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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
最終章 召喚術師マリーの英雄伝
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第196話 世界の明日を夢見た義賊 後編

「え? ギャングなのになんでお前? 頭おかしいの?」


「聞こえなかったのか? 俺は……人殺しを否定し、人々を苦しめる奴らに反旗を翻す。それにクレイジーは俺への褒め言葉だああああああ」


 デリンジャーは、必殺の銃撃を放ちエムを光の砲撃で包み込むが、エムは怒りの赤黒いオーラを逆に噴出した。


「Maldito! お前、嫌い! ギャングなのにいい子ぶって嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いだああああああ」


 デリンジャーとエムの一騎討ちが始まり、あたりは暴風のような魔力の渦に巻き込まれる。


 デリンジャーは右手の大砲で銃撃するが、エムはなんらかの魔法で攻撃を反らして、カウンターでデリンジャーに直接攻撃を与えようとしたから、私はブリュンヒルデに目を離さず光の防壁を彼にはる。


「あはは、君はもしかして彼が好き♪ 愛してる? でもダメ、アメリカ人は皆殺し♪」


 好きかどうか愛してるか私にはわからない。


 けど彼は、どんな時でもどんな状況でも私やみんなを守って、常にベストを尽くした私達のリーダー、やらせない!


「なんでお前は! お前だって人間だったはずなのにっ! そこまでッ!」


「うるさい殺す! アメリカも白いのも! 私の優位性や文化思い出してやるッ! 私達の思いの優位性を!」


「人殺しがかッ! 殺しで上や下なんかあるのか!? そうしなければならなかった意味なんて、最初からなかったはずだああああああ!」


 デリンジャーの思いがこもった銃撃は、エムには全く通じなかった。


 エムは邪悪なオーラをさらに高めて、デリンジャーに詰め寄り、彼のお腹に暴風のようなボディブローを入れる。


「グボォ」


「殺しに上も下もあるかって? あるよ、尊いメキシコのための殺し殺され。さらに白いのが死ねばそれが上々! お前も白い奴らと変わんない。死ね、死んでしまえええええええええ!」


 デリンジャーは、エムの顔面を睨みつけながら彼女の小さい頭を抱えて、思いっきり頭突きをする。


「そんな事で何かが変わるのかよ!? 人間が人間を殺して、その先に何の意味があるんだ!?」


「意味? アメリカと白いのが滅んで私の心がほんの少し癒される。全ての世界が平等に好きな麻薬やって好きなやつを殺す! 素晴らしい世界のために!」


 エムの手刀ががデリンジャーの肩を切り裂き、彼を地面に墜落させた。


「デリンジャー!? くっそぉッ!」

「お前は間違ってる!」

「俺達は、そんな生き様なんか認めねえ!」

「デリンジャーギャング団なめんじゃねえ!」


 デリンジャーギャング団も援護にまわり、ブリュンヒルデにギャラルホルンを向けた私のすぐそばに、エムの攻撃で大ダメージを受けたアルケイデスが現れる。


「小娘、俺に力を。俺の親父ゼウスが封印した力が、お前の指輪に宿ってる。解放しろ、俺があの哀れな悪を……滅ぼす!」


「わかったわ! スーパーヒーローの力を、今こそ解放して、巨悪を滅ぼす力を私達に!!」


 私は、アルケイデスに言われるがまま、ゼウス神が込めた封印の力を解放したら、体が光り輝き、一時的にヘラクレスの力が元通りになる。


「戻ったぞ俺の力が! 貴様らこのスーパーヒーローの俺をよくもなめた真似してくれたなっ! オーディン! 貴様は俺が滅ぼす!! 貴様のような邪悪、全ての世界に存在すら許さん!」


「……ヘラクレス。神界め、ワシを討伐するためにこんな化物を送ってくるとは。だが……我が眷属と信奉者よ!」


 上空に映し出されたオーディンは、左手に持つ麻袋を掲げ、戦闘不能になったワルキューレ達や、キエーブの軍団に呼びかけた。


麻薬(ふぁんたじあ)をキメるのじゃ」


 ワルキューレ達やキエーブ軍が一斉に、麻袋を取り出して、一斉に粉を口に含む。


「ふおおおおおおおおお!」

「みなぎって……きたあああああ」

「オーディン様万歳!!」


 敵全員が悪夢の麻薬、ファンタジアの効果で身体能力と魔力を増大させて、体力を全回復させる。


「ファーハッハッハ! 素晴らしい効果じゃ! この世界を戦う戦士達のヴァルハラに! 素晴らしい世界に!」


 高笑いを上げるオーディンに、私の怒りが頂点に達して、エムに斬られた右腕を回復したフレッドも、私に寄り添う。


「この邪悪めえええええええ! これのどこが素晴らしいんだああああああ!」


「マリー、倒そう! 僕らは麻薬に溺れるような悪なんかに負けない!!」


 デリンジャーがエムとの決戦で力を振るう中、私の目を盗んでファンタジアを服用し、ガンぎまりしたブリュンヒルデが、杖を手にして神の色が青みがかった金髪に変わり、さらに狂気を増して私に襲いかかる。


「アーッハッハッハ、第二ラウンドを楽しみましょう! ヘイムダルのヴァルキリー、高山真里!!」


 ヘラクレスの力を取り戻したアルケイデスが、手に持った棍棒で次々と狂戦士化したワルキューレ達を撃ち落とし、私達は乱戦の中でひたすらに杖を、フレッドも剣を振るい、騎士団達は奮闘する。


「マリー姫ぇぇ! この素晴らしくも最低の主神オーディンと、エムの力で我々で永久の世を生きよう!」


 神槍ダインスレイブを手にした黒騎士エドワードが襲い掛かるが、フレッドが大剣で槍を受け止めてからの、回し蹴りを入れる。


「マリーに触れるな! お前のような悪が!」


 隙が生じた瞬間、私は野球のバットのように杖ギャラルホルンを構えた。


「フレッドの言う通りッ! 寝てろおおおおお最低男!!」


 インパクトの瞬間、ホームランボールのように、ヴィクトリー城最上階へエドワードを吹っ飛ばす。


「あははは、酷い子ね。彼、あなたのことをあんなにも好いているのに!」


 ブリュンヒルデが、私に杖フロッティを突き刺そうと真上から降ってきたのを、フレッドが大剣で受け止めて、私は天界魔法で加速してブリュンヒルデを杖で横殴りにする。


 彼女は頭部から出血していたが、すぐにファンタジアの効果で出血が止まり傷が癒えるも、私は無我夢中で杖を振るった。


「お前らはッ! 差別されてた人々を操ってッ!」


 杖でブリュンヒルデのアゴをかち上げる。


「世界を酷い目に合わせてッ!」


 頭部左右に二連撃。


「何が黄金の黄昏の世界だッ!!」


 杖に光の刃を具現化して、ブリュンヒルデを突き刺す。


「何が戦士達のヴァルハラだあああああ!」


 魔力を込めて炸裂させた後、引き抜いたギャラルホルンを、ブリュンヒルデの脳天に振り下ろし、地面にめり込ませるほどの打撃を加えた。


 私は肩で息して残心をとり、戦闘不能になったかつて天界の天使サキエルことブリュンヒルデを見下ろす。


「クックック、見事だヘイムダルのヴァルキリー。強き魂を感じるぞ。それともう一人、あれほどの魂……英雄の中でもとびきりの……ふふ欲しいな。奴の不屈の魂があれば黄昏の世界が完成する」

 

 上空の幻影体のオーディンが指差す先で、ボロボロになりながら、エムの攻撃魔法を必死に避けて攻防戦するデリンジャーと、前世がデリンジャーギャング団だった黄金龍騎士。


「俺たちのリーダーを殺らせるか!」

「お前なんか怖くねえぞ!」

「彼は前の世界でも今でも俺たちの光だ!」


 デリンジャーギャング団が肉薄する中、銃撃をものともしないで、エムが命を刈り取っていく。


「お前たちアメリカに殺されたギャングスタなのに、アメリカびいき♪ お前たち殺す! matar a todos, exterminar!」


 私は、フレッドと共に混乱する戦場を飛び、エムによってボロボロにされたデリンジャーを救出した。


「す、すまねえ。奴は……俺達の想像を超えて……俺の力が全然通用しねえっ! デリンジャーギャング団やフランソワ軍がッ! ファック!!」


 デリンジャーを抱き抱えて安全地帯まで一旦退避しようとするが、目の前にいたはずのフレッドが弾き飛ばされたように地面に墜落し、エムが現れる。


「アーッハッハッハ! わたしから逃げようなんてDesperdicio! アメリカ人は全部殺す!!」


 デリンジャーを抱える私もろとも、エムは両手をハンマーのように振り回し、強烈な打撃で吹っ飛ばされて大ダメージを受けてしまった。


「きゃあああああああ!」


 吹っ飛ばされた先に、ヘラクレスがいて私達を力強く受け止めてくれた。


「あの怪物は俺が仕留める。お前達はワルキューレを全滅させろ! スーパーヒーローの俺様の役に立て!!」


 私達を地面にそっと置いたヘラクレスは、エムと対峙して棍棒を野球選手のように振りかぶる。


「見つけた! わたしの街に打ち込んで来た侵略者の白いの! ぶっ殺してやる白いの!」


「ふん、今まで様々な悪を退治してきたが、なかなかに強烈な奴。だが、この青髪の現地人は俺のファンだ! ファンが一人でもいれば俺様は最高のパフォーマンスを発揮できる! 行くぞこの世界の邪悪! スーパーヒーローの俺様に平伏せ!!」


 ヘラクレスが棍棒をフルスイングして、エムの頭部を強打するが、ノーダメージのエムはヘラヘラ笑いながら魔力を増大させていく。


「へぇ、少しはやるようだけど、 ̄nicu(わたしは) ̄ıcac. (うたう)……Ejekatl(かぜよ)


 私達は、ヘラクレスの大きな背中を見つめ、徐々にだがブランクを解消していき、スランプから抜け出そうとするスーパーヒーローにエムとの戦いを任せる。


「すげえぜマリー、やっとスーパーヒーローヘラクレスが、ヒーローらしくなってきた。まるで俺がガキの時に憧れたヒーローや、野球選手みてえに」


「うん、彼の本来の力ならばもしかしたら!」


 本来の力を取り戻したヘラクレスは、魔力を高めるエムに棍棒を振り回すが、攻撃が全て空回りする。


「くっ!」


 ヘラクレスが間合いを離して、毒矢の弓を放つがエムの周囲に吹き荒ぶ風で全ての矢が逸らされる。


「ぬううううう、これならどうだッ!」


 ヘラクレスが毒矢を手にして、暴風を纏うエムの胸に、風の暴力をかいくぐって握った矢を突き刺した。


 だが、ヘラクレスは逆にエムに腕を掴まれて、彼の巨体が片手だけで持ち上げられて、地面へ一気に叩きつけられた。


「グォッ! 必殺の矢が……毒も効かない。貴様、不死身か」


「んーふっふ♪ わたしは死なない。精霊の力と魔力がある限り、わたしはもう死なない♪」


 期待虚しくエムの魔法がヘラクレスに炸裂し、大ダメージを受けたヘラクレスが物凄い勢いで吹っ飛ばされていった。


「雑魚すぎ♪ その辺のストリートギャングのキッズ達のほうがよっぽど根性ある♪」


 エムの周囲には、おそらく風の魔力を纏っているのだろうか、黒い暴風のような凶悪な魔力で体を包んでおり、飛び道具は跳ね返され、直接攻撃も効かない不死身の体を持っていた。


「シット! 奴には攻撃が通じないどころか、謎の力で逆にカウンターされるっ! 俺の銃撃が捻じ曲げられちまうんだ」


「多分、風の魔力を極限まで高めて、空間すらも捻じ曲げる、殺意の風のような力を身に纏ってる。あいつにダメージを与えるには、隙をつくしかない。それにフレッドも助けなきゃ!」


 すると地面に墜落したフレッドがクロヌスに捕まって、回復かけられてたけど、抱きつかれてて必死に抵抗してた。


「うあああああああ、化物だあああああ」


「わぁい、あたし好みのショタっ子はっけーん! 可愛いわあ、一緒にオネエさんとおちんち●ランド建国しましょう! ん? あ、いつかのイケメンにエリーちゃんの妹ちゃん発見! 何か困り事かしら〜ん?」


 いや、フレッドを離してくれないと困るんだけど。


 思いながら私は、魔力を全開にして私達に攻撃しようと迫るエムを指差す。


「助けてください! あいつを、エムをなんとかしないと、みんな殺されちゃう!」


「んー?」


 クロヌスはフレッドを離して、エムと向かい合い首を傾げた。


「あなたがエムちゃん? あたしクロヌス。チャットで何回かお話ししたけど、会うのは初めてかしら〜ん」


「あー、君がクロヌスか♪ どいてくれる? あいつら殺せない、白いの皆殺しにするの♪ 邪魔するとお前も殺すよ♪」


「殺すとかダメダメ〜ん♪ ねえティアマトちゃん?」


 水色の衣を着た女の子が、クロヌスの傍に立つ。


「……かしい感じ。あなた……精霊の? 私の故郷……精霊界の力の波動……」


 エムは、暴風を纏いながらクロヌスに近づいていくと、クロヌスのピンクの水玉ドレスが破けまくって、ヘラクレスのような筋骨隆々の肉体を曝け出す。


「い、いやぁーん。あたしのお気にのドレスうううう」


「お前うるさいし気持ち悪い♪」


 クロヌスは両手で裸体を隠すような、女子っぽい仕草するけど、エムはぴょんとジャンプすると、クロヌスの顔面を風の魔力を纏ったパンチで殴りつけた。


「? あれ? 全力パンチなのに。普通なら首が飛ぶのにこいつ飛ばない?」


 エムのパンチを受けたクロヌスが、口から大量の血を流しながら、はち切れんばかりな筋肉が一気にパンプアップして、蛇のような血管や筋肉が右腕に浮かび上がる。


「無礼者が!」


 逆にクロヌスは、振りかぶった右拳をエムの顔面に叩きつけて吹っ飛ばす。


「俺をなめやがって! 俺は栄光のオリンポス最高神だった! 幾多の神々を超越する最上級神クロノスだぞ! 優しくしてればつけ上がりやがって!!」


 吹っ飛ばされたエムに、いつの間にかティアマトも降り立って静かに彼女を見下ろした。


「……が、生み出した生命の螺旋を逸脱。私の……万物……螺旋の子供たち」


 エムはすぐさま起き上がると、ティアマトにも黒い嵐のような魔法を放つ。


「お前達、なんかムカつく! なんで楽しいことを邪魔するかな? 麻薬も殺しも好き放題な世界にしようかなって思ってるのに!」


 するとティアマトとかいう神の額の目が紫色に見開き、エムの放った魔法に、超大な魔力をぶつけて相殺した。


「……くない。そんなの楽しくない! わたしはそんなことのために螺旋の生命を生み出したんじゃない! 私の子供達殺そうとしたアプスーみたいだお前!」


 いつの間にかエムとロキの仲間の反逆神が戦闘になり、私達は戦闘不能にされたヘラクレスを救出してその場から一旦距離を置く。


 だが私達の進路を遮るように、白銀の鎧を着て本を右手に持つ背が低い金髪のワルキューレと、滅茶苦茶筋肉質で、習字で使うような大筆を持つ黒髪のワルキューレが出現した。


「うふふ、伝説の勇者ヘラクレスだわ。やられちゃってるけど」


「伝説の勇者と遊べるなんて素敵。一緒に遊びましょう? スクルドを倒した青髪の子と一緒に」


 ヘラクレスは、フレッドの回復魔法でなんとか立ち上がり、身体中傷だらけになるも棍棒を構える。


「……貴様ら純粋なヒトではないな。ホビットとドワーフのメスに見える。スーパーヒーローな俺様のファンのようだが、名を名乗れメスども」


「私はオーディン特戦隊ノルニルの隊長ウルズ。彼女は副隊長のヴェルサンディ。この戦場の戦士の選別をする者、魂を選ぶ者。オーディン親衛隊長ブリュンヒルデ! いつまで寝てるのです? 親衛隊オルトリンデは目的を達成しています」


 ブリュンヒルデはめり込んだ地面から脱出して、空を飛んで、私たちから距離を離してヴィクトリー城の最上階まで一気に向かう。


「失礼しましたウルズ様。さあさ、次なる戦場のフェーズに移行しましょうかヴァルキリー! ワルキューレ、オルトリンデ! 任務達成ご苦労! 捕虜となったフリック救出と、封印されしロキの巨人スルトをこの戦場にッ!」


「いかん! あのメスは何かするつもりだぞ! 止めるんだ貴様ら!!」


 ヘラクレスと強そうなワルキューレ達が戦闘になり、ヘラクレスが棍棒でヴィクトリー城を指した。


「オーケイ! スーパーヒーロー!」

「私達に任せてッ! この城内は私の家だった」

「マリー、行こう! 奴らの企みを阻止しに」


 私は、半年ぶりにヴィクトリー城内に足を踏み入れ、迷宮のような城内を進む。


「ヘーイ! 中はまるで迷宮だ。マリーんちおかしいんじゃねえか?」


「まるでゲームで出てくるダンジョンだよ。ヴィクトリー城どうなってるんだ」


 口々にみんなボロクソに言うけど、しょうがないじゃないのよ、私ですらお付きがいないと迷子になるんだからって思いながら、私は広大な場内でブリュンヒルデを探す。


「気をつけて。城内が前と違う、嫌な感じがするの」


 すると、誰かが城内の罠を起動したようで、シャンデリアが落ちてきたり、壁から矢が射られる。


「ちょ!?」

「ワッツァッ!?」

「やばい」


 私達が急いで罠が作動した室内から避難するため、城内の階段まで辿り着くと、階段がいきなり崩れ出して私達は地下まで落ちていく。


「ファック! エンチャント・カラドリウス!」


 私達はデリンジャーの精霊魔法で、ゆっくりと床底まで降下すると、周囲がメイドや執事達に囲まれたが、これは?


「お帰りなさいませ、マリー王女殿下。侍従長セバスチャンでございます。そして本名は…… キエーヴ王国の王爾尚書、オーディン正教会教主ストラドルフと申します」


 彼もまた、オーディンに魅入られたジューの戦士だった。


「セバスチャン、あなたも……ジューだったのね。それも、キエーブの大臣」


「降伏してくださいマリー殿下。あなた様を見ると、昔お仕えしたエカチェーナ殿下を思い出す。薄汚いヒトとエルフ共によって命を落とした我が姫君に!」


「もう、やめましょうって言っても……あなたも引けないようですね。セバスチャン、いやストラドルフ」


 私が杖を構えると、鎧がボロボロになった黒騎士エドワードことアレクセイも姿を現した。


「ストラドルフよ、マリー姫を取り戻す。そして周囲にいる、薄汚いヒトの王家共を滅ぼすのだ! 行くぞ!!」


 アレクセイの号令で、一斉にファンタジアを服用したメイドや侍従達が私達に襲いかかり、フレッドが大剣で侍従達を吹き飛ばし、デリンジャーは私達を庇うように七色鉱石製魔力銃をトンプソンマシンガンの非殺傷弾に変えて掃射する。


「少々手荒ですが、この爺や、エカチェーナ様の御身を取り戻すために参りますぞ!!」


 ファンタジアの効果で、私を亡きエカチェーナ王女と思い込んだストラドルフが、瞬間移動したかのようなパンチを放ち、私は彼の攻撃をギャラルホルンでいなす。


「あなた達は、あの最悪のオーディンに操られてる! こんな事をしてもエカチェーナ王女は、もう戻ってこないッ! 烈日極光(シャイニング)


 光のホーミングレーザーの魔法で、彼らの体が麻痺する電子の力で、私達に襲いかかる侍従達を戦闘不能にした。


「あ、あなたの輝きや……優しさは……まるでエカチェーナ様のように……坊っちゃま、あとはお頼み申します」


 ストラドルフは倒れ、私は槍を二槍持つアレクセイと対峙した。


 フレッドも剣を構えて、デリンジャーもマシンガンを彼に向ける。


「もう、終わりにしましょうエドワード、いやアレクセイ。こんな事をしていても、あなたの妹は……」


「……わかってる。エカチェーナは戻ってこないことも。私の王国も滅びゆくことも、あのオーディンが私達を見下してヒトと共に滅ぼそうとすることも」


 彼は気付いていた。


 オーディンは自分達ジューやキエーブを道具にし、邪な野望を叶えようとしている事も、この戦いの無意味さもむなしさも。


「じゃあなぜ!?」


「私はそれでもヒト共が憎い! 私の家族を奪ったヒトもエルフも!! そして足止めに成功しました女神ブリュンヒルデ様!! 我らがキエーブに栄光を!!」


 彼が二槍を天井に掲げるとヴィクトリー城が崩れ出す。


「ホーリーシッ! マリー、脱出だ!」


「嫌な予感がする。マリー、ミスターデリンジャーの言う通り、この場は引いたほうがいい!」


 デリンジャーの呼びかけに私達は応えて、空虚な笑みを浮かべたアレクセイを尻目に、地上へ脱出に成功すると、ヴィクトリー城の地下方面から、真っ赤な体とモノアイが特徴的な、全長50メートルの巨人が地上に姿を現した。


「お姉さま、成功ですぅ! かつてユグドラシルを焼き払ったロキ専用の巨人スルトの力を解放し、フレックも救出うううううう! さあお姉さま、巨人スルトに搭乗を!」


「フレックいじめた奴ら許さないっ! 殺す殺す殺す殺す!」


 巨人……ジッポンで女神ヘルが戦場で呼び出したマジ●ガーみたいな巨人とは違う、なんかガン●ムに出てきそうなモビ●スーツみたいだ。


 ブリュンヒルデが中央部の水晶体に乗り込んで、三人のワルキューレの力で巨人を起動させる。


「アーッハッハッハお父さま。ロキの巨人スルトを奪取することに成功しましたわ! これでお父さまの望む最終戦争(ラグナロク)に!」


「素晴らしいぞ我が娘達よ! 戦場を炎に変えるのじゃ!」


 巨人スルトの体が、白熱する炎に包まれ、巨大な右手を振るった瞬間、炎の渦に呑まれて灼熱の戦場に変貌した。


 すると鎧がボロボロになった黒騎士エドワードが、瓦礫から脱出して上空のオーディンに呼びかける。


「主、主神オーディンよ! こ、これではマリー姫が焼かれてしまう。や、約束が違います。か、彼女は」


「良いではないか? あのロキめの巨人の力を奪えば、お前が憎むこの世界の全人類を抹殺できるのだ。むしろワシに感謝せよ。お前の父も感謝の中でヴァルハラに送ってやったわ」


「……そ、そんなっ! 父も彼女の命と魂までも奪うというのか……それでは私はなんのために……」


 巨人の前に力なく佇み、絶句する黒騎士エドワードに私は憐れみを感じ、彼は私の方を向いて涙を流した。


「私は……なぜこんな事に……どうして……エカチェリーナ、父上、私は……もう愛する者をを失うのは嫌だ! 私はああああああ!」


 すると彼の周囲を光の結界が包み込み、結界内部が大爆発を起こして彼は吹っ飛ばされた。


「ぬああああああああ、くそったれの神めがああああ」


 彼はオーディンへの呪いにも似た絶叫を残して戦闘不能にされると、上空のワルキューレ達を攻撃する魔法が展開されていき、彼女が姿を現す。


「ヘタレのエドワード。私の国を簒奪したばかりか、悪の神オーディンの軍勢まで招くなんて、マジで使えない男だわ」


 魔女の装備を身につけた、私のこの世界の姉にして、前の地球世界でかつて親友だったエリザベスが、魔女の軍勢を引き連れて戦場に現れる。


「え、エリ!」


「真里ちゃんは下がってて、あたしの国はあたしが守る!」


 エリザベスが巨人スルトに立ち向かい、大きな地響きがした後、彼……いや彼女も姿を現した。


「クロヌス!?」


「あーん、街が燃えてて酷いありさま。あの馬鹿(エム)はロキちゃんの説得で引いたけど。これやったの、あんた? オーディン」


「き、貴様はかつてのオリンポス最高神の……クロノスか」


「んークロヌスよ〜ん。アタシが神時代、小物だった小僧が、なんか調子に乗ってるわ。ねー、ティアマトちゃん」


 上空に、水色の衣装を着た小柄な女の子も姿を現す。


「な!? 原初の女神ティアマト!? ロ、ロキめ! こんな化物達を復活させて」


「……どい侮辱。ロキの……巨人……盗まれた」


「ねー、酷いわよね〜ん。それにこの戦場で多くの人間達が死んでるし、人の物を勝手に盗むわ、この小僧やりたい放題してくれるわ〜ん。なあ? ぶっ殺すぞ小僧!!」


 クロヌスの覇気に、上空のオーディンがたじろぐ。


「くっ、あと少しでワシの望む力が手に入る。そうなればロキと貴様ら原初の化物もろともっ! この戦場に貴様らが現れたのは予想外だが、ワシの望む最終戦争に相応しき魂の選別が終わったわ! ノルニル隊よ! 親衛隊に任せユグドラシルに一旦帰還せよ、それと対象にマーキング!」


 エリザベスも現れ、戦場が混沌とする中、クロヌスは指笛を吹く。


「カモーン可愛い巨人軍ティターンズ! 出番よ、あの巨人をなんとかしないとエリーちゃんが死んじゃうわ〜ん」


 クロヌスの呼びかけに地響きがした瞬間、全長10メートル以上の土で形成された石像のような巨人の集団、おそらくはロキやクロヌス配下の巨人軍が姿を現した。


「うおおおおおおお」

「我らが主クロノス万歳!」

「我ら巨人軍に命令を! 我らが父よ!」


 クロヌスは舌打ちしながら、思いっきり地面に地団駄踏むと、巨人軍ティターンズを睨みつける。


「オネエって呼べって言ってんだろ馬鹿共!! それにクロノスじゃなくてクロヌスだろうが!! アダマスの鎌よ、俺に力を!!」


 クロヌスが太い右腕を掲げると、巨大な黒い刃の大鎌が出現し、巨人達と共に炎の巨人スルトに向かって攻撃を開始する。


 しかし炎の巨人スルトは、襲いかかる巨人軍を巨大な炎の剣で薙ぎ払い、モノアイから灼熱の光線を発射して周囲を焼き払う。


「うふふ右腕はワルキューレ最強の剣士、このオルトリンデが担当ですぅ! フレック!」


「フレックの奏でる音色で、死ね死ね死ね死ねええええ」


 左腕からは、音波攻撃のような魔法を繰り出し、エリザベス率いる魔女の軍勢が一人、また一人と墜落していく。


「うふふそして、私ブリュンヒルデがこの炎の巨人に、灼熱のムスペルフレイムを!! これでラグナロクから黄昏の世界に!!」


 エリザベスや魔女達の魔法も、巨人スルトに全く歯が立たず、あの強大な強さを持つであろうクロヌスの振るう大鎌も、装甲に傷一つつけられる事も出来ず、苦戦していた。


「チッ、オーディンの奴ふざけてるよねえ。僕の配下でもあり分身スルトを勝手に奪うなんて。あーあー、コントロール失ってリミッターも勝手に解放して、ムスペルフレイムや神器レーヴァテインまで。この世界破滅しちゃうじゃん」


「……を、ロキ。オーディン……滅ぼす気」


 ロキも姿を現して反逆神と巨人軍が勢揃いし、巨人スルトに立ち向かっていく。


 すでにこの戦場にはスルトに乗り込むワルキューレ達以外は撤退しており、凶悪なエムも姿を消してて破滅の巨人スルトを倒すことが目的となっていた。


「クレイジーだこのマシーン! 戦場が無茶苦茶になっちまったぞ!」


 デリンジャーは、巨人スルトを止めるため銃撃するけど、全然歯が立たず、炎がこっちまで飛んできて市街地が灼熱状態になった。


 あまりの炎の威力に、私の黄金騎士団の多数が戦闘不能にされ、エムの攻撃から生き残ったフランソワ軍兵士達も焼かれて戦闘不能にされる。


「ダメだマリー、敵が強すぎる。みんなが!」


「諦めちゃダメ! フレッド、救いましょう、ラグナロクから私たちの世界を! エリザベスも!」


 私達は、世界を破滅させる巨人スルトに魔法や直接攻撃を繰り出していくが、全然巨人を止められなかった。


 ヘラクレスのパワーや、フレッドの必殺剣、反逆神の超絶な魔力でもびくともしない、滅びの巨人。


「マリー、僕の絶対概念で振るうエクスキャリバーでも勝利の方程式が見えてこない!」


 フレッドは大剣をスルトに繰り出すも、全然ダメージを与えられず、逆に炎のダメージで消耗していく。


 エリ、エリザベスも魔女集団や、ロレーヌで連続殺人事件起こしてたスカーレットとかいう女の子と巨人を止めようとするけど、全然歯が立たないようで、逆に巨人スルトの巨大な炎の剣で吹っ飛ばされる。


 私はエリザベスを、フレッドはスカーレットって子をそれぞれ受け止めて、フレッドの回復魔法で魔女集団を回復させた。


「ま、真里ちゃん。どうして、あなたは一体」


「大丈夫、あとは私に任せて。フレッド、そっちの子は大丈夫?」


「ああ、なんとか」


 フレッドに抱えられたスカーレットって子は、フレッドを見るなり信じられないような顔をして、私と彼を見比べた。


 帝都ベルンでも戦った魔女を率いてたお婆ちゃんは、フレッドと面識かあったようで、スカーレットって子を抱えながら、フレッドはニコリと笑う。


「フ、フレドリッヒ坊っちゃま、いや殿下どうして?」


「トレンドゥーラ、いや婆や。僕は世界を救うマリーの騎士になった。婆やも僕に協力して欲しい」


「ははー! このトレンドゥーラ、なんなりとフレドリッヒ坊っちゃまのために」


 フレッドは、抱き抱えたスカーレットって子にも微笑みかけてボソリとつぶやいていた。


「今度は……君を助けられたかな」


 スカーレットは、フレッドの顔をジッと見つめると、涙が流れ始めて彼に縋り付く。


 二人を街外れまで移し、私は杖を、フレッドは剣を携えるのを彼女達はジッと見つめる。


「行こうマリー、ミスターデリンジャーが待ってる」


「ええ、行こうフレッド。世界を救いに」


 エリザベスは、私の前に両手を広げて立ち塞がる。


「ダメ、行かせない。このまま行かせたら、あなたまた死んじゃうか酷い目に遭う気がする。あんな化物に勝てっこない」


 私は両手を広げた彼女に抱きついて、ぎゅっとした。


「大丈夫、もう私は誰にも負けない。そして逃げない、自分の運命にも」


 放心状態になった彼女の頭を撫でて、フレッドに天界魔法の光のバリアを展開させ、私もギャラルホルンを握り締め、ワルキューレ達が操る炎の巨人スルトを止めるため、灼熱の戦場へもう一度赴く。


「ところでフレッド、さっきの女の子……知ってる人?」


「うん、前の世界でね。昔、好きだった子。君とエリザベスは?」


「……前の世界で親友だった。終わらそう、悲しい世界を、運命を二度と繰り返さないためにも」


 フレッドは大剣を、光の柱のようにして巨人スルトに攻撃を始めて、私は、ギャラルホルンを構えて最大威力の魔法を繰り出そうと、周囲で発生した光の粒子や、電子を吸収する。


 幾重にも魔法陣が展開されて、分子や電子や粒子の光の核を、融合させ濃縮したエネルギーと光を崩壊させ、原子核の放射性崩壊を起こさせて、生み出されたニュートリノの光で重力すらも崩壊させるエネルギーを、杖に込める。


「これでどうだ!」


 天界魔法で時間操作して一気に巨人スルトまで間合いを詰め、巨人スルトの真下から、私の最強魔法を杖に込めて、ソフトボールをホームラン性の打撃にするようなスイングする。


 だが手が痺れただけで、全然びくともしない。


「強すぎる、無敵かこいつ」


 巨人スルトの振るう巨大な剣を避けつつ、フレッドと一緒に攻撃を繰り返すも、ダメージがほぼ0で勝算が全く見えない戦いだった。


 後でわかった話だったけど、ロキがユグドラシルで起こした反乱で、かの神域を徹底的に破壊し尽くし、燃やし尽くしたのが、ロキが操縦する巨人スルト。


 神々でも手に負えない兵器で、ロキと共に神の刑務所、ニブルヘルに封印されていたという。


 そしてこの超兵器とも言えるスルトが、この世界に呼び出されたのは、私が最初にロンディウムで発動してしまった世界崩壊の召喚魔法……私のせいだったんだ。


「ちょっとロキちゃ〜ん、あたしやティターンズのパワーが全然通じないんだけど! どうなってんのよ!」


「んー、こっちでも改造しすぎちゃったな。僕としたことが、敵から奪われるなんて想定してなかったもんだから。やばいね、マジでこれ世界滅びるかも」


 いつもは薄ら笑いを浮かべてたロキも、顔をしかめて魔法を放ち、私達が絶望の中で戦う中、一人だけ口元に不敵な笑みを浮かべる人がいた。


 それがデリンジャー、私達のリーダーでどんな時でも、どんな状況でも、決して諦めない不屈の魂を持つ義賊。


「なあマリー、多分俺なら奴に勝てるかもしれねえ。俺は、みんなに会えてよかった。お前や、シミーズ、そこのフレッドに親友の龍、それにイワネツや、魂を取り戻した前世の仲間達」


「!? こんな時にどうしたのデリンジャー、まるであなた……」


「この戦争が終わって生き残ったら、俺が生まれ変わったフランソワで、スポーツやりてえな。大統領から今度はベースボール選手になってよ、ホームラン打ちまくって。二度と世界で人殺しも、弱者が虐げられる事もない世界で」


 彼は私にウインクしながら、今度はフレッドの方を向く。


「よう、マリーを頼むぜナイト。おめえとは、色々未来のアメリカの話とか、お前の好きななんだっけ? アニメとかゲームの話をしたかったぜ」


「……まるで過去形みたいに言わないでくれよ。みんなと一緒に世界を救おう、ミスターデリンジャー。あなたはこれからもフランソワに必要な……」


 彼は口角を釣り上げる不敵な笑みを浮かべ、フレッドの回復魔法で回復しに来たヘラクレスに微笑みかかる。


「スーパーヒーロー、あんたが言ってた選択の時が来たみてえだ。俺は、俺の役割を果たしにいく。お伽噺のスーパーヒーロー、俺の活躍を見届けてくれねえか?」


 ヘラクレスは沈黙し、彼は巨人スルトの前に飛び、右腕に大砲クレイジーキャノンを具現化する。


「go for it! ファッキンデリンジャー! アイラブユー」


 八咫烏が、デリンジャーの肩に舞い降りて、汚い言葉で彼を励ましていた。


 今思えば、彼は自分のスキルを限界以上に多用しすぎたせいで、自分の死期を察していたのかもしれない。


 けど、それでも彼は世界を破滅に導く悪に、立ち向かっていったんだ。


「へっ、俺もおめえに会えてよかったぜクロウ。さあ行くぜ、この戦いのMVP選手は俺だッ!」


 デリンジャーは、クレイジーキャノンを巨人スルトに構えて操縦席にいるブリュンヒルデ達を睨みつける。


「さあ来いビッチ共! 俺に向かって撃ってこい!! バッターの俺が打ち返してやらあッ!!」


 巨人スルトは、動きを停止してお腹から特大の大砲が出てきて、尋常じゃない量の魔力をチャージする。


「お姉さま、私達なめられてるですぅ」

「あの人間フレックなめてるぞ」

「ワルキューレをなめるな人間め!」


 デリンジャーの挑発とは裏腹に、ロキがめっちゃ慌てふためく。


「や、やばいでしょ。縮退エネルギーチャージして、重力も時間も空間も次元すらも崩壊させる、対神用の最終決戦砲(ラグナロクカノン)。このままじゃ僕が遊ぼうとした世界が吹っ飛ばされる! 人間、これ以上は挑発するな! お前頭おかしいの!?」


頭おかしい(クレイジー)だって? へっ、神の世界で悪さしてたてめえから言われるとはな。ああ、そうさ。俺はクレイジーで世界を救うヒーローよ!!」


 巨人スルトの全身を覆っていた炎が、腹部から飛び出した大砲に全て吸収されて、眩い光を放つ。


「俺の時代、バロウ・ギャング団とかいうのがあってよお。俺達に明日はねえなんざ抜かしてたっけか。確かにギャングなんざやってちゃあ明日はねえ。ボニーとクライドとかいう奴らもおまわりに蜂の巣にされた」


 デリンジャーの必殺技。


 フランソワでのワルキューレとの戦いや、帝都ベルンでのジークフリードとの戦いで、勝利に貢献した相手の攻撃を吸収して、砲撃力に変えるクレイジーキャノン。


最終決戦砲(ラグナロクカノン)


「だが俺は明日の世界を夢見る! この戦いの先の、明日の未来を!」


 デリンジャーの大砲にくっついた大楯から、七色に光り輝くオーロラのバリアが展開し始め、巨人スルトの大砲から形容し難いエネルギーを受け止める。


「うおおおおおおおおおおおおお」


 雄叫びをあげて鬼気迫る表情のデリンジャーを、怯えた表情でスルトの胸部コックピットにいたワルキューレ達は見つめ、この場にいる全員が彼の勇姿を見つめていた。


「こいつ……生命を魂が凌駕し、命の灯火が消えそうなのに、イカれてるわ」


「そうだああああ、俺はクレイジーだあああああ」


 世界どころか次元そのものが消えかねない攻撃を、デリンジャーは受け止めて、右腕の大砲を構える。


「クレイジーキャノン!」


 巨人スルトへ、カウンターでエネルギー砲を発射すると、胴体に風穴があき、二撃目で巨大な大剣を持つ腕が吹き飛び、三撃目で巨人スルトのモノアイを貫通する。


「今だ、マリー、フレッド、ヘラクレス!」


 私はギャラルホルンを、フレッドは大剣エクスキャリバーを、ヘラクレスが頭上に棍棒を振りかぶり、スルトの頭部を力いっぱいの打撃を与えた。


 巨人スルトは頭部のモノアイから火花を散らし、跪くように膝をつき、胸部コックピットの水晶体がポロッと落ちて、ブリュンヒルデ率いるワルキューレ達も気絶した。


 そしてデリンジャー不敵な笑みを浮かべて、右腕の大砲が消えて膝をつく。


「デリンジャー!!」


 私の呼びかけに彼は、こちらをニコリと不敵な笑みを浮かべ、青々とした髪が真っ白になって親指をサムズアップする。


「よう……やっつけたぜ、タイムリーヒットだ。この戦い俺たちの勝ち……」


 彼は私達の方を向いて一気に駆け出し、私たちを突き飛ばす。


 私の顔に鮮血がほとばしり、彼の背後からオーディンが槍を突き刺し、エムがデリンジャーを拘束する黒い竜巻の魔法を発現して、笑みを浮かべながらこちらを嘲笑う。


「ふふ、こやつの魂があれば、この世界をヴァルハラにしてワシが望む黄昏の世界に。助力感謝する、テスカポリトカの使徒よ」


「あはは♪ 憎きアメリカ人♪ ざまあ♪」


 私達が呆然とする中、ロキがオーディンに飛びかかるが、デリンジャーの体から引き抜いた、神槍グングニルで弾かれる。


「オーディン、お前ぶっ殺してやるよ。あと、なんでお前オーディンの味方すんの? エム」


「んー♪ 君たちの決闘場所、彼と決めてあげたんだ。わたしの国アスティカ帝国で、存分にやりあって♪」


 エムの背後には白目を剥いてる、正気を失ったエリザベスと、スカーレットって女の子が両脇にいて、エムと手と手を握る。


「あと彼女達もわたしに協力するって約束してくれたの♪ ジッポンとかいう島にいるわたしの友達、イワネツも説得し、みんなで楽しむ世界にするんだ♪」


 私は放心状態になって、物言わぬデリンジャーに縋りつき、涙をこぼした。


「返してよ……」


「それは出来ぬな、この戦士の不屈の魂はワシのヴァルハラに必要不可欠。クックック、ハーッハッハッハ!」


「デリンジャーとエリを返せええええええ!」


 ギャラルホルンの出力を最大限にして、オーディンに立ち向かうが、嘲笑うエムから浴びせ蹴りを頭部に受けて、私の意識は遠のいた。


「ヘイムダルもろとも、お前と、そこの小僧とヘラクレスをヴァルハラに誘おうと思ったが、人間風情が邪魔しおって。しかし目的は達成じゃな、さらばじゃ」


「待てよオーディン! お前殺してやるからな!! 僕がお前を!」


「クックック、それはこちらのセリフじゃロキ。バルドルを奪った憎き巨人族の王子よ。この戦士の魂を使い、ワシの望むヴァルハラで貴様を消滅させてやる」


 オーディンとエム達は姿を消し、私はエムの攻撃のダメージで完全に気を失う。


 目を覚ますと、先生が到着しててデリンジャーの体には、白いテーブルクロスのような布がかけられてて、勇者ロバートは彼の体に縋りついて泣いていた。


「……すまねえ、遅くなった」


 先生が両拳を握り締め、目に涙を溜めて悔しさをグッと堪えてて、私は先生に抱きつく。


「うあああああああああああ」


 私は泣き叫び、フレッドもヘラクレスことアルケイデスも目を伏せて、彼の死を悼んだ。


 今思い返してみれば、きっと私はデリンジャーのこと、好きだったのかもしれない。


 私達は、エムとロキによって大事なリーダーの魂を奪われる。


 先生達の組織のおかげで、世界大戦は終焉に向かいつつあり、チーノ大皇国のハーンの騒乱と、ジッポンの南北戦争も佳境に入りつつあった。


 そしてオーディンが彼の魂を利用しようとした事で、戦乱を操る強大な力を持つオーディンを、私達が挫く勝利の要因になったのは、また別の話。


「これが、初代大統領デリンジャーの死の真相。彼は、命懸けで世界を救った真の英雄です。後世で大邪神と呼ばれた奴らを挫くことが出来たのも彼の魂のおかげ。そして、大邪神エムの軍勢を体を張って阻止し、私達を勝利に導いた道をつくったのが、アヴドゥル・ビン・カリーフこと龍さんです」


「馬鹿馬鹿しい、そんな作り話……」


「本当よ! 私はいくら非難されてもいい! けど命どころか魂まで懸けた私の仲間を、侮辱することは許さない!」


 ミッテラン大統領と、私は画面越しに睨み合い、長い沈黙が訪れると、記者会見上のマスコミ記者達が騒めく。


「ヴァ、ヴァルキリー様! 今、フランソワ首都パリス含む、複数の都市で!」


「今中継を、現地の特派員が!!」


 映像はフランソワの、今のパリスの街並みだろうか?


 大勢の怒れる市民達が、夜の大通りに集まって横断幕を掲げて夜の市街地を練り歩いてる映像が流れる。


「神聖なるフランソワへの愛よ♪ 我ら英雄の手を導き支えたまえ♪ 自由よ 愛しき自由の戦乙女(ヴァルキリー)よ♪我ら市民とともに戦いたまえ! 汝の擁護者とともに戦いたまえ! 我らの旗の下に 勝利の戦乙女よ♪ 汝の勇士の声の下に 駆けつけたまえ! フランソワに自由を! 汝の勝利と我らの栄光とを見んことを♪」


 デリンジャーが昔作ったフランソワ共和国国歌を歌い、続々と人々が家々や商店から出てきて、警官隊達を押し退け始める。


「世界を救った俺たちの英雄を、売国奴と罵った大統領出てこい!!」


「ヴァルキリー様が現れた以上、もう我慢なんかしない」


「初代大統領が残した平等と自由と民主主義を今こそ!」


「団結しよう、みんな! もう俺たちは圧政者なんかに屈してなるもんか!! フランソワに自由を!」


 300年を経て、このフランソワで彼が描いた明日の夢が蘇ろうとしていた。


「彼は言ったわ。人は来た道を振り返りがちだけど、これからどう歩くかが重要だと。彼の思いを、誇りを、フランソワと世界を愛した彼の夢の灯を消すことなんか、させない」

次回は現代に移りバトルへ

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