表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
最終章 召喚術師マリーの英雄伝
231/311

第226話 七生報国 後編

 俺がクスノキの話をしてやる。


 やつもまた、男の中の男。


 忠義のサムライだ。


「社長、もうすぐ薩魔街道に入りますけぇ! 目の前に八州のヤンキー共がおまわりの検問みたいに集まっちょるが、どうしよう?」


「目障りだ。蹴散らせ」


 俺はヤンキーの氣兵隊とかいうガキらを社員にし、そこらのヤンキー共ボコってかっぱらった車や単車で八州南端まで進む。


 俺の車の運転手を務めてるのは、氣兵隊の総長とかいう高杉で、助手席には、俺が東と名付けた子孫の元おまわりが座り、俺は後部座席で水晶玉片手にタバコ吹かす。


「氣兵隊特隊! 社長命令じゃ。あいつらつばえとるけぇ、ボコれ」


 高杉が特攻隊のガキらに命令を下す。


「ヒャッハー!」

「ウラァ! 氣兵隊参上じゃ!」

「しろしいっちゃ八州もんが!」

「片っ端からぶち回しちゃれ!」


 なかなか勢いがあるガキ共だ。


 ロシアで燻ってたコプニクのクソガキらに似てる。


 俺の手下……いや社員にして正解だったな。


「勇者様……そいで、伝説のサムライ。大楠公はどがんなったとですか?」


「おう東、マリーに代わって続きを話してやろう」


 あれはかなり厳しい戦いだった。

 

 世界を憎んだアルスラン・ハーンの恨みの力は強力で、戦神オーディンのせいで巨神の力を与えられ、人ならざる化物と化していやがったんだ。


 マリーと近衛の爺と別れ、黄昏の空まで聳え立つアルスランを、俺は睨みつける。


「オラァ! ゴミ野郎(ムラーシ)!!」


 俺が呼びかけると、ハーンの野郎この俺に気付いたみてえで、クソ生意気にもこの俺を見て鼻で笑いやがる。


「ふん、悪鬼の化身魔王憲長!! 余にわざわざ殺されに来たのか?」


「誰が魔王だクソ野郎(カーカ)。このイワネツ様を侮辱しやがって殺すぞ!!」


「黙れ!! 貴様エカチェリーナの生まれ変わりをどこにやったぁ!!!!」


 すると、俺にビビり上がってる今の天帝が水晶の画面の向こうで首を傾げる。


「その、えかちぇりーなとは?」


 ああ、エカチェリーナこそがこのハーンの憎しみの源。


 おそらくはハーンの生涯でただ一人愛した女。


 ハーンの想い人、エカチェリーナ・イゴール・ルーシー。


 ルーシーランドにかつて存在したキエーブ王国の姫で、ハーンのやつはその姫に恋をしていた。


 だが病に伏せる姫を助けられるほど、キエーブの医術は発展していなかったから、キエーブ王国と縁戚のモンゴリーの有力部族ハーンが、当時の先進諸国に助けを求めたんだ。


 当時の先進諸国は北欧の大帝国ノルド、そして東ナージアのチーノ大皇国。


 返って来た返事は、ノルドは雑種が身の程を知れ。


 チーノからの返事は蛮族滅ぶべし。


 エカチェリーナは差別を受けて病で息を引き取り、キエーブとモンゴリーのハーンは世界に復讐を考えたのさ。


「酷い話。そして彼らの復讐を利用した邪悪な神の存在がいた。こうして世界であの大戦が引き起こされたのです」


 マリーが俺の話を捕捉するが、俺も話を続ける。


 とまあ、こんな感じで捻くれ野郎がこのイワネツ様になめた態度とったのさ。


 俺をなめたやつは万死に値する。


 この話聞いてるお前たちよく聞いておけ。


 俺はな、ムカつく野郎は相手が誰だろうと殴る主義だ。


 というわけでハーンはムカつく野郎だからとりあえず殴りに行くわけよ。


「お前ムカつくんだよ馬鹿野郎(ブリャーチ)!!!!」


 俺は全力の拳を野郎の顔面に叩き込む。


 だがまるで効きやしねえ。


 これは野郎も麻薬(ドラッグ)ファンタジア服用しやがってるせいで、逆に俺は野郎の巨大な拳で殴り返された。


 俺の体が平原まで吹っ飛ばされ、後ろ受身ついたが指の骨が何本か折れちまう。


クソが(ナフイ)ッ!」


 体制立て直してぶちのめそうと思ったら、俺に手を差し伸べてきた野郎がいたんだ。


 全身ボロボロにされたクスノキだった。


 俺はやつの右手を握り、立ち上がる。


「織部弾正、すまぬ。やはりワイの力を持ってしてもアカンかった」


「へっ、心配すんなクスノキ。俺が来た。今頃俺の連れが天帝醍醐を保護してる頃だ。遠慮置きなく野郎ぶっ潰せるぞ」


「ふ、なんとも不可思議なことやな。敵やったお主がこれほど心強く、負け戦やった筈なのにふつふつと勇気が湧いてくる」


 クスノキ以外のサムライ達は息も絶え絶えで、あの屈強な嶋津のハヤテ共も死屍累々の状況だったが、俺たち二人は笑みを浮かべる。


「魔王憲長あああああああ!! エカチェリーナはどこだあああああああああ!!」


「うるせんだよ! 人間やめた人でなし(スーカー)!!! 俺達男の世界に入ってくるんじゃねえ!!」


 俺はバサラの力を全部解放して、目の前の人でなし(スーカー)ブン殴りに行く。


「貴様こそ人間をやめた魔王だ!! 世界を兄者アレクセイと支配するべく生まれた神オーディンの使徒、皇帝アルスラン・ハーンが成敗してくれん!!」


「やれるもんならやってみろ!!」


 ハーンの野郎のドス黒い炎が燃え上がり、俺の体を焼こうとするが、俺が放り込まれていた大焦熱地獄に比べりゃ、こんなもん屁でもねえ。


「援護するで織部!」


 戦場の矢という矢が空に無数に浮かび上がり、ハーンの体に光の矢の雨を降らす。


「小癪な下郎!」


 ハーンがクスノキ踏み潰そうとしやがったから、俺は野郎の股ぐらまで魔法で飛び、頭突きを野郎の金玉にぶちかます。


「ぬぅ、貴様ぁ!」


 ハーンが俺を掴もうとクソでけえ腕を振り回すが、俺は蹴りやパンチをぶち当てていき、野郎の腕をぶっ壊そうとする。


 だがやつにダメージは与えたはずだが、苦しむ気配が一向に感じられなかった。


「チッ、やっぱドラッグやり過ぎて、感覚が馬鹿になってやがるな。キリがねえ!!」


「織部!」


 その時、クスノキが俺に声かけ、でけえ刀を投げてきたから俺は右手で受け止める。


「使え! 不動明王様の加護ある我が愛刀、小竜景光や!」


「おう!」


 俺は剣術なんざやったことがねえが、使い方はわかる。


 ようは野郎をぶった斬ればいいってことだ。


 俺は折れた指の痛みに耐えながら刀の柄握り締める。


「行くぞ人でなし(スーカー)!!!」


 ハーンが放つドス黒い炎と斬撃を伴った風が吹く中、俺は刀をぶん回してハーンのでけえ右腕をぶった斬る!


「ぬぉ! 魔王め、よくも我が玉体を!!」


「うるせえ死ね!」


 野郎に飛び付いて首を掻き切ろうとしたら、空から軍竜乗ったハーン共の軍勢が現れて、この俺を槍で突こうとしてきやがる。


「邪魔だああああああ!! クソッタレ野郎(イジーナフイ)!!!」


 俺は左手でロバートがくれた魔力銃をAKライフルに替えて、ハーンの軍勢にぶっ放しまくった。


「ぎゃああああああああ」

「皇帝陛下ああああああ」

「魔王めえええええええ」


 シベリアのムクドリみてえに、ピーピーさえずりやがってうるせえと思いながら、バサラの魔力込めて銃弾の雨をハーン共の大軍に撃ち込みまくると、俺の銃撃を援護するように、無数の矢がハーン共を貫いていく。


「織部! ワイがこやつらの相手を致す! お前はあのハーンを討ち取るんや!!」


「おう! 任せろ!!」


 俺はハーンの巨大な顔面まで飛び、野郎の顔面に刀を突き立てようとしたが、ハーンはものすげえ勢いで息を吸いやがり、俺の体も引き寄せられる。


「役立たず共め! 魔王もろとも消え失せい!!」


 摂氏何度あるかわからん、灼熱のブレスを吐いてきやがって、バサラの力を得たはずの俺も全身に火傷を負い、戦場の全てが炎に包まれた。


「クソが! ビデオゲームのボスがしてくるような攻撃しやがって!!」


 俺は両手に装備したガントレットの効果を発動し、雷神の魔力を噴出させる。


「吹っ飛べクソ野郎(ナフイ)


 上空に作り出した雷雲から、高圧電流の雷をぶち込みまくり、AKライフルの魔力弾も全弾撃ち込んだ。


「痴れ者め!!」


 ハーンの口からドス黒いプラズマみてえな火球が次々と俺目掛けて飛んでくる。


「死ねやあああああ!」

「貴様こそ死ねええええええ!」


 ま正面から魔力と魔力の撃ち合い。


 俺の喉と肺も焼かれて息苦しいが、ハーンの野郎全然ダメージを負ってる様子はねえし、貰いもんの魔力銃が溶けちまうほどの炎。


 あとで知ったが、野郎はオーディンと意識が繋がってて無尽蔵に魔力を引き出していやがり、エム同様不死の体と化していたんだ。


「クックック、どうした魔王憲長よ」


 俺は膝をつき、無敵のはずのバサラの魔力が徐々に尽き始め、嘲笑うハーンを見上げる。


「負けねえぞ。俺はジッポンを救うと決めた。お前なんかに絶対に負けねえ」


 すると俺の前にクスノキが立つ。


「織部よ、これも使うんや」


 翡翠で出来たネックレスと、手甲につけてた鏡のような盾を俺に渡してくる。


「お前、これは?」


「三種の神器のうちの二つ、お前が持ってた方がええ。その方が勝利の算段が高うなる」


「ダメだ、お前がつけてろ。死ぬぞ?」


 クスノキはニヤリと笑う。


「慣れとるがな」


 クスノキは戦場の槍や薙刀の類を浮かび上がらせ、ハーンと対峙する。


「貴様人間やめたそうやな? ワイも人間やめてんねん、行くで!」


 クスノキはハーンの攻撃をかわし槍を掴んでは投げ、別の槍に瞬間移動して掴んでは投げて攻撃するも、あいつの残り僅かな力じゃハーンに持たねえ。


 俺の反撃が整うまで、時間を稼いでいた感じだった。


「人間をやめただと!?」


「せや、我が主君のためや。かの御方の御為に、生きた人間やめて死兵になっとんねん」


 槍と矢の雨を降らせながら、クスノキは文字通り己の命を死んだものとして立ち向かう。


「この正成の存命は世にとって無益かもしれんが、我が主君の益となろう。何度生まれ変わってもこの正成は天子様にお仕えし、国に忠を果たさん!! それを成すんは今や!!」


 男だった。


 確固たる信念を持つ男の中の男。


 よく口では忠誠を誓うなんて野郎がいるが、言葉と行動が一致するやつは少ない。


 ましてや命掛けどころか、自分を死んだものとして公のために自分のパフォーマンスを最大限発揮できるやつなんざ稀。


 己を殺してまで主君に尽くし、何度生まれ変わっても主君と国に忠誠を誓うクスノキに、俺は魅了され、俺の話を聞いていた今の天帝とマツの子孫達が、神妙なツラして聞いていた。


「そこまでジッポンと朝廷に。まさしく益荒雄にしてサムライ。大楠公はそこまで醍醐帝に忠誠を……大納言と一ツ橋よ、そなたらどう思うか?」


「大楠公はまさしく武士の鑑。そこまでの忠を拙者達今の武士が国家に、自身の欲を消して主君に尽くせるか……どう思う従兄弟、一ツ橋?」


「我らは徳河宗家に仕える身でありながら、倒幕を企てました。ですが大楠公は一途に醍醐帝を主とし、お守りするために死人に。天子様、大納言様、大楠公こそ、まことのサムライでありまする」


 人の思いとは時代が違っても変わらない普遍のものだ。


 納得しねえアホが一人いるようだが。


「拙者は認めませぬ! 天女様や大勇者公の話の通り、女人が天子様などと。これでは南朝に正当性がないではないか!? 話が真実ならば女人に忠を尽くす武士など理解ができぬ!」


 俺は水晶玉に映る白髪の野郎を睨みつけた。


「お前如きの理解なんざいらねんだよアホが!!! お前の物言いは、あの時代を生きた俺や仲間、俺が認めたクスノキへの侮辱だ!! ブチ殺すぞ!!!!」


「いいや水土学と違う! これでは皇統の正当性が!!」


 すると今の天帝が扇子を白髪の野郎に投げつける。


「黙りゃ下郎! 大楠公の忠義を、男としての、人としての想いを理解できぬ愚か者め!」


 俺はマリーと目配せし、白髪のアホから目を離すなと念を送る。


「失礼いたした大勇者公、続きを。朕の皇統の真実と大楠公の忠義のお話し、朕にしてくだされ」


 そういうわけで話を続けるぜ。


 クスノキがハーンを引き付けてる今のうちに、俺は隠し持ってた魔力体力回復用のポーション飲みまくり、クスノキに加勢しようとする。


「くだらん、何が忠だ。ジッポンの死兵よ、そんなもの支配する側から見ればどうでも良いことよ!」


 ハーンは俺がぶった斬った腕を念力で飛ばして、クスノキの体を掴んだ。


「ぐっ!」


「クスノキ! 待ってろ!!」


 俺はクスノキを助けようとするが、ハーンが口からドス黒い熱線を吐いてくる。


 クスノキの渡してくれた神器のおかげでダメージを抑えられたが、勢いを削がれた。


「いい機会だ死兵よ。忠義などこのハーンにはいらぬ。ただ敵を殺し、犯し、奪うことだけ考えれば良いのだ。その結果を余は評価するのみ。憎きヒト共を一匹残らず駆逐するだけで良いのだ」


 ハーンがクスノキの体を握り締め、クスノキの体中の骨がへし折られた。


「クスノキいいいいいいい!」


 俺は叫びながら、ハーンの巨大な指を刀で切り落とし、クスノキを救い出すが、クスノキの心臓は今にも止まりそうで、回復魔法の使い手がいても助からねえと思い、俺は悔しくて唇噛み締める。


「ええんや……これで。そして我が秘策、見事に間に合うたわ」


 クスノキが呟いた瞬間、空から真っ黒いマジンガ●みてえな黒鉄の巨人が現れる。


「ぬう! なんだこれは?」


 俺の女神ヘルの操る巨人ヘルカイザーと、背に乗るのは俺の家臣団の中でも腕利きの連中。


 クスノキがマツ率いる北朝に救援要請を出して、ヘルが俺の織部一家を動かした。


「織部家臣団見参! 化物め、この柴木が退治してやろう」

「イワネツ様、楠木公の要請でフクロウ忍者隊推参!」

「上様、このタコこと明知めも後詰めに!!」


 そして俺の親衛隊、黒母衣衆(チョールヌイ)赤母衣衆(クラースヌィ)が続々と空挺降下してくる。


親方(パカーン)、援護します!」


 親衛隊の犬率いる鉄砲隊がハーンに撃ち込んでく。


「親方あ! 特隊の自分も手柄あげますぜ! おう愛羅武勇(あいらぶゆう)。てめえら南朝からかっぱらった軍竜で一斉攻撃だ!! 化物に特攻(ぶっこ)めええええええ」


 南朝から盗んで来た軍竜に乗る、猿のヒデヨシと、ヤンキー共が竜のブレスを一斉に吐いてハーンを攻撃すると、ヘルカイザーが俺の前に現れる。


「おーほほほほほ、チビ人間。女神ヘル見参だわさ!」


 スピーカーで、甲高い声で呼びかけるもんだから耳が痛えよってロボ公の頭引っ叩こうと思ったが、俺は瀕死のクスノキを見やる。


「メスガキ、クスノキをお前の力で治してくれ」


「ふふん、容易いことだわさ。わらわに感謝するがいいのだわさ」


 可愛げのねえガキめ。


 俺のことが心配で助けに来たって素直に言えば、メスガキなんかじゃなく、名前で呼んでやるのにって思ったっけか。


 ヘルカイザーから回復の波動が降り注ぎ、クスノキはなんとか一命を取り留めた。


「チビ人間よ、この男の命はなんとか取り留めたかしら? けどこの男の意志は死を望んでる。延命したけどおそらく長くは……」


「いやいい。スパシーバ(ありがとう)


「……ふふん、礼を言えるようになるとはチビ人間のくせに成長したのかしら? 褒めて遣わすだわさ」


 メスガキが調子乗りやがって。


 あとで頭引っ叩いてやるって思ったぜ。


 まあ、口を開かなきゃ可憐な女神様ってやつだ。


「で、伝説の織部家臣団でござりまするか? 御伽話によれば犬とは確か名家の前島初代、利家公。猿のヒデヨシとは、あの後の関白中臣秀吉公。それに我がジッポンの主神、黒瑠(ヘル)様も天下分け目の戦場に!?」


「まあな。俺の軍団は当時この世界最強の軍団だった」


 そういや俺がジッポンから姿消した後世じゃ、犬もサルも偉くなりやがったんだっけな。


 続々と俺の軍勢も集い始め、葵紋の旗が上がると、俺の同盟者、北朝征夷大将軍松平家康、マツが甲冑に身を包んで俺の救援に来た。


「勇者公織部殿! 楠木正成殿の援軍要請を受け、それがしもハーンの総大将に立ち向かう。このジッポンに太平の世を!!」


「北朝に負くっな! オイ達嶋津ハヤテん意地を見せっとじゃ!!」


 南北のサムライ達も結束して、巨大化したハーンに立ち向かうが、この燃え盛るこの平原に腕利きの連中が集まったところで、今の状況は圧倒的に不利。


 すると瀕死のクスノキが俺に勝利のアイデアを授けた。


「織部……よ、アメノムラクモや。三種の神器全て揃えれば、初代天帝様の如く力が……」


 俺がニョルズから奪った金属バットみてえなアメノムラクモだが、この戦場には持ってきていなかった。


「すまねえ、そのアメノムラクモだが……」


「上様! そういうこともあろうかと!」


 明知、タコ野郎が魔力込めて俺にアメノムラクモを投げてきて、俺は左手で掴む。


「タコ!! お前やはり使えるやつだな! あとで褒美やる。キスしてやってもいい!!」


「恐悦至極にござる!」


 俺は三種の神器とやらの力を全て解放し、クスノキに刀を返すと水平飛行するヘルカイザーの背に乗る。


「メスガキ、お前のロボの機動力で突っ込め」


「わかったのだわ!」


 ハーンすら反応できないヘルのロボの機動力で一気に加速して、俺はクスノキの刀を放り、アメノムラクモに全魔力を両手で流し込む。


「行くぜ、人でなし(スーカー)!!」


 神器の力でハーンの魔法を無効化した俺は、アメノムラクモ振りかぶって、野郎の顔面に向けて渾身のフルスイングかます。


「グオオオオオ!!」


 野郎の巨体が宙に浮き、地響きと共に尻餅つく。


 すぐにヘルの操縦するヘルカイザーが高度を上げて、黄昏の空を一気に飛び、大気圏から一気に降下する。


「最大速力だ! 突っ込め!!」


「わかってるのだわ!」


 急降下した俺とヘルは、ハーン目掛けて一気に距離を詰めて勢いよく俺がアメノムラクモを大上段に振りかぶり、野郎の脳天に叩き込む。


 やつに俺の攻撃が効き始め、周囲が俺の戦いに歓声を上げた。


「勇者公見事なり!」

「おお見事! 凄か益荒雄ぶり!」

「我らが勇者、親方様!!」

「いっけえええええ親方ああああ!」


 そうだ、これだ。


 これがやりたかったから俺は生まれ変わった。


 俺が本来目指したのはオリンピック選手みてえに、肉体のパフォーマンスで人々を熱狂させて尊敬される存在、アスリート。


 勇者となることで、前世の夢を叶えた。


「聞こえるかハーン! 俺のパフォーマンスに熱狂するジッポンの奴らの声が。俺を勇者と呼んでくれる奴らがいる限り、俺は無敵だあああああああああ! お前らもっと声を俺に送れえええええええ!!」


「うおおおおおおおおおおおお!!」


「負けるなチビ人間! わらわが勇者イワネツ!!」

 

 俺の肉体にジッポンの声援が送られて、筋肉がパンプアップして最高のパフォーマンス状態となる。


「行くぞハーン!! 俺がジッポンを救う!!」


「グゥ、これしき……はうあ!?」


 ハーンは俺を憎しみの籠ったドス黒い瞳で睨みつけやがるが、やつの表情が憎しみから驚愕に変わった。


「あ、あ、あ、エカチェリーナ!?」


 ハーンが見上げた先に俺の勝利の女神、マリーが空に佇んてて、神の黄金杖を向ける。


「あの時、私は松長をやっつけて醍醐帝を救出し、戦場に駆けつけた。アルスランハーンは、私を亡きエカチェーナ姫と思い込んでいた」


 マリーの、天女の言う通りだった。


 ハーンは完全にマリーをエカチェーナと重ねて見ていた。


「エカチェーナ、お、俺だ。アルスランだ! 俺はお前に会いたくて、今までお前を忘れたことなんて、俺は」


「……そうなの?」


「ああ、余は、いや俺はお前を差別したヒト共を、同族達や兄者アレクセイと滅ぼそうと考えて、俺はお前の無念を果たそうと。覚えてるか? お前にこんな大きい熊や猪を仕留めて、肉を持ってきて、お前の体がよくなると思って、俺は……」


 哀れなやつだった。


 目の前にいるのはエカチェーナではなく、お前を倒しに来たヴァルキリー、天女とも呼ばれるマリーなのにとよ。

 

 そして隙ができた。


 俺はヘルカイザーから飛び降り、アメノムラクモに全魔力を込めて空高く飛び、やつのアゴに渾身の一撃かますために、バサラが授けた真言の呪文を唱える。


「オン・バザラ・ヤキシャ・ウン。オン・マカヤシャ・バザラサトバ・ジャク・ウン・バン・コク・ハラベイサヤ・ウン。オン・バザラ・ダンダ・ソワカ。オン・バザラユダ・ソワカ」


 頭に浮かんだ呪文の意味はわからなかったが、バサラが俺に告げる。


 法と律を犯す悪しき者を滅ぼせと。


 金剛棒で討ち滅ぼせと言っていた。


「くらえ! 金剛夜叉(ヴァジュラヤクシャ)!」


 ハーンを打ち上げるように渾身のアメノムラクモの一撃を加えると、野郎の巨体が宙に舞い高空で大爆発した。


「悲しい人……終わりにしましょう。龍さんの持ってた対魔刀の力で、彼の魔力を断ち切る!!」


 マリーの杖の穂先から、龍の使ってた対魔の刀が飛び出して、ボロボロになったハーンを空中で一刀両断した。


「ぐおおおおおおお、力が失われて!!」


 山のようにでけえアルスランの体が元の人間の体に戻っていき、地上に落下する。


 同時に空が黄昏色から青空に戻り、オーディンの影響力が低下していたのを感じる。


 この時、どうやらシミズの作戦も成功したようだった。


 お前らジッポン人は知らねえかもだが俺たちのリーダー、フランソワ初代大統領のデリンジャーが自分の魂と引き換えに、ヴァルハラぶっ壊して世界を救ったんだ。


「ええ、デリンジャーが、この世界……いや全世界を悪から救ってくれた。そして……」


 地表に落下して右手を失いながらも、立ちあがろうとするアルスランに、当時のマリーは神杖を向けたまま悲しげな顔で野郎を見つめる。


「アルスラン、あなたの負けです。もう、あなたを守る軍勢も、神もいない。アレクセイも敗北しました」


「なぜ? エカチェーナ、お前まで俺を。それに嘘だと言ってくれ。お前の兄でもあり、俺の偉大な従兄弟、キエーブのアレクセイの兄者がヒト共に敗北したなんて!」


 そして戦場に、マツに同行する白ずくめの鎧着た女も姿を現す。


「お久しぶりです、アルスラン様」


「お前……シュマリか?」


 男装して植杉景虎とか名乗ってやがったが、正体は北ジッポンにかつて存在したエルゾ王家の末裔の女、本名をシュマリ・ウパシィ・メノ・マキリ・ルーシー。


 アレクセイやアルスランとは旧知の間柄で、こいつのおかげで、アレクセイとハーンの繋がりがわかり、ついでにこの俺の女にしてやったわけだ。


「はい、シュマリです。アルスラン様、アレクセイ様は敗北を認めて全ての責任を取り、王家の地位を捨てました。私達エルゾは、勇者様から幕府に従うことを条件にエルゾ王国の復権を認められて、エルゾの悲願は達成されました」


「お前、何を言って……!?」


 マリーは、首を横に振る。


「エドワード、いやアレクセイは全てのケジメをつけました。あなたも責任を果たすべきだ。多くの人を殺し、多くの国を滅ぼした責任を」


 アルスランハーンは周囲をとり囲まれ、ジッポンに送ったハーン達も逃げるか死ぬかして全滅し、やつの野望は潰えようとしていた。


「そんな、俺は、お前のために……お前を差別して殺したヒトとエルフ共に……」


「だからといって、他人を虐げて多くの人々の命と生活を奪っていい理由なんかにはならない。あなたは犯した罪の責任を取るべきです」


 マリーが言い放つと、ハーンは項垂れて呟くようにこう言った。


「……シュメリもエカチェーナも全てが敵になるのか? 致し方無し。それもよかろう……」


 マリーの言葉に、アルスランは目を真っ赤にして涙を流して、隠し持ってたボウガンを彼女に向ける。


「我こそは偉大なるモンゴリーのハーン、皇帝アルスラン・ハーンである!! 余の最後の戦い、サムライ共とくと見よ!!」


 今思えば、野郎はマリーに倒されたかったんだろう。


「ええ、でも私は、彼にギャラルホルンの魔法を撃てなかった。だって……彼だけが悪くなかったから。そして勇者イワネツが私の代わりに」


 ああ、俺は一気に間合いをつめる。


 マリーがこいつに手を下す必要はねえ。


 この俺が決着をつけてやると。


「これで終わりだ!!」


 渾身のボディーブローで野郎の腹をぶち抜くと、やつは血を吐きながら俺を見る。


「よう、最後に言い残す言葉は?」


「……エカチェーナ、俺はまた君に……生まれ変わって、今度こそ……君に」


 アルスランは涙を流しながら言った。


 生まれ変わって、またエカチェーナに会いたがってたが、俺はやつに告げる。


「お前は多分生まれ変わることはできねえ。虐殺の罪を犯したから、あの世の裁判で無期限の刑期で地獄行きだろう。他に言い残すことは?」


 そしてアルスランは、マリーを見つめて微笑んだ。


 澄んだ顔付きになり、マリーを見て一筋の涙を流す。


「……エカチェーナ、どうか幸せに……また君に会えて俺は……」


 アルスランは俺の腕に力なくもたれて、おそらくは悪意も無くなり魂が救われたのだろうか、笑いながらくたばった。


 こうしてアルスランハーンは死に、チーノを暴力と恐怖で支配していたモンゴリーのハーンは滅び去り、ジッポンにおける最後の戦いが終わる。


「大幻ウルハーン御大将、皇帝アルスランハーン。勇者公威悪涅津、織部憲長殿が討ち取ったりいいいいいいい」


「うおおおおおおおおおお!」


「えい、えい、おおおおおおおおお!」


 マツ達の鬨の声が上がる中、マリーはやり切れねえ感じで肩を落として、戦場に連れて来られた醍醐のガキが辺りを見渡す。


「く、楠木! 我が征夷大将軍はどこじゃ!?」


 俺はヘルの方を向いたが、俺に勝利の助言を与えたクスノキはどこにもいなかった。


「織部よ……」


 すると俺の背後に魔法で透明になったクスノキが立つ。


「ワイは死んだと天子様に。この情勢、北朝に大義あり。どうか我が主君を、醍醐様をどうか頼む。ワイの存在は太平の世には不要や」


「そうか、それでお前はどうすんだ?」


「どうせこの傷や、長くはもたん。せやから残りの人生で見守り続ける。我が愛する主君を、朝廷を、ワイが生まれ変わりしジッポンの行く末を見守る。北朝の天子に伝えて欲しい。我が主君を頼み申すと」


 やつはジッポンの南北戦争の終結を俺達に託した。


「俺こそお前に託す」


「? 何をや?」


「ジッポンの救いが終わったこの世界に、お前と同様俺の居場所はねえ。俺は別の世界に行き、女神ヘルの名の下に、数多の世界の悪党共を滅ぼす。この世界を見守ってくれ」


 俺は天下人とかいう地位なんざどうでもよかった。


 バサラに誓った約束だ。


 数多の世界に行き、俺のパフォーマンスでゴミ共から規律を取り戻して人々を救うと。


 そして全ての戦いが終わり、俺は手下のタコの明知に命じて、俺が表向き死んだこととする本能神社の狂言暗殺を経て、数多の世界で俺が勇者イワネツとして活動する下地としたのさ。


「そうか盗賊織部よ。勇者威悪涅津、お前こそサムライや」


「その言葉そっくり返す。お前こそ真のサムライだ」


「ふっ、またどこかの現世で会うたら、酒でも酌み交わそう。主君醍醐よ、どうかお幸せに……ほな、さいなら」


 こうしてクスノキはどこかに去った。


 やつはハーンとの最終決戦で死んだということになり、俺がジッポンの天下を統一したということになったらしい。


 その後、醍醐にはお前を守るためにクスノキは散ったとだけ伝えると、やつは自死するために首に短刀を向けて自害しようとしたからマリーが止めた。


「嫌じゃ、朕もクスノキの元へ。もうこの現世にいても!」


「あなたは生きるべきだ。生きられなかった人達の思いを感じながら、あなたの好きだった人の想いとあなたの想いを残して欲しい」


 そして醍醐はある和歌を残す。


「いと悲し、国の忠臣、露と消え。現世を終えて来世にて待つ」


 これを醍醐の治世の句にし、俺とマリーの説得で南朝は滅んだということにして身分を変え、醍醐は自身の運命を受け入れて北朝光徳と結ばれたそうだ。


 次の世界で再び会えることを願ってな。


 南北統一果たした光徳も、クスノキに関して歌を残している。


「楠木の、武士(さぶらい)の忠、見事也。七生報国、御国まもらせ」


 この二人の子孫が今の天帝家。


 クスノキの思いは二人に受け継がれ、やつの忠義は後世のお前達に受け継がれたんだ。


 そして嶋津の日宇雅守とかいう野郎が、納得いかねえ感じで不貞腐れていやがったから、納得いかねえなら力を示せって言って、マツ立ち会いのもと全員ボコボコにして服従を誓わせた。


「オイ達嶋津の武士は力ある者に忠誠を尽くっす。この戦で武功を挙げたんは亡き征夷大将軍楠木公と織部公でごわす。もう戦世は終わり申した」


 奴らには力を見せねえと従わねえ。


 ハヤテと呼ばれた奴らは、当時はそんな奴らばっかりだったと記憶する。


「よし、じゃあお前らの主君は今日から松平家康だ。マツ、あとはこいつらお前が仕切れ」


 そういや俺は歌なんざできねえから、お前らの先祖のマツが俺の代わりにジッポン救済の歌を歌いやがったか。


「日の本の、益荒雄(ますらお)たちの大勇者。鹿児嶋の地で、天下統一」


 こうして多くの人々が俺に力を与え、クスノキも力を貸してくれてジッポン戦国時代は終わりを告げた。


「ええ、そして私たちはみんなと最後の戦いに。世界を憎んだ悪意、エムことミクトランを止めるために最後の戦いに臨んだ」


 今の天帝が項垂れ、マツの子孫共が画面の先で俺に平伏する。


「俺の定めた大ジッポン憲法の規律に従え。俺と天女、ヴァルキリーのマリーが規律を失ったこの世界を修正する」


 俺が宣言すると、マリー以外の奴らは全員跪き、俺と同行した東も高杉も涙目となる。


「終わりにしもんそ勇者様。二度と悲劇が起きらんために

、身分で隔てた窮屈な世も」


 高杉は車止めて、俺を振り返る。


 何か言いたげだったから、水晶玉を渡してやった。


「来嶋先生聞いちょるか?」


「お前は、高杉か?」


 俺が手下にした高杉と、白髪の野郎は旧知の仲みてえだった。


「そうじゃ。わしゃな、松蔭先生が亡くなってヤンキーしか出来んと思っちょった。けど、今の話を聞いちゃり、やりたいこと見つけた。わしゃ古の琵琶法師と呼ばれた歌手になる。英雄達や大楠公の思いを伝える歌い手になるっちゃ」


「そんな!? お前と桂と久坂は尊王攘夷の要じゃ。一緒に腐った幕府ぶっ潰す言うて……考え直せ」


「来嶋先生にはお世話になりました。そねーなあんたに一言だけ。あんた水土学に被れすぎてへんくーになっちょる! 松蔭先生の言ってたことと、あんたの言っちょること、ちゃうよ」


 俺は運転中の高杉の頭を笑いながら引っ叩く。


「よおし、お前もやりてえこと見つけたか。俺の会社がお前をプロデュースしてやろう! それでお前、ヤンキーのロックスターになれ。プレスリーみてえに派手なロックをジッポンにぶちかませ」


 こいつの歌とパフォーマンスを見たが、ソ連崩壊した後で流行った西側の音楽、ロックに向いてる。


 今のジッポンに必要なのは、若いこいつのような、歌と思いを通じて人を動かす力だ。


「そんな……それでは尊王攘夷は? 勇者様、それがしはどうすれば!?」


「うるせえ、お前で決めろアホ! 俺の今後の方針を教えてやる。ヤンキーとか名乗ってる野郎らは俺が傘下にする。この高杉みてえに、夢と才能に溢れてる奴らで幕府ぶっ潰す」


 するとマツの子孫は、俺を見る。


「勇者様の言う通り、倒幕の件承知仕りました。では、今後の政治体系は?」


「あん? 天帝家を元首とした民主主義国家に変える。お前ら力持った奴らが当分は国会議員やれ。その後は選挙通じて、国の代表を身分出身問わずに選ぶ体制にする。もうこのジッポンに身分なんざいらねえ!」


 平等と人権と自由が保障される民主主義国家が、新しいジッポンだ。


「大勇者公に朕も同意いたしましょう。朕は元首天帝として、ジッポンの御為、民主主義国家を承認致しまする。ほんで当初の倒幕計画は白紙や」


「な!? なりませぬ天子様。新しい時代は、若人が血潮を使い闘争で持って勝ち取り、礎を築くべきです。そうしなければ我が朋友松蔭が浮かばれず、今後の国の正統性も」


 白髪野郎に、マリーがビンタくらわす。


「もう血なんか流させるか! 若いヤンキーの子達も戦争なんかに利用させない! 文句があるなら戦ってやるから、かかってこい!」


 やはり最高だぜ俺のヴァルキリー、俺のマリーは。


 たまんねえよ、チン●に響くぜ。


 彼女こそ真の正義のヒロインよ。


「ヴァルキリーさんが戦うまでもありません、僕がやります。英雄と呼ばれたサムライのように、僕も主君に仕える騎士ですので」


「毛唐の小僧め。よかろう、相手になっちゃるけえ、表に出ろ」


 アレックスとかいうガキも男に目覚めつつあった。


 喜べ、あの時代共に戦った俺の兄弟達にクスノキよ。


 この時代にも未来を担う英雄が生まれつつある。


「おう、マリー。その野郎はお前に任せる。さあて、俺は噂に聞く嶋津の西郷兄弟とやらをぶちのめし、俺の会社の配下に加えてやろうか」

次回は三人称のバトル回です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ