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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第一章 王女は楽な人生を送りたい
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第23話 混戦 後編

「フレドリッヒ皇太子!?」


 嘘、なんで彼がここに。


「かたじけない、フレドリッヒ。同盟国として感謝申し上げる」


 え、ちょ、え!?


 何で? 


 フランソワ王国とロレーヌ皇国が同盟? 

 

 ありえない、あの二カ国は仲の悪さで有名なのに!


「おい、英雄もどき! 貴様を僕の剣の錆に……」


「うっせえんだよガキが! ぶち殺すぞ!」


 あ、勇者が一瞬だけ阿修羅一体化して、フレドリッヒにヤクザキックして、吹っ飛ばした。


 さ、さすがに死んじゃうって! あなたの今の姿のレベル、200オーバーですから!!


「マリーちゃん、隙見てヴィトーと離脱しろ。あの赤毛のガキ、魔力反応がやべえぞ。正攻法じゃ勝てんかもわからん」


 え!? そうなの!?


 すると、ぼろ雑巾のように転がった、フレドリッヒが回復魔法で、一瞬で元通りになって立ち上がる。


 そうだ、彼は信仰系の神霊魔法の使い手。


 そして魔法も戦闘も頭脳も天才クラス。


「貴様……この僕に手傷を負わせるなんて! おい! 僕の剣を持て」


 フレドリッヒは、身長160センチ足らずの体にも関わらず、騎士二人がかりで持って来た、超大な両手大剣を持ってこさせ、軽々と片手で担ぎあげた。


 あれはまるで、剣の形をした鉄塊!

 3メートル以上ある。


 刃の根本には黒革で巻かれ、その上の刃には突起のような刃が付いてるし、なんかもう、モンスター狩ったり、悪徳企業と戦う、ゲームの世界の主人公みたい。


「ツヴァイヘンダーか……厄介な得物持ってやがる。あれは使い手が達人なら、刺突や斬撃、防御に優れる、剣と長巻の合いの子のような道具だ」


 勇者は短剣を放り、両手持ちの一刀流の構えをとった。


 私は、勇者の放り投げた短刀を拾い鞘に収めるが……これやっぱりテレビで見たことあるやつだ。


 匕首とも呼ばれ、暴力団が持ってる暗殺用の武器で反りがない、まるで戦国時代の侍が使っていたような、鎧通しのような感じで、よく見ると目釘の下に菱形に悪の一文字が入ってる。


「そんな叩けば折れそうな剣で、僕に向かって来るとはいい度胸だ」


 フレドリッヒが、肩に剣を担いだまま、すっと腰を落とし、左手を剣の柄に添えた。


「フレドリッヒよ、油断するな。お前の力は、小国の軍事力にも匹敵するとも言われてるが、この俺がまるで子供扱いだった」


 勇者は、フレドリッヒとアンリ、2対1の状況になる。


 いや、フレドリッヒが率いる騎士団もいるから、これじゃあ流石に他勢に無勢。


「なんだぁ、こいつら? 兄貴なめやがってよお! おい傭兵団、あのお方の加勢して差し上げろ! 給金はずんでやるさー」


 シュビーツ傭兵団がヴィトーの命令で、フレドリッヒの騎士団に向けて武器を構えた。


「な!? おい、お前らシュビーツか! フランソワはお前らのスポンサーだぞ! なぜお前らがロマーノに雇われて……」


 すると、シュミット団長が剣を持ってアンリの前に立つ。


「申し訳ありません、アンリ様。我々は傭兵団ゆえ雇い主につきます。確かに、フランソワは大口の顧客ではございますが、このヴィトー様は、それ以上に我らに給金を恵んでくださいます。それに、あのロレーヌのジークフリード騎士団と、剣を交えられるとは……どちらがナーロッパ最強か、はっきりさせましょう」


「ジークフリード騎士団か」

「相手にとって不足なし」

「給金無しでもいいな」

「戦場にも来ないのに最強とかふざけやがって」


 うわ、傭兵団さん達やる気満々になってる。


 なんかこの島で世界大戦でも始まりそうな、険悪な雰囲気になってきた。


「兄貴ぃ手伝おうか? 俺、新兵器持って来たんだ。うちの国喧嘩は嫌いだけど、職人多くて、物作りには定評あるのさー」


「いいよ、このガキら俺がまとめてぶっ潰すから。おめー、そこのアヴドゥルってのが、余計な真似しねえか、見ててくれよ」


 ヴィトーはニヤリとしながら、アヴドゥルの前に立つ。


「弱小国が、傭兵風情を雇わなければ軍事力も維持出来んのか?」


「うちの国は戦う事が嫌いでねー。戦う人間が金で雇えるなら雇えばいいさー。それに、うちの国を下に見てるようだけどさー、何様だおめえ? たっ殺すぞ?」


 うわあ、そこかしこで戦いが始まりそう。

 それにいくら勇者でも、二対一はまずい。


 私は意を決して、魔法銃デリンジャーを手に、アンリの前に立った。


「マリー姫、その銃を下ろしてくれ。それを持って俺の前に立つという事は、フランソワと君の戦争を意味する」


「戦争? 何処がですか? あなたは私が権利を買い取った島から退去もせず、卑怯にも二対一で彼を殺そうとしてる。そんな卑怯者は私が許さない! これは国同士の戦いではなく、私とあなたの決闘だ! ヨーク騎士団! 手出し無用です」


 私が、銃を向けるとアンリは涙を流し始めたが、これは……彼の魂が何かを感じでいる?


「この英雄もどきが! マリー姫をこんなに変えてしまうなんて! 僕がお前を討伐してやる!」


 物凄いスピードで勇者に斬りかかるフレドリッヒを、横目にして私はアンリを見据える。


 これは、私と強敵との最初の闘い。

 彼を殺すのではなく、戦闘不能が目標。


「君は……俺の心を裏切るのか! 俺は……なんだこの記憶……俺は女に裏切られて……銃をまた……いやだああああああ」


 彼の魂の傷に触れたのか、激しく燃える炎のような闘気を私に向けるけど、私は勇者の教えを思い出す。


「戦闘は、先手必勝!」


 私は、意を決してデリンジャーを発射した。


 魔法弾は、アンリに当たった筈だったが、彼の体が紅蓮の炎に包まれ、勇者が言う精霊化した。


 まるで、炎を纏う魔人のようだ。


「こんな弾丸、俺には通用しない! 俺は俺を殺した奴らなんかには、二度と負けんぞ!」


 私は、彼の気迫に負けず銃弾を撃ち込むが、これは……金属弾が蒸発してる!


 おそらく彼は、ヴィトーと同様に前世の記憶が蘇り出しているんだ。


 ヴィトーの時みたいに、記憶が混濁状態になって、転生前の彼と、今の彼がせめぎ合ってて正気じゃなくなってる。

 

 きっと愛する誰かに裏切られて、銃で命を落としたのが、転生前の彼。


 絶対防御と、指輪の召喚術は切り札。

 私の魔法と銃で、彼を倒す!


水切り(カッター)


 風と水の魔力で、ウォーターカッターを繰り出すも、炎の出力が強すぎてアンリの手前で、爆ぜるように蒸発してしまった。


 すると、アンリはフランベルジュを片手で私に構えて……何をする気?


「俺を裏切る奴らは許さない! 炎と共に消えてしまえ! 紅炎流弾(プロミネンス)


 アンリの剣から、マシンガンのように火球が乱射され、私は勇者から習った前回り受け身で床を転がり、スキル絶対防御を発動させ、土壁(ウォール)を幾重にも張る。


 強い、本来の彼の武器は剣じゃない。


 おそらく、今みたいな感じで、マシンガンとか銃を武器にしてたんだ。


「うおおおおおお! 燃えろ! 全て燃えてしまえ! 俺の前から裏切り者は、燃えて消え去ってしまうがいいっ!!」


 私は、壁を盾に銃撃戦に応じるが、炎の火力が強すぎて、全然ダメージを与えられない。


 いやそれどころか、この宮殿自体が炎に包まれ、煙と共に有毒ガスが立ち込め始めた。


「やめろアンリよ! このままじゃここにいる者達が、炎に巻かれてしまう!」


 アヴドゥルはアンリに呼びかけるが、彼の言葉も届かないほど、彼は激情に捉われてしまってる。


「マリーちゃん、俺らが援護するから脱出(ひんぎーん)さー! あいつ、しにヤバイ! 頭ん中ワジワジーしてておかしくなってる」


 いや、あなたもそうだったんですけど。


 ヴィトーが私の前に盾になり、トンファー式の魔力銃をアンリに撃ち込み、状況を見守っていたアヴドゥルも、私に水のバリアーを展開する。


 騎士団達も魔法の土壁を作りながら、私は口にハンカチを押し当て、銃をアンリに構えながら外に脱出した。


「勇者さーん、早くこっちへ! 周りは火の海です!」


 だが、私達の呼びかけを無視するかのように、巨大なツヴァイヘンダーを持った、フレドリッヒと勇者は炎の中で一騎討ちしている。


「このクソガキがあああ、どけってんだよボケ! 俺はともかく、おめえ大火傷しちまうぞ!」


 勇者の声に、シュビーツ傭兵団と一緒に脱出した、ジークフリート騎士団の面々も、ウンウンとうなずき、運び出されたフランソワの騎士団は、炎の魔人と化したアンリの姿に怯えていた。


「黙れ! フランソワのアンリとは同盟を組んだ! それにこれはアンリとマリー姫の一騎討ち! お前なんかが出る幕じゃない!」


 どうしよう、これじゃあ私達が外に出ても、今度は島内が、激昂したアンリに火の海にされてしまう。


 水のフューリーを召喚する? 


 いや駄目だ、彼女の出力だと大嵐になって、さっき勇者が使ってた水蒸気爆発で酷い事になる可能性がある。


 炎のイフリート? 

 

 だめだ、同じ炎同士で余計に火の海になるだろうし、風のシルフのイケメンエルフがいいのかな?


 いや、待てよ! 私のあの範囲魔法なら。


「頭を冷やせ馬鹿男達! 金剛石霰(ダイヤモンドダスト)


 風の魔力で分子運動を制限して、宮殿内に低温状況を作り出し、氷の礫を炎の魔人化したアンリに浴びせると、氷の礫がアンリの頭部に向けて水になりながら彼の熱を奪っていくけど、これじゃあ焼石に水だ。


「目だマリー! 目を狙え! それと胸もだ! 氷の力を銃に込めて出力上げろ! マシンガンで蜂の巣にするみてえに、氷の礫を食らわせろ!」


 勇者がフレドリッヒの剣を受け止めながら、私に向けて叫ぶ。


「貴様! 一騎討ち中によそ見を」


「邪魔だぁ!」


 勇者は黒い六本腕の魔人の姿になり、無数の光の剣を具現化させると、雨のように降らして、フレドリッヒに突き刺した。


「くっ何だこれは!? 僕の魔力が吸われて……回復魔法も!」


 勇者はフレドリッヒを倒して、気を失った彼を右脇に抱え、回復魔法をかけながら、アヴドゥルと炎に包まれた宮殿を脱出した。 


 そして、炎の勢いが強くなり、宮殿から炎の魔人と化したアンリが、こちらに剣を向けてきた。


「今だ! ぶっ放せえええええ」


 私は魔法銃デリンジャーに氷の魔力をイメージして、アンリの目や体に向けて、マシンガンのように発射したが……ダメか、氷の弾丸も蒸発して……。


 すると炎の魔人と化した、アンリは膝をついて体色が青くなり、今度は真っ青の魔人になった。


「やめてくれ……撃たないでくれ! 俺はもう蜂の巣は嫌だ。愛する者から裏切られて、蜂の巣にされるのは嫌なんだ……アンナ……うっうおおおおおおおおおお!」


 アンリが慟哭している。


 彼は、自分が転生前に死んだ瞬間を思い出しているようで、目から涙が溢れ出し、それに反応するように、炎に包まれた宮殿の天井から、スプリンクラーのように、水が噴き出した。


「勇者さん、彼は……」


「決着をつけてやれ、マリー。おめえが、あいつを本来の男に戻すんだ。俺も本で逸話を読んで、男としてこうありたいと望んだ、伝説の男の魂を呼び覚ませてやれ。奴の転生前の通り名はデリンジャー。奇しくも、おめーさんの銃と同じ二つ名を持つ男だ」


 私は意を決して、転生前の愛する者の名を泣き叫ぶアンリの前に立つ。


「くそ、アンリ! マリー姫、お願いだ! 彼をもう辱めないでくれ! 確かに私は彼をこのシシリー島の件で利用した。だが、私は……国は違えどあいつを男の中の男だと……あいつなら何かをやってくれるんじゃないかと……だから……」 


 私は、アヴドゥルの声に振り返る。

 彼もまた、涙を流していた。

 そして、勇者は涙を流してるアヴドゥルの前に立つ。


「アヴドゥルさんよ、あんたは……きっと転生前のあいつと同様、すげえ男だったに違いない。あんたはこの世を弱肉強食と言ったな? それは確かに道理が通る。強い奴が生き残るのは世の常。だがな、生き残った強い奴は弱い奴らを教え導き、自分の強さを、生き方を後世に残すのもまた道理だ。さあ、帰んな? そして己を見つめ直せ。あんたならば自分が本当は何者だったか思い出すはずだ」


 勇者から、男と認められたアヴドゥルは涙を流しながら、風魔法で空を飛んで帰路につく。


 そして勇者はジークフリート騎士団に、気を失ったフレドリッヒを雑に放り投げ、ヴィトーも勇者の傍らに立つ。


「おい、このガキ連れて失せろ! 見世物じゃねえんだぞ!」

「やさ、やさ。怪我人連れて帰れ馬鹿野郎ら!」


 ヴィトーは、本来の心を取り戻して、私にもわかるくらい、凄い優しくて頼りがいがある男の人になった。


 でもアンリは、どうなるんだろう?


 わからないけど、デリンジャーの異名を持つ彼の前に立った。

 

 私は、デリンジャーをしまって勇者の持っていた、ドスとも匕首とも呼ばれる短刀を手に持ち、鞘から刀身を引き抜いた。


「アンリ・シャルル・ド・フランソワ……いえ、デリンジャー。あなたは、どうして魂に傷がついてこの世界に転生したんですか? 本来のあなたはどういう人だったんですか?」


 右手に短刀を持ち、右足を半歩前に出して気・心・体の構えになる。

 剣を構えたところから、剣を外し、手を開いたものが合気の構え。

 だけど、私は右手に短刀を手に持つ。


 アンリは手に剣を持っている。

 武人としての、彼に応えるために私は剣を持った。


「俺は、アンリ・シャルル・ド・フランソワだ……フランソワの王位継承者にして、いや俺はどうなってしまったんだ、教えてくれ! 知らない記憶が俺を……知らない人々が俺を、俺の為にみんな喜んで、涙を流して、俺は……誰なんだ? 君は一体?」


「私は、転生前に高山真理として生を受けた日本人……今は、マリー・ロンディニウム・ジーク・ローズ・ヴィクトリー。あなたの本当の魂を、伝説の男とも呼ばれたあなたを、本当の魂を取り戻す!」


「わからない! 俺は誰なんだあああああああああ!」


 私は、この決闘の後で勇者から彼の美しくも悲しい人生をあとで教えられた。


 彼は世界の犯罪史に名を残し、弱き人達からはお金を取らずに、ギャングとして己の美学を貫き通し、仲間や人々に義賊として慕われたが、彼の生き方を国家が許さず、国家の手で愛する人に裏切られて魂に傷がついて死んだ、悲しい人だった。

次回、決着です

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