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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第一章 王女は楽な人生を送りたい
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第24話 犯罪王デリンジャー

 アンリ・シャルル・ド・フランソワという名前で転生し、ニュートピアで生を受けた男は、美しい姫から短刀を向けられている。


「もう一度問います、伝説の男デリンジャー。本当のあなたは、どんな人だったの?」


 マリーという名の姫は言った。

 自分を伝説の男デリンジャーであると。


 すると自分の護身用の銃を思い出した。


 遠い記憶で、姫が使っていたものとそっくりな、同名の小型けん銃を常に忍ばせるも、この銃で人を殺した事など、ただの一つも無かった。


 それが彼の男としての、ギャングとしての誇り。


 何不自由ない宮殿暮らしを送った、幼少時代ではなく、どこかの国の大きな街で、厳格な父と、厳しくも優しかった姉、そして最後まで反りが合わなかった継母と共に暮らしていて、目の前のマリーという名の姫に、姉や自分が最後に愛した女の面影を感じていた。


 その大きな街で生まれ育った自分は、盗める物はなんでも盗んだ。


 高額金品だろうが、高級車だろうが、女の心だろうが、文字通り盗める物はなんでも。


 そんな自分を父は、都会の空気が息子を狂わせたと言い、家族は荒野の中西部の農場に引っ越した。


 だが、こんなクソ田舎で、俺に何をしろと言うのだと父に反発し、街で肩で風切って歩く、生意気な地主の息子の車を盗み、乗り回していたのを警察に発見されて捕まり、父から勘当された。


 自分を鍛え直そうと、軍に志願した事もあったが、軍の気風に馴染めず軍務をサボった事で、不名誉除隊となる。


 そして故郷の街に舞い戻り、たまたま付き合っていた気の合う少女を妻にし、真面目に働こうとしたものの、結局生き方を変えられず、泥棒稼業に手を染め、呆れた妻は家から出て行った。


 そんな彼に転機が訪れたのは、二十歳を過ぎたある日。


 地元の気の合うチンピラと、一攫千金を夢見て強盗事件を起こすも、ヘマして捕まり、初めて刑務所に入れられる。


「罪を認めて、自分を見つめ直せ。お前は、人殺しをするような、男にだけはならないでくれ」


 面会に来た転生前の父が、涙ながらに口にした事を、転生した今になって思い出す。


 自分は刑務所の中で人気者になった。


 刑務作業は真面目で、同じ受刑者達へ人当たりも良く、何より彼の刑務所野球の腕前に、こいつ泥棒するよりも、プロ野球選手を目指せば良かったのにと、刑務官達ですら魅了される。


「ジョンおめえ、素人かよ。こう言う時はああすりゃあ、おまわり共をだし抜けんだ」


「商店なんか金ないっての、娑婆(しゃば)じゃ世界的な大不況らしいぜ? 列車強盗もいいが、狙うなら銀行だろう?」


 野球を通じて、刑務所で気の合う同郷の仲間、強盗罪を犯し、長期刑で服役中のピアポント、クラークと出会い、模範囚だった転生前ジョンと呼ばれた自分は、大幅に刑期を短縮され釈放された。


「よう、ジョン! また会おうぜ」

「またな」


「ああ、またな」


 先に仮釈放になった自分は、ある計画を企て、仮釈放後に実行に移す。


 刑務作業の洗濯(ランドリー)を、真面目にこなしてた自分は、ここの全てを知り尽くしていたので、ピアポントとクラークの洗濯場からの脱獄させた。


「おめえはすげえや、ジョン! おめえが俺達のリーダーだ!」


「ああ、強盗仲間に連絡だ。俺達の新しいリーダー、ジョンを他の奴らにも紹介しよう」


 ジェームズ、エドワード、ホーマー、ウォルター、エディ、チャールズらの凄腕の強盗犯罪者が、ジョン達に加わり、後に伝説とも言われる組織が結成された。


「ちょうど9人、野球チームができるぜ! 対戦相手はおまわり共だ!」


 世は世界大恐慌時代。


 人々が貧しい中、一部の金持ちや政府高官、そしてギャング達が富を貯め、庶民を苦しめる禁酒法という悪法が罷り通っていた合衆国という国が、転生前、自分の故郷である事をアンリは思い出す。


「みんな! 市民達が貧乏や不況で苦しんでるのに、合衆国政府の高官らや、一部の金持ちだけがいい目見てやがる! 俺達が狙うのは、政府と金持ちの銀行屋だ! そして俺達は他のギャングなんかと違って、おまわりだろうが誰だろうが、殺しは御法度! いいか!」


「おう!」


 父が自分に、人殺しをするような男にはなるなと言う言いつけを守り、護身用に持っていた、デリンジャーけん銃が通り名の、デリンジャーギャングと呼ばれるようになった。


 仕立てのいいスーツにネクタイを締め、ビシっと髪型をキメ、ハット帽を目深に被った、トンプソン機関銃を持つハンサムな男達は、土地勘のある中西部で銀行強盗を繰り返す。


「ゲームスタート、1分40秒きっかりだ! 早くしねえとおまわりが来るぜ。ピアポント、クラーク! みんなのポジションは? 強盗は野球と一緒、チームワークが命だ!」


「問題ねえジョン!」


「ウォルターとジェームズが金庫開けたぞ! ずらかるぜ!」


 すると、怯えた銀行員や客達が、どうか命は助けてほしいと、手持ちの金を出して命乞いを始める。


「いらねえ、しまいな。俺達が欲しいのは政府や銀行の金だ。俺たちと同じ市民の、あんたらの命も金も取らねえ」


 客達にウインクして、颯爽と高級車のトランク一杯にドル袋を詰めて乗り込むと、仲間と共に、警察とカーチェイスを繰り広げる。


 そしてシカゴと呼ばれる大都市で、盗んだ金を仲間とナイトクラブで、毎晩湯水のように使い、高級レストランで舌鼓を打ち、時にはレイトショーをしてる映画館で女とデートを楽しみ、一晩中遊び歩いた後、靴磨きの少年にチップとして、札束をくれてやる日々を過ごす。


「あの羽振りのいいハンサム野郎、どこの野郎だ?」


「知らねえのかよ、ジョン・デリンジャーだぜ? 我らがボスのカポネが捕まった今、一番勢いのあるギャングスターだ。あいつらのシノギ、銀行強盗一本なんだと。しかも格好つけて、客や行員から金も命も取らねえで、優雅にお辞儀までかますらしい。サツもあいつらに手をこまねいて、捕まえられねえでいて、面子丸潰れだってさ」


「マジかよ!? すげえ格好いい男だなあいつ。へへ、いい気味だぜ、サツめ」

 

 アルカポネの元部下だった童顔のギャングが、自分に強い憧れを抱くなるのと同時に、いつしかシカゴの他のギャング達は、12の国立銀行を襲って500万ドルもの大金を強奪した自分に、尊敬の念を込めて、”犯罪王”という異名で呼んだ。


 しかしそんな生活も長くは続かず、仲間達とアジトにいた所を捕まり、刑務所に入れられる。


 しかし自分は、政府や警察を嘲笑うかの如く脱獄を繰り返し、アメリカ中西部で銀行強盗を犯していくが、ある日自分は仲間を守る為、自分の誓いを破り、銃を向けた警官を射殺してしまった。


 仲間達は、自分の掟に背いてまで自分達を助けてくれた、リーダーの自分に感謝してくれたが、この事が深い爪痕を残す。


「あのおまわりにだって、人生があった筈なんだ。俺は、仲間を守る為とは言え、親父との約束を破っちまった」


 罪の意識で塞ぎこんだ自分を、仲間を殺されて怒りに燃える警官隊が取り囲み、彼は警官隊に詫びを入れながら出頭し、人生で何度めかの刑務所送りになる。


 そして2か月後、再び刑務所を脱走した。


 刑務作業中に拾った木片に、靴墨を塗って拳銃に偽装し、追跡してきた女性保安官を、口八丁で口説き落とし、彼女の所有する最新式捜査車両、V8フォードを手に入れ、まんまと州外への逃走に成功する。


「女おまわりのくせに、いい車乗りやがる! 州跨いで、イリノイで次の仕事をしてやるぜ!」


 自分に惹かれて相棒にと言ってきた、かつてシカゴのギャング大ボス、アルカポネの元部下だった殺し屋、ベイビーフェイスの二つ名を持つ、ネルソンらを新たな相棒にし、さらに銀行強盗を繰り返すが、ついに自分の人生も、終わりの時が近づいてくる。


 凶暴かつ狡猾で残虐な男ネルソンは、警官殺しを繰り返し、市民にまで銃を向け出したのだ。


「そうしなきゃならなかったのかよ?」


 自分は悲しげに、チームの掟を破った親友、ネルソンにデリンジャーを向ける。


「俺はそうするしかなかった。それが殺し屋である俺の生き方だ。俺はあんたみたいな生き方は出来ない……。だからあんたに憧れた! トミーや他のメンバーみんなもだ。俺が囮になってサツを引きつける。じゃあな、リーダー」


 ネルソンと袂を別ったころ、新聞各社や市民達は、もはや伝説と化した彼を義賊扱いし、面目が丸潰れになった、合衆国政府と連邦捜査局は功を焦り、デリンジャーギャングと無関係の市民を銃殺、政府や警察に非難の声が上がった。


 すでに民衆は自分の味方であり、陰鬱そうな連邦捜査局の長官は自分を名指しし、西武開拓時代のならず者のように、デッド・オア・アライブ、生死を問わず捕まえた者に、2万ドルの賞金と、協力者には5千ドルの賞金、そして自分を社会の敵ナンバー1であると発表した。


 数ヶ月後、袂を分かったネルソンは、連邦捜査局との銃撃戦の末、体をマシンガンで蜂の巣にされながらも、連邦保安官や州兵達を全滅させる壮絶な最後を遂げたという、一報を聞いた自分は涙を流す。


 仲間のエディやチャールズら多くの仲間も警官隊の銃弾を浴びて死に、自分が最も信頼する刑務所時代からの付き合いだった、親友ピアポンドも捕まり、裁判で死刑判決を受けていた。


 もはや政府と連邦捜査局は、自分を生かして捕まえる気は無いと悟る。


「友よ、おめえらが死んだ墓標には名前は刻まねえ。俺達は有名人だからな、たちまち墓が暴かれて馬鹿共に亡骸が売り払われ、墓石もかっぱらわれるだろうぜ」


 そして、自分はまだ死ねなかった。


 自分には、ルーマニア不法移民、金髪のアンナという愛する女がおり、墓標を刻まれてない、仲間の墓に、まだ自分はそっちに行けねえと詫びる。


 なぜ自分がこの女に入れ込んだのかは、わからない。


 この女が、どことなく自分を幼少期から面倒を見てくれた姉に面影が似てたからか?


「まあいい、人は来た道ばかりを気にするが、これからどこへ向かうかが大切だ」


 そう自分は呟いた気がする。


 ある日、アンナは真っ赤なドレスを着て、自分とのデートを申し込む。


 不法滞在がバレないよう、いつもは地味な恰好で会いに来るのに、今日はどうしたんだ?


 疑問に思うも、彼女とシカゴ市内でレイトショーを遅くまで上映している映画館で映画を見た。


 そして映画館から出る時に、男達に囲まれる。


 デリンジャー特捜班と呼ばれる、凄腕の連邦捜査員達だった。


 自分の仲間たちを逮捕するどころか、蜂の巣にして殺した仇達。


「ごめんなさい……」


 アンナが自分に呟き、涙を流した瞬間、自分は捜査員達から仲間と同様蜂の巣にされる。

 

 今わの際、自分は愛する女に売られた事を悟り、意識が暗転した。


 死因は、右目の下を貫通した銃創と心臓を撃ち抜かれた失血死。


「アンナ……なんで裏切ったんだ……俺はお前を愛してたのに!!」


 自分に短刀を向ける女に、アンリは叫ぶ。


 マリーは、このデリンジャーの異名を持つ男を憐れみながら、合気道の構えをとり徐々に間合いを詰めていった。


「あなたは、この島の人々を無残な方法で殺して、泣いてる子供を生み出した。シシリー大公だって無残な方法で殺して……なぜ! なぜあなたはそんな事を! そうしなければならなかったんですか!?」


 かつて、自分が転生前の親友、ネルソンに言った言葉と同様、アンナに似る少女が叫ぶ。


 どうして、そうしなければならなかったんだ。


 もっと他の方法があったはずなのに、人殺しをあんなにも憎んでいた筈なのに。


 そう本来の魂が自答するも、今の自分には答えが見いだせなかった。


「わからない! わからねえんだ! アンナ! 本当は人なんて、人なんて殺したくなかったんだあああああああ!」


 アンリは、長大のフランベルジュを半狂乱で振り回し、水の魔法を当たりかまわず放つ。


 マリーは、丹田と呼ばれるへその下に力を入れ、アンリにゆっくりと間合いを詰める。


 名もなき勇者から教えられ、賭博場で培った胆力。


 そして、転生前の市民達からは義賊デリンジャー、ギャング達からは犯罪王、政府からは社会の敵ナンバー1と呼ばれた、アンリの前に立つ。


「アンリ、あなたは……自分が愛して裏切られた女を叫んでめそめそ叫んで! 大きな体しているのに男として情けないとは思わないの!? あんたなんて、大っ嫌いだ! かかってこい女々しい甘ったれめ!」


「うあああああああああああああああああ!」


 泣き叫び、剣を振り下ろしてきたアンリを、マリーは左手で掌打を繰り出した。


 アンリが怯んだ刹那、マリーは剣を持ったアンリの右手に、左手で掴みながら、右手の短刀の峰を押し当てて関節を極め、左足を弧を描くように下げ、腰を左方向に捻転しつつ、自身の両手を落とし込んだ。


 合気道、小手返し。


 マリーが実戦で使うのは初めての、奥儀。


 アンリがうつ伏せになって転がり、左手でマリーはアンリの右関節を極めながら、横たわる彼の首に、ドスの刃を突きつけた。


「見事! 勝負ありだ!」


 勇者が叫び、ヴィトーが指笛を拭く。


「あなたは責任を取るべきだ! 自身が過ちを犯した人々に」


 自分がうつ伏せにされ、刃を突きつけられたアンリは床に突っ伏しながら涙を流す。


 マリーは勇者を見ると、心を読んだ勇者はアンリの前に立った。


「さあ、男のケジメの時間だぜ? てめえが非道をやった島民を、舎弟の金城……いやヴィトーが集めに行ってる。ジョン・ハーバード・デリンジャー、いやアンリだっけ? てめえの男を見せて見ろ」


「あなたは、謝罪すべきだ。この島の人々に、親を亡くしたあの子に対して」


 マリーは強敵との戦いに初めて勝利し、勇者と共に最後の後始末を付けるため、シシリー島の住民がここに集まってくるのを待った。

次回、シシリー編ラストです

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