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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
最終章 召喚術師マリーの英雄伝
240/311

第235話 ヴァルキリーは楽に休みたい

 ごきげんようマリー・ロンディウム・ローズ・ヴィクトリーです。


 私達は、なんとあの歴史上の人物の魂を持つ坂本龍馬を仲間にし、土左から本土秋津洲に渡る途中。


 先生が聞いたら羨ましがりそうだなあ、坂本龍馬とか新撰組とかの幕末ファンだから。


 そして本土に渡ったら、ジッポン首都中京で嶋津家を味方に引き入れた彼の到着を待つ予定だ。


 彼とは、かつて暴力に生きて暴力に死んだ地球最悪の暴力団にして、私たちと300年前に共に巨悪と立ち向かった人。


 前世の名はヴァーツェ・スラブ・イワンコフこと、勇者イワネツ。

 

 今回のニュートピア再救済、立案神はクロヌスとヘルだけど、順調に行ってた活動がここに来て事態が悪化している。


 まず女神ヘルの謹慎処分が痛い。


 発端は、女神ヘルが無断で他所の神域から、英雄クラスの魂を転生させちゃったんだけど、イワネツさんも地獄の裁判官のくせに、なんで法令違反してるんだって檄おこだった。


 そのせいで女神の祝福が受けられず、勇者イワネツ本来の魔力が封印されていて、正直言って彼のパフォーマンス低下は、かなりまずい状態。


 さらに北欧のヨハンからの情報では、先生が倒したオーディンの影響が残されていたらしく、謎の戦火の神バルドルが暗躍中。


 それに復活したあの邪悪、エムの存在。


 土左でもやつに襲われたけど、あの邪悪は先生達が世界救済のために残した財団を乗っ取っていてた。


 理事のほとんどは私達で倒すか懐柔したけど、まだ最高幹部で転生者の翡翠とか残ってるし、予断は許さない状況。


 そして私たちが今いるジッポンは、実権を握る将軍が好き放題してて、治安とか乱れまくっててマジでやばい状況だし、ヴィクトリーとも戦争状態になりそうだし、最悪の場合世界大戦にもなりかねない。


 クロヌスは私たちの活動の補完として救世主を用意したそうだが、全然私たちに協力する姿勢とか見せてくれてないし、なんていうか話にならない感じ。


 この辺りを、明治維新にも実際に携わった坂本さんに話を聞いてみる。


「まるで前に生きちょった世界のエゲレスの商社やな。ほんでエゲレスのような国がヴィクトリー。話を聞いてなんやけんど、この世界の西欧列強はこのジッポンをやっつけて植民地化を考えちょったと?」


「ええ、私の時代でも覇権国家だった旧チーノ大皇国圏も、財団とヴィクトリーの影響下にあるらしいです。財団にはアレックスも関係してて……」


 300年前に私が知り得た話、ジューの民族の悲劇と世界の終末と楽園の到来を説いたオーディン教の話、そしてあの邪悪エムに関して。


「つまり世界的な商人集団がおって、真里ちゃん達が300年前倒した大邪神の信仰がまだ続いちゅーってことかな?」


「ええ、残念ながら。そして多分エムはジッポンに復讐を企んでる。私達が加護を得た神々への復讐も」


「ようわからんけんど、前の世界で差別されたインディアンっちゅうエムと、過去に差別された商人集団が関わっちゅーか。今のジッポンも、上士と郷士、農民、町人、それ以外の鬼の一族やエルゾ問題があって、これがまっこと長年続く怨恨を生んじゅーんだ。げに恐ろしきは人間の虐げられて悪意に満ちた魂かもしれん」


 虐げられて悪意に満ちた魂か。


 私もいろんな世界で活動して悩まされたのが、民族対立の歴史と怨恨で、全て根絶するには長い時間が必要になる。


「それで真里ちゃんは、この現代ジッポンの経済に関してどこまで知っちゅー?」


「あ、えーとジッポンに豊富にある貴金属、金貨の両を基軸とした貨幣経済ですよね?」


「それだけやない。わしも自分が立ち上げた会社を大坂市場に上場させたけんど、会社の規模に応じて株券を発行しちゅーんだ。業績上がると、株券持ってる人らに配当金が回るがよ。八州の博田市場では外国企業の株なんかも取引されちゅー。幕府が発行する貨幣と、外国の株と外貨、ほいでワシら商売人が発行する株券、これでジッポン経済が成り立っちゅーんだ」


 あ、なるほど。


 つまりは株式市場なんかもあって、それに投資すると外貨や配当金も手に入るから、鎖国なんかしててもジッポンはこれだけの経済規模があるんだわ。


 じゃあ金貸しとか銀行って概念はあるのかしら?


「銀行とかはないんですか?」


「銀行?」


「えーと、大きな金庫があってお金貸したり預けたりできるような感じの会社です。お金貸したら利子取ったり、利回りの配当とかやるような」


 すると坂本さんは首を横に振る。


「表立ってはないな。ジッポンで生まれたら戸籍法に則って、番号が振られるがよ。この番号は個人口座にもなっちょって、幕府や大名の奉行所で管理され、身分と年間収益によって収めるべき税が勝手に幕府に取られる仕組みになっちゅー」


 ああ、そういう仕組みの経済か。


 つまりジッポン国民の財産は幕府に握られてて、貨幣を発行する幕府へ、自動的にお金が集まる仕組みになってるのね。


 それをもとに、幕府主導でリニア新幹線作ったりだとかのインフラ開発だとか科学技術開発だとかできて、今のジッポンがこんなに発展してるのか。


「やき一部のヤンキーとかの不良や、天子様に大名家は幕府を煙たがっちゅーのさ。自分の財産は自分で管理したいってね。実際倒幕資金出いちゅーのも、外国以外にも……なるほどわかったぜよ」


 え? 何がわかったのかしら?


 彼は私の先生も尊敬する偉人で英雄。


 きっとこの世界を再救済に導くヒントを私に与えてくれるかもしれない。


「真里ちゃんな、このジッポンには、賎民出身のオニの一族が裏で商人やっちゅーのが多い。幕府の戸籍制度から外されちゅー奴らで、長年反幕府の一環を担うてきたんや。大坂と榎戸にはそういった商人達が、モグリの高利貸しや秘密口座なんかも作って、脱税しちゅー」


「あ、なるほど。いわゆるこの国の裏社会の人間たちですね。そして彼らも幕府が潰れて欲しいと思ってると」


「遺恨は、げに恐ろしい話や。真里ちゃんが言うに伝説の勇者が蘇った話やけんど、もしかしたら勇者さんのやり残いた救済を女神さんは考えちゅーかもしれんね」


 どうだろう、そこまで女神ヘルは多分考えてなさそうだけど、因果という形で巡ってきたかもしれない。


 私も……あの時に失った仲間や家族、もう二度と失いたくないから今まで勇者として色んな世界を救って、教え子達を導いて。


 因果かもしれない、またこの世界に戻ってきてやり残したことを……エリちゃん……フレッド、デリンジャー、龍さん……。


「それに西欧ナーロッパ、財団の企みもわかったき。世界から閉鎖されちゅーこの国の科学技術や金を奪う気や。資金と技術を手に入れて神様に復讐する気やろう。けんどそれは難しいろうな。ジッポンには強国、北のエルゾが控えちゅーきよ」


「エルゾ王国。確か300年前の武将、植杉家が開いた北の王国ですね。そしてその実質的な支配者は、多分、勇者イワネツの実子カムイ」


「んーエルゾ王国の情報はわしにはわからんぜよ。わかっちゅーことは、ジッポン幕府はあの国の鉱物食物資源に依存し、エルゾは幕府の軍事力と経済に依存してることくらいや。けんど……本当にジッポンとエルゾの遺恨は無うなったんかのう?」


 思った通り、坂本さんはかなり頭がいい。


 おそらく彼の生まれ持った魂からくる天性の勘と、想像力がずば抜けてて、そこから相手との対話や交渉する洞察力が普通の人よりも遥かに秀でてるためだろう。


 今の天帝の情報によると、天帝家ともエルゾは交流があって、この世界で開くオリンピックにもカムイ筆頭に選手団が参加してるのを見ると、エルゾは閉鎖的な国じゃないとは思う。


 しかし、数多の世界でも経験したが民族問題はとても厄介で、ジッポン人とエルゾ人の遺恨か。


 彼の目から見た視点を参考としよう。


「遺恨と言いますと」


「エルゾはジッポン本土や三国にかつて繁栄した勢力やった。だが北のエルゾ島に追いやられて表向き幕府に恭順を示しちゅー。そして伝説ではエルゾ人の方が長寿や。多分まだ当事者がおるのに、戦国期まで殺し合うた恨みって簡単に消えるのか? 真里ちゃんどう思う?」


 わからない、それはイワネツさんが解決したはずの問題のはず。


「それは、わかりません。けど私たちはその恨みも憎しみも、解決したはずだった」


「そうか? 最初の征夷大将軍が最初のエルゾ王国を滅ぼした時の遺恨は、そう簡単に消えるかな? 恨みってのは仇を討つか銭で妥協するか話し合うて謝まらんとのうならんやろ? 幕府がエルゾに謝ったこともなかったら、エルゾ人が銭金でこけた話はあんまり聞いたことはないぜよ?」


 確かに、何かが引っかかる感じがする。


 彼の思考は非常に論理的で、彼が導き出した推測と情報によると、エルゾは単純な銭金の損得では転ばないか。


 確かに国際金融資本を作った民族、ジューと呼ばれた執念深い彼らの思考も根本ではそうだったし、エルフと呼ばれる精霊種の人達もそうだ。


 民族性に当てはめるなら、エルフの人達は優れた容姿と魔力を持っていてプライドが高く、長命のため目的達成の計画をヒトよりも長いスパンで考えられる、執念深さと思慮深さも持ってる。


「なるほど。北のエルゾ王国の情報、今後のために集めた方がいいかもしれません。おそらく彼らが幕府と組んでいるなら、倒幕を目指す私達に立ち塞がるはず」


「ま、ワシの能書きも交えた話やき、あんまり深う考えんでくれ。それに噂に聞く世界最強の男、エルゾの王子カムイは敵対するより仲良うした方がええかも知れんがね」


 坂本さんが笑みを浮かべ、口にタバコを咥えた瞬間、幕府の高官がこちらをジロリと見てくる。


「おっと、船に乗船させた幕府海軍のお偉いさんが来た。

ワシャ操舵室に戻るき、ほいじゃあまたね」


 坂本さんはそう言うと、操舵室へ戻って行った。


 事態が徐々に複雑化していくけど、人斬り以蔵との戦いで頼りになるジローを召喚したから、事態は好転するとは思う。


 彼は武道の強さだけでなく、人間性も高くて勇者としても有能だから、彼の持つ優しさと武道家の精神で「義」と「仁」の心を多くの人に与えてくれるだろう。


 だが彼は本来の指定された勇者じゃないから、神々からのサポートは受けられない状態だし、下手すると彼の勇者としての立場が悪くなる恐れもある。


 ただ希望はあって、マサヨシ先生がこのニュートピア再救済にやる気満々で準備してくださるらしい。


 あの人は、ガチで対悪党対策の神界側の切り札として神々から重宝されてるし、私やイワネツさんに多少の落ち度があっても、神々の法や心情を捻じ曲げるだけの力を持ってる最強勇者の一角。


 それに幸いなことに、女神ヘルが転生させた英雄達の魂は、私たちの下に集いつつあり、私が昔設立した騎士団からもサポートがあるけど彼らはというと。


「うげっ、船が揺れて……う、おげえええええええ」

「ジョン、大丈夫かい? ウッ、僕もえろえろえろ」


……彼らは船酔いで死にそうになっていた。


「てめえらしゃんとしやがれ! ぐっ、ていうかマジで波が高すぎて、函館行く途中の津軽海峡の荒波みてえにクソッ! 俺まで船酔いが……」


 土方さんが私の騎士達に気合い入れてるけど、彼も船酔いっぽくて顔面蒼白状態だ。


 一方ティアナは軍人だから、船酔いとか慣れっこみたいで平然としてアレックス達の面倒を見ている様子。


「あ、ヴァルキリー様! 大丈夫です、フニャチン共の面倒はあたしが見るんで。まったく手がかかる男共だな! しゃんとしろよ! お前らチン●ついてんのかよ、バーーーーーカ!!」


 この子めっちゃ気が強い。


 まあ女の子はこれくらいガッツがないと、世界救済の旅で一緒に頑張れないし、いい感じで私のサポートもしてくれるだろう。


 あとは、体休めよう。


 ジッポンについてから、移動以外はずっと激戦だった。


 この機会を逸すると、次に休める時間がくるかわかったもんじゃないし。


「うーん、到着までもう少し時間がかかりそうだし、仮眠でもしようかな……」


 私も勇者の活動中は、色々経験とか訓練とか積んだから仮眠をこまめに挟めば、一週間くらいはぶっ続けで活動できる。


 仮眠のコツは、ゆっくり体をリラックスさせて、何も考えないように、深く呼吸を整えて心を空っぽにしてっと。


 んー、激戦の緊張感からなかなかリラックスできないか。


 そういえば睡眠の重要性について先生もこんな感じのことを言っていた。


「いいかい、マリー。睡眠ってのは重要だ。脳や身体の休養、疲労回復、休めるうちに休むってのは本当に重要だぞ?」


「はい、先生」


「前世の話だが、それは今もか。前世じゃグッスリ寝れたのはサツにパクられて豚箱にいるか、刑務所(むしょ)くれえなもんで、シャバにいる時は常に緊張を強いられた」


 先生曰く、ヤクザは常に緊張状態だったらしく、睡眠時間が有意義に取れなかったらしい。


 なぜなら組織の都合でいつ呼び出しや待機がかかるかわからず、役無しの時は組の24時間制当番を月に何度か入らないといけないのと、上に立ったら立ったで抗争なんかが起きれば、缶詰状態で組織の指揮をしなきゃいけないからっていうんで、満足な睡眠は取れなかったそうだ。


 けど先生はある意味特異体質だったらしく、連続で睡眠を取れなくても1日合計、1、2時間程度でも充分に疲労回復的な睡眠時間は確保できていたという。


 なんなら半分目を閉じて寝てて、もう半分は日常生活程度なら難なくこなせるくらいの、まるでサバンナの草食動物のようなこともできたらしい。


「そんな感じだから不器用な野郎は、覚醒剤(シャブ)で疲労とか誤魔化して無理して体壊すのが多い。だが俺みてえに要領がいい野郎は、こまめに睡眠とって疲労回復をやるわけさ。子分や舎弟が運転する車内や、義理事で手を合わせる振りして寝たりだとか、抗争でやられて集中治療室の中にいる若衆の見舞いしながら寝たり、女抱いてる時でも半分寝てたりとかよ。まあそういう状態だとイクのが遅くて女共ヒーヒー言わせて……」


「あ、うん。最後の方はよくわかんないですけど、ヤクザってそんなに寝る時間とかあんまり無いんですね」


「そうだな、反目の連中だけじゃなく警察(サツ)にも気を使わなきゃ下手打つし。まあ食える時に食う、寝れる時に寝る。これがヤクザ者の基本だ。それは勇者やる時も一緒よ、睡眠は魔力の回復量に関わってくる。かと言って、いつでも子分や仲間の連絡取れるようにしねえと、致命的な下手打つ。ワルに勝利するならその辺もしっかりしねえとおめえも下手打つぞ?」


 というわけで、緊急連絡用の水晶玉にアラームかけて、ちょっとだけ仮眠っと。


 本土到着まであと約1時間ちょい。


 目を閉じた瞬間、着信を告げるアラームが鳴り響く。


 どうしよう、せっかくいい気分で束の間のおやすみタイムに入れる状況なのに、着信きちゃったよ。


 まあいいか、しょうがない。


「はい、私です」


「ヴァルキリー様、わたくしです。ヨハンです」


 旧ノルドにいるヨハンからの連絡だった。


 せっかく仮眠しようと思ったのに、なんだろう。


「何か情報があったんですか?」


「はい、わたくしから、ルーシーランド連邦に関して判明した追加情報を。ルーシーランド連邦は、無神論を唱える平等主義に基づき、あの地の有力貴族モスコー家が開いた話だった。そうですね?」


「ええ、財団と蘇った国際金融資本が関係していると」


「先程帝国時代のコネを通じて、かの連邦からの亡命者と接触しました。彼らはホランド王国に亡命しており、その亡命代表者、ルードリィフから有力な国内情報がもたらされました」


 ルーシーランド連邦の国内情報か。


 それはぜひ聞いておきたい、ぶっちゃけ眠いけど。


「彼の国は、現在国内の政治中枢の権力闘争が激しく行われており、恐怖政治が敷かれているとのこと。これにより労働人口が激減し、国家的な危機を迎えているようです」


 ルーシーランド連邦は危機的状況にある?


 おそらく、地球世界のソビエト連邦のように国家に逆らう人達を大粛清して恐怖で人々を支配しているのか。


「それで、ルーシーランド連邦は事態打開のための、挙国一致体制にするために、戦乱を目論んでいる……かしら?」


「おそらくは。今から10年ほど前、ルーシーランド国内で深刻な食糧危機が訪れ、チーノ人民共和国からの食糧支援でなんとか食い繋いでいたそうです。しかし……亡命者からの情報によると、一昨年より彼の国の国内物資と食糧事情が改善されつつあるとのこと」


 え?


 なにそれ?


 ていうことは、ヴィクトリーや財団の息がかかったチーノ人民共和国以外の国が、もしかしたらル連を支援してる?


「亡命者の話によると、大量の政治犯達を東方の不毛な大地シヴェリに移動させ、鉄道と航空網を強制労働により建設。東方の東端に軍港を有する植民都市を築いているそうです」


「植民都市、ですか?」


「ええ、植民都市の名はウラジミール。私が皇帝だった時代のチーノ人曰く、満蒙と呼ばれた地。そこに軍港を築き、交易物資を鉄道でモスコーまで移送し、食糧危機を乗り切ったと」

 

「ちょっと待ってください。その交易相手ってどこですか? 私が得た情報によると、ルーシーランド連邦は外交的に孤立状態で、交易相手なんかチーノ人民共和国くらいしかいないはず」


 交易?


 東の果ての荒地を開拓し、都市建設で港の交易ってことは、海を挟んだ交易相手がいるってことかしら?


「ル連の物資支援をしてるのは……情報を総合的に見てエルゾです。かつての我らエルフの同胞で、東のハーン達やチーノ人と混血し、ジッポン北端に渡った精霊を崇める部族達が関わってます」


 エルゾ王国がルーシーランド連邦と組んでる!?


 おかしいわ、だってエルゾ王国は佐幕派でジッポンとの結びつきが強い国。


「ちなみに国交はあるんですか? エルゾと、あなた方北欧との国交は?」


「ほぼありません。有名なスポーツ選手にして王子のカムイの名は広く知られていますが、彼の国は大使館なども他国に置いてません。彼らはスポーツ振興に熱心で、北欧が唱える環境問題に賛同はしてくれるも、かの王国は我らエルフの末裔の入国を拒絶してます」


 坂本さんの言う通りかもしれない。


 恐ろしきは人の遺恨。


 300年前に解決したはずの遺恨は、ずっと燻り続けて、再び世界を悪意で満たそうとしているか。


 天帝の話だと、王子のカムイは紳士的で人格者なんて言われてるけど、怪しいわ。


 デリンジャーの実子だったジャン同様、悪に染まってる可能性があるか。


 その辺、イワネツさんと合流したら協議すべきね。


「わかりました。ルーシーランド連邦に協力してるのはジッポンと友好を結んでいるエルゾ王国に間違いないと。他にも現在のルーシーランド連邦の現状は?」


「はい、亡命者からの証言では、彼らは平等主義の他にもパン・ルーシーズムを掲げているとのこと。ルーシー人は皆平等で、助け合うべき同族であると。最近は我々北欧とバトル海を挟んだ南側、東ライヒ国境にあるキエーブ共和国に圧力を強めているそうです」


「キエーブ共和国? もしかして旧キエーブ王国があった地域ですか?」


「はい。かの連邦はパン・ルーシーズムを掲げ、ルーシーランド統一を目指しているようです。そして現在のキエーブは東ライヒの保護国。戦火は、確実に迫ってます。キエーブと東ライヒが陥落すれば、我々北欧もルーシーランド連邦に」


 事態は想像以上に悪化してる。


 後で西ライヒ帝国のカイザーに連絡をとって、然るべき措置をとった方がいい案件だ。


「わかったわ。また何かあったら連絡を」


「ご武運を、ヴァルキリー様」


 さて、重要な情報も得たしお楽しみの仮眠タイムっと。


 ……また鳴ってる、着信してるけど誰?


「はい、私です」


「ご機嫌麗しゅうヴァルキリー様、マリーオですじゃ」


 今度はシシリー王マリーオからだ。


 なんか声に張りがあって機嫌良さそう。


「ご報告いたしますじゃ。さるお方のお力添えで、我らシシリーは、イリア共和国使節団と和平協定を交わしまして、両国の歴史的和解が正式に決まりました」


 そっか、よかったわ。


 これでシシリーの人たちが、今度こそ救われる。


「あ、それはおめでとうございます。ところでナーロッパの現在の情勢は?」


「はい、現在ヴィクトリー王国は我が同胞によると海軍の機動部隊をジッポンに向けて派遣中ですじゃ。ヴィクトリーとジッポンの武力衝突は時間の問題かと」


 はあ!? なにそれ?


 私が騎士団に命じてうまくサボタージュするようにって言ったのにどういうことよ。


「それとヴァルキリー様、例の財団の情報ですじゃ。理事会の電報連絡の場は閉鎖され、いよいよ財団は追い詰められているかと。あと、ヴァルキリー様が指定した例の騎士団について、重要な相談をしたいのですがよろしいでしょうか?」


 ん、私の黄金薔薇騎士団と何かあった?


 声の感じがなんか敵意剥き出しのような。


 私は現団長のシュチュアートの連絡先を、彼にも教えたはずだけども。


「はい、相談とは」


「ええ、例のシュチュアートという騎士団長、ヴィクトリーの大臣ですが、信頼できませぬな。私めがヴァルキリー様のためを思い、色々と根回しやヴィクトリーに関してアドバイスしたのですが、のらりくらりかわしおってからに。奴めはおそらくヴァルキリー様へ不敬を働いておる可能性がございます」


 まさかそんな。


 だって私が通信した時、誠実そうであんなに喜んで協力してくれたのに。


「思い違いとかは、ないのですか?」


「いや、おそれながらシュチュアートなる男、ヴァルキリー様に喜んで協力するフリをして、己とヴィクトリーの利益しか考えてないような利己的な男ですな。現在、あの男の身辺をマフィーオ達を使って調べさせております」


「そうですか、何かわかれば教えてください」


 まずいわね、騎士団とシシリーの間で不協和音的な感じになってる。


 シュチュアートに問いただした方がいいかしら?


 それとも今から城頭(ジョーンズ)騎士長に連絡して、色々と根回しした方がいいのかな?


 けど、これがマリーオの思い違いで彼の心象を悪くするのも考えものか。


 情報を多角的に見ないと私の味方が減ってしまう可能性もあるし、一旦様子見しよう。


「あやつ、ワシの勘ではかなりの悪党な気がしますぞ? ヴァルキリーの騎士と申しておったが、調子のいい男じゃて。ともかく、ヴィクトリーについて何かわかればヴァルキリー様に」


「ええ、よろしくお願いします」

 

「あ、今さるお方から直接連絡が、はい! 今、通話をお繋ぎいたしますじゃ!」


 さるお方?


 えっと誰かしら?


 せっかく寝ようと思ったのに。


「はいさい、マリーちゃん。あわてぃーはーてぃーやしが、ナーロッパに着いたさぁ。シシリー王のマリーオってぃやつー、でぃきやー。シシリーてぃがろーロマーノゆいねー昔ぬぐとぅ良たさる感じっしー、我が伝ーたるうちなー文化残ちてぃさぁ」


 ああ、ジローか。


 早速ナーロッパで活動拠点作って、シシリーとイリアの和平とか道筋作っちゃったんだ。


 仕事が早いのは関心だし、久しぶりにナーロッパに来てテンション上がってるのはわかるけど、今は少しの間寝かしてほしいんだけどなあ。


「うん、そう、よかったわね。ちょっと仮眠するからまた後でね」


「やっさぁ、また連絡すんさ」


 ふう、これでよし。


 じゃあお楽しみの仮眠タイムに……。


 ってまた着信きてるよ……。


 今度は誰かしら?


「はい、私です」


「ようマリー、俺のお姫様。こっちは順調に中京に向かってる。そんでよお、俺と新しく兄弟分になったサイゴーって野郎が、これまたすげえ野郎でよお、お前にも色々と聞いてもらいたくてよお」


「そう……」


 イワネツさんからの着信だった。


「おう、まずサイゴーの野郎は、昔は日本の元帥しててよお、軍事的な見識がまずやべえんだよ。でよ、サイゴーが八州中のヤンキー共を傘下にした。それに部下にした高杉の故郷の長洲寄ったら、高杉の野郎カリスマあるみてえで、その辺のヤンキーのガキらみんな俺様につくって言ってよお、順調に兵隊共増やしてる感じだ。ゴクゴクゴク、げっふーい。あと、薩魔のウォッカ甘くて旨くてよお、これ芋とか黒砂糖で出来てんだ。お前にも土産たくさん持ってってやるからよ」


 ああ、朝っぱらから酒飲んで電話してきたこの人。


 この人って電話魔で、お酒入ったら知り合いとか誰彼構わず電話してくるのよね。


「へーなるほど、すごいわね」


「だろ? あとよお、フグ刺しだったか? さっき初めて食べたんだけどよお、あれゴージャスだな。上物のウォッカみてえに透き通った切り身で、口に運ぶと歯ごたえあってほんのり甘みがして上品な感じで酒によく合うんだ。オイスターもシュリンプも身がプリプリでよ、味噌溶いたシチーにしたら絶品なんだぜこれが」


 この人、自慢話とか一回始めると話が長いんだよなあ。


 ていうか一人だけ美味しそうなの食べててずるい。


「ああ、うん、お疲れ様。中京でその辺の話、詳しく聞きたいからまた後でね。じゃ」


 よし、それじゃあ気を取り直して至福のおやすみタイム。


……鳴ってる、着信してるわこれ。


 30分くらいでいいから寝かして欲しいんだけど……。


 私は反射的に起きて、水晶玉のアラームをオフにした。


「ああ、もう! うざい!! オフッ!! 私は少しでも休みたいのッ! おやすみッ!!」


 寝ようと思った瞬間、意識がフッと真っ暗になって何も考えず、私は深い眠りに身を任せる。

更新遅くなりました

自分が休もうと思ってる時に自分の預かり知らぬところで何かが起きて緊急連絡に対応するとどっと疲れますよね

こういう寝つきが良くない時に限って悪い夢を見ますが主人公の彼女も次回悪い夢を見ます

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