふはははははははははははははははは」


 いかにも小物っぽい感じの高笑いだけど、まさかこいつ!


 重傷を負ったヴィクトリアが振り返り、私たちも見上げるなか、先生……。


 いや先生を乗っ取った闇のクレアーレが、漆黒の鎧を身にまとい、黒いマントをなびかせながら出現する。


「控えよニンゲン共!! 闇の皇帝たる余の大出征、出陣である!!」


「だああああああああ、来ちゃったよ! 馬鹿が増えた! 馬鹿が馬鹿を呼んで事態がさらに悪化しちゃったよおおおおお」

主人公側でもラストバトルが始まりました

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