表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
最終章 召喚術師マリーの英雄伝
222/311

第217話 神選組 前編

 私達がジッポン首都、中京に到着したのは日付が変わる少し前。


 私達は煌びやかな駅構内から、外に降り立つ。


「すごかったね! 駅の中に色んな植物生えてる商店街で、天井はガラス張りでライトアップされてて、めっちゃゴージャスって感じ。さすがジッポン首都」


「うん、ティアナ……失敬、天奈(ティナ)。確かこの中京は歴史ある街。ナーロッパだとロマーノ帝国時代から、この街はジッポンの首都だったようだよ。先史時代の神社とか寺院とか色々あるって聞いてるから、楽しみなんだ」


 アレックスは、考古学を専攻しててジッポンの歴史ある首都に興味深々みたいだ。


 たしかに前世の中学の修学旅行で来た京都駅っぽい感じだけど、それよりも未来的で、めちゃくちゃ文明が発達してる感じがする。


 だけど、なんか妙な気配。


「駅前着いたけど、タクシーとか全然いないし、なんか変な感じだわ。なんか街の空気が、ちょっと澱んでる?」


 私が呟くと、アレックスは両耳で何かの気配を感じたのか、懐から特殊警棒を取り出し、ジョンは栓抜きに使えそうなメリケンサックを所持して、ティアナは私の前をガードする。


 すると地鳴りのような音が聞こえてきて、パトカーのサイレンのような音もしたと思ったら、改造車や改造バイクが、次々にロータリーに入ってくる。


 めっちゃ車高低くした改造車から、天帝家の菊の紋章つけた白い特攻服姿の、背が150センチくらいしかない、耳が尖って短めのアイロンパーマでサングラスかけた男が出てきて、私達におもいっきりガン飛ばす。


「うらぁ大ジッポン帝国京坂暴力軍団じゃあ! これから記念集会とおまわりとの喧嘩じゃけえ、パンピー共はどっか行けや!!」


「せやせや!」


 どっか行けって言われても、えっとバイクや車でロータリーも歩道も塞がれちゃっているし……その、どこへ?


 ていうか暴走族ってよりも、手に持ってるの刀とかライフルだし、喧嘩ってよりもこれ戦争だよね?


 しかも大ジッポン帝国京坂暴力軍団って何?


 頭悪すぎでしょ軍団名が。


「えーと、なんで皆さんそんなに気合い入ってらっしゃるんです?」


 私がリーダー格の背の低いヤンキーに尋ねると、彼は目がギラ付きながら笑い出す。


「なんじゃあ、さっき夜空に降臨された勇者様と天女様の映像見てないんか? ワシら勇者様と天女様の降臨をお祝いして集会やっとるけぇ、自分らも祝わんかい!」


 だあああああああああああ。


 私のせいだったあああああ。


 博田で私が幕府に宣言したのに釣られて、暴走族の集会やっちゃってるよこれえええええええ。


 どうしよう、落ち着け私。


 私の騎士やティアナも見てる。


 動揺しちゃダメだ私。


「ワレなんや? どこのもんじゃワレェ!」


 ゲッ、ヤンキー達が一斉にジョンの方を向いてこっち来ちゃったけど、やっぱり地味めな格好させればよかったわ。


「何? 俺ら高杉君のダチだけど、君らこそなんなの?」


 あら、ジョンってばこういう事態になかなか対応慣れしてるみたいね。


 それに高杉って、あの襟足めっちゃ伸ばした彼だっけ?


「た、高杉やと!?」


 ヤンキー達がみんな、やばいやばい言い出したけど、イワネツさんが手下にした彼、めっちゃ有名なヤンキーみたいだ。


「やべぇやん。年少帰りのあの高杉の知り合いやって」

「長洲氣兵隊のやばすぎ新作やろ?」

「あいつ頭のネジ飛んでるさかい、手ェ出したらあかんて」


 すると、リーダー格の背の低いサングラスのヤンキーがこっち来る。


「あ、カオル君。こいつら高杉のダチらしいて」


 集まったヤンキー達がモーゼの十戒のワンシーンみたいな感じで一斉に道を開けて、自分の身長と同じくらいの長さの大きい日本刀を担いでジョンにガン飛ばす。


 なんかもう眉毛全部剃ってるし、背が低いけどめっちゃイカついわねこの子。


「高杉はワシの昔の地元の後輩や。おどれ名前なんちゅうんじゃ?」


「ああ俺? 太郎、山田太郎。あっちにいるのは、ダチの守と知り合いの子達ね。そうそう、高杉君だけど就職したらしいよ。世界的な大企業に」


「なんやと!? あの高杉が就職じゃと!? あないなゴンタくれ雇う企業たぁどこの貴徳な企業じゃ!!」


「あー、あれ虹龍国際公司。まだ研修中らしいけど、八州で仕事するってさ。ハクブンとかハルミチとかアリトモも就職したらしい。連絡先教えようか? あと君カオル君だっけ? 俺もバイク乗って楽しみてえって思ってるから連絡先とか交換しようよ」


 ちゃっかり連絡先とか交換してる。


 ジョンは、多分だけどこのカオルってヤンキーを味方につける気かな?


 諜報員としての経験は、アレックスより上で言葉巧みだけど、うまくいくかしら?


「確認するけえ、ちいと待ってろ。もしもし? おう高杉か。俺や、井上や。元気でやっちょんか? おう、こっちに山田太郎ってお前のダチ言うちょるのが来とるんやが知り合いか? おうそうか、真里ちゃんに天奈ちゃんに守もダチか。わかったけぇ、じゃあのう」


 携帯電話を切ってニコリとこっちに笑みを浮かべる。


「高杉のダチに間違いない。それに良う見ると真里ちゃんと天奈ちゃんだっけ? 高杉が言うちょったがぶち可愛いな。君らは安全なとこまで連れてくけ。おう!!」


 カオルってヤンキーが、手下に命じて金色に塗装しためっちゃラメで光ってて、竹槍みたいなマフラーの族車の後ろドアを開くと、鳥の翼みたいに開くガルウイングドアだった。


「女の子たち、はよ乗れ。おまわりくるけぇ!!」


 手下のヤンキーが後部座席を指し示すと、空から武装ヘリコプターが低空飛行でホバリングして、こっちにサーチライト当ててくる。


「おらぁ!! 共同危険行為やめろクソガキ共!! 神選組参上じゃあ!! ボケェェ!!」


 うわぁ、ガラ悪っ!


 これ多分おまわりさんだと思うけど、ヤンキーとかヤクザ顔負けの怒声だわ。


「ヴァルキ……じゃなかった。真里ちゃんと天奈は車乗って! カオル君、足の速いバイクない?」


「おう、あるで。ワレも一緒に暴走(はし)ってくれるんけ?」


 ジョンに用意されたのは、LEDライトでめっちゃ電飾してある、車重が重そうな、エメラルドグリーンのスーパースポーツバイクで、またがったジョンがエンジン吹かすと、ジェット機みたいな轟音がして、バイクがわずかに宙に浮く。


「この前かっぱらったカワザキのマッハ555じゃ! うちの連合で最速のバイクじゃけえのう!」


「すげえじゃん。お、フライトスイッチ付いてるから、これ空飛べんよね? アレックス……じゃなかった。守は俺のケツに乗れ」


「あ、うん」


 アレックスが、宙に浮いたモンスターバイクに飛び乗って、ジョンがめっちゃ空吹かしする。


「行くでぇ! 出発じゃあっ!!」


 私達が後部座席乗り込むと、地響きのような爆音が響き渡るが、車のドアが閉まると驚くほど静かだった。


 フィルム貼った窓から外を覗くと、空のヘリと撃ち合いしてて、夜空でミサイルとか爆発してる。


 あー、しかも消防車も出動して火事とか起きてるわね。


 ヤンキーも滅茶苦茶だけど警察も滅茶苦茶やってきて意味わかんない。


 すると、運転してるカオルってヤンキーがこっちに振り向く。


「はっはっは、多分指揮執っとるおまわりは神選組副長の鬼の土方じゃの。あいつら滅茶苦茶してくるけぇ、だからパンピー巻き込みたくないんじゃ」


「いや、いいですから前向いてください。前!」


 毎晩こんな感じのことしてるのか、焦ってもいないし平然としてるし、ていうかこれ暴走族ってよりもむしろ反政府運動だよね。


 ていうか神選組の土方?


 それってもしかして幕末の新撰組のこと?


 乙女ゲーとかに出てくるアレ?


「ちなみに神選組ってなんですか?」


「おお、そうじゃった。おまわりの中でも荒くれ者揃えた対ヤンキー部隊で、正式名は集団警ら隊とも言われちょる。警察庁警備局長直属のゴロ巻き部隊じゃ」


 なにそれ怖い。


 ていうか話す度にこっち振り返るし、この子の運転も前方不注意すぎてマジで怖い。


 私は窓から上空を見上げると、武装ヘリに小型ドローンとかいっぱい飛んでて、暴走族の車列にマシンガン撃ってるし、何100台いるかわかんない暴走族の2ケツバイクから、グレネードランチャー上空に撃ってるし、ていうかそもそもここ、仮にも首都だよね?


 やばすぎでしょ街の治安。


 まあ首都だから反政府活動的な暴走族対策にこんな躍起になってるんだろうけど、神選組もヤンキー対策で武装ヘリなんか持ってるから、彼らは多分ジッポンの警察特殊部隊だろう。


 ていうか毎晩こんな感じじゃあ、内戦やってるのと一緒でしょっての。


「おう! 予定通りじゃあ五郎!! 今夜こそ神選組の土方と隊長連中の(たま)取ったるけえ! ぶっ殺しちゃる!!」


 しかも今度は、携帯のながら運転をカオルってヤンキーが始めて、大きな声で物騒な通話するけど、マジで危険運転だからやめて欲しい。


「なあなあヴァルキリー……じゃなかった真里さん。ジッポンってこんなやばい国なの? めっちゃ治安悪いんだけどさあ」


「ああ、うん。300年前も戦国時代とかしててめっちゃやばかった。その後平和になったけど、多分、時代の代わり目だと思う。幕府政治が行き詰まり起こして、若い子がこんな調子だし」


 私達は小声でナーロッパ共通のロマーノ語で話をし、携帯電話かけながらカオルがこっち向く。


「そろそろ伏身に入るけ。真里ちゃんと天奈ちゃんはここまでじゃ!」


 運転しながら、携帯かけて後ろ向くのマジで勘弁なんだけど、と思ったら車が停車した。


「あ、はい。ありがとうございます」


 こんな危険運転に付き合ってらんないと思い、車を降りたら中京の市街地から少し離れた川沿いで、深夜なのか人通りが少ない感じだ。


「真里ちゃんと天奈ちゃん。そこの河原通りを北に歩きゃあ木山町まで行けるけ。24時間やっとる喫茶店やカラオケ屋で寝泊まり出来る。それとこのステッカー持ってりゃあ河原乞食共も逃げ出すけぇ、持っちょけ」


 カオルというヤンキーから、大ジッポン帝国京坂暴力軍団のステッカーもらったけど、正直いらない。


 持ってるだけで恥ずいしこんなの。


 改造車とバイクは、爆音奏でながら南下して行き、装甲車みたいな真っ黒いパトカーが追いかけてく。


「どうしようヴァルキリー様。ジョンの奴ら暴走行為とかに加担してるみてえだけど」


「……しょうがないわね、後を追いましょう。ティアナ、魔力の指輪に下から風が吹いてるようなイメージしてみて」


「? こう?」


 すると風の魔力が発動して、ティアナの体が浮く。


「ちょ!? なんだこれ!? 魔法!? あたしが!?」


「いいセンスね、手を取って。あの暴走族を追う」


 私はティアナの手を引き、深夜の中京市街地を飛ぶ。


「きゃああああ、やべえやべえ! 飛行機みてえに空飛んで!!」


「黙って我慢して。何度かやってれば慣れるから。しかし、これ何台いるの? 数100台と思ったら1000台くらいいるし。ジョン達はどこに……いた、あれね」


 ライフルやマシンガンの曳光弾が空と地面に飛び交う中、戦場のような空を私達が飛ぶと、上空の警察ヘリを煽るように飛ぶ、エメラルドグリーンの空飛ぶバイクを見つけ出し、私達は空を飛びながらバイクに寄り添うように飛ぶ。


「何やってんのよあんた達!! ジョン! 任務!!」


 私がジョンを叱りつけると、彼はスピードに取り憑かれててアクセルふかし回るし、アレックスはバイクのタンデムシートで泡吹いて失神しかけてる。


「ハーッハッハッハ! 俺は今、風になってるううううう。イヤッハー! あ、ヴァルキリーさん、限界まで飛ばすんで夜露死苦ぅ!」


 私は無言でジョンの頭を引っ叩く。


「何が夜露死苦よ!! あんた騎士でしょ! 若い子みたいに悪ノリしない!!」


「フニャチン野郎のくせにイキがってんじゃねえ馬鹿!! どうしようヴァルキリー様、こいつ飛ばし過ぎて運転して人格変わったみてえに、よけいに馬鹿になってんよ」


 私はため息吐きながら、ジョンを無理矢理バイクから引き離し、恐怖で気を失ったアレックスも一緒に両脇に抱える。


 するとすっ飛んだバイクが、指揮官っぽいのが乗ってるヘリに衝突する。


「あ……」


「てめえヤンキー共!! やりやがったなあああああ!!」


 ヘリはスピーカーでがなり声上げながら、高度を落として川に墜落……しちゃった。


「やっちゃたああああああああ」


 やばいよこれ、ジッポン警察を敵に回しちゃう。


「よっしゃあああ、太郎が特攻(ぶっこみ)決めたけぇ!! おんどれら神選組のおまわり共、(みなごろし)じゃあああああ」


「ヤンキー共が! そこの金綺羅金の着物着たヤンキー!! 土方副長やりやがって、ぶち殺すぞ!!」


「ちょ!? これ事故! 違うっての!!」


 仕方ないから、ジョンとアレックスを抱えたまま空飛んでヘリの墜落地点まで行く。


「大丈夫かな? ヘリに乗ってた警官達、墜落して死んでなきゃいいけど……」


 脇に抱えてた二人を下ろして、ティアナと共に落下地点の河原まで行くと、装甲車が次々と集まり出して、暴走族達も河原に集結する。


「うらぁ! 神選組のおまわり共!! 今夜こそぶっ殺しちゃるけぇ!」


「せやせや! カオル君とタイマンはったらんかいアホおまわり!」


「はよかかってこんかい! アホゥ!!」


 川に真っ逆さまに落ちたヘリの副操縦士席の扉が、勢いよく蹴破られ、イケメンの指揮官が姿を現す。


 手に刀を持ち、黒のボディアーマーの上に青いだんだら羽織りを纏う、黒髪の長髪イケメンがヤンキー達を睨みつけた。


「うるぁ! クソガキ共!! 毎晩毎晩、うちら出動させやがって! てめえら調子くれてっと全員ぶった斬るぞおらぁ!!」


 このイケメン口悪っ!


 どっちがヤンキーかわかったもんじゃないわね。


 するとジョンの姿を確認したイケメン警官が、大ジャンプして河原に降り立つ。


「小僧この野郎! てめえ俺のヘリになめた真似してくれたじゃねえか! 逮捕するぞ!!」


 うわぁ、ジョンの顔覚えられちゃったわ。


 すると、アレックスやジョン、それにティアナもイケメン警官に冷や汗かき出す。


「強いな。こいつ……」


「ああジョン、手練れの剣士だ」


 すると今度はイケメン警官が私達を睨みつけた。


「おう(スケ)共! ヤンキー共の追っかけなんかやめて、危ねえから早く自分の家帰れ馬鹿野郎! こいつら全員逮捕か(みなごろし)だからよお」


 いや危ないのはあんたでしょ。


 殺気しかないんだけどこの警官。


 ていうか警官なのかすら怪しい。


「全員ぶった斬るって、あんたおまわりさんでしょ。さっきもそうだけど、街中ヘリ飛ばして市街地や路上にマシンガン撃ち込んだり何考えてんのよ。市民守らない警官なんて存在価値ないじゃない!」


「あ゛ぁ? 公務執行妨害で逮捕すんぞ馬鹿(あま)! 俺たちは女神様を信仰する神に選ばれしサムライ、泣く子も黙る神選組だ!! 俺達ゃ警察だから何やってもいいんだよ!」


「何が神に選ばれたサムライだ。神に選ばれたとか言って何やってもいいってわけ? ふざけんじゃないわよ!!」


 私の啖呵に、ヤンキー達が沸き立つ。


「せやせや! この子の言う通りや!」

「何が神選組やドアホォ!!」

「流れ弾当たって怪我した奴らようけいるでなあ!?」


 いや、あんた達が暴走行為しなきゃそもそも問題が起きてないでしょっての。


「うるさいなあ……。あ、(トシ)さんのヘリ堕ちてら。んー、井上の馬鹿と見たことないヤンキーいるけど、こいつ誰?」


 装甲車からちゃらそうな色黒のイケメン警官が出てきたけど、こいつも刀持ってるしガラが悪すぎる。


「沖多や!」

「せや、一番隊の冲多や」

「ジッポン最強剣士やん」


 ジッポン最強剣士?


 するとヤンキーのカオルが、太刀担いで飛び出して行き、背の低い彼がやると不恰好な大上段の構えで最強剣士とやらと睨み合う。


「沖多よお、ワシとタイマンはろうや? 直接喧嘩で決着つけた方が早いけぇ」


「ぷっ、タイマンとか君いくつよ? 20過ぎてヤンキーやってるとか、君も馬鹿だねえ」


 冲多と呼ばれた警官隊の隊長が、刀を平正眼に構えた。


 その瞬間、カオルと呼ばれたヤンキーの右手首、左肩、そして首がパッと花が開いたように鮮血が噴き出す。


「突き? 一発しか見えない!」


「今のはね、3回突いてるわ。左手でこう、変幻自在に手首を返してね」


 アレックスが驚愕した面持ちで、色黒のイケメンの今の突き技を見てたから、私が解説した。


「カオル君!」


 ヤンキー達が冲多と呼ばれた剣士に向かってくけど、今度はでっかい槍持った警官が、ヤンキー達を蹴散らす。


「んだよ、タイマンじゃねえのかヤンキー共! ったく最近のヤンキー共は俺らの時代と違って根性ねえなあ。なあ土方総長?」


「勤務中は副長と呼べ馬鹿野郎。俺らせっかく公務員になったんだ。社会人なんだからヤンキー気分は卒業しろや原田」


 続々と青い羽織着た警官達が集まってくる。


 ていうか総長?


 まさか彼らもヤンキー出身?


 でもありうるわ。


 多分幕府側が手をこまねいた凶悪な暴走族を、公務員にするからって言ってワン●の王下七●海みたいに警察にしちゃったんだ。


 実際、私のかつての仲間だった鄭芝龍の転生体の龍さんも、中華帝国じゃ手に負えない倭寇の巨大海賊団で、最終的には明が好条件で将軍として迎え入れたって話もあるから、その類ね。


 カオルは、血を流して虫の息っぽくなってて、色黒の剣士は見下すように笑う。


「ねえねえ根性見せてよ。君ヤンキーなんでしょ?」


 上空は無数のヘリが飛び交い、河原をサーチライトで照らし出し、暴走族は完全に包囲され、河原の土手にいたヤンキー達が、手足を斬られまくって悲鳴を上げる。


「おい副長!! 土手にいた野郎らは制圧したぜ! あとは主犯格さっさとパクっちまえや沖多!」


「おう、ご苦労長倉ぁ。ヤンキーやパンピーなら人殺したら罪になっけど、警察だったら公務執行妨害からの無礼打ちってことで罪になんねえからよお」


「ヒャッハッハちげえねえや総長……あ、いや副長」


 無茶苦茶だわこいつら。


 人殺しとか屁とも思ってない感じで、私の前世の警察とは大違い。


「毎晩毎晩騒ぎやがってクソガキ共が。てめえらのせいで夜の街繰り出して女共口説けねえじゃねえか。ま、こいつら片付ければ明日からまた祇恩のキャバ行ける。ったくよお」


「副長、嶋原の遊郭で遊女とも遊びてえですぜ」


「遊郭行くならチ●コと褌洗っとこ! ヒャッハッハッハ」


 こいつらマジ下品だし終わってるわね。


 DQN集団すぎてどっちがヤンキーかわかりゃしないわ。


「……あんた達は武士じゃない」


 アレックスが呟くように独り言ちると、一斉にDQN警官達の視線が向く。


「あ? んだと小僧」


「僕は八州で本物のサムライに出会った。彼はとても強く勇敢で、博田の町で幕府家老の命令に背いてまで、町の人達を助けた剣士。僕と剣を交えた東さんと違い、あんた達は下劣だ」


 アレックスが東と呼ばれた元憲兵隊の話をすると、神選組の警官達が一斉に騒めき立つ。


「てめえ、幕府軍憲兵隊の東さん知ってんのかよ?」


「知ってる。彼は強い剣士で、人格的に優れた人だった。市民を助けたけど、幕府の命に背いたって理由で退職を余儀なくされた」


 土方と呼ばれる警官がアレックスの情報に目を向いて驚き、沖多という色黒のイケメンが、アレックスと向き合う。


「へー、君、東選手と試合したんだ? あの人憲兵隊クビになったんだ。残念だなあ」


「ああ、試合した。運良く僕が勝ったけど」


 するとカオルを倒したイケメン警官が、アレックスに剣を向ける。


「なかなかやるじゃん。君のフカシじゃなきゃあの人、かなり手強かったと思うんだけど。俺とちょっとやろうよ」


 アレックスは特殊警棒を取り出して、フェンシングの構えをとり、ジョンは土方とかいう元ヤンの警官とメリケンサックを手に対峙した。


 ティアナも懐にピストル入れてるようで、もはや戦いは避けられない状況。


 すると土方が口にタバコ咥えて、人差し指から炎出して吸うけど……えっとこれ魔法?


 魔力反応したけどなんで? 


 この世界は、先生と神々によって魔力の発現を禁じられた筈なのに。


「あなた、今のは手品じゃ無さそうね?」


「おう、俺達は神に選ばれた神選組よ。多魔で族やってたガキの時、俺らに女神黒瑠(ヘル)様が現れて、お前に魔法の力を授けるだわさとかおっしゃり、これもんよ」


 土方が指をパチンと鳴らすと、上空に無数の火球が現れて、暴走族達に火球で攻撃する。


「ぎゃあああああ! 土方の忍術やああああ」

「川や、川に飛び込むんや!」


 だああああああ、あの馬鹿女神何考えてんのよ!


 勝手にこの世界の人間に魔力使わせるようにするなんて!


 てことはこの土方とかいう元ヤン警官、まさか……。


 この世界に転生した本物の、新撰組副長の土方歳三。


 おそらく、この神選組は新撰組の人達だわ。


 しかも魔法まで使える。


「ハッハッハー、神選組、全員忍術解放しろや! 今夜で大ジッポン帝国京坂暴力軍団のヤンキー共ぁ解散だ!!」


 沖多という隊長も、周囲に風の魔力を纏い出しアレックスに刀を構える。


「そういうわけだから、本気で行こうか? 名前も知らない誰かさん」


「君も……魔法を使えるか。真里さん!!」


……やるしかない。


「騎士団よ! 変装を解除して目の前の神選組を退ける! 魔力を解放しなさい!!」


 私は、元の姿に戻って黄金鎧姿になる。


「な!? あんた!? 上空の映像に現れた天女さん!?」


 私は杖、ギャラルホルンを構えて魔力を練る。


「あなたは、英雄としての魂を持っているのに、自分の力に溺れて。このジッポンの幕府も、あなた達も腐りきってる。性根を叩き直してやるわ」


「英雄だと……俺が?」


「そうよ。あなたの魂は、京の都を守り、滅びゆく幕府に忠義を示し、誰よりも武士を志した気高いサムライ魂を持ってたはず。前の世界で……函館五稜郭の戦いで命を落とした時だって」


 土方が頭を抑えて苦しみ出し、周りの警官達が狼狽し出す。


「ジョン君!」


「おう!!」


 ジョンは土方に飛び掛かり、神選組との戦闘が始まる。


電気震驚(ショック)


 私は土手や河原に展開する神選組へ、死なない程度に非殺傷の電撃魔法を繰り出した。


「て、天女様なんで!?」


「問答無用!」


 私は杖で神選組の部隊を殴り飛ばしていき、槍を持った隊士も、刀を手にした隊士も悉く昏倒させていき、致命傷を負ったヤンキーのカオルの元へ行き、魔法で回復させる。


「真里ちゃん……真里ちゃんは天女様じゃったのけ?」


「黙ってて、回復に専念を」


 恐慌状態に陥った神選組に、ヤンキー達が雪崩れ込む。


「うらぁ! おまわりいてまえ!」

(いわ)せ殺せ」


 私は舌打ちしながら、ヤンキー達もまとめて魔法を放ち、電撃で昏倒させる。


「あんた達も! よくわかんない暴走行為や暴力軍団なんか名乗って!! この場の全員性根を叩き直す!!」


 先生からかつて教わったこと。


「マリー、いいかい? お互いが大義抱えて組織間同士でドンパチしてた状況に、自分が第三勢力としてぶち当たった時はどうする?」


「えーと、そういう場合は大義名分がしっかりしてるほうに加勢する……かな」


 私の回答に先生は首を横に振る。


「違うな。この場合一番いいのは、喧嘩し合ってる両勢力を自分の力で黙らせる! 代紋の威光とかで、てめえら何やってんだって喧嘩やってる奴らをねじ伏せるんだ」


「はあ……」


「考えてもみな? 戦争も喧嘩も、お互い言った言わねえだの、縄張り入った入られねえだの、やったやられただのを、大義って名の理由付けでおっ始めるわけよ。じゃあ第三勢力で間に入った場合、両方を喧嘩両成敗ってなもんでねじ伏せて交渉事の場を仕切ったり、双方潰しちまえば、そいつらに俺らが影響力に置けるし、うまくいきゃあそいつら傘下に出来んだろ?」


 先生は、こういう場合は両方に圧力ないしは力を示して、影響下に置いた方がいいと私に教えてくれた。


 そんな感じで私は、暴走族も神選組も全員ぶっ飛ばして戦闘不能にしていき、ジョンも土方をうつ伏せにさせて関節を極めて行動不能にする。


 一方でアレックスは、狼狽するジッポン最強剣士に特殊警棒を構えながら、お互い間合いの取り合いをしている。


「て、天女様? 伝説の……君達は一体?」


「僕は騎士だ。ヴァルキリーを守護する黄金薔薇騎士団の」


 先に仕掛けたのはアレックスだったけど、刀でいなされてカウンターの突きを放たれるも、アレックスは首を捻って突きをかわしてお互い激しくぶつかり合う。


 沖多が足払いを仕掛けてアレックスの体制を崩し、沖多が身体強化と風の魔力で左片手面のように斬りつけるも、アレックスに刀を弾かれてお互いに間合いを離す。


 再度アレックスは、風の魔力を乗せて突きを放ち沖多は刀でいなしながら、鍔迫り合いとなる。


「強いね、君。なるほど東選手を倒したのは嘘じゃないようだ。神選組1番隊隊長、沖多総司……推して参る!!」


 沖多が風の魔力を高めて、鍔迫り合いしてたアレックスを弾き飛ばし、一足飛びに突きを繰り出すと風の斬撃が螺旋を描いて、防御したアレックスを弾き飛ばす。


 全身のあちこち切り傷を負ったアレックスは、両足で踏ん張って右手で特殊警棒を構えて、左右の足でステップする。


「……小手先の技だ」


「!? なんだと?」


「剣士なら、武士ならば戦士ならば小細工せずに掛かってこい。今の突きは心がこもってない」


 成長している。


 着実に、相手の心や技を見切って必殺の一撃にかける熟練の剣士のように、彼の魂のレベルが成長している。


「ふふ、こんな剣の使い手がいたなんて。やっぱ剣術はいい。俺を満足させる剣士に……ようやく出会えた!!」


 チャラい沖多の表情が剣士の顔になって、カオルに繰り出した必殺の突きの平正眼の構えをとる。


 その刹那、沖多が踏み込んで風の魔力と身体強化の魔法を使い変幻自在の突きを繰り出す。


時間操作(クイックタイム)


 私はアレックスに補助魔法をかけると、一切の迷いもなく、体中を突かれながら特殊警棒を沖多の左手首、左肩に二連撃を繰り出し、両者とも体と体がぶつかり合い、沖多は喉に打突を受けて吹っ飛ばされる。


「ぐぅ! 骨が……負けた? 俺が。三連撃で」


 あの二連撃で、おそらく沖多の手首の骨が折れて鎖骨が粉砕され、トドメに喉を突かれて戦闘不能。


 アレックスは、右手に特殊警棒を持って残心を示す。


「君の負けだ沖多総司。僕の名を名乗っていなかったか。偽名で守と言ったが、本名はアレックス・ロストチャイルド・マクスウェル。ヴィクトリーの騎士だ」


 するとティアナがガッツポーズして喜びを表現する。


「超かっけえ! めっちゃかっけえよアレックス! やっぱあんた、最高の男だ!!」


「ええ、確かにかっこよかった。強くなったわね」


 私が彼を褒め称えると、周囲の地面が振動し出す。


 夜空に暗雲が立ち込めて、ジョンが制圧していた土方の体が光出す。


「いけない! 離れてジョン!」


 ジョンも狼狽えながら土方の拘束を解くと、立ち上がった土方は周囲を見渡す。


「……嫌だ。俺と近藤……勇さんと作った新撰組がよくわかんねえ負け方するのも。みんな死んで、俺も惨めな死に方すんのも。負けたくねえ、よくわかんねえ奴らから二度と俺達は負けねえええええええええええ!」


 神選組が戦闘不能にされた状況を見た土方の目に涙が流れ落ち、膨大な魔力の奔流が周囲を包み、大地が振動して土方の魔力と闘気が天高く光を放つ。


 なんて魔力だ。


 おそらく、彼は魂の奥底で前世を後悔してて、魂が呼び起こされて混乱状態に陥ってる。


「新撰組は負けねえ! 誠の隊旗と俺たちに負けはねえんだあああああああああああ!!」


 土方が天に剣を掲げた瞬間、炎の剣が具現化して周囲を灼熱に包む。


「アレックス、ジョン、ティアナも離れてて。彼は、英雄土方歳三。己が剣に生涯を捧げた伝説の戦士」


 私はギャラルホルンを構え、覚醒して混乱状態の彼と対峙する。

後編に続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ