第249話 大榎戸決戦 中編
早速私たちはバスを降りて、それぞれの役割分担を果たすために行動に移す。
「俺があの巨大ガンダ●と将軍をぶっ潰す。メスガキ、お前の謹慎はどれくれえで解けそうだ?」
「ちょっと待つのだわ。え? クロヌスの情報によるともう創造神様の謹慎が解けたみたいなのだわさ。お前の力と、ヘルカイザーであのポンコツをやっつけるのだわさ」
仕事早ッ、さすが元最上級神。
だがイワネツさんは、舌打ちしながら首を傾げる。
「ああ、確かに俺の魔力も戻ったが、バサラの力が使えねえぞ? どうなってんだメスガキ!! 俺の100パーセントのパフォーマンスが発揮できねえ状態だ!!」
え?
イワネツさんの切り札、バサラ化ができない?
どういう状況?
「し、知らないのだわさ。元はと言えばお前の中に宿る魔帝バサラは、お前と融合を果たしているはずなのでは? わらわの謹慎が解かれた今、チビ人間の本来持つ力もフルパワーで使えるはずなのだわさ」
「あん?」
イワネツさんは、魂に宿ったはずのバサラに何かを念じているが、驚愕の表情を浮かべる。
「いねえ! 俺の中にあいつが!! 野郎、契約違反だぞ! どこに行きやがった!!」
ちょ、イワネツさんの魔帝がどっか行っちゃった?
ていうか魂と融合してるはずなのに、そんな簡単に気軽にどっか行けちゃうの!?
「どうしよう、私の召喚魔法で呼び出すことも可能かもしれないけど」
「いやいい、マリー。そのうち帰ってくるだろ。メスガキ、ジッポンの女神だろ? 野郎に天罰だ。そして俺があの子悪党を滅ぼす」
「わかったのだわ! いでよヘルカイザー!!」
女神ヘルが右手を掲げると上空に稲妻が轟き、巨大な黒い飛行翼を装備した、マジ●ガーっぽい巨大なヘルカイザーが異空間から出現する。
「勇者イワネツよ、お前の力も使ってあの将軍を地獄に送り返すのだわさ!!」
全長50メートルを超える巨人の出現に、幹線道路にいるヤンキー達が呆然と上を見上げて、ヘルが胸のコックピットに収納される。
「おう! バサラの力がなくても魔法が使えれば十分よ!! 行くぜひとでなしがあああああ」
ヘルカイザーとイワネツさんが一気に上空まで飛び上がり、巨大な戦闘機ブラックバードと戦う将軍のロボの頭を引っ叩く。
「なあ!? 今度はなんじゃあああああ!!」
「控えるのだわ下郎!! 我こそ女神ヘルなのだわさ!! 我が勇者イワネツの力とヘルカイザーの力で天罰をくれてやるのだわ!!」
ヘルカイザーの放つパンチで、将軍の自称頑打無こと巨大ロボが吹っ飛ばされる。
「よう、会いたかったぜショーグン」
王女が操るブラックバードが、魔導レーザーをイワネツさんに放つが、彼は裏拳一発でレーザー攻撃を弾き飛ばした。
「あなたはいつぞやの……会長に逆らう自称勇者でしたかしらね?」
「失せろズベ公、お前はマリーとアレックスが相手してやる」
「アレックス!? わたくしの素晴らしいアレックス!? どこ、どこにいるのですか!?」
あー、なんとなくこの王女がジッポンに来た理由も、なんとなくわかった感じ。
私はアレックスの方を見ると、彼も苦笑いしてるし。
「なんですの? あの、はしたない声の方?」
「ああ、あのクサレビッチはアレックスのことを狙ってるらしいよ?」
「まあ!? ティアナさん、一時休戦ですわー。あんなはしたない女に、騎士アレックスを近づけませんことよー」
うわぁ、なんか知らないけど、敵の敵は味方みたいな感じでティアナとレイラって子の、女同士の結束が生まれてる。
「わたくしの素晴らしいアレックス、おそらくこのジッポンのどこかにいるはず。見つけ出してご覧に入れましょう!!」
王女ヴィクトリアが操るブラックバードは、高空を垂直飛行して空の彼方まで飛び上がり、空の戦場には将軍のロボとイワネツさんとヘルカイザーのみとなる。
「……勇者、威悪涅津」
「お前、井伊の件はどうしたんだよ。三日以内にこっち来いって言った俺の命令を無視しやがって。おまけに俺のマリーを拐い、密かに俺をぶっ殺そうと企みやがったろ?」
イワネツさんはもはや、幕府を存続させる気は一切なくて、自分やヘルの力を振るう大義名分を作る建前に持って行ってる。
「お前、何黙ってんだよ。そういやお前さ、天帝暗殺したり子供共拐って犯して殺すペド野郎だったか? お前、俺が定めた憲法も規律も無視しやがって」
「だからなんじゃ、それの何が悪い。ワシこそが最高権力者の征夷大将軍、徳河家繁である! ワシこそが法、ワシこそがジッポンじゃ!!」
「黙れゴミ野郎!!」
イワネツさんの怒りの魔力が全開で噴出し、怒りの闘気で空間が歪むほどの威圧感を、あのサイテー将軍に一気に向ける。
「お前は……俺の作った規律を壊した。救いを求めた人々の願いを……俺の兄弟達の残した想いを踏み躙った!!」
「ぐっ、馬鹿めが綺麗事を!! 世界最高権力者ワシの行いこそが世界の正義じゃ!!」
「それがお前の信念か……外道。クソくらえめゴミ野郎!! 俺をなめるなよクソ野郎。この世界は……ジッポンは俺が守る!! 人の思いを、生き方を、誇りを信じた奴らのために!!」
幹線道路に集まったヤンキー達が歓喜の雄叫びを上げる。
「勇者様と女神様の戦いやあああああ」
「ヒャッハー! 花のお榎戸まで暴走した甲斐があったけぇ!」
「伝説の戦いやあああああ!」
スーパーロボット大戦的な戦いが始まったわね。
じゃあ、今度は私たちの番。
「マリー、上空のヴィクトリー所属の巨大ボスみたいな戦闘機は僕ら黄金薔薇騎士団で討伐する。君は司令塔だから、君を補佐するワルキューレを召喚するよ! いでよレギンレイブ!」
上空に魔法陣が現れて、天使召喚の文字と共にかつて私も戦った迷彩服着て大きな白い羽を背中に生やしたワルキューレのレギンレイヴが召喚され、フレッドに抱きついてほっぺたにキスする。
「救世主フレッドの召喚により人間界に降臨しましたであります!!」
ていうかレギンレイヴが、なんか知らないけどフレッドに抱きついたんですけど、なんなのこのワルキューレ。
「えっと何? なんでフレッドに親しげに抱きつてキスとかしちゃってるのよ」
「ち、違うんだマリー! これは」
「フレッドは最強クラスの救世主の力を得るため、小官達が手取り足取り、相応しいスキルを教えたのであります。我らとフレッドの絆は永遠であります!」
はあ? 手取り足取りですって?
絆は永遠のもの?
「何それ? どういう事? 怒らないからフレッド、わけを教えてちょうだい」
「あ、いや、その。その時の状況はうまく思い出せなくて」
すると、ジョンとアレックスが私をやや怯えた表情で見てくる。
「ヴァルキリーさん、俺らそんな事してる状況じゃ」
「はい、あの王女と将軍を止めなきゃ」
私はフレッドに事情を問いただそうと思ったけど、確かに今はそんな状況じゃないわね。
「まあいいか、その辺の細かい事情は後で聞くとして、私の装備品はどこかしら?」
「あ、はい。自分らが」
よかった、私の大事な装備品、召喚の指輪と大口径魔力銃ルガーをジョンが渡してくれた。
「さて、この戦場に相応しい超強力な召喚獣を呼び出してやるわ」
でも何を呼び出そうかな?
このアップグレードされた超召喚の指輪、一体ずつしか呼べないし、召喚時間も召喚獣によってまちまちだし。
召喚獣オーディン?
いや、即死攻撃の斬鉄剣やグングニルは超強力だけど、一発放ったら終わりだし、召喚時間が短すぎるし、できればあの馬鹿王女と翡翠は、エリにつながる情報を得るために生捕りにしたいから不向きね。
召喚獣カオスは?
いや、アレこそ無理ね。
超強力な属性魔法と、極限魔法ビックバーンは惑星上の使用なんか絶対無理。
召喚獣レヴァイヤタン……いや今回は使えない。
私たちの担当は海上戦じゃないし、どっちかというと今回のメインは空中戦……となると、アレしかないわね。
「いでよバハムートⅢ式!! 先生曰く通称ズメイ!」
上空から、巨大な機械仕掛けの魚のような顔したドラゴンが降下し、体が変形して全長50メートルはありそうな大型戦闘機に変化し、機体を逆噴射しながら幹線道路のパーキングに垂直降下してくる。
機体から自動的にタラップが具現化されたから、これで中に乗り込めるはず。
「私達はヴィクトリー王国の巨大戦闘機と戦うわ。レギンレイヴだっけ? あなたはバハムートの操縦を! みんな、この機体に乗り込んで」
私はフレッドやアレックス達騎士団や、ティアナとレイラって子が乗り込むのを見届けると魔法で宙に浮き、機体の機首に降り立つ。
「マリー、君は戦場全体の指揮を! 上空の巨大戦闘機にダメージを与えたら、一気にあの巨大な機体に突入する!」
「わかったわフレッド! その前に……絶対防御!」
榎戸の街を守るため、スキルを発動する。
私が戦闘不能にならなければ、このスキルにより上空で私達がいくら戦っても、空爆とかされても街を守ることが可能。
それにあの馬鹿王女のことだから、街に無差別爆撃とかやらかしそうだから、その対策もね。
「レギンレイヴ! 上空500メートルまで飛んで。操縦の補佐をティアナが!!」
「了解であります」
「了解ですヴァルキリー様!」
音速を超えた速度でバハムートが空を飛ぶと、戦場の状況が手に取るようにわかる。
港湾地帯では、幕末の志士達が指揮するヤンキー達が、ヴィクトリーの特殊海兵コマンドーと銃撃戦を繰り広げてて、遠くの海からヴィクトリーの艦隊が迫ってる状況。
そしてイワネツさん達の戦いは……。
「オラァ、クソ野郎!! くらえや!!」
全長500メートルを超える巨大ガンダ●にイワネツさんが魔法攻撃を繰り出してて、女神ヘル操るヘルカイザーがパンチとかキックで格闘戦をしてるけど、ガンダ●が操るあの無人航空機が厄介みたいだ。
そして上空がピカッと光った瞬間、エネルギー兵器の光がヘルカイザーを包み、イワネツさんがダメージを受けた。
多分、幕府軍所有の衛星軌道兵器ね。
なんて威力、絶対防御使ってなければ街が焦土になるほどの超兵器だわ。
将軍専用ロボといい、衛星軌道兵器といい、神の力を持つヘルの巨神を圧倒するなんてジッポンの科学力がやばすぎる。
「ぬおッ! 野郎!」
その瞬間、無人機が体当たりやビーム攻撃でヘルカイザーを攻撃してきて、パンチとかキックでイワネツさんは無人機を迎撃する。
「チッ、このファンネルみてえな飛行機共固ぇ! しかもまるで意思を持ってるようだぜ!」
「なんて事……チビ人間! この飛行機に搭載されてるのは、あの罪人に殺された無数の胎児の脳が使われてるのだわ! あの罪人を守るようにプログラムされてる!」
「なんだと!?」
なんてやつだ。
あいつそんな非道まで。
「クソ、メスガキ! お前のロボ公の出力が落ちてる! このままじゃやべえ!」
「そ、そんな事言っても……わらわ達に立ち向かってくるあの無数の飛行機には……罪人じゃない無垢な魂が」
そうか、彼女は冥界の裁判官。
状況的に正当防衛のはずなんだけど、彼女はあの無数の戦闘機への攻撃に無意識で躊躇してるのか。
「ふはははは、我が頑打無は無類無敵! この技術を与えた翡翠と名乗る科学者には感謝せんとのう! ぐふふ、我が玉体は我が子らに守護された最強の機動兵器じゃ!!」
あいつッ!! クソ野郎だ!!
しかも将軍にこの技術を教えてたのは、財団の最高幹部のあの女……絶対許さない!!
するとイワネツさんの体が光り輝き、怒りに満ちた強烈な魔力と闘気を噴出する。
「言いたいことはそれだけか外道。ヘル! 切り札を使え!! 俺がお前に代わって操縦してやる!!」
「ぐぬぬぬ、仕方がないかしら。わらわの姉達の決戦兵器も呼び出すのだわ。いでよ、フローズンヴィトニルとヨルムガンド!!」
今度は青い狼を模した4足巨大ロボと、大きく開いた口にビーム砲とか装備した緑色した大蛇の巨大ロボが出現したけど、何する気なんだヘルとイワネツさんは。
「三女神合体、チェーーーーンジ! カイザーーーー!! なのだわさ」
「よおし無敵の勇者の力を見せてやらあ」
あ、女神ヘルの中央のコックピットが機体に収納されて、胸の胴体に巨大で真っ赤なΩの文字が映えるボディアーマーが具現化したと思ったら、二体の巨大ロボが分離変形して、ヘルカイザーのパーツっぽくなって合体していく。
「すごい、マリー! あれすごい! パワーレンジャーの合体ロボみたいだ!!」
「えっと、聖騎士様、パワーレンジャー?」
「よくわかんねえけど、空から現れた巨大ロボが合体してやがるぜ、アレックス!」
フレッドが興奮気味に騒ぎ立てる中、真っ青に輝く巨大な大剣をロボの左手が掴み、大口径ビームライフル的なエメラルドグリーンのライフルを、ロボの右手が掴む。
そして機体上部から、真っ赤に輝く髑髏のような頭部が出現したが、まるで……。
「オホホホホ、邪悪な罪人め。これがヘルカイザーの真の力!! 黒鉄のナグルファルの力と姉神達の力に加えて……チビ人間! お前も勇者合体なのだわさ!」
「おう! 俺の勇気の力をパイルダーオン!!」
イワネツさんがヘルの合体巨大ロボの頭部に降り立つと、頭部がパカっと開いてイワネツさんが収納された。
その瞬間、真っ赤に輝くヘルカイザーの髑髏のような頭部が鈍色のシルバーに代わり、イワネツさんのコックピットを守護する冠のようなガードが出現し、鋼鉄のマスクのような面頬、金色のツノのようなアンテナが出現したわ。
しかも髑髏の頭部が青い顔にコーティングされて、鼻と黄金に光り輝く目が具現化し、その頭部はまるで私でも知ってる、あのスーパーロボ……。
そして背中から黒から色が変わった巨大な真っ赤な翼が伸長して……全長100メートル以上のこれって……えーと。
「スーパーロボ、●ジンガーZだ!! 行くぜクサレ外道! 無敵の勇気の力を持つ俺の操縦テクを見せてやらあっ!」
「違う! 最強勇者、グレートヘルカイザーΩなのだわさ!!」
いや、どっちだよ!
ああ、勇者ロボ的っぽくてゲッターロ●的なグレー●マジンガーっぽい巨大変形ロボが爆誕しちゃったよ。
「な、なんじゃあこれは!?」
「あ゛ぁ? マジ●ガーZだ。冷戦後、海賊版ビデオで初めて目にした無敵のスーパーロボよ。ビデオテープが擦り切れるくれえ見た戦闘ロボの原点にして俺の憧れだ。覚悟しろ、外道。この姿になった俺たちに負けはねえ」
えっと、確かに似てるけどイワネツさん、女神の力を得た巨神をマジン●ーZとか言ってるが、前世でなんか思うことでもあったの? マジンガ●Zに。
「クク、ビデオで見たマジンガ●Zが出てくるゲームが欲しくてよお、日本に手下送り込んで、超合金プラモ含めて、ビデオゲームのスパロボシリーズは全部揃えたんだ!! 俺の●ジンガーZでお前をぶっ倒す!」
「あー、マジン●ー好きすぎてプラモデルやスパロボシリーズ全部集めたとか、すごいわね」
ていうかあの悪名高いロシアンマフィアが、イワネツさんの命令で、わざわざ日本に来てそんなことまでさせられてたのか。
「ちょ!? グレートヘルカイザーΩなのだわさ!! チビ人間、勝手に名前を変えるなだわさ!! そもそもマジン●ーZってなんなのだわさ!」
「あぁ? 知らんのか? マッドサイエンティストのドクターヘル率いる、あしゅら男爵とブロッケン伯爵のロボ軍団を、光子力の力を持つ最強ロボのマジンガ●Zがぶっ潰すのよ。最高のジャパニメーション的な最強ロボよ」
「なんでわらわが悪のマッドサイエンティストなのだわさ! イラつく設定なのだわさ!!」
そんな話なんだ、知らなかったわ。
しかもこのロボ、女神ヘルだけじゃなく、フェンリルやミドガルズオムの力に、イワネツさんのパワーまで加わって、先生でも勝てなさそうなくらいの力を発してる。
まるで300年前に戦った、ロキの巨神スルトをも超えて、あの時のエムも余裕でやっつけちゃうくらいの超魔力を放ってる。
多分アレは、正真正銘ヘルとイワネツさんの切り札……グレートヘルカイザーΩとかいうふざけた名前だけど。
「よおクソッタレ野郎、歌でも歌いたいクソッタレな気分だぜ。なあ? 外道!!」
巨大化したヘルカイザーが、エネルギーを蓄え始めて、イワネツさんが歌を口ずさむ。
「空〜に、そびえる〜黒鉄の城♪ 」
地味に歌上手い。
この人って、根がオタクっぽくてゲーマーで、アウトロー出身にしてはそういうの珍しいのよね。
ヤクザな先生はアニメとかゲームとかネットにも疎いし、マフィア出身で元勇者の天使マルコも、知識とか雑学とか凄い人だけど、ネトゲとかそういうの理解できない感じだったし。
けど、イワネツさんはアニメとかゲームにめっちゃハマってて私やフレッドも理解が追いつかないくらいアニメゲーマーオタクだった。
そして勇気の力と経験値と想像力は、勇者の戦闘能力に直結する。
「スーパ〜〜ロボット♪ マジ●ガーZ♪ 」
「グレートヘルカイザーΩなのだわさ!」
ヘルのツッコミを無視して、無敵の力を持ってそうな巨大ロボが将軍のロボに大剣を装備した左腕を向ける。
「クックック、コックピットは俺好みに変えさせてもらったぜ。アクセルペダルとブレーキペダルに、俺専用のジョイスティック! 攻撃ボタンは8つよ。行くぜぇ! 飛ばせ鉄剣! ←→強Pのロケットパンチだオラァ!!」
「フェンリル姉様の魔剣フェンリルブレードなのだわさ!」
ロボの左腕が光り輝き、巨大な大剣のブレードと一緒に将軍のロボ目掛けて発射されたが、本体を守るために、無数の戦闘機が編隊を組んで電子バリアを構築する。
だが……。
「な、なんじゃこの力は……人智と科学力を超越して……」
「ぶっ千切れろぉ! アイアンカッタァァァ!」
「フェンリルブレードだわさ!!」
イワネツさん曰く電磁バリアを切り裂き、無数の小型戦闘機が墜落して爆発四散し、将軍のガンダ●の巨大な両足が分断され、爆発四散する。
「ぐぬぬぬ、よくもワシの頑打無の足を」
「足なんて飾りだろ? ほら、かかってこい」
かろうじて、電磁力か反重力の力かはわからないが、両足を失った巨大ガンダ●っぽいロボが宙を浮き、グレートヘルカイザーの左腕がブーメランみたいに本体に戻ってきて再結合される。
「それに、なんじゃその意味不明のパワーは!? 電磁力、原子力? 意味がわかんわ」
「あ? 神の力を得た無敵の勇者のパワーだ。お前をバラバラに解体してやる」
「ええい、2基の戦略軍事衛星で木っ端微塵にしてくれる!! アメノヌマホコと雷切でのう!!」
多分、合体前のヘルカイザーにダメージを与えた衛星兵器を使う気か。
「くらえ戦略衛星雷切!」
ちょ!?
推定レベルがテラワット超えた、超高出力のマイクロ波がグレートヘルカイザーを照射したわ。
するとイワネツさんが操るグレートヘルカイザーが、強烈なエネルギーを胸部に溜め込んで、機体を上空に傾けたけど……アレは?
「クソ野郎、戦略衛星だと? じゃあ俺とヘルの戦略兵器の力を見せてやるぜ。←↙︎↓↘︎→アンドKボタン全部押し! 行くぜ、ブレストファイアー!!」
「違う! 地獄の火炎Ωなのだわさ!」
形容し難いエネルギーがグレートヘルカイザーに集まった瞬間、目も眩むような青白い光とΩの文字が一瞬輝いた瞬間、膨大なエネルギーが射出された。
そして間を置いて空が一瞬ピカッと光り輝く。
「な!? ああ……雷切が、消えた。なんじゃあ……あの光は。ええいこうなったらアメノヌマホコじゃ!」
「あん? あまのおめこ? なんだそりゃ?」
「聞いて驚くな勇者よ! 極限まで硬質化させた地中貫通爆弾を軌道衛星から放つ原子力兵器じゃ! クックック、エルゾ共から譲り受けたなんじゃったかのう? そうじゃ聖地タプコプとエルゾ共が呼んでおったが、良質なウランが採掘できるゆえ、このような原子力兵器も使えるようになったのじゃ!」
こいつッ!
エルゾ人を利用してウラン採掘なんかでこんな馬鹿げた兵器作ったのか!!
「それだけじゃありませんわー! ジッポンが生んだ膨大の核廃棄物も押し付けてきた! 私達はジッポンから無理難題押し付けられ、虐げられ……うぅ、悔しいですわー」
レイラって子が言うように酷すぎる。
こいつジッポンで生み出された原発とか核兵器の廃棄物処理場を作るために、今までエルゾ王国を利用してきた許せない悪。
だが勇者イワネツの前では先生同様、悪の意味をなさなくなるくらい、悪しき存在は徹底的に滅ぼされるだろう。
「ケッ。で、そのその兵器とやら早く撃って来いよ」
「こしゃくな! 消え失せい!!」
グレートヘルカイザーが、巨大なエメラルドグリーンのライフルを上空に向けた瞬間、音速をはるか超えた速度で落ちてくる大質量の何かを感じる。
「↓↙︎←プラス強K! ルストハリケーン!!」
「違う! 姉様の魔砲ヨルムガンドなのだわさ!」
強烈な竜巻と電磁波の嵐のようなビーム砲が放たれた瞬間、戦略衛星ごと質量兵器が跡形もなく吹き飛ばされた。
「ヒッ、そんな……ジッポンの最新兵器が……ば、化け物じゃあああああああ!」
グレートヘルカイザーが、将軍のロボに突っ込んでいき、大剣を振り下ろすと、将軍ロボもビームサーベル的な武器でガードして激しく火花が散る。
「マジンGO♪」
あ、今度はグレートヘルカイザーが前蹴りで将軍ロボを吹っ飛ばした。
「マジンGO♪」
グレートヘルカイザーが急加速して、ビームサーベル的な武器を持つ将軍ロボの右肩を大剣で切り裂く。
「マジ●ガーZ!!」
「グレートヘルカイザーΩなのだわさ!」
いけない、巨大ロボ同士の戦いにみとれてた。
「すごいですわー!! 無敵の力を持つ勇者のお爺様の力が女神によってパワーを増して……勇者伝説が現代に蘇りましたわ〜!」
「うん、あの兵器は伝承にも憲長公記にも記されてない。まさしく勇者イワネツが女神の加護を得た最強の状態だろう」
「すげー、手に汗握るぜロボ同士のバトルはよお! 無敵の勇者伝説を俺たちは見てるんだ」
めっちゃ盛り上がってるわね。
確かにロボバトルはかっこいいもんね。
「うん、確かにすごい。改造ジョイスティックであのスーパーロボットを操縦してる! マリー、あれやっぱり凄いよ!」
「そんなことよりフレッド、あの馬鹿王女のブラックバードを見つけないと。どこに行った?」
あの馬鹿王女が操るブラックバードはどこだ?
「勇者ヴァルキリー! 敵の通信を傍受したであります」
「わかった、みんなに聞こえるように流してくれる?」
「了解であります」
ブラックバードやヴィクトリー海兵特殊部隊の無線が、バハムートに流れ始める。
「うふふ、よくわからない第三勢力の機動兵器が出てきましたけど、この高空ならば安全です。さあ、わたくしの素晴らしいコマンドー達よ、ジッポンの劣った黄色い猿共を滅ぼすのです!」
「こちら統合作戦司令部! 王女殿下の勅命である! 戦況はどうなってるか!」
「こちらスペシャルコマンドー、劣勢! 我が海兵コマンドー大隊は劣勢! 援護を! サムライ共はやはり手強い!!」
なるほど、あの巨大ロボ同士の戦いに巻き込まれないように上に逃げたのね。
それにヴィクトリー海兵特殊部隊の侵攻を、西郷さん率いるサムライ達やヤンキー達が防いでいるみたいね。
「なるほど、わかりました。それではこの素晴らしいブラックバードで、ジッポンの榎戸港を灰燼に帰しましょう」
「させるか! レギンレイヴ!!」
「了解であります! この機体の武装で敵攻撃機にアタックするであります!」
バハムートに内蔵されていた魔導ミサイルが、次々と上空に垂直発射される。
「弾着……今! であります」
上空がピカピカッと光り輝き、バハムートのミサイルが全弾命中する。
「な!? 素晴らしいわたくしに歯向かう愚か者はどこに!?」
「レギンレイヴ、引き続きブラックバードに攻撃を! 私は遊撃で港の戦場まで支援に行くわ! フレッド、みんなの指揮をお願い!」
「わかった! 騎士団諸君、僕が指揮を執る!」
私は体を電子化させた高速移動で、港まで瞬間移動すると、激しい銃撃戦が行われてて、ヴィクトリーの上陸艇が集中砲火を受けて爆発炎上してる。
「チェストオオオオオオオオオ!」
うわぁ、褌一丁になった西郷さんが制圧射撃してる海兵達を片っ端から千切っては投げ、千切っては投げしてるわ。
史実でこの人、特殊部隊素手でやっつけられるほど、こんな強かったっけ?
「こちら海軍旗艦ヴァルキリー! そちらの支援に艦砲射撃を行う!! コマンドー諸君は遮蔽物に身を隠すのだ!!」
「旗艦ヴァルキリーの支援了解! 港の倉庫街を遮蔽物にしながら、我らコマンドーは一時離脱する! オーヴァー!!」
艦砲射撃ですって!?
しかも私の名前つけたのが旗艦名とか、めっちゃムカつくわね。
「やらせないわよ、ターゲットロック!」
電子魔法を利用したレーダー波で、ヴィクトリー海軍艦艇のおおよその位置を割り出す。
艦艇数は大小合わせて60隻ってとこかしらね。
内訳は、空母1、駆逐艦10、フリゲート級14、哨戒艦5、小型工作艇30、おそらく海底には潜水艦もいるんだろうけど、航行不能になってもらうわ。
「行くわよ! 私の電子の魔法で機関停止に追い込む! 七色極星」
七色のホーミングレーザーが、神杖ギャラルホルンから発射され、ヴィクトリー海軍艦艇の機関部に向けて連続で打ち込む。
「メーデー メーデー! レーザー攻撃だ!! 機関部に向けてピンポイント攻撃を受けてる!! 助けてくれ!! ジッポン軍の戦闘力は馬鹿げている!! 一時撤退許可を!!」
「統合作戦司令部より機動艦隊へ!! 撤退は許可できない!! 武装が無事なら港湾部へミサイル攻撃を敢行せよ!! 繰り返す、ミサイル攻撃を敢行せよ!!」
そうくるのはわかってたわ。
じゃあこれはどうかしら?
「磁場転換!」
ギャラルホルンから指向性の電磁マイクロ波を放って、発射したミサイルを次々と電子レンジの応用みたいに、上空で爆発四散させてやった。
「そんな!? ミサイルが電磁波で爆発した! レーダー照射や電磁機器も使用不可! これ以上の作戦行動は不可能!! 繰り返す、これ以上の作戦行動は不可能!!」
「統合作戦司令部へ、こちら潜水艦バンガード! トライデントの使用許可を!!」
「こちらブラックバードのヴィクトリアです。許可しますわ、わたくしの素晴らしい潜水艦隊。ジッポン港をサムライ共の墓場と化すのです!!」
トライデント?
おそらくは潜水艦が発射する大型ミサイルのことね。
私の電磁魔法で迎撃してやるわ。
「磁場転換!」
海中から飛び出してきた巨大ミサイルに電磁波を放つが、電磁防御がされてる!?
すると弾頭部が切り離され、ミサイルが空中で爆発した瞬間、数千にも及ぶ矢のような金属ロッドが港に向けてピンポイントに飛んでくる。
「やらせるか! 時間操作!」
時間を操作して、スローモーションに流れる空間を一気に飛び、金属ロッドを千本ノックのように、杖で次々と上空へ打ち返してやった。
「こちら統合作戦司令部! 戦況を! 戦況を送れ!」
「おお神よ……なんてことだ」
あ、私の姿がヴィクトリー海軍に捕捉された。
「どうした!? 旗艦ヴァルキリー! 戦況を司令部へ直ちに報告せよ!!」
「で、伝説の黄金鎧のヴァルキリー様が空に……神よ、ヴァルキリー様、我らヴィクトリーをお救いたまえ」
「何を言ってる! 旗艦ヴァルキリー艦長スペンサー中将! 貴官は戦場で寝ぼけているか!?」
んー、どうしよう。
とりあえず、笑って誤魔化そうっと。
観測員へニコリと微笑むかけた後、龍馬さん率いる海援隊の小型艦艇が、旗艦ヴァルキリーとやらまで一直線に突撃して乗船を試みようとしていた。
「真里ちゃんはまっことすごい力を持っちゅーなあ。さあ乗船や! わしらで敵海軍の頭を抑えるぞ!!」
「よっしゃあ!」
私もイージス艦のような旗艦に乗り込み、躊躇しながらライフルを向けてくる海兵達を、次々と杖でぶっ飛ばしていき、中央作戦司令室に乗り込んでシージャックしてやった。
「艦隊司令官は誰かしら?」
「はっ! 私が艦長にして艦隊司令官ルーカス・トマス・スペンサーです! 海軍階級は中将、爵位は伯爵家でございます!! ヴァ、ヴァルキリー様であらせられますか!?」
乗り込んだ私に、ちょび髭生やした将校服姿のお爺ちゃんが応対する。
「そうです、これ以上の戦闘は私が許可しません。これよりあなた方は、一時的にジッポン幕府海軍海援隊の指揮下に入りなさい」
「え!? ですがしかし……」
「しかしもカカシもない!」
先生のクンロクとやらのセリフを盗んで、思いっきり杖で司令用コンピュータを壊してやった。
「は、はい! モールス信号で一斉送信! ヴァルキリー様ガ降臨シ戦闘ノ一切ヲ禁ズル。ヨツテ我ガ艦隊ハ一切ノ戦闘行為ヲ中止セヨ! 繰リ返ス、司令官命令!! 一切ノ戦闘行為ヲ中止セヨ!! ヴァルキリー様ノ降臨デアル」
モールス信号から数分も経たず、海軍の軍艦旗と戦闘旗が降ろされ、潜水艦も浮上して完全に戦闘を停止した。
旗艦に乗船してきた龍馬さんに船を引き継ぐ。
「これで敵艦隊は無力化しました。あとはあなたで」
「ええぜよ、港の戦闘もじきに西郷君が終わらせるはず。真里ちゃんはあの巨大な飛行機と将軍の機動兵器を!」
「わかったわ!」
ん? フレッドから水晶玉通信!?
「マリー! 僕だ!! 高空にいる魔導兵器ブラックバードが何かする気だ! 気をつけて」
え?
フレッドが傍受したヴィクトリー無線会話を流し始めた。
「忌々しい神の戦士、わたくしと先生の素晴らしい計画を邪魔するヴァルキリー。しかし、時間が稼げました。この戦場は、素晴らしいわたくしが支配する!!」
遅くなりましたが、偉大なる歌手、水木一郎氏にご冥福をお祈りします。




