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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
最終章 召喚術師マリーの英雄伝
203/311

第198話 市民革命 中編

 デリンジャーの息子ジャンは、治安維持部隊に振り返り、両手を広げて自身の正統性を鼓舞する。


「警察隊よ、目の前の敵を駆逐するのだ」


 同時にジープのような黒い装甲に、パトランプと拡声器を搭載した警察指揮車のスピーカーから、治安部隊へ呼びかけている。


「パリス警視庁警視総監である、国際刑事機構長官命令! そこにいる暴徒とテロリスト共を排除せよ。これは総監命令でもある、繰り返す……」


 現場で一番偉い総監が、警官達にデモ隊を排除せよって呼びかけてるけど、武装警察隊の部隊指揮官達は、ライフルを放り投げ、大楯を持って市民達の前に立つと、文字通り盾となる。

 

「何が総監命令だ。勝手にやってろアホらしい」

「ライフル向けられるかヴァルキリー様に」

「盾を構えろ! 市民達を守れ! この革命で手柄上げれば、逆に俺たちは大出世だ!」


 武装警察は雪崩をうって市民達の擁護に回り、状況は完全に私達の有利に働く。


「終わりです……ジャン長官。市民も警察も軍隊も、私達に味方してくれる。もう王政復古なんかフランソワでさせないわ」


 私の宣言に、ジャン長官は高笑いしながら右手をかざすと、彼の体から魔力の粒子がパッと一瞬飛ぶ。


「終わりなものか、ここから私が王となるのだ。エム会長から授かりし中世時代の魔法の力、今こそ私に!」


 その刹那、市民と対抗する警察隊が発砲を開始し、軍の兵士達もおそらくサイボーグ兵士が、市民達に襲いかかる。


「な、体が勝手に」

「やめろ市民に撃つな!」

「くそおおお!」


 サイボーグ兵士が操られて、上空の戦闘機やヘリがミサイルを次々にデモ隊に発射していき、私はデモ隊を守るためにバリアをはる。


「逃げろおおおおお」

「殺される!」

「やっぱり警察も軍も騙し討ちだ!」


 まずい、軍や警察で同士討ちも始まり群衆がパニックを起こして散り散りにされ、市民から怪我人も出始めた。


「これが王の力です。ヴァルキリー様、考えを改めてくれますか?」


 やはり魔法の類!?


 やはり魔力反応が、ジャンから感じる。


 この世界では魔法はもう使えなくなったはずなのに、まさかこれは……魔力付与などをエムが与えた可能性がある!


状態確認(ステータス)


 レベルは……やばいわね200オーバー、この時代ではエムを除く最強の敵かもしれない。


 HP(生命力)が全くなく、彼のMP(魔法量)と攻撃力も防御力もバグって文字化けして見えない……という事はこいつ神クラス以上の魔法量を秘めている!


 生命力がないとしたら対象は……。


「勇者イワネツ! 対象はアンデッドか機械、またはその両方で構成されている!! それに魔法量や攻撃力が桁違いよ!」


大丈夫だ(Ладно не)問題ない(проблема)。それは俺も同じだからな!」


 イワネツさんが、操られたサイボーグ兵士を次々殴り飛ばし、炎と電撃の魔法で戦闘機やヘリを撃ち落とす。


「革命の火を消させるか! 燃えちまえお前も! 火炎龍(プラーミア)


 イワネツさんの魔法で、彼の体が燃えたと思ったら、一瞬で炎魔法が消火して金属のボディを晒す。


「やはりあなた方も、私と同様、魔法を使えるか」


 なるほど、全身を機械に改造しているから、年も取らず長年フランソワで陰謀を企てられたんだ。


「時代を逆行させる悪! 私達はこの世界を再び救う! それが……勇者としての光だああああ!」


「ぶっ潰してやるクソ野郎(カーカ)! 子悪党(チョルト)がイキがるのも終わらしてやらああああ!」


 私達が宣言した瞬間、ジャンが金属でできた手をかざすと、凶悪な魔力反応と共に、体から魔力が溢れ出る。


「私を否定する伝説のヴァルキリーと勇者! この私、フランソワ王ジャンが鉄槌をくれてやらん!!」


 すると私の前に立つイワネツさんの体が光り輝いた。


「自分の親を、俺の仲間の思いを否定する独裁野郎! お前なんかデリンジャーの足下にも及ばねえ! かかってこい勇者の俺に!!」


 今だ、市民達を!


 逃げ惑う市民達へ、私はコンフォールド広場からほど近い、川沿いの大型庭園を指差す。


「市民達、一旦離れてください! あっちの庭園や川沿いに避難を!」


 私の指示が全然伝わらず、群衆達は騒ぎ立てて、恐慌状態に陥ってしまってるのを、黒ずくめの男達がどこからともなく現れて私の指示を大声で伝える。


「市民達! ヴァルキリー様のご指示だ! チュリー庭園やセエヌ川沿いに逃げるんだ!!」


「オラァ! おまわり共! 俺たちが相手だ!!」


「マフィーオなめんじゃねえ!」


 秘密結社マフィーオ達が、群衆に呼びかけて一斉に市民を避難させ、操られた兵士や警官隊を体を張って止めていた。


 イワネツさんの一騎打ちに目を移すと、機械の体を晒した財団理事、ジャンがイワネツさんに組み付き、手四つ状態になる。


 イワネツさんと張り合えるほどのパワー、おそらく財団が持つ科学力で作られたサイボーグなのだろうか、魔力も合わさってかなりの強敵だ。


「たかが機械の体になったくれえで、なめやがって!! ぶっ潰してやるぞポンコツが!!」


 手四つ状態から徐々にイワネツさんが押し始め、ジャンの顔面に強烈な頭突きが何度もお見舞いされる。


 金属音が響き、ジャンの顔面がボッコボコに凹むと、フルパワー状態のイワネツさんが、ジャンの腕を捻り潰してしまう。


「次は足だ!」


 手をパッと離したイワネツさんは、ジャンの右太ももに強烈なローキックを繰り出すと、金属音と共にジャンの足が折れ曲がる。


「なんという力だ……これが伝説に伝わる勇者イワネツか、だが」


 ジャンが突然液状化してイワネツさんの背後にまわり、右腕が光り輝く大砲に変わって、後頭部にプラズマ状の光弾を放った。


「うぐぉ! この野郎!!」


 あまりの威力でイワネツさんは後頭部から出血し、カウンターの裏拳を、液状化してかわしながら、人間を超えた速度で動き、今度は私に対して大砲を向け始める。


「プラズマキャノン!」


 プラズマの光弾を放つが、私は神杖ギャラルホルンで打ち返し、ジャンの体がプラズマをモロに受けて爆発した。


「やったかしら……いやッ!」


 嫌な予感がした私が後ろに飛ぶと、地面の石畳から、金属の刃が針山のように飛び出して、刃が集まって元の人型に変わる。


「ふふ、さすがは伝説のヴァルキリー。私は財団の科学力で全身を自由に軟化、硬質化できるのだ。このように!」


 彼から右腕と左腕が分離して、電荷を帯びて指からプラズマの光を乱射し、私は転がりながら避けつつ、魔法銃ルガーを取り出して左手で射撃した。


 咄嗟にバリアで防御したけど、なんて馬鹿げた威力のプラズマ攻撃、私の銃撃も効いてないし。


「ドラク●のはぐれメタルみてえな動きしやがって、経験値置いてけやあ!」


 そしてイワネツさんの拳に光り輝くオーラが宿り、ジャンの本体の顔面を殴りつける。


「ハッ!」


 金属音が響き渡るが、ジャンがイワネツさんの右拳を空飛ぶ左手で掴み、目の前にある噴水に一本背負いで投げ飛ばす。


「無駄だ。私の体は最新の特殊金属、オリハルコンにより、自由自在に形を変えられる。ナノマシンに備わった魔力により、常人の数100倍のパフォーマンスを発揮出来るのだ! よって!」


 ジャンの両腕は本体と合体し、噴水に叩きつられたイワネツさんに向かって体当たりを繰り出す。


「うぐぉ!」


 アメフトのような強烈なタックルで、大噴水が粉砕され、イワネツさんの体をさらに吹っ飛ばす。


「私こそが歴代フランソワ最強の王なのだ!!」


 ジャンの体が霧状になり、私に向けて電気を纏う粒状の体当たりを繰り出すも、時間操作でなんとか回避した。


「そうか、わかったわ。コイツは魔力を帯びたナノマシンを散布して、機械で出来ているものなら、ハッキングだとか磁力を使って自在に操れる」


 人型に戻ったジャンは、右腕を大砲に変えて私に向ける。


「ご名答、私にできないことはありません。科学と会長の魔力が融合したのが私です」


 すると、広場の向こうから天に届くようなオーラが噴き出して、鬼のような形相になったイワネツさんが、光速移動したようなジャンプキックをジャンの頭部に繰り出して、ジャンの体を吹っ飛ばす。


「ぶっ壊してやらあ! ロボ公が!!」


 いくら奴が体を改造したとはいえ、やはりイワネツさんはバサラの力が使えなくても、勇者の中でトップクラスの戦闘力を持っている。


「ハリウッド映画の、未来からやってきた殺人マシーンみてえなその能力も、勇者の俺には通じねえぞ」


「懐かしいわよね、勇者イワネツ。デリンジャーも、映画が大好きだったわ」


 ジャンは、体を液化させて上空を飛び、全身を巨大な槍に変えてイワネツさんへ体当たりを繰り出すも、槍に姿を変えたイワネツさんは槍の穂先を掴み、体を後ろに反らせてバックドロップを繰り出す。


「言ったはずだ! そんな小手先の変化など、俺には通じねえ」


 イワネツさんのホールドを液化で抜け出し、今度は体を霧状にして、電荷させた自身を雨のような散弾に変え、私にしてきた攻撃同様、イワネツさんへ体当たりを仕掛けるが……わかったわ。


「勇者イワネツ、離れて! 時間操作(クイックタイム)


 時空を天界魔法で操作して、全ての動きがスローモーションになる中、イワネツさんは後方に飛び退け、私は魔力をチャージした魔銃ルガーで、散弾のように姿を変えたジャンの霧状の体で、一際光を放つ粒を銃撃した。


「ぬぅ!?」


 霧状の体から人型に戻ったジャンは、地面に降り立つと苦しそうに胸を抑えて、私を睨みつける。


 やつはおそらく、全身の液体金属を、魔力とコンピュータにより、自由自在に形を変えられる性質を持つ。


 液体金属内には無数のナノマシンに魔力を有してて、体を自在に変化できるようコントロールしているんだろうが、そのコントロールの中枢を司るコンピュータで制御していんだ。


 すなわち、それがやつの弱点。


「勇者イワネツ、やつは体を変化させる際、粒子大の小型コンピュータのコントロールで動いてる。その部品は、変化の際に熱処理をしようと、光熱を気化させて冷やそうとするから、変化の刹那に光り輝く粒子が、やつの中枢電算装置で弱点!」


 私は左手のルガーで銃撃を加えながら、右手のギャラルホルンでホーミングレーザーの魔法を放つ。


「なるほど。それさえわかっちまえば、俺達が苦戦する相手じゃねえな。どれ、ロボ公、なんかやってみせろ」


 イワネツさんが、チャクラを解放して両掌を組み合わせると、チャクラが光り輝き超威力の魔法を放てる構えをとった。


「クックック、最強の王である私もなめられたものだ。ならばこれならどうですか!?」


 ジャンは体からナノマシンを散布して、周囲が強烈な磁力を帯びて、鎧を纏う私の体がジャンに引き寄せられる。


「うっ」


 磁力の流れから抜け出そうとするが、私の体は鎧を通じてやつの磁力に囚われてしまい、ジャンは私の体を使ってイワネツさんに思いっきりぶつける。


「きゃああああああ!」

この野郎(ナフイ)!」


 周囲の磁力の強さが激しさを帯びて、電子と分子の動きが加速し、空間自体が高熱化し、ジャンは霧状になった体を空間に同化させて、磁力の渦で水素と電子を瞬間的に衝突させ……まずい!


水素爆発(エクスプロージョン)!」


 瞬間、空間そのものが大爆発を起こして、私が瞬間的にはったバリアーすらも無効化され、イワネツさんもろとも吹き飛ばされる。


 内臓を圧迫されたような鈍痛や、身体中が軋むような大ダメージを負った私の額から、血が滴り落ちて、腕も折れてて杖を掴むのがやっとだった。


 一方のイワネツさんも、ダメージを負ったのか私から大きく距離を離される。


 勝利を確信したかのように、ジャンは人型に体を構成しながら磁力の力を帯び、私を羽交締めにしてイワネツさんへの盾にし始めた。


「ふふ、だから言ったのだ。いくら伝説のヴァルキリーや勇者の力が強大でも、最新技術で構築され、魔力を会長より授けられた無敵の体を持つ王たる私には勝てない」


 隙を、やつがさっきのような魔法を、イワネツさんへ放つ前に隙をつかなきゃ。


「卑怯者め……」


「何!?」


「あんたなんか、ただの力が強いだけの卑怯者だ!! あんたの父、デリンジャーは大胆不敵に悪に立ち向かった! どんな敵にも正々堂々、真っ向勝負を挑んで勝利してきた!」


 羽交締めをしたジャンから、高圧電流が流れ出す。


「きゃああああああああ!」


「卑怯者で結構! 王はどんな戦いでも勝利せねばならない!! 正々堂々戦って死んだ間抜けな父と私は違う!」


 クソッ、回復が間に合わない。


 なんとか体力を回復させる隙を……。


 いや、待てよ。


「わかってない、あんたは! 私達のリーダー、デリンジャーの凄さを! 人殺しを憎んだ正しい魂を! 光よ、電子の輝きよ、私の杖ギャラルホルンに」


 私は魔力を振り絞り、やつを構成しているナノマシンや、爆発で生じた電子の輝きを杖に収束していく。


「何の光だ!? 私の出力が落ちて!?」


 よし、私を拘束するコイツの力が弱まったわ。


 私は力が弱まったジャンに後ろ頭突きして腕を振り解いて距離を離し、あとは杖に集めた電磁力を、冷気の力に変えて。


 空気中の分子の動きを一切停止させるような、あの大魔法を!


絶対零度(アブソリュートゼロ)!」


 ジャンを構築するナノマシンの動きも停止させる、極低音の上級魔法を放ち、ジャンの液体金属が完全に凍りついた。


「今だ! 勇者イワネツ!!」


 私の呼びかけに、その場から跳ぶように一気に間合いを詰めたイワネツさんが、打ち下ろすような渾身の右フックを、凍りついたジャンに繰り出す。


「光になってふっ飛べ独裁者!」


 粉々に粉砕されたジャンの体を、イワネツさんは指鉄砲のような形に右手を構えて、チャクラをマシンガンのようにして、光の力でジャンを粉々に吹き飛ばす。


 私達はかろうじて彼に勝利した。


「はあ、はあ、手こずらせやがって。デリンジャー……すまねえ。お前の息子は怪物になっちまってた。友として仲間として、兄弟分として俺は……」


「自分を責めないで勇者イワネツ。ああするしか方法はなかった。あの独裁者を倒さなきゃ、多くの人がこの先も苦しんでただろうから……」


 強敵だった。


 財団理事ロワことジャン、デリンジャーの残した息子……ジャン。


 しかし、財団の最高幹部だったコイツを倒したことで、エムの野望は頓挫して世界救済に……。


 その時、光の閃光が空に無数瞬いたと思ったら、パリス広場に多くの人影が次々に降ってくる。


「……おい、マリー」

「……嘘でしょ?」


 無数のジャンが、パリス広場に現れて私達を見つめる。


 一体でも強力な力を持つこいつが、こんなにも沢山。


 少なく見積もっても、この広場に100人以上!?


「たかが私を一体倒したくらいで、思い上がりも甚だしい。言ったはずです、私はフランソワ歴代最強の王であり、国家そのものだと。あなた方に勝ち目はない」


「中世に生きたあなた方の時代では、思いもつかぬ技術でしょう? 我らが財団は、いや会長は、あらゆる可能性を考えていたのです」


「この私のオリハルコンと呼ばれる金属を発見したのは、ジッポンの最先端科学力。ジッポンで進む宇宙開発技術によるもの」


「あの思い上がった武士の国ジッポンは、宇宙開発技術を独占する世界の敵です。だから我々財団はジッポンの技術を分析して、私は今の力を手に入れた」


「その科学力を、我らナーロッパが全て手にして、ゆくゆくは人類を機械化して私達の臣民とし、宇宙に進出する。その先で、かつてこの世界に現れたという神達の次元すらも、我々人類の植民地となるでしょう」


 ……コイツを甘くみてた。

 

 財団理事のジャンは、自分を機械に改造する事でエムと共謀して、神の世界すらも手に入れようとしているんだ。


 おそらくは、エムによる神々への復讐。


 エムは、かつて戦った私達の背後に、神々の意志が介入していたことがわかってて、この世界でエリの娘メアリーに取り憑きがながら復讐の機会をうかがってたのだろう。


 そしてこの状況、まずい。


 私もダメージを負い、イワネツさんも女神ヘルにバサラの力を封印され、状況は最悪。


 どうしよう、このままだとこいつに勝てない。


「へっ、くだらねえ」


 イワネツさんが、無数のジャンを目の前にしても不敵な笑みを浮かべながら仁王立ちになる。


「俺が当時尊敬した、義賊デリンジャーの息子が子悪党になっちまい、たかだか機械の体に改造しただけで、イキがって物を言うようになるとはな」


「余裕ですね……勇者よ。あなた方の心を折るのは、やはり容易ではないようですが、これはどうでしょう?」


 ジャンが指をパチンと鳴らすと、上空に物凄い数の爆撃機や戦闘機も姿を見せ、機体のマークは……双頭の鷲、今はライヒと名乗る帝国の軍用機が現れる。


「財団理事カイザーは、あなた方も気付いているかもしれませんが、西ライヒ帝国皇帝、マクシミリアン・ジーク・フォン・ヴァイエルン・ロレーヌです。この騒乱は私とナーロッパ多国籍軍が鎮圧し、あなた方は滅びるのです」


「彼の国も東西分裂の憂き目に陥っておりまして、我がフランソワと同盟してライヒを東西統一をしたいのですよ。その暁には、我がフランソワも王国として王政復古し、ヴィクトリー王国も合併。かのジークフリード帝国が復活する手筈となる」


「その後は、財団を通じてジッポンも我らが財団が手にし、ナージアも統一され世界は一つになるのです。エム会長の下に」


「世界を停滞させた英雄伝説も幕を閉じ、人類は財団の下で新たな世界へと歩を進めるのです」


 私はジャン達の言い分を聞くと、馬鹿馬鹿しくて思わず笑みが溢れだす。


「何かおかしい事でも?」


「ふふ、昔ね、そんな事を言った悪がいた。ジークフリード帝国を復活させるって言って、建国1日で滅びたっけって思って」


「ああ、いたなそんなのも。フレッドの小僧がお前と一緒に打ち倒した奴がな」


 私は、イワネツさんと手を繋ぎ、魔力を込めて召喚の指輪の力を発動させた。


「召喚の指輪よ、私達に力を! 出でよ冥王女神ヘル!」


 パリス広場が光に包まれ、真っ黒なゴスロリ風の格好をした当時と変わらない女の子のような女神、ヘルが召喚される。


「ちょ!? なんで冥界でお前たちの活動を見てたのに、わらわが呼び出されるのかしら!? チビ人間、状況を説明するのだわ!」


「うっせえメスガキ! 封印した俺の力を解放しろ! じゃねえとこの世界がぶっ壊される!」


 そう、状況を打開するにはイワネツさんが真の力を取り戻し、目の前のジャン軍団を打ち倒さなければ勝ちはないと私は判断した。


「私からもお願いします、女神ヘル。奴らはあのエムの手下で、彼の真の力を解放しないと、この世界は滅び去ってしまいます」


 女神ヘルは、目の前のジャン達を見ると意地悪そうに笑い、私達にも意地悪そうな顔をする。


「それならば、女神であるわらわに、お願いします女神ヘル様、チビ人間の力をもとに戻してくださいと頭を下げるのだわさ」


 ……こんな状況なのにめっちゃ面倒くさい。


 さすがはあの性悪のロキの娘。


「ブリャアアアアアアチッ!」


 イワネツさんは、女神ヘルの頭を思いっきり叩く。


「お前らがしゃんとしてねえから、この世界の尻拭いさせられてんだろうが!! とっとと俺の力をもとに戻せメスガキが!!」


 すると、女神ヘルは叩かれた反動を利用して、空中で一回転して浴びせ蹴りをイワネツさんの後頭部に繰り出した。


「うぉっ! 痛ってえなあああ!」


「このおおおおチビ人間め!! あんたこそ、派遣される世界で無茶苦茶な活動して! そのたびにわらわは上級神達から叱られるのだわさ! あの性悪女神の閻魔王からも嫌味言われて!!」


「うるせえええええ! さっさと俺に力を戻せ!」


 ああ、敵が目の前にいるのに喧嘩始めちゃったよ。


 ジャン達も困惑してるのか、ポカーンと私達見てるし。


「ふふ、よくわからない神とやらが出て来たようですが、更なる絶望をあなた方に用意しています」


 無数にいるジャンの一人がまた指を鳴らすと、大型の輸送機から真紅のベレー帽を被った無数の兵士たちがパラシュート降下し始めた。


「今この戦場にやって来たのは、生身では世界最強の傭兵団のレッドベレー。テロゲリラ戦のエキスパートでもあり、いくらあなた方でも苦戦は免れない軍団です」


「降伏を、ヴァルキリー様。私と西ライヒの航空戦力に、世界最強の傭兵集団が加われば、あなた方に勝ち目はない」


「この革命騒ぎも、英雄伝説も終焉を迎えるのです」


 私達は、完全武装した赤いベレー帽の軍団に取り囲まれ、一人の初老の男性が私の目の前に現れると、片膝をつき私の右手にキスをして立ち上がり、傭兵達はジャン達に最新式のライフル銃を一斉に向ける。


「我が名はレッドベレー旅団長ハリー・ジーク・アイリー・ハーヴァード! ヴィクトリー王家公爵であり、栄えあるヴィクトリー黄金騎士団の副団長である!」


「貴公はヴィクトリー王家縁戚の大公爵。なぜだ、このヴァルキリーは貴国の貴族制度を脅かすかもしれんのだぞ」


「くだらぬ! 騎士は主君に仕えてこそ騎士! このお方こそが我らが騎士団が仕える主君! 伝説の姫君ヴァルキリー様だ!」


 パラシュート降下してきたのは、私の騎士団だった。


 世界の不条理を正すために、私と先生が大戦期に設立した黄金薔薇騎士団の一員。


「懐かしいわね。あなたのご先祖、ハーヴァード公はフレッドの側近としてスチュアート侯と共に、本隊の騎兵を率いて世界を救うために私と一緒に戦ったわ」


「ははー! 現代に生きる騎士として、先祖同様あなた様にお仕えするのが我らが騎士団でございます! そして目の前のフランソワの国際刑事機構長官はもしや?」


「ええ、彼が財団最高幹部の理事ロワ! この世界の歪みの原因の一人!」


 その様子を見たジャン達はデリンジャーと同じ、不敵な笑みを浮かべた。


「なるほど、我ら財団を長年邪魔した正体不明の勢力か。レッドベレーが、件の勢力が設立したとは思わなんだ。忌々しい騎士共、我らが財団と敵対する世界の叛逆者が」


 するとジャンに反逆した軍人達も彼らに銃を向ける。


「国際刑事機構長官、我らはフランソワの為に正義を執行する。我々はお前達の私兵じゃない……フランソワの自由、平等、博愛の精神で長年虐げられた門閥貴族から真の市民の為のフランソワを取り戻す!」


「王の私に逆らうとはな。よかろう、王として私が処断する。反逆者達に死を宣告するのが王の役目、来るがいい反逆者共」


 レッドベレーのハーヴァード公は、魔法が使えるようで私に回復魔法を施す。


「ヴァルキリー様、我々騎士団は世界の安寧の為に、魔法の指輪で魔法を行使できます。我らは皆、ヴァルキリー様が世を正す日をお待ちしてました。財団の力は強大で、長年多くの騎士達の命が奪われる中、我々は戦い続けていた。全てはこの日の為に!」


 私は体力が全回復して、ギャラルホルンを構え、背後から本来の魔力を取り戻したイワネツさんが両手を組んで指を鳴らす。


「クソ野郎、第二ラウンドだ。ヘル!! お前達神々の不手際、俺が正す。もう、虐げられる市民達や圧政に苦しむ世界は終わりだ。勇者の俺にひれ伏せ畜生共が(スーカ―)ああああああああ」


 イワネツさんは、かつて魔界最悪最強と呼ばれた魔帝バサラの力を解放し、その姿が青白く変わり髪の毛が赤く逆立ち、筋肉が膨れ上がり天まで七色のオーラが噴き出す。


「おお、伝説の勇者。ヴァルキリー様が導きし、最強の武士(サムライ)……威悪涅津(イワネツ)


 私は騎士団を率いるために先頭に立ち、杖ギャラルホルンを無数のジャン達に向ける。


「ジャン国際刑事機構長官、あなたはパリス人権憲章を否定して、人々から自由を奪った。かつて私のリーダーだったデリンジャーに代わり、あなたを正す」

後編に続きます

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